住宅ローン金利の推移
不動産経済研究所の発表等によると2019年上半期首都圏マンションの平均価格が6,000万円、都区部では7,100万円を超え、一般庶民にはかなり高嶺の花になりました。オリパラ後の市場動向まで様子見も少なくないようで、直近の契約率は11年ぶりの低水準といわれます。
バブル期には年間220万件を超えた土地所有移転登記は、2018年130万件まで下落。昨2018年10-12月期には直近10年で最高の359,948件をマークしたものの、1991年10-12月だと557,842件だったので、65%程度の水準です。住宅ローンの新規貸出金額も、2016年7-9月期の6兆5,516億円、同10-12月期の6兆5,346億円をピークに下落傾向が続いています。
住宅ローンの新規貸出金額(※1)と土地所有移転登記件数(※2)
※1 住宅金融支援機構「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高」
https://www.jhf.go.jp/about/research/loan_zandaka.html
※2 一般財団法人土地総合研究所「不動産業業況等調査」
http://www.lij.jp/search/
そんな停滞感ではありますが、住宅市場活性化の希望は低金利。長期金利がマイナス0.2%前後で推移するなか、10年固定だと3.2%、変動金利は2.475%で、消費者にとってはありがたい水準です。10月現在の比較サイト等によると、新規住宅ローンの最優遇金利は年利0.415~0.975%でした。
住宅ローン金利の推移
※一般財団法人住宅金融普及協会による、主要都市銀行のHP等から集計した金利の中央値
バブル期の8.5%から見ると隔世の感といえる超低金利下、住宅ローン関連の情報を収集するユーザーのニーズはどこにあるのでしょうか。
株式会社ヴァリューズが保有しているモニターパネルのネット行動ログデータから、2018年9月~2019年8月の1年間に「住宅ローン」のキーワードでネット検索したユーザーの動向を探ってみます。
30代既婚男性で「住宅ローン」に高い関心
「住宅ローン」検索ユーザーの3人に2人は男性で、66.26%を占めています。年代では30代が38.62%に上り、2番目に多かった40代28.39%を10ポイント以上も上回りました。
「住宅ローン」検索ユーザーの性別・年代
家族構成は既婚者が4人に3人。「子供あり」ユーザーの方が、やや「子供なし」ユーザーを上回りました。
「住宅ローン」検索ユーザーの未既婚・子供有無
情報収集はSUUMO、関心は“金利”と“控除”
「住宅ローン」で検索した前後に見ているサイトは、最長35年の全期間固定金利住宅ローン「フラット35」の紹介サイトがトップ。民間金融機関と住宅金融支援機構の提携により提供されています。
2位以下は不動産購入情報のポータルサイトが並ぶ中で目立つのが、8位「書庫のある家.com」。税金、クレジットカードや電子マネー、ポイントカードに関する実戦経験をふまえた個人ユーザーのブログです。住宅ローンを提供する金融機関は、9位「住信SBIネット銀行」のみでした。
「住宅ローン」検索者の接触サイト上位10
「住宅ローン」検索の前後で合わせて検索されているキーワードは、「住宅ローン控除」「金利」「住宅ローン減税」「借り換え」などが上位。「シミュレーション」「シュミレーション」も多数使われています。
消費増税対策として拡充された「すまい給付金」や10月から導入の「次世代住宅ポイント制度」は、9月までの期間ではあまり関心が集まっていませんでした。
「住宅ローン」検索ユーザーのキーワードクラウド
40代の関心は“借り換え”、30代女性は“審査”が不安?
