庶民の生活に根付いている小型バイク
タイでの公共の交通機関は、日本に比べるとかなり脆弱です。首都バンコクでは直近の20年で市内を走るスカイトレイン(高架鉄道)や地下鉄ができ、現在では、少しずつ郊外に伸びています。ただし地方に目を向けると、乗り合いのバスがある程度で、しかもある程度賑わいのある幹線道路を外れると、公共の交通機関はほぼ皆無です。
そんな中、タイにおけるバイクの世帯保有率は、80%を超えています。
特に排気量115cc-125ccの小型バイクは、買い物・子どもの学校の送り迎え・仕事と、庶民にとっては必要不可欠な乗り物です。
昨今のタイでは、新型コロナウイルス感染症の流行により、自宅で食事をする機会が増えました。食べ物のデリバリーサービスが一気に普及したことも相まって、バイクを利用した仕事の機会が急速に増えてきている状況にあります。
LINEでデリバリーを依頼(左側)/食べ物に特化したデリバリーサービスの”Food Panda”(右側)
学校の送り迎え
バイクタクシーは、庶民の足
自営業でも活躍
バイクの使い方に多様化の兆し
このような現状に加え、健康意識の高まりや、新型コロナウイルス感染症の影響による景気の減退などの背景から、身近なバイクを単なる「生活の足」としてだけではなく、プライベートにも活用して楽しもうという動きが出てきました。日帰りツーリングや、バイク仲間との交流会などが、近年急速に活性化してきています。
以前から、ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)やカワサキ(Kawasaki)など1,000ccクラスのバイクによるツーリングは、一部の富裕層が嗜むマイナーな趣味として市場には定着していました。
この富裕層とは別に、バイクを生活で活用している、いわゆる中産階級の庶民の間でこのような動きが出てきているのです。これは中産階級において生活の価値観が多様化していることが影響しているといえます。
また小型バイク市場にも変化が見られます。タイで主流となっている小型バイクは一般的に110cc-125ccです。その110cc-125ccのバイクと車体のサイズはあまり変わらず、走行機能が明確に異なる150ccクラスのバイクに注目が集まっています。
表:出典を元に著者作成
出典:AUTOMOTIVE INDUSTRY CLUB THE FEDERATION OF THAI INDUSTRIES
251cc以上の従来の大型バイクだと、渋滞の中をすり抜けられない、小回りがき効かないというデメリットがあり、仕事でバイクを使う場合には支障をきたします。また販売価格や税金も高額であることも難点です。
一方150ccクラスのバイクは、今まで通りに通勤や仕事にも使え、なおかつ、ロングツーリングの走りを今まで以上に楽しめます。また車両価格や税金も251cc以上のバイクに比べると割安であることも踏まえて、150ccクラスのバイクに注目が集まっているようです。
バイクを通じたコミュニティーは、インターネットやバイクの修理店を通じて活性化
バイクを自身の余暇にも使うために、バイクをドレスアップしたり、チューンナップしたりして楽しむ人が増えつつあります。このようなバイク好きは、インターネットやバイクの修理店に集まります。
知り合った仲間と情報交換をしたり、チームを作ったりという動きがみられるバイク修理店が増えてきているのです
マーケティング戦略上のポイント:バイク利用者のライフスタイル変化をどれだけ迅速に正確に捉えられるか
生活におけるバイクの位置付けの変化・多様化により、バイクに対する消費者ニーズにも変化が起こっており、今後新たなニーズも発見できるでしょう。バイクのデザイン・機能からアフターサービスまで、どのような戦略が有効となるかは、バイク利用者のライフスタイルをいかに迅速かつ正確に読み取れるかがポイントとなります。
今後もさらに拡大が予想される、150ccクラスのバイク市場に注目です。
バイクチームで日帰りツーリング
写真提供:shyu company limited
目的地では、川下りを楽しむ
写真提供:shyu company limited
株式会社ヴァリューズ相談役
Shyu Co., Ltd.代表取締役
在タイ23年目。タイをはじめとする東南アジアでのマーケティングリサーチとブランドマーケティングを専門とし、消費者分析にとどまらず、製品・流通レベルの課題も加味した上で、次期課題を浮き彫りにしていく手法は、多くのクライアントより好評を博している。