いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第7回 ペルソナをふまえたターゲティング バスケットボール編(2)

いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第7回 ペルソナをふまえたターゲティング バスケットボール編(2)

「いま、スポーツマーケティングが熱い! バスケットボール編(1)」では、B.LEAGUEのスマホファースト戦略とその軌跡をたどり、ログデータを使いながら盛りあがる市場を概観しました。2016年発足というデジタル環境を活用できた点は成功要因に間違いありませんが、それ以上に貢献していそうなのは、育成すべき市場を適切に見据える、すなわちSTPに基づく戦略立案プロセスと考えられます。


「B.LEAGUE PROFILE」では、スマホファーストデジタルマーケティング戦略は、発足前のリサーチで「若者」「女性」というターゲットセグメントを確認した結果と紹介しています。

「会員の平均年齢も35.4歳と若く(Jリーグは41.6歳)、半数が女性ファンという他のスポーツ競技にはみられない結果」に基づき、「SAMIT」と名付けたペルソナをふまえた戦略が、スマホファーストなのです。

図表 1 B.LEAGUEのターゲットは「SAMIT」
(Sociability & Stylish:集団観戦型・オシャレ、Active:お出掛け好き、Mobile & Magazine First:スマホや雑誌で情報収集、Influencer & Trendy:発信もシェアも積極型・流行に敏感)

B.LEAGUE PROFILEより

日本一、世界一の競技人口を抱えるバスケットボールは、2018年度における高校生の部活参加状況でみると、バレーボールに次いで女子部員が多く、経験者の裾野が広い競技でもあります。

いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第2回 序章 スポーツビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(2)

https://manamina.valuesccg.com/articles/473

2018年度における高校生の部活参加状況は下記図表の通り。 …男女計ではサッカー、硬式野球、バスケットボールの順に人気です。

ターゲット市場が大きい分、ともすれば最大公約数に拡散しがちなマーケティング施策が一貫性を保ち成功につながっているのは、周到なプロセスの賜物といえるのではないでしょうか。

今回は、B.LEAGUEデジタルマーケティングのコアツールであるチケットアプリ(Bリーグスマホチケット)にフォーカスしてみます。

チケットサイトを上回るアプリユーザー

eMark+を使って、直近1年とその前年のチケットアプリユーザー行動ログを比較してみましょう。

日本バスケットボール協会(以下、協会)サイト以外は、ほかのサイトも全てユーザーが増えていますが、チケットアプリはなかでも対前年比172%と突出しました。試合のチケットはB.LEAGUEチケットサイト(PC及びスマホ対応)でも購入できますが、直近1年間でチケットサイトをアプリが抜いた格好です。

図表 2 B.LEAGUE関連サイト及びアプリのユーザー数

図表 2 B.LEAGUE関連サイト及びアプリのユーザー数

※eMark+にて調査
※デバイス:PC+スマートフォン

チケットアプリでは、試合情報やリーグ及び各チームニュースのチェックからチケット購入、入場までワンストップで完結します。また、チケットだけでなく、B.LEAGUE所属選手の選手カード入手、さらにはお友達とカードを交換してマイコレクションを楽しめる「B.スマコレ」機能も搭載。コインはアプリ起動や「ミッション」クリアにより無料で集めることができるので、ファンならオフシーズンでも使いたくなりそう。

バスケットボール編(1)でご紹介した通り、2018-2019シーズン終了後も利用は衰えていません。ユーザーデータは前回ご紹介した通り共通DMPに統合され、リーグ協調領域と各チーム競争領域それぞれのファンエンゲージメントに活用されています。

図表 3コインを使って選手カードを集めたり交換できる「スマコレ」機能

図表 3 コインを使って選手カードを集めたり交換できる「スマコレ」機能

「Bリーグスマホチケット」アプリより

戦略通り女性ファンの心をつかむ

直近のチケットアプリユーザーは56.5%が女性。そしてECサイトONLINE SHOP(B.LEAGUE OFFICIAL ONLINE SHOP)も女性が男性を上回りました。

チケットやグッズ販売という直接消費行動につながるチャネルは、B.LEAGUEのターゲットである女性ファン獲得に貢献していそうです。

図表 4 B.LEAGUE関連サイト・アプリのユーザー分布(2019年7月、男女別)

図表 4 B.LEAGUE関連サイト・アプリのユーザー分布(2019年7月、男女別)

※eMark+にて調査
※デバイス:PC+スマートフォン

2年間の月次推移でも女性の増加が目立ち、シーズン期間の比較だと男性が対前年比145%、女性は187%増えていました。

最もユーザーが多かった月は、男性が2019年3月、2月、1月の順に対して、女性は同2月に次いで2018年11月、12月の順。とくに2018-2019シーズンは男性に比べ早い時期に女性が反応していて、勝敗の行方に関わらず関心が高いといえそうです。

