インターネット行動ログ分析によるマーケティング調査・コンサルティングサービスを提供する株式会社ヴァリューズ(本社:東京都港区、代表取締役社長:辻本 秀幸、以下「ヴァリューズ」)は、スマートフォン決済アプリPayPayが実施した「第2弾 100億円キャンペーン」が2019年5月末で終了したタイミングで、一般ネットユーザーの行動ログとデモグラフィック(属性)情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用して、決済アプリ利用ログからキャッシュレス決済の利用実態を調査しました。また国内の20歳以上の男女10,038人を対象に、キャッシュレス決済の利用意向に関するアンケート調査を実施しました。
分析概要
全国のヴァリューズモニター(20歳以上男女)を対象として、2019年5月31日~6月5日に「キャッシュレス決済サービスに関するアンケート」調査を実施しました(回答者10,038人)。
また、全国のヴァリューズモニター(20歳以上男女)を対象として、主要決済アプリの行動ログを分析しました。
※アンケート調査は性年代別人口とネット利用率に合わせたウェイトバック集計を行っている。
※行動ログは、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用。
※アプリユーザー数は、Androidスマートフォンでのインストールおよび起動を集計し、ヴァリューズ保有モニター(20歳以上男女)での出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
※「LINE Pay」は決済機能単独でのログが取得できないため、主要決済アプリの対象外としている。
考察サマリ
■QRコード決済は4人に1人が利用も、クレジットカードやチャージ系には及ばず
まず、利用経験のあるキャッシュレス決済から見ていきましょう。
アンケート調査では、キャッシュレス決済を「クレジットカード」、Suica、PASMOなど「交通系チャージ式電子マネー」、楽天Edy、WAONなど「交通系以外のチャージ式電子マネー」、PayPay、楽天ペイなどの「QRコード式」、iD、QUICpayなど「後払い式」、「デビットカード」、「仮想通貨」に分けて、店頭での利用経験をたずねました。
最多は「クレジットカード」で86.7%。現在最も利用頻度が高い手段も、「クレジットカード」54.7%が群を抜きました。次いで利用経験者が多いのはチャージ式。SuicaやPASMOなどの交通系電子マネー64.6%、楽天EdyやWAONなど交通系以外が48.5%です。
2018年12月のPayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」など各社のキャンペーン攻勢でも話題をさらったQRコード式の決済アプリは24.9%と4人に1人が利用経験ありと回答しましたが、「最も利用」だと約5%程度。数々のキャンペーンもお財布としての定着効果は今後に期待といえそうです。
なお、デビットカードは15.8%が利用経験ありながら、現在「最も利用」は1.4%にとどまりました。「特に利用していない」現金主義の回答者も9.0%と、ネットアンケートの回答であっても、まだまだキャッシュ好きは一定の割合で存在しそうです。
図表 1 店頭で利用したことがあるキャッシュレス決済サービス
(利用経験は複数回答、最も利用は単一回答)
■キャッシュレス決済アプリではQRコードとチャージ式が拮抗
続いて、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を用いて、主要なキャッシュレス決済アプリの利用ユーザー数と所持ユーザー数を調査しました。
行動ログでは、アンケートに比べてチャージ式よりもQRコード決済アプリの所持ユーザーが多い結果となりました。物理カードからサービスを開始しているチャージ式や後払い式電子マネーは、まだまだアプリ利用よりもカード利用が多いと推察されます(例えば、Suicaの発行枚数は2019年3月時点で7,587 万枚)。
アプリに関してはPayPay(2018年10月リリース)、d払い(2018年4月リリース)、楽天Edy(2016年12月リリース)、楽天ペイ(2016年10月リリース)と、新サービスほどユーザーが多い傾向です。
図表 2 主要キャッシュレス決済アプリの利用状況(2019年6月)
アプリ利用ユーザーでみると、ヴァリューズが発表した前回調査(*1)と変わらずPayPayがトップを独走中で、6月の利用ユーザーは851万人をマーク。チャージ式の楽天Edy752万人がこれを追い、QRコード決済ブームにあやかって急増したd払い663万人が続きます。楽天ペイは525万人で、同じくチャージ式のモバイルSuica536万人に肉薄しました。
濃淡はありますが、QRコードはいずれも2018年11月から2019年6月の8ヶ月間右肩上がり。PayPayは12.4倍、d払いは2.7倍、楽天ペイは2.5倍、Origamiは2.6倍にユーザーを増やしています。
もともと利用が多かったチャージ式の楽天EdyやモバイルSuicaも、アプリユーザーを1.1~1.2倍に増やしていますが、QRコードに比べると伸びは控えめ。これらサービスは、現時点では物理カードの方が生活に浸透しているのでしょう。
図表 3 主要決済アプリの利用ユーザー数
■QRコード決済の生活への浸透度は?