女性より関心が高い男性も、年代によって気になるポイントは変化しています。
30代で目立つ「金利」「シミュレーション」などは住宅購入時に必要な情報でしょう。住宅ローン控除すなわち「住宅借入金等特別控除」は住宅ローン減税と同じ制度を指しますが、30代は「控除」、40代は「減税」が上位に入れ替わります。サラリーマンだとローンを組んだ年に会社に住宅ローン年末残高証明書を提出すれば翌年以降会社が手続きをしてくれるケースが多いので、新規購入世代は確定申告で使う「控除」が気になるのかもしれません。
「住宅ローン」検索ユーザーの属性別キーワードクラウド(男性30代)
「住宅ローン」にもっとも関心が高い40代男性は、「借り換え」のキーワードが目立ちます。昨今の低金利でより有利な融資条件を検討していそうです。
50代になると一挙に増えるのが「返済」。繰り上げ返済、一括返済など、資金繰りに余裕が出てくるのでしょうか。完済後の手続きである「抵当権抹消」も使われていました。
「住宅ローン」検索ユーザーの属性別キーワードクラウド(男性40代,50代)
一方、30代女性は、男性があまり使っていない「審査」に関するキーワードを多用。「仮審査」「本審査」「事前審査」も使われていて、男性に比べると、まずは審査通過のハードルを感じることが多いのかもしれません。
40代で「借り換え」、50代で「返済」が増えるのは男性と同じ傾向ですが、女性は50代でも「借り換え」が気になり続けています。
「住宅ローン」検索ユーザーの属性別キーワードクラウド(女性30代,40代,50代)
特定の金融機関や不動産会社名が多いのは、女性ユーザーの特徴と言えそうです。30代は「ろうきん」「じぶん銀行」「イオン銀行」、50代は「北洋銀行」「楽天銀行」「三井のリハウス」などを検索していました。
「住宅ローン」検索者を4つのクラスタに分類すると、ニーズが浮き彫りに
続いて、「住宅ローン」検索者のニーズと行動特徴を分類するため、クラスタ分析を行ったところ、4つのクラスタに分かれました。
各クラスタのキーワードとして挙がったのは、
1.「繰り上げ返済」
2.「フラット35」
3.「火災保険」
4.「年末調整」
です。
「住宅ローン」検索者のクラスタ
※( )内は各クラスタの出現人数
■「フラット35」検索クラスタではネット系銀行が優位
4つのクラスタのうち、ユーザーボリュームの多い「フラット35」検索クラスタを詳しくみていきましょう。
「住宅ローン」と固定金利住宅ローン「フラット35」で検索したユーザーがもっともよく見ているのは、住宅保証機構が提供する住宅ローンシミュレーション等のサイト。住宅金融支援機構が運営する「フラット35」やシミュレーション等のサイトも3つランクインしました。
「フラット35」検索クラスタの上位閲覧サイト
「じぶん銀行」「住信SBIネット銀行」「イオン銀行」などの住宅ローン取扱い行、住宅ローン専業「ARUHI」も使われている一方、都銀は圏外に。
超低金利下では従来のような手数料が見込めず、かといって顧客接点としての住宅ローンを失いたくない都銀はネット手続き強化による省力化とUX向上を進めていますが、行動ログを見る限り、ネット上では専業優位の様相です。
新築マンションだとあらかじめ都銀を中心とする提携行が指定されているためにそもそも検索対象になりづらい面はありますが、都銀に比べてアグレッシブな金利設定とネット完結の手軽さが、ユーザーの心を掴んでいるかもしれません。
■「年末調整」検索クラスタでは資産運用・家計に役立つ情報ブログやメディアが人気
実際に住宅ローンを組んで申告が必要な状況が推察される「年末調整」検索ユーザーは、具体的なお得の知恵を求めている様子です。
年末調整・確定申告などのお役立ち情報を発信する個人ブログ「書庫のある家.com」が他サイトを引き離すほか、共働き格差婚の家計・家事ブログ「共働きみのりた家の暮らし」は人気があります。
マネー・不動産情報サイト「ZUU online」や資産運用・ローンブログを展開する「千葉銀行」といった解説も使われていました。
「年末調整」検索クラスタの上位閲覧サイト
住宅ローン関係以外では、ふるさと納税情報「ふるさとぷらす」や、主婦向けに個人事業主デビューと青色申告活用を勧める「主婦が青色申告」、現役税理士による節約術「税金、社会保険の知恵袋」も上位でした。
住宅ローン控除の恩恵を受けるために年末調整という手続きが生じるならば、この際さらなる優遇の可能性を模索したくなるのは自然な行動といえるでしょう。
まとめ
老後資金2000万円不足問題がクローズアップされ、個人の主体的資産形成に関心が集まる昨今。政策がお金や働き方に国民の自律を求めるならば、「住宅ローンを組む(借り換える)」というライフイベントへのアプローチも、一考に値するのではないでしょうか。
【調査概要】
株式会社ヴァリューズが、全国のモニターパネルを対象として調査・分析を実施。
・ネット行動ログ分析対象期間:2018年9月~2019年8月
・分析対象者:検索キーワード「住宅ローン」で検索したユーザー
※ネット行動ログは「住宅ローン」検索前後180分の行動ログを抽出して分析を行った
■関連記事
検索キーワードから読み解く「投資」のいま。ポイント投資やNISA、iDeCoなど多様化する投資方法に若年層も注目。
https://manamina.valuesccg.com/articles/772欧米諸国に比べ、日本では資産を運用せずに貯蓄する人の割合が多いとされています。しかしながら最近では少子高齢化の進展による老後資金への不安や、恒常化する預金の低金利化などから、資産形成を目的として投資を始める人が増えてきています。今回はそんな「投資」に焦点を当て、eMark+の検索キーワード分析機能「Keyword Finder」を用いて調査を行いました。
生命保険の相談・比較メディアのユーザー数が増加。新型コロナウイルスの感染拡大による保険需要の高まりに注目
https://manamina.valuesccg.com/articles/836世界各地で新型コロナウイルスが猛威を振るっています。緊急事態宣言の対象は全国に拡大され、 外出自粛が一層求められるなど、感染拡大防止のためにさまざまな対策がとられています。しかしながら、感染者数は増加を続け、未だ収束の見通しがつかない状態です。そんな社会的不安を背景に、人々の保険への関心が高まっているようです。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。