国内ニュースメディアのサブスクリプションビジネスの「いま」

国内ニュースメディアのサブスクリプションビジネスの「いま」

現在、さまざまな業界でのサブスクリプションビジネスが進んでいます。Apple Musicなどの音楽配信やNETFLIXなどの動画配信といったコンテンツサービスから、Amazon Primeなどの会費制ECサービス、生協やオイシックスなどの食品宅配など、既に日常生活に取り込んでいる方も多いでしょう。目新しいところでは、美容室や居酒屋といったサービス業においてもサブスクリプション方式のビジネスが展開され始めたりと、さらに市場規模が広がるとの見方もありますが、これらの中から、今回は『ニュースメディア』に焦点を当ててみました。


サブスクリプションとは、もともと「定期購読」という意味で、消費者が製品やサービスごとにお金を支払うのではなく、それを一定期間利用できる「権利」に対してお金を支払うビジネスモデルです。

日本のニュースメディアのサブスクリプション化は遅れている?!

ロンドンに拠点を持つ業界団体のFIPP(International Federation of Periodical Publishers:国際雑誌連合)は、2019年11月、「Global Digital Subscriptions Snapshot - November 2019」と題した世界のオンラインニュースメディアの有料購読者数に関するレポートで、「世界で有料デジタル購読者が2,000万人に近づきつつある中、テック企業は競争を激化させている」と発表しました。

このようなレポート結果や、各業種のサブスクリプション化の波が大きくなりつつある事からも、私達の生活に定着し始めているとも感じられますが、実はニュースメディア業界においては、世界水準と比較すると日本は遅れ気味であるとも言えそうです。

実際に、「REUTERS INSTITE」 と 「UNIVERSITY OF OXFORD」が行った調査のデータ【図1】を見てみると、世界で最も課金して記事を読んでいる国はノルウェーとトルコ(同率34%)で北欧3国(平均23%)が世界的に見て課金率が高く、アメリカは16%、イギリスは9%となっています。

【図1 ・Digital News Report 】

更に【図2】をみると、アジアでは、香港が17%、シンガポール16%、韓国10%、マレーシア16%、台湾12%という中、日本は7%にとどまる結果が出ており、世界を含めアジアの中でも日本の課金率は低水準であることがわかります。

【図2  Digital News Report 】

では例として、世界を牽引するアメリカでは、一体どのようなニュースメディアが課金されているのかというと、有料購読しているアメリカ人の半数が「New York Times」「Wall Street Journal」「Washington Post」といった有名誌のオンラインニュースに集中しているようです。

ロサンゼルス在住のエンタテイメント業界で働く男性は、アメリカのビジネスパーソンが読む媒体についてこう語っているそうです。

「『New York Times』や『Wall Street Journal』などのメジャーな新聞媒体のオンラインニュースは、課金しても読む価値があると感じているビジネスパーソンは多いと思いますね。『Forbes』や『Business Insider』もよく読まれています。業種によって読むべき記事も違うので、僕は『Linkedln.com』というビジネス特化型ソーシャルメディアから記事を読んでいます。仕事で役に立つ記事のリンクが、業種ごとにその道のプロたちによってシェアされていて便利なんです」

業種の違いにもよりますが、全体的には新聞媒体を持つニュースメディアに対しては、「読む価値がある」という信頼性の根強さから選ばれているのかもしれません。

その信頼性とは、メジャーであるが故、あらゆる分野において体系的な情報が得られる、かつ情報も正確であるはずだからという考えかと推測します。

また一方では、個々の属性・嗜好に沿った情報にたどり着きやすく、欲しい情報だけを得るといった効率的な手法から、SNS型のメディアも選ばれているようです。

実際、前述のように『Linkedln.com』を含め、SNSアプリを経由してニュースメディアにリーチするといったプラットフォームの変化は、昨今のトレンドとも言えそうです。参考までに、多く利用されているSNSアプリを調べてみると【図3】、InstagramやWhatsAppが成長著しく、反面依然大きな存在感を持っていながらも減少傾向が見られたのはFacebookという結果が出ています。

【図3・Global Digital Subscriptions Snapshot - November 2019】

左:用途を問わずよく使われるSNS
右:ニュース取得を目的としてよく使われるSNS
期間:2014年〜2019年(11月現在)

日本国内のニュースメディアアプリをランキングで見ると…

それでは日本ではどのようなニュースメディアが読まれているのか、2019年11月の「ニュース&雑誌」カテゴリでのアプリランキング上位20位までを見てみましょう。

「ニュース&雑誌」カテゴリでのアプリランキング

「ニュース&雑誌」カテゴリでのアプリランキング

集計期間:2019年11月

上位アプリのうち、有料課金もしているニュースメディアは、「Yahoo!ニュース」「日本経済新聞」「NewsPicks」「読み放題プレミアム」(月額で有料課金)などわずか一部に限られている状況です。

国内のサブスクリプション型ニュースメディア上位を比較

今回は、ランキング上位にあるアプリの中で、サブスクリプションビジネスを展開している、「日本経済新聞」「NewsPicks」に加え、ランキング外ではありましたが、23万人(2015年5月時点)の有料会員を保有する「朝日新聞デジタル」も加えて、ユーザー属性や併用状況などの比較をしてみました。