図表 5 Bリーグスマホチケットのユーザー推移

図表 5 Bリーグスマホチケットのユーザー推移
(男女別、ラベルは各属性ユーザー数トップ3の月)

※eMark+にて調査
※デバイス:スマートフォン

各月の反応を年代別にみると、50代は開幕の10月、40代は12月、30代と60才以上は2月、そして20代は3月にもっともユーザーが増えています。60才以上を除くと、開幕からゲームが進んで勝敗の行方が盛りあがっていくに連れ、若い層の心が動きはじめるといえるでしょうか。

図表 6 Bリーグスマホチケットのユーザー推移

図表 6 Bリーグスマホチケットのユーザー推移
(年代別、ラベルは各属性最多の月)

※eMark+にて調査
※デバイス:スマートフォン

ホットゾーンは中部地域

直近1年とその前年で地域別にチケットアプリユーザー数を比較してみると、東北地方167%、中国地方143%、中部地方136%の伸張ぶりが目立ちます。特に中部地方は直近1年のユーザー数が近畿地方の3倍近くを獲得。関東に次ぐチーム数を考慮したとしても、他のエリアよりしっかりスマホユーザーを囲い込んでいそうです。

図表 7 Bリーグスマホチケットアプリのユーザー数

図表 7 Bリーグスマホチケットアプリのユーザー数
(地域別、カッコ内は2019年9月時点のB1・B2のチーム数)

まとめ

協会としては、会員データベースをB.LEAGUEファンにとどまらず、全国のバスケットボールプレイヤーと予備群へ拡大し、プレイヤーを観戦ファンに、観戦ファンをプレイヤーに育む構え。7月には会員管理機能拡充とみられるサイトリニューアルも実施しました。

チケットアプリは3Dシートマップ公式転売市場、またAIを用いたファンコミュニケーションダイナミックプライシングといった機能拡充を予定していて、ますます重要なコミュニケーションツールになりそうです。

デジタルスポーツマーケティングをリードするバスケットボールの動向、競技ファンでなくても注目です。

関連記事

いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第6回 Bリーグ全体でスマホファースト戦略を推進 バスケットボール編(1)

https://manamina.valuesccg.com/articles/586

「いま、スポーツマーケティングが熱い!」シリーズでは、デジタライゼーションがもたらすD2C(Direct to Consumer)をキーワードに、スポーツビジネスのマーケティング事例を紹介しています。最初にとりあげたフェンシングに続く2つ目の競技は、バスケットボール。活動振興団体である公益財団法人日本バスケットボール協会(以下、協会)とプロリーグ「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)」が一体となってD2Cファンエンゲージメントに挑み結果を出し続けている、DXベストプラクティスのひとつです。

いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第8回 ワールドカップをデータで振り返る ラグビー編(1)

https://manamina.valuesccg.com/articles/719

競技ごとにスポーツマーケティングの動向をとりあげる連載企画。3つ目の競技は、昨年9月20日~11月2日のワールドカップで日本中、いえ世界中を熱狂させた「ラグビー」です。

日本上陸から丸3年、DAZN(ダゾーン)のユーザー数は? スポーツ動画配信サービスを調査しました

https://manamina.valuesccg.com/articles/722

国内外のスポーツを配信しているDAZN(ダゾーン)が、日本に上陸してから丸3年。現在のユーザー数はどのように推移しているのでしょうか。同じくスポーツ動画配信を行うスカパーやWOWOWとのユーザー層の違い、3サービスの特徴をまとめてみました。

この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

関連する投稿


博報堂生活総合研究所、暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる生活DX定点調査の結果を発表

博報堂生活総合研究所、暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる生活DX定点調査の結果を発表

博報堂生活総合研究所は、15~69歳男女に対して暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる「生活DX定点」調査を実施し、結果を公開しました。


自社に沿ったDXを実現するデータ活用人材の育成とデータを活用した意思決定が出来る強い組織作りとは|「VALUES Marketing Dive2024 Premium」レポート

自社に沿ったDXを実現するデータ活用人材の育成とデータを活用した意思決定が出来る強い組織作りとは|「VALUES Marketing Dive2024 Premium」レポート

ヴァリューズは、"データを通じて顧客のことを深く考える"、"マーケティングの面白さに熱中する"という意味を込め、マーケティングイベント「VALUES Marketing Dive」を6/25に開催しました。第4回目となる今回の全体テーマは「Think & Expand - 潜考から事業拡大へ」。企業の成長、事業拡大を目指すマーケティング戦略、組織について考え、革新的な思考・潜考がどのように事業拡大に繋がるのか、マーケティング組織のマネージャーやエグゼクティブが押さえておきたい"Premium"な知識や事例をご紹介。本記事では、DX推進に直結するデータ活用人材育成、データドリブンな組織・企業文化の醸成方法を解説した講演をご紹介します。


