新年/新年度に向けて若年層が下調べ
まずは、「始め方」「やり方」のそれぞれについて、検索者数の推移と性年代をみていきましょう。
なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
「始め方」および「やり方」検索者数の推移および性別・年代
期間:202112-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:Dockpit
Dockpitで分析できる直近26ヶ月間(2021年12月~2024年1月)における検索者数の推移を見ると、「始め方」では3年とも12月から1月にかけて上昇が見られます。「一年の計は元旦にあり」という言葉にもあるように、新年や新年度に向けて何か新しいことを始める人が多いと考えられます。また、「やり方」では1月から3月にかけて徐々に上昇が見られ、その他の月でも100万人前後という高い値をキープしています。
一方で、「始め方」「やり方」どちらとも、検索者数推移は全体として減少気味である様子がわかります。これは検索エンジンを頼って調べ物をしている人自体が、各種SNSの普及などにより減っていることが考えられます。
性別は、どちらの場合でもネット利用者全体の分布とあまり差がありませんが、「始め方」は若干男性の割合が多く、「やり方」は若干女性の割合が多いようです。また年代はどちらも20~30代がボリュームゾーンとなっていますが、「始め方」の方がより若い世代の割合が高い傾向が見られました。学生から社会人へと大きく生活スタイルが変わり、新しく始めたいこと、知りたいことが増えてくる年代と考えられます。
副収入のためのリサーチ・電子機器の操作方法に高需要
では、検索者たちは今、何に興味をもって調べているのでしょうか。掛け合わせ検索ワードから読み解いていきます。
「始め方」検索者の掛け合わせワードTOP15
期間:202302-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:Dockpit
「始め方」の掛け合わせワード第1位は「ChatGPT」でした。2022年11月末にリリースされ、一気に注目を集めたことで、自分でもやってみたい、会社に導入したいという需要が生まれて検索者数の急上昇が起こったと考えられます。
2023年4月までに1つの大きな波をもつChatGPTとは異なり、1年を通じて高い値で検索者数の推移が見られるワードとして、「ブログ」「つみたてNISA(表記揺れ含む)」「楽天証券/SBI証券」「YouTube」などが挙げられます。これらはすべて副収入を得られる仕組みと関係があるワードと言えます。
副業を始めるよりも、アフィリエイト付きの個人ブログやYouTubeチャンネルを開設したり、資産運用を始めたりする方が、時間やコストの制約なく気軽に収入を得られると考える人が多いのかもしれません。あるいは、副収入を得られることを知っているものの、具体的な始め方までは分からず、検索エンジンを用いて詳しい解説を求めたくなっていることも考えられます。
ChatGPTに関しては、以下に示す詳しい記事もご参考ください。
ChatGPTユーザーはどんな人?行動データから利用実態を探る
https://manamina.valuesccg.com/articles/2373今話題沸騰中のChatGPT。チャット欄にテキストを打ち込むだけで、質問に答えてくれたり、オリジナルの文章を作成してくれたり、プログラミングもできたりと、幅広いニーズに応える優れものです。世界的なアクティブユーザーが1億人を突破するなど、大注目のChatGPTですが、実際にはどのような人たちが利用しているのでしょうか。チャットページ接触者の行動データから、ユーザー特性を調査していきます。
ChatGPT利用者は、初期からどう変化した?ChatGPTユーザーの実態を調査
https://manamina.valuesccg.com/articles/2788生成AIの先駆けとして登場したChatGPT。2022年11月のリリース以降ユーザーは増加し続け、広範囲に認知されています。マナミナではリリースから約4ヵ月後の2023年3月時点でのユーザー数や人物像について調査しましたが、リリースから約9か月経った現在、ChatGPTユーザー層に変化はあるのか、改めて調査していきます。
同様に、「やり方」の掛け合わせワードを見てみると、「ふるさと納税」「e-TAX」「医療費控除」など、確定申告に関するワードが2、3月に急上昇しています。確定申告はやり方が少し煩雑である一方で、正しく申請しないと損をしてしまうため、直前にしっかり予習復習しておきたいと考える人が多いことが考えられます。
また、「スクリーンショット」「iPhone」「テザリング」「パソコン」など電子機器の操作方法を調べる人が1年を通して多い様子が分かります。
これらの検索者の年代分布を見ると、中でも「スクリーンショット」および「テザリング」で、比較的高齢層にボリュームが見られます。歳を重ねることで少しずつ最新機器に疎くなり、操作名を聞いても実際のやり方が分からないため、検索するという行動に繋がっているのかもしれません。
「やり方」検索者の掛け合わせワードTOP15
期間:202302-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:Dockpit
「やり方 スクリーンショット/iPhone/デザリング/パソコン」検索者の年代分布の割合
期間:202302-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:Dockpit
副収入で課金・マンガ購入を実現
「始め方」を検索する人たちは、得られた副収入を何に利用しようとしているのでしょうか。一人あたりの平均支出から考えていきます。