2018年12月に実施されたPayPay第1弾キャンペーンの衝撃を経て、現在は各社とも10月消費増税を見据えた「ファースト財布としての定着」へと軸足を移しているわけですが、ユーザーの利用頻度はどうでしょう?
QRコード決済の利用経験者2,283名のうち、最も多いのは「週に1~2日」の利用。「毎日」使う人は3.7%にとどまりましたが、53.2%は週1回以上利用していて、生活に定着している様子です。「週に1~2日」に次いで多かったのは「1カ月に2~3回」でした。
「1カ月に1回未満」は11.0%にとどまり、利用経験者の約9割はある程度定期的にQRコード決済を使用しているようです。
図表 4 QRコード決済の利用頻度
■QRコード利用のインセンティブは「キャッシュバック/ポイント還元」
QRコード決済を使う理由は、「キャンペーン中の利用でキャッシュバック/ポイント還元」が49.0%、「普段の利用でキャッシュバック/ポイント還元」が42.5%。一方、「キャンペーン中の利用で購入時の支払い金額割引」は16.4%で、同じおトクキャンペーンでも、割引よりキャッシュバック/ポイント還元に軍配が上がりました。
「普段よく買い物をする店舗で利用できる」は27.2%、「利用できる店舗が多い」は12.1%と、店舗対応はおトクに比べると控えめな利用動機のようです。まだまだ利用可能な店舗が限られる、あるいは利用可否がわかりづらい面もあるのかもしれません。「クレジットカードで決済できる」、「アプリが利用しやすい」はそれぞれ20%強でした。
図表 5 QRコード決済を使う理由(複数回答の上位)
■QRコード決済利用のハードルは「よくわからない」「きっかけがない」
QRコード決済利用促進を阻む要因は何でしょうか。
QRコード決済を使ったことがない7,535人を対象に、使わない理由をアンケートで聴取したところ、「QRコード決済サービスがよくわからない」27.6%、「使い始めるきっかけがない」27.5%がほぼ拮抗。様子見層に対して最初の一歩のハードルを下げるには、交通系ICカード並みに誰でも使っていてカンタンという評価が必要でしょう。
3番目に多かったのは「どのQRコード決済サービスを使えば良いかわからない」19.6%。還元率や対応店舗数以外の差別化要素を打ち出しづらいなか、こうした層に対する施策としては、LINE Payが実施した「お友だち同士で送金」のような「家族や友人からのクチコミ」を誘発するキャンペーンなどが、ひとつの解といえるかもしれません。
図表 6 QRコード決済を使わない理由(複数回答の上位)
「紛失した際に悪用されることが怖い」18.9%、「個人情報の漏洩等が気になる」15.7%も上位です。各社とも十分な安全性確保に努めているわけですが、キャッシュレスを推進する政府が、事業者に対して一定のお墨付きを与えるようなしくみや有事の救済制度を検討してもいいかもしれません。
「他のキャッシュレス決済サービスの方が便利」層18.0%の心を奪うのはなかなか厳しそうですが、現金での決済で十分」11.8%、同じく現金派と思われる「思っているよりお金を使ってしまいそう」11.0%あたりの心を動かすには、決済自体の利便性に加え、購買行動のデータが消費者自身にとっても有益という啓発も必要でしょう。
PayPayとLINE Pay、メルペイがセブン‐イレブンで7月11~21日まで最大20%還元、8月12日からは「毎週最大300円相当お得な5週間」合同キャンペーンを展開するなど、マーケティング面での各社の協調もみられます。
他方、キャッシュレス決済先進国で問題視される「現金拒否」店舗の許容範囲、先日の北海道地震でクローズアップされた停電時の対応など、キャッシュレス社会への道程には課題も少なくありません。また、情報銀行やスコアリングでの決済履歴利活用についても、まだまだ議論の余地があります。
キャッシュレス推進協議会では、社会資産としての決済データ取扱いやデータ活用のための標準化、フォーマット統一やプラットフォーム構築に関する検討も始まっています。社会とビジネス、そしてもちろんユーザーがハッピーな、三方良しのキャッシュレス社会に期待したいところです。
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