1.調査概要プレビューとは
■●概要
調査概要プレビューとは、リサーチの計画や実績を説明するために、実施概要・質問内容の要点をスライド一枚の中にパッケージ化したアウトプットです。(※この名称は私独自の呼び方です)
本図を作成しておくと、調査担当者は計画中または実施後の調査の案件概要をこのスライド一枚で説明できます。また、調査結果を参照したいメンバーも内容や用途をひと目で理解できます。
この機能性により調査データを他の重要資料に引用する時にも、案件概要情報を素早く転記できます。データを引用する作業シーンでは、当然、引用後の作業が大事なので、情報が整っていることは組織にとって大きなアドバンテージになるのです。
もしこのプレビューが無かったとしたら、企画書・調査票・報告書の各ファイルを行き来して調査の基本情報を突き合わせることになってしまいます。この状況は特にデータを参照したいメンバーにとってストレスがかかる作業となるのです。調査結果にどんなデータが入っているのか、自分の仕事で使いどころはあるのかを判断するのに相当の時間を費やしてしまうでしょう。
■●構成要素
調査概要プレビューの構成要素は以下のようになります。
①実施概要
・タイトル
・調査手法
・調査規模
・実施時期
・調査会社
・管掌部門
<定量調査の場合の記入例>
・タイトル|○○○○総合調査(定量調査)
・調査手法|ウェブアンケート(パネル調査)
・調査規模|1000ss
・実施時期|20XX年X月
・調査会社|株式会社○○○○
(○○○○市場上場企業 ○○○○加盟社)
・管掌部門|○○本部 ○○部
<定性調査の場合の記入例>
・タイトル|○○○○総合調査(定性調査)
・調査手法|オンラインインタビュー
・調査規模|8ss
・実施時期|20XX年X月
・調査会社|株式会社○○○○
(○○○○会社 主要取引先:○○○○)
・管掌部門|○○○○本部 ○○○○部
②調査対象者
・基本属性
・登録ステータス
・行動ステータス
<定量調査の場合の記入例>
「○○○○カテゴリーアプリユーザー」
・全国20代〜60代の男女
・○○○○カテゴリーアプリユーザー
(ブランドA/ブランドB/ブランドC/ブランドD/ブランドE いずれか直近1年以内購入経験者)
<定性調査の場合の記入例>
「自社ユーザー」
・自社ユーザー(事前調査時点で会員IDを保持している)
・全国30代〜60代の男女 直近3か月以内の購入経験者
・リピートユーザーグループ(4名)直近1年購入回数4回以上
・オンボーディンググループ(4名)直近1年購入回数3回以下
③質問項目
・調査票の中でも主要なトピックスとなる質問
<定量調査の場合の記入例>
・カテゴリーアプリ 認知・購入状況
・カテゴリーアプリ 想起集合
・カテゴリーアプリ 購入カテゴリ
・カテゴリーアプリ 重視点・満足点
・カテゴリーアプリ 不満足点
・ユーザープロファイル
<定性調査の場合の記入例>
・○○○○ 利用習慣
・○○○○ 購入商品
・○○○○ 評価事項
・○○○○ 改善事項
・お気に入りのアプリ
・お金に対する価値観
④アウトプット
・調査の成果物の中でも主要なアウトプット
<定量調査の場合の記入例>
・カテゴリー市場 ファネル分析
・カテゴリー市場 想起集合
・カテゴリー市場 ユーザーゲイン
・カテゴリー市場 ユーザーペイン
・ユーザープロファイル
・セグメンテーションマップ
<定性調査の場合の記入例>
・ペルソナ
・価値マップ
・カスタマージャーニーマップ
・ストーリーボード
・バリュープロポジションキャンバス
・イメージチャート
■●このアウトプットの導入が向いているケース
「このデータはどの調査に基づくエビデンスなのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①データの出典の記載を頻繁に求められるケース
組織の規模が大きくなると、提出する資料に記載する調査データ・分析データに対して、時にデータの中身よりも、「どう調査対象者を選出したのか」「どの調査会社に発注したのか」というようなデータの信用性を気にかける人が現れます。
このため、資料作成の担当者は各データの出典を調べて記録する作業が発生するのですが…過去調査データには「実施概要」の記載があったりなかったり、またその書き方も様々なため、資料作成を急いでいる時には負荷になります。