なお分析には、Web行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定のWeb行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank」を用いています。
「始め方」「やり方」検索者それぞれの平均支出を比較すると、「始め方」において、「ゲームアプリへの課金」および「マンガの購入」に多くお金を費やしている様子が見られます。
両者とも、他の項目よりも大きな額を使うようなものではありませんが、生活費を削って補うには少し負担が大きいため副収入を視野に入れたい、と考えているのかもしれません。
また、アプリ課金やマンガへの出費は一過性のものではなく、今後も定期的に続いていく趣味である可能性が高いため、それを賄えるだけの別の収入源の確保が求められるのではないでしょうか。
「始め方」および「やり方」検索者の平均支出の内訳
期間:202302-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:story bank
YouTubeは動画で分かりやすさを追求
最後に、検索エンジンからたどり着く公式サイトや記事に肩を並べるコンテンツとなってきているYouTubeについて分析していきます。
「始め方」「やり方」検索者の流入サイトを見ると、どちらにもかなり上位にYouTubeがランクインしていることが分かります。実際、家具の組み立て方などの解説動画を企業公式として出しているメーカーも多くなっており、動画と音声による説明の需要と供給が増えているように感じられます。本記事冒頭にて触れた、検索エンジンにおける全体的な検索者数が減少している要因の一つと言えるでしょう。
「始め方」および「やり方」検索者の流入サイトTOP5
期間:202302-202401
デバイス:PC、スマートフォン
ツール:Dockpit
YouTube内にて「始め方」と検索したときにヒットした上位10動画を以下の表にまとめました。この表示順位は必ずしも再生回数に比例しているわけではないため、別の指標で順位が決まっているものと考えられます。
こちらの表を見ると、YouTube、新NISA、個人ブログなど、やはり副収入や将来への貯蓄に関するものが検索上位を占めていることが分かります。
また、動画の再生時間が40分や1時間、さらに2時間超えのものまで多くランクインしていることも大きな特徴と言えます。動画の検索上位表示を目指すVSEOでは、視聴時間と視聴維持率が大きく関わると言われているため、長すぎる動画は検索上位に入りづらいことが直感的に予想されます。しかし、実際にはかなり長尺の動画が検索上位に入っており、長くても最後まで見てもらえているようです。
「初心者」というワードが多くのタイトルに共通していることも踏まえると、「始め方」検索者は、娯楽ではなく収益を得るという目的をもって動画を検索し視聴しているため、失敗したくない、最初からつまずきたくないという気持ちが、長くても丁寧に説明している動画を見るという行動に表れているのではないでしょうか。
「始め方」検索結果TOP10
出典:https://www.youtube.com/
調査日:2024/2/19
VSEOについては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
動画コンテンツが普及している昨今では、自社の動画コンテンツを配信し、ターゲットに視聴してもらうことは重要です。いかにニーズを持っている層に、検索で動画を視聴してもらうのかというVSEOを行うことが不可欠となります。この記事では、VSEOとはどのような施策のことを指すのか、またVSEOを行う手順を解説します。
同様に、YouTube内の検索エンジンにて「やり方」と検索したときにヒットした上位10動画をまとめたものを以下に示します。
こちらの場合はまず、「スリックバック」に関する動画が圧倒的に検索されていることが分かります。スリックバックとは、空中ウォークとも呼ばれ、2023年10月頃からTikTokを中心に流行り始めた、空中を歩いているように見える動きを指します。
簡単そうに見えて実際にやってみると思うようにいかないという絶妙な難易度も人気の一つのため、TikTokの短い再生時間では理解できない人向けに、より長尺な解説動画の需要が高まっていると考えられます。特にスリックバックはモーションであるため、動画でないと解説できないというYouTubeの唯一無二さが顕著にヒット数に表れているのではないでしょうか。
また、スリックバック以外では、家庭脱毛、ネイル、側転など、やはりこちらも実物を見ながらの説明を必要とする項目が上位に入っており、Googleをはじめとする検索エンジンとの差別化が行われていると言えます。
「やり方」検索結果TOP10
出典:https://www.youtube.com/
調査日:2024/2/19
まとめ
今回は「始め方」「やり方」の掛け合わせ検索ワードという切り口から、検索エンジンへの需要を分析していきました。
注目した単語が「新しく何かに着手すること」に関するものである性質も相まって、40代以下の検索が多かった一方で、難しい電子機器の操作方法については40代以上でも多くの人が検索している様子が見られました。
公式サイトやまとめ記事などの長文や、YouTube上で動画を用いてしっかり説明してもらいたいという需要が高いのは、つみたてNISAや個人ブログ、確定申告など自身の収入に関わる事柄でした。その使い道としては、ゲームへの課金やマンガの購入などで、ちょっとしたQOL向上のために使われている可能性が高いと言えます。
またスリックバックをはじめとして、文章よりも動画の方が説明として満足できるようなものは、今後もさらにYouTubeへと移行が進んでいくと考えられます。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2024年春にヴァリューズに入社しました。大学院では生命情報学を専攻していました。