ニュースメディア比較表

①アプリユーザー数の推移

まず、2018年12月〜2019年11月までの1年間で、アプリユーザー数の推移を見てみます。

年間通じて大幅な増減はありませんが、「日経電子版」ついては比較的順調に推移しているように見えます。

アプリユーザー数の推移

アプリユーザー数の推移

集計期間:2018年12月〜2019年11月

②ユーザー層の比較

続いて、同じく2018年12月〜2019年11月のアプリのユーザー属性を見てみましょう。

アプリユーザーの性別

アプリユーザーの性別

集計期間:2018年12月〜2019年11月

アプリユーザーの年代

アプリユーザーの年代

集計期間:2018年12月〜2019年11月

「日経電子版」と「NewsPicks」は性別・年代共に似たような構成比となっています。

「朝日新聞デジタル」では50代・60代以上が占める割合が多く、女性の割合も比較的多いのが特徴的。ビジネスに特化して購読されているというより、日常全般に浸透しているようなイメージがわいてきます。

③日経電子版とNewsPicksにおけるビジネスパーソン比較

②でビジネスパーソンを中心に利用されていることが推測された2つのアプリ、有名紙面媒体を持つ日本のサブスクリプションニュースメディアの代表格とも言える「日経電子版」と、国内外90以上のメディアから経済ニュースを配信し、各業界の著名人や有識者のコメントも共に読むことができるSNS要素も持ち合わせた「NewsPicks」を重点的に比較してみます。

まず、②で用いたユーザー属性から、「無職・学生」を除いたビジネスパーソン層のみの数値を抽出し直しました。




集計期間:2019年9〜11月

3つの属性ともに大きく変わりはないですが、「NewsPicks」は20代〜40代がユーザーの82.6%を、会社勤務(一般社員)が61%を占めている事から、より若手から中堅のビジネスパーソンに多く利用されているようです。

次に、この2つのアプリの1ヶ月間での併用率を見てみましょう。

併用サイト数

併用サイト数

集計期間:2019年11月

「日経電子版」からみた「News Picks」の併用状況

「日経電子版」からみた「NewsPicks」の併用状況

集計期間:2019年11月

「News Picks」からみた「日経電子版」の併用状況

「News Picks」からみた「日経電子版」の併用状況

集計期間:2019年11月

併用しているユーザー数は2アプリの利用者全体のうち、約5.7%という、どちらかのアプリだけを利用しているユーザーの割合に、かなりの分配が上がりました。

更に、それぞれのアプリから見た併用状況を調べてみると、「日経電子版」ユーザーの7.4%が「NewsPicks」を併用し、一方、「NewsPicks」ユーザーの19.9%は「日経電子版」を併用していることが分かりました。

前述の属性比較に加え、ここでも「NewsPicks」ユーザーの方が、よりニュース感度に敏感なビジネスパーソンであり、幅広くニュースメディアを活用しているのではないかと推測出来る結果となりました。

では最後に、それぞれのアプリユーザーが、他には普段どのようなニュースアプリを利用しているか、違いを見てみます。

■日経電子版ユーザー

■日経電子版ユーザー

集計期間:2019年9〜11月

■NewsPicksユーザー

■NewsPicksユーザー

集計期間:2019年9〜11月

首位の違いはもっともとして、他はほとんどが同じような結果となりました。

顕著に現れているのが、どれも「無料で読める」ニュースサイトが多くランキングされている点です。それだけ無料でもニュース・情報が得られる、もしくは満足出来ているといった結果なのでしょうか。だとすれば、複数のニュースメディアに課金してまで購読するといった状況は、国内では発生しづらいかもしれません。

また両アプリ共に、「Twitter」を利用しているユーザーも多く、前述した、ニュースメディアアプリにこだわらず、SNS経由でのニュースメディアへのリーチというプラットホームの変化という点が、この調査結果にも現れたと言って良いでしょう。

まとめ

日本におけるニュースメディアのサブスクリプション化は海外と比べると発展途上と言えるでしょう。

SNS経由での情報収集プラットフォームの変化により、直接ニュースメディアアプリにアクセスしなくてはならないという必然性が低下している上、国内ではニュースメディアの無料アプリ・サイトも多数充実しているため、「有益な情報を購読してまで得るなら、信頼のおける発信元のニュースメディア1つで補える」という考えが少なからずあると見立てられます。

独自コンテンツの充実刷新やユーザー専用の優待サービス、UIの利便性向上などで、「課金したい」と思わせるロイヤリティをいかに生み出し、どう差別化していくのか。日本のニュースメディアにおけるサブスクリプションビジネス市場の今後の広がりに注目です。

調査概要

株式会社ヴァリューズが保有する全国のモニター会員(20代以上男女)の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2018年12月~2019年11月におけるアプリの行動ログを分析しました。
※アプリユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
※アプリ名、カテゴリはGooglePlayのアプリカテゴリに準拠。
※メール、Google Chrome、YouTube、Googleマップ、Gmail、などプリインストールアプリは除く。

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この記事のライター

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