さらに調査データを参照・引用する機会が多い職種である事業開発や経営企画の業務では、社内外に点在する複数のデータを組み合わせ、翌日など直近の期日までに情報を追加・修正しなければいけないというような負荷もかかります。
②企画段階で調査内容をプレゼンして回るケース
リサーチ担当者が企画段階で共有したい情報は、実施概要や質問項目をはじめ必須のものだけでも結構な分量になります。一方、報告や共有を受ける相手は、一通りの情報を得たいと思っているものの理解にかけられる時間は限られています。
それゆえに、企画会議・活動報告・稟議承認などの場面では話の要約力が問われます。元の資料構成そのままに複数のページ・ファイルをまたいで説明していては時間がかかりますし、逆に実施要項一枚の企画書では簡素すぎて伝わりません。
リサーチ業務のステークホルダーは直属の上司だけでなく、企画の決裁ルート上登場する上位役職者や調査知識が深くはない関係部門のメンバーなど、拡大関係者に向けた説明能力が問われます。これはリサーチの仕事特性と言えるでしょう。
2.作り方
①調査計画に応じた対の書き方に
・プロジェクトで計画する調査の実施件数を見積もる
・実施件数に応じてページの構成を固める
(たいていは2種類あるいは2回で構成することが多い)
<構成のヒント>
・総合調査の場合—定量調査と定性調査を並べる(実施する調査手法ごと)
・定量調査の場合—1回目と2回目を並べる(事前の探索と事後の検証など)
・定性調査の場合—AグループとBグループを並べる(対象者のテーマごと)
②実施概要は引用しやすい形式に
・実施要項や調査会社などの情報を端的にまとめる
・そのまま他の資料や連絡に引用できる形式にする
③対象者は範囲と条件を併記する
・配信範囲となる基本属性や登録ステータスを記す
・抽出条件となる行動条件や意識・関与要件を記す
・情報を併記して参照・引用される時に対象者像が伝わりやすくする
④質問の粒度はトピックス単位で
・質問項目はトピックス単位(複数の質問から成るテーマ単位)で構成する
(例:利用習慣、ユーザープロファイル)
・アウトプットの整形にあたり重要な質問は単独で記載してもOK
(例:不満足点、お金に対する価値観)
⑤調査成果となる分析を列挙する
・報告書に収録する代表的なアウトプット名を記載する
・質問項目がどのような資料価値を生み出すのか伝える
3.使い方
①データの出典問合せ時のマスターラベルとして
「この過去調査結果はいつ・どれくらいの規模で実施したものか」ーこのような問い合わせへの返答は、調査担当者の基本業務の一つです。しかし問合せのたびに情報を整える作業をしていたのでは、少なからず業務の負担になっていきます。
そこで調査概要プレビューを標準の成果物として全案件で作成しておきます。一般的に、実施した調査の概要情報をきちんと整えるのはメディアをはじめ外部公表機会がある時ですが、どの案件でもこのページを作成しておくと後々便利です。
データの問合せを行う側では、ページを丸ごと引用してデータの出典ページとして使用したり、テキストだけ転記してグラフデータの出元を記載できます。もちろんリサーチ担当者自身も問合せ対応で参照するのに便利な資料です。
②企画内容をパッケージ化した説明用資料として
この資料は営業・管理寄りのステークホルダーが多いプロジェクトで特に役立ちます。彼らは、時にインサイト情報よりも「今どのような調査が行われていて、調査結果のデータがいつどのような形で得られるか」への関心が高いからです。
調査概要プレビューは実施概要も質問内容も収録しているので、調査の企画内容を簡潔に説明することができます。この図を作っておけば、スライド内のページを頻繁に移動したり別のファイルを開いたりする進行を避けることができます。
調査の企画段階では承認会議や申請資料を通じて、「いつ、誰に、どのような質問内容で実施するのか」を何回も聞かれます。その際に、簡潔に説明できていないとプロジェクトの印象も「大丈夫か?」となってしまうので注意しましょう。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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