GDOのデータ戦略の枠組み
子安亜紀子(以下、子安):マナミナを運営する株式会社ヴァリューズの子安です。ヴァリューズはさまざまな企業の自社データ活用を支援していますが、本日はゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)さんのTableauによる先進的なデータ活用事例から、データドリブンな組織のあり方を探っていければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
株式会社ヴァリューズ 執行役員 子安亜紀子(こやす・あきこ)
システムエンジニア・Webコンサルタントを経て、(株)マクロミルに入社。同社のベンチャー時代から商品開発、事業企画、営業企画などを手掛ける。2011年よりヴァリューズに参画。現在は執行役員として、事業企画やグローバルリサーチ、マーケティング部門の統括などを担当している。
子安:では改めてGDOさんのサービス概要を教えていただけますでしょうか。
野中隆伸さん(以下、野中):GDOはゴルフメディア、ゴルフ用品販売、ゴルフレッスン、ゴルフ場予約の4つの事業を主軸としています。ゴルフ専業の会社として、ゴルファーに対して総合的なサービスを提供しているのがGDOの大きな強みです。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット
事業企画・推進グループ グループ長 野中隆伸(のなか・たかのぶ)さん
ゴルフ場予約ビジネスの予算設計とPL管理、事業全体の業務支援を担当。また新しい領域として、Tableauによるデータ活用の営業現場への推進も主導している。
子安:GDOさんのデータ戦略の枠組みはどのようなものでしょうか。
小池大樹さん(以下、小池):基本的には4つの事業ごとに数字を見て改善アクションを起こしますが、各事業を横断する部署としてUXデザイン、情報活用推進を担うUXD本部(以降:UXD)があります。UXDは全社の顧客データを管理し、事業を横断したデータ活用も行っています。ここではDWH(データウェアハウス=あらゆるデータをまとめたサーバーやソフトウェア)があり、必要なデータを事業部からオーダーで取っていくというのが基本的なデータ活用の枠組みです。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット
マーケティング部 部長 小池大樹(こいけ・だいじゅ)さん
GDOゴルフ場予約サイトの運営・改善・集客・販促・CRMを担当。営業部が仕入れるゴルフ場の予約枠販売をミッションとしている。
子安:各事業部ではどのようなデータ活用を行っているのでしょうか。
小池:私の管轄はゴルファーに向けたBtoCの予約事業ですが、ここでは会員のデータと予約のトランザクション(取引)データを組み合わせてTableauに入れ、顧客の動向を見ています。また、それとは別にクラスタ分析を行い、お客さんに合ったコンテンツの出し分けなどの施策にも活かしていますね。
野中:もうひとつ、GDOはゴルフ場向けのBtoBサービスという側面もあります。例えばゴルフ場向けにゴルファーの購買行動をデータ提供することもあり、これはゴルフ場からすれば絶対に知ることができない行動です。これらのデータをもとにして、ゴルフ場の枠・料金・プランの獲得や、イベント実施やキャンペーン参画をゴルフ場に承諾してもらう時の提案根拠としてBtoB営業にも活用しています。
なぜGDOはTableauを導入したのか
子安:GDOさんではデータ可視化のためにBIツール「Tableau(タブロー)」を導入されています。Tableauを使うようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
野中:抱えていた課題として、当時使用していたBIをデータ抽出の役割でしか活用できておらず、データ可視化によるビジネス活用が不十分だったからです。BIツール自体は9年ほど前から導入していましたが、Tableauは2年ほど前に導入しました。
子安:データ活用への意識はそんなに前から持たれていたんですね。ビジネス活用での課題は具体的にどのような点だったのでしょう。
野中:データの主幹部門はUXDでした。そのため事業部から必要なデータをオーダーし、都度サポートしてもらっていたのですが、アウトプットに時間がかかるという課題がありました。あとはエクセルを使ったデータ可視化のフォーマットが散在していた問題もありましたね。そのためゴルフ場への営業提案において、個人スキルによる差が大きかった。だったら事業部内で自走できる環境(セルフBI環境)を作ってしまった方が、スピード感を持って統一して取り組んでいけるのではないかと考え、Tableauの導入に至りました。
子安:Tableauの杉井さんにお聞きしたいのですが、これは他の会社でも同じような課題があるのでしょうか。
杉井健人さん(以下、杉井):GDOさんで言うUXDのような、いわゆるID連携を取りまとめるチームは他の会社でもよく見られます。ただ日本では、アナリストとして分析するチームと事業サイドの連携がうまくいかず、機能しないことが多いですね。
Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 部長 杉井健人(すぎい・けんと)さん
外資系ERP企業に勤務したのち、Tableau Japanに参画。ミッドマーケット(600億以下)企業の担当チームでマネジメントをしている。
杉井:データ分析が成功している会社は、アナリストが分析すること自体をミッションにしていないことが多いように思います。つまり、事業部が何かをしたいときに共にプロジェクトメンバーとして入っていけるようなユニットとして存在している。独立したユニットではなく横にいるというイメージですが、そんなケースが増えています。
小池:以前は、事業サイドがアナリストに依頼したアウトプットイメージが、実際に提出されたものと全然違うということがたまに起こっていました。するともう1度やり直し、提出は1週間後で、となってお互いフラストレーションが溜まってしまいます。本当はデータを見て施策を打って、またもう1度やってみようという試行錯誤を繰り返す必要があり、スピード感を持つことが重要です。だから事業部内に配置して、横で数字を一緒に見るのが良いと思いましたね。
子安:自分が分析主体ではないけれども事業が分かっているアナリストを横に配置できるとベストですよね。しかしそんな人材はなかなか見つからず、悩んでいる企業も多いと思います。ヴァリューズでは事業会社のマーケティング部門に依頼されて部署間を繋ぐような支援も行っていますが、結局そのようなアナリストが社内にいることが重要だと思っています。
「ゴルフ場カルテ」でデータ可視化
子安:GDOさんでは具体的なアウトプットとして、「ゴルフ場カルテ」のようなものを作られたと聞いています。詳しくお聞きしていきたいのですが、まずこのカルテはどのようなものなのでしょうか?
