2023年7月の急上昇アプリランキングTOP20
早速、アプリトレンドランキングを見ていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
下記の表は、2023年7月時点で、20代のユーザー(※)において、利用者の前月比上昇率が高い順にアプリをランキングにしたものです。
※20代後半の、Z世代に含まれないユーザーも一部含みます
20代アプリ利用者数の前月比上昇率ランキング
集計期間:2023年7月
デバイス:スマートフォン
ここからは、特に注目のアプリをピックアップし、20代のトレンドを考察していきます。
X(旧Twitter)代替アプリの模索:Mastodon・Misskey・Bluesky
急上昇ランキングTOP20には、2位「Milktea for Misskey(Mastodon)」と10位「Bluesky」というSNS関連アプリがランクインしました。
「Milktea for Misskey(Mastodon)」は、AndroidからMastodon、Misskey、Calckeyなど、分散型SNSを利用するための非公式アプリです。分散型SNSとは、個々人が立ち上げたコミュニティごとに自治運営されるSNSであり、共通の趣味を持ったユーザーが集まりやすい特徴があります。
「Bluesky」は、マイクロブログ用の新しいソーシャルネットワークアプリです。こちらも分散型SNSであるという特徴があります。
分散型SNSについては、過去に詳しく解説した記事がありますので、こちらもご参照ください。
Twitterからの乗り換えが進む?今大注目の分散型SNSとは
https://manamina.valuesccg.com/articles/25802023年7月1日、Twitterでは一時的に、1日に閲覧できるツイート数が制限されるAPI規制がかかりました。相次ぐTwitterの仕様変更に伴いユーザーの不安が高まる中、Twitterからの乗り換え先として他のSNSを探す動きも加速しています。そこで今回は、Twitterを代替する可能性が高いのはどのサービスなのか、有力候補と考えられるアプリについて、利用者像や乗り換え状況を調査しました。
■Twitterの居心地を求めて
MilkteaとBlueskyのアプリユーザー数推移を見てみると、2023年7月に一気に上昇していることが分かります。
「Milktea」および「Bluesky」利用者数の推移
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
これは、2023年7月1日に「X(旧Twitter)」内にてAPI制限がかけられ、利用に大幅な制限がかかったこと、22日にブランド「X」への刷新を発表したこと、24日以降、徐々にアイコン等の変更が行われていったことが大きく影響を与えていると考えられます。
2023年7月に「Misskey」、「Mastodon」および「Bluesky」と検索したユーザーの流入ページTOP10を見てみると、どれも共通して上位にTwitterとの相違点や代替SNSとしての有用性を述べた記事が上がっていることが読み取れます。
Twitterという慣れ親しんだ環境を、できるだけ再現しているサービスを求める人が多いと考えられます。
「Misskey」検索者の流入ページTOP10
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:PC、スマートフォン
「Mastodon」検索者の流入ページTOP10
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:PC、スマートフォン
「Bluesky」検索者の流入ページTOP10
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:PC、スマートフォン
夏休みの余暇にスマホゲーム
急上昇ランキングTOP20のうち、8つがゲームアプリでした。7月は学生にとって夏休みであるため、余暇を楽しめるゲームアプリが人気になると考えられます。
この中で特にZ世代の注目を集めているアプリには、どのような傾向があるのでしょうか。
アプリユーザーの年代を見てみると、20代のユーザー割合が最も高いのは「アイドルマスター シャイニーカラーズ」、「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」、「BLEACH Brave Souls ジャンプ アニメゲーム」および「サクッと16タイプ性格診断」の4つでした。
「アイドルマスター シャイニーカラーズ」、「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」、「BLEACH Brave Souls ジャンプ アニメゲーム」および「サクッと16タイプ性格診断」利用者の年代割合
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
「Maya Pusher Master」、「LINE:モンスターファーム」、「銃弾射撃:ドクロ島冒険記」および「ラグナドール 妖しき皇帝と終焉の夜叉姫 (ラグナド)」利用者の年代割合
集計期間:2022年8月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
■テーマパーク、アニメ、性格診断人気がゲームにも影響
11位の「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」は2023年6月にリリースされたカードバトルRPGで、同時期にとしまえん跡地にオープンした「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 ‐ メイキング・オブ・ハリー・ポッター」と共に、ハリーポッターの世界観に再び浸れることが人気を集める理由と考えられます。
9位の「アイドルマスター シャイニーカラーズ」と15位の「BLEACH Brave Souls ジャンプ アニメゲーム」は、今年放送されたTVアニメからの流入と考えられます。アイドルマスターは新シリーズが2023年4月クールで放送されたほか、7月からゲーム内で大人気TVアニメ「【推しの子】」とのコラボを開催しています。BLEACHも、新シリーズが7月クールで放送されているため、TVアニメを見て作品を好きになった人がアプリゲームにも手を伸ばす、という流れが大きいのではないでしょうか。
また、17位には「サクッと16タイプ性格診断」がランクインしており、Z世代が注目している16Personalitiesの診断がアプリで簡単に行えるようになっています。16Personalitiesについては以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
Z世代から注目を浴びる「16Personalities」。人気の理由は「就活」と「SNS」?
