「B.LEAGUE PROFILE」では、スマホファーストデジタルマーケティング戦略は、発足前のリサーチで「若者」「女性」というターゲットセグメントを確認した結果と紹介しています。
「会員の平均年齢も35.4歳と若く(Jリーグは41.6歳)、半数が女性ファンという他のスポーツ競技にはみられない結果」に基づき、「SAMIT」と名付けたペルソナをふまえた戦略が、スマホファーストなのです。
図表 1 B.LEAGUEのターゲットは「SAMIT」
(Sociability & Stylish:集団観戦型・オシャレ、Active:お出掛け好き、Mobile & Magazine First:スマホや雑誌で情報収集、Influencer & Trendy:発信もシェアも積極型・流行に敏感)
B.LEAGUE PROFILEより
日本一、世界一の競技人口を抱えるバスケットボールは、2018年度における高校生の部活参加状況でみると、バレーボールに次いで女子部員が多く、経験者の裾野が広い競技でもあります。
いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第2回 序章 スポーツビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(2)
https://manamina.valuesccg.com/articles/4732018年度における高校生の部活参加状況は下記図表の通り。 …男女計ではサッカー、硬式野球、バスケットボールの順に人気です。
ターゲット市場が大きい分、ともすれば最大公約数に拡散しがちなマーケティング施策が一貫性を保ち成功につながっているのは、周到なプロセスの賜物といえるのではないでしょうか。
今回は、B.LEAGUEデジタルマーケティングのコアツールであるチケットアプリ(Bリーグスマホチケット)にフォーカスしてみます。
チケットサイトを上回るアプリユーザー
eMark+を使って、直近1年とその前年のチケットアプリユーザー行動ログを比較してみましょう。
日本バスケットボール協会(以下、協会)サイト以外は、ほかのサイトも全てユーザーが増えていますが、チケットアプリはなかでも対前年比172%と突出しました。試合のチケットはB.LEAGUEチケットサイト(PC及びスマホ対応)でも購入できますが、直近1年間でチケットサイトをアプリが抜いた格好です。
図表 2 B.LEAGUE関連サイト及びアプリのユーザー数
※eMark+にて調査
※デバイス:PC+スマートフォン
チケットアプリでは、試合情報やリーグ及び各チームニュースのチェックからチケット購入、入場までワンストップで完結します。また、チケットだけでなく、B.LEAGUE所属選手の選手カード入手、さらにはお友達とカードを交換してマイコレクションを楽しめる「B.スマコレ」機能も搭載。コインはアプリ起動や「ミッション」クリアにより無料で集めることができるので、ファンならオフシーズンでも使いたくなりそう。
バスケットボール編(1)でご紹介した通り、2018-2019シーズン終了後も利用は衰えていません。ユーザーデータは前回ご紹介した通り共通DMPに統合され、リーグ協調領域と各チーム競争領域それぞれのファンエンゲージメントに活用されています。
図表 3 コインを使って選手カードを集めたり交換できる「スマコレ」機能
「Bリーグスマホチケット」アプリより
戦略通り女性ファンの心をつかむ
直近のチケットアプリユーザーは56.5%が女性。そしてECサイトONLINE SHOP(B.LEAGUE OFFICIAL ONLINE SHOP)も女性が男性を上回りました。
チケットやグッズ販売という直接消費行動につながるチャネルは、B.LEAGUEのターゲットである女性ファン獲得に貢献していそうです。
図表 4 B.LEAGUE関連サイト・アプリのユーザー分布(2019年7月、男女別)
※eMark+にて調査
※デバイス:PC+スマートフォン
2年間の月次推移でも女性の増加が目立ち、シーズン期間の比較だと男性が対前年比145%、女性は187%増えていました。
最もユーザーが多かった月は、男性が2019年3月、2月、1月の順に対して、女性は同2月に次いで2018年11月、12月の順。とくに2018-2019シーズンは男性に比べ早い時期に女性が反応していて、勝敗の行方に関わらず関心が高いといえそうです。
図表 5 Bリーグスマホチケットのユーザー推移
(男女別、ラベルは各属性ユーザー数トップ3の月)
※eMark+にて調査
※デバイス:スマートフォン
各月の反応を年代別にみると、50代は開幕の10月、40代は12月、30代と60才以上は2月、そして20代は3月にもっともユーザーが増えています。60才以上を除くと、開幕からゲームが進んで勝敗の行方が盛りあがっていくに連れ、若い層の心が動きはじめるといえるでしょうか。
図表 6 Bリーグスマホチケットのユーザー推移
(年代別、ラベルは各属性最多の月)
※eMark+にて調査
※デバイス:スマートフォン
ホットゾーンは中部地域
直近1年とその前年で地域別にチケットアプリユーザー数を比較してみると、東北地方167%、中国地方143%、中部地方136%の伸張ぶりが目立ちます。特に中部地方は直近1年のユーザー数が近畿地方の3倍近くを獲得。関東に次ぐチーム数を考慮したとしても、他のエリアよりしっかりスマホユーザーを囲い込んでいそうです。
図表 7 Bリーグスマホチケットアプリのユーザー数
(地域別、カッコ内は2019年9月時点のB1・B2のチーム数)
まとめ
協会としては、会員データベースをB.LEAGUEファンにとどまらず、全国のバスケットボールプレイヤーと予備群へ拡大し、プレイヤーを観戦ファンに、観戦ファンをプレイヤーに育む構え。7月には会員管理機能拡充とみられるサイトリニューアルも実施しました。
チケットアプリは3Dシートマップや公式転売市場、またAIを用いたファンコミュニケーションやダイナミックプライシングといった機能拡充を予定していて、ますます重要なコミュニケーションツールになりそうです。
デジタルスポーツマーケティングをリードするバスケットボールの動向、競技ファンでなくても注目です。
関連記事
いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第6回 Bリーグ全体でスマホファースト戦略を推進 バスケットボール編(1)
https://manamina.valuesccg.com/articles/586「いま、スポーツマーケティングが熱い!」シリーズでは、デジタライゼーションがもたらすD2C(Direct to Consumer)をキーワードに、スポーツビジネスのマーケティング事例を紹介しています。最初にとりあげたフェンシングに続く2つ目の競技は、バスケットボール。活動振興団体である公益財団法人日本バスケットボール協会(以下、協会)とプロリーグ「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)」が一体となってD2Cファンエンゲージメントに挑み結果を出し続けている、DXベストプラクティスのひとつです。
いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第8回 ワールドカップをデータで振り返る ラグビー編(1)
https://manamina.valuesccg.com/articles/719競技ごとにスポーツマーケティングの動向をとりあげる連載企画。3つ目の競技は、昨年9月20日~11月2日のワールドカップで日本中、いえ世界中を熱狂させた「ラグビー」です。
日本上陸から丸3年、DAZN(ダゾーン)のユーザー数は? スポーツ動画配信サービスを調査しました
https://manamina.valuesccg.com/articles/722国内外のスポーツを配信しているDAZN(ダゾーン)が、日本に上陸してから丸3年。現在のユーザー数はどのように推移しているのでしょうか。同じくスポーツ動画配信を行うスカパーやWOWOWとのユーザー層の違い、3サービスの特徴をまとめてみました。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。