真の顧客理解を実践できるマーケティングDX・CX組織とは ~ 三井住友海上火災保険の組織構築戦略と外部データ活用手法 | 「VALUES Marketing Dive Premium」レポート

真の顧客理解を実践できるマーケティングDX・CX組織とは ~ 三井住友海上火災保険の組織構築戦略と外部データ活用手法 | 「VALUES Marketing Dive Premium」レポート

ヴァリューズは、"データを通じて顧客のことを深く考える"、"マーケティングの面白さに熱中する"という意味を込め、マーケティングイベント「VALUES Marketing Dive」を6/25に開催しました。今回の全体テーマは「Think & Expand - 潜考から事業拡大へ」。企業の成長を目指すためのマーケティング戦略、組織について考え、革新的な思考・潜考がどのように事業拡大につながるのか、マーケティング組織のマネージャーやエグゼクティブが押さえておきたい"Premium"な知識や事例をご紹介します。本講演では「真の顧客理解を実践できるマーケティングDX・CX組織」について、三井住友海上火災保険株式会社と深掘りを行いました。


データ活用を加速させる!「BIダッシュボード」事例集 | BIダッシュボードギャラリー

データ活用を加速させる!「BIダッシュボード」事例集 | BIダッシュボードギャラリー

社内外の様々なデータを可視化し、グラフを組み合わせて表現することで、データの傾向やパターンを明確にし、分析の精度を向上させる「BIダッシュボード」。関係者間の正しい情報共有や共通理解の促進も期待できます。本レポートでは、Tableauをはじめとする様々なBIツールの導入や構築支援を行ってきたヴァリューズが、これまでの活用事例を厳選して紹介します。業務改善や意思決定に利用するダッシュボードについて、具体的なイメージが欲しい!という方にもおすすめです。


【自治体・DMO向け】 分析事例から学ぶ、効果的なデータ活用術|セミナーレポート

【自治体・DMO向け】 分析事例から学ぶ、効果的なデータ活用術|セミナーレポート

自治体のブランディングやマーケティングにおいてデータの活用は不可欠です。しかし、「具体的な活用方法が分からない」「ナレッジやスキルの不足で業務負荷がかかっている」等のお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。データ活用には様々なアプローチ方法がありますが、中でもゴールを設定し段階的なステップや実現方法を考えることが重要です。本セミナーでは、ヴァリューズがこれまでに実施した自治体様とのデータ活用・分析事例を通じて、有意義なデータ活用を実現するアプローチ方法を解説。Webサイトアクセスの分析やBIダッシュボードの構築、日々のデータ集計業務の効率化等の事例もご紹介しました。※本セミナーのレポートは無料でダウンロードできます。


最新の投稿


博報堂生活総合研究所、暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる生活DX定点調査の結果を発表

博報堂生活総合研究所、暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる生活DX定点調査の結果を発表

博報堂生活総合研究所は、15~69歳男女に対して暮らし全般のデジタル化の度合いを調べる「生活DX定点」調査を実施し、結果を公開しました。


D2Cら、Cookieレス環境に対応したリターゲティング広告の新メニューを提供開始

D2Cら、Cookieレス環境に対応したリターゲティング広告の新メニューを提供開始

株式会社 D2C及び株式会社D2C Rは、株式会社NTTドコモが提供するポストCookieソリューション「docomo connecting path ™ (コネパス)」を活用したリターゲティング広告の新メニュー「コネパス広告」の提供を開始したことを発表しました。


コーチング 〜 吉田松陰に学ぶ

コーチング 〜 吉田松陰に学ぶ

現代の経営者やビジネスパーソンからも熱い支持を得る「吉田松陰」の教え。今もなお多くの人々を惹きつけるその「人材育成術」とはどういったものなのでしょうか。そして、本来の意味での「コーチング」とは。本稿では吉田松陰の生きた時代的背景にも触れながら、コーチング、ティーチング、カウンセリングについての理解まで、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


TikTok for Business、“生活者の心地良さと企業の効果”を両立する方法をまとめた白書を公開

TikTok for Business、“生活者の心地良さと企業の効果”を両立する方法をまとめた白書を公開

TikTok for Businessは、第三者機関に委託して実施した最新の脳波調査によって判明した“生活者の心地良さと企業の効果”を両立する方法をまとめた白書『コンテンツ全盛時代の「ヒト起点の動画広告」』を公開しました。


Z世代は約4割がスマホのみで業務用の資料を作成!内2割弱が"ほぼ毎日"の頻度で【アデコ株式会社調べ】

Z世代は約4割がスマホのみで業務用の資料を作成!内2割弱が"ほぼ毎日"の頻度で【アデコ株式会社調べ】

アデコ株式会社は、全国のX世代・Y世代・Z世代の3世代の働き手を対象に、働き方や仕事に対する考え方についての比較調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