https://manamina.valuesccg.com/articles/2605今若者の間で流行り始めている16Personalities性格診断。芸能人が自身のSNSで診断結果を共有している投稿を、見かけた方も多いのではないでしょうか。そんな16Personalitiesの利用動向を調査したところ、Z世代が就活やプロフィール作りに活用している様子が見えてきました。
夏休みのダイエット需要?AIを使って簡単に健康管理
3位には健康管理アプリ「カロミル」がランクインしました。
カロミルは、食事や体重計、血圧計の写真を撮影すると無料でカロリーや栄養素の計算、数値のグラフ化を行ってくれるアプリになっており、有料版では3ヶ月後の体重変化の予測から、ユーザーに合わせた健康指導をAIによって行うことができます。
外食や中食にも対応していてユーザーは写真を撮るだけ、さらにスマホと連携させることで運動量の計測も自動で行ってくれるという簡便さが、利用を広げている要因なのかもしれません。
7月というタイミングで健康管理アプリがランクインした要因として、「夏休み」という普段と違った生活スタイルになり、目的および時間ができたことが考えられます。暑さゆえに肌を出すから、美味しいものをいつもより食べてしまうから、綺麗に見えるようにしたい。まとまった時間が取れる機会に自身を見つめ直したい。人に会わない間に変化していたい。など、夏休み特有の心理が働いているのではないでしょうか。
TikTokでポイ活
4位には、TikTok視聴によって電子マネーやギフトカードへの交換が可能なポイントを獲得できるアプリ「TikTok Lite」がランクインしました。
ポイント獲得のタイミングとしては、チェックイン、動画視聴、「いいね」、友達紹介などが挙げられ、特に動画視聴に関しては運営側がオススメしてきた動画を見ることが条件となっています。
■クリエイター支援策の一つか
TikTokは最近、クリエイター支援に力を入れています。
2022年7月には、音楽クリエイターの楽曲制作支援・楽曲や動画制作のノウハウを提供するプログラム「TikTok Music Program」のパイロット版を始動させ、音楽クリエイターの楽曲制作を支援しました。
2023年7月には、LIVEサブスクリプション登録者だけが見られるショート動画投稿機能「サブスク限定動画」を公開し、クリエイターの収益化手段を拡充させました。
TikTokを用いたマーケティングを行う企業が増えていく中で、世界で5億人を超えるユーザーたちが様々なクリエイターに出会える機会を増やすことも重要です。TikTok Liteは、群雄割拠のSNS時代、ユーザーのTikTokへの定着を図りつつ、クリエイターとの出会いを促進することを目的としているのかもしれません。
新たな動画配信サービスの台頭
8位には、2023年4月12日にサービスを開始したNTTドコモが提供する動画配信サービス「Lemino」がランクインしました。
人気の映画やドラマ、アニメ、韓流作品、オリジナル作品のほか、スポーツや音楽ライブの生配信も楽しめるサービスで、その時の感情に合わせた作品検索が行えることも特徴としています。
■注目試合の独占配信で新規ユーザーを獲得
Leminoユーザーの性別と年代を見てみると、男性の割合、そして30-50代の割合が比較的高くなっています。彼らはどんな目的でアプリを利用しているのでしょうか。
「Lemino」利用者の性別割合
集計期間:2023年3月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
「Lemino」利用者の年代割合
集計期間:2023年3月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
「Lemino」と検索した人の関心先を、掛け合わせワードから見てみると、「無料」や「視聴方法」に加え、「井上尚弥」や「ボクシング」といったキーワードが目につきます。
これは2023年7月25日に開催した「NTTドコモpresents WBC・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ」で、元バンタム級4団体統一王者・井上尚弥選手が、スティーブン・フルトン選手と対戦する試合について検索されたものと見られ、この試合がLemino独占配信だったために、ユーザー数が大きく上昇したと考えられます。
「Lemino」検索者の掛け合わせワード
集計期間:2023年3月~2023年7月
デバイス:PC、スマートフォン
■「dTV」から「Lemino」へ
ドコモによる動画配信サービスと言えば「dTV」が思い浮かびますが、dTVは2023年6月30日にサービスを終了しており、そのリニューアル版として登場したのが、このLeminoです。
dTVとLeminoの特徴をまとめた表を以下に示します。
両者の最も大きな違いは無料コンテンツの有無で、Leminoでは無料コンテンツを導入し、サービスを利用するという最初の大きなハードルを下げる狙いがあるものと思われます。無料コンテンツはdアカウント登録も不要です。
無料視聴できるコンテンツは途中に広告が挟まる仕組みになっており、広告を消してストレスフリーにみたい場合や、より多様なコンテンツを視聴したい場合に課金を促しています。
■感情検索とは?
感情検索およびSNS要素が追加されたことも注目すべきポイントと言えます。
コンテンツ数の多さを売りにすると同時に、Leminoのコンセプトでもある「自分好みの『コンテンツとの出会いにワクワクを創る』」を実現するため、従来のカテゴリ・キーワード検索に加え、感情スタンプ検索機能が備わっています。
なりたい感情に合わせてコンテンツを選ぶことができるのは他の動画配信サービスと一線を画すアピールポイントでしょう。
この感情スタンプは、自分でも記録することができ、Lemino内の「エモートライン」と呼ばれる独自のSNSに共有することができます。好みが近いユーザー同士で新たにつながることも可能であり、まさに次世代の動画配信サービスと言えます。
■「ドコモ経済圏」への囲い込み戦略
Leminoユーザーの関心アプリTOP10を見てみると、ABEMA、TVer、Amazon Prime Videoなど地上波テレビ番組を視聴できるような他の動画配信サービスや、dTV、d払いなどドコモに関連したアプリも多く見られます。
「Lemino」ユーザーの関心アプリ
集計期間:2023年3月~2023年7月
デバイス:スマートフォン
Leminoは「Leminoプレミアム複数契約特典」や「爆アゲ セレクション」として、ドコモユーザーや指定の配信サービスの利用者限定でdポイント還元率をアップさせる取り組みを実施しています。
dポイントはドコモ提供アプリで現金代わりになるだけでなく、実店舗でd払いとしての利用も可能です。公式リリースによれば、現在dポイント・iD・d 払い決済が利⽤可能な箇所は全国448万ヶ所にのぼり、楽天の600万ヶ所、auの577万ヶ所に次ぐ規模になっています。
Leminoを通じて、「ドコモ経済圏」のユーザーを増やし、最終的にはドコモ回線の契約数増加に繋げたいという狙いがあるのではないかと考えられます。
まとめ
今回は、急上昇アプリTOP20のなかから、SNSアプリ、ゲームアプリ、健康管理アプリ、動画配信アプリをピックアップして紹介しました。
各種SNSやLeminoなど、自分1人で完結するものではなく、何かしらの手段を用いて周囲と情報や感情を共有できるアプリに注目が集まっている印象を受けました。
ゲームアプリは瞬間の流行に比例したコンテンツが人気となっており、Z世代の情報収集能力の高さを感じました。
SNSの発達とともに他者との距離が近づいている現代では、自らが積極的に情報収集を行っているためもあってか、自分の情報を共有することへのハードルが下がり、むしろ似た属性の仲間を探しやすくするコンテンツを求めるようになっているのかもしれません。
この流れに乗ってうまく情報収集を行いZ世代のニーズを掴むことで、選ばれるサービスの特徴を見出していけるのではないでしょうか。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2024年春にヴァリューズに入社しました。大学院では生命情報学を専攻していました。