野中:簡単に言えば、ゴルフ場ビジネスユニットの人たちが、データ集計の必要なしにゴルフ場の情報を見られるダッシュボードです。データにはGDOサイト本体から得られるゴルフ場への送客人数データの他にも、協力サイトからの送客人数、事前決済のチケットサイトの取引データもあります。こうしたひとつひとつのデータベースが散在していたため、Tableau環境でひとつの画面にしました。
「ゴルフ場カルテ」のダッシュボード
野中:ダッシュボードでは営業が収集したゴルフ場情報や、過去取引状況などを1箇所に集中しています。そして営業だけなくマーケ部門やCS部門の人でも、Tableauのアカウントを持ってさえいればダッシュボードを見られるようにしました。このようにゴルフ場の情報を一元化して、全社横断的に利活用しています。
杉井:例えば予約などで業務プロセスが分かれると、データの箱が複数に分かれがちですが、これをTableauで解消した事例ですね。Tableauはデータを準備した上での分析と可視化、他のメンバーへの共有がひとつのプラットフォーム上でできます。営業が見ていたデータをマーケ担当が見ることによって、違う視点から新しい価値が生まれたりもしますし、これが全社で使う意味だと思いますね。
子安:ダッシュボード化はどれくらいの期間のプロジェクトだったのでしょうか?
野中:構想を始めたのは2018年の秋頃で、着手したのは2019年5月です。そこから作り上げるまでには1ヶ月もかからなかったですね。しかも主導したのは、ゴルフ用品販売事業から異動してきたスタッフで、ゴルフ場予約データについて知識がなく、かつTableauを全く使ったことがありませんでした。それくらい扱いやすいものだと思います。
データ活用で変わったGDO営業組織
子安:ただ、他の企業ではこうしたデータ統合のダッシュボードを作ったとしても、メリットが現場サイドに伝わらず使ってもらえないといった話もよく聞きます。GDOさんの場合はどのようにして社内への浸透を図っていったのでしょうか?
宮城学さん(以下、宮城):最初にこだわったのは、トップセールスのベストプラクティスを見られる形にしようということでした。もともと課題だった「個人スキルによる営業提案の質の差」を埋めるためのアプローチです。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット
営業統括部 部長 宮城学(みやぎ・まなぶ)さん
ゴルフ場予約ビジネスの全国営業統括業務に携わる。GDOの営業活動は、ゴルフ場の枠・料金・プランを調達し、少しでもプレーしやすい形でエンドユーザーに届けるというもの。
宮城:「できる営業」は、クライアントに刺さる提案のために見せるべきデータがなんとなく分かっています。しかしキャリアの浅い営業には、なかなか分からず、つまずいてしまうものです。そこでその思考をブレークダウンして、レシピのように「提案でこんな結果を導き出したいときは、このデータを使いましょう」と指南し、ダッシュボードにして展開する。これを見れば、先輩たちと同じようなレベルで分析できて提案できるんだ、という形を目指しました。
子安:営業シーンでは、具体的にはどのような効果があったのでしょうか?
宮城:例えば、対ゴルフ場へ来場商圏分析を行った事例があります。Tableauのビジュアルを生かし、実際に施策実施前と後での来場分布の差を示すことで、クライアントとは「狙い通り、商圏を広げられましたね」といった話が可能になり、この結果を受けて「施策を継続しますか?もしくは、別の方法取りますか?」と商談の幅を広げることができるようになりました。
来場商圏分析の事例
野中:2019年は組織の入れ替わりが活発で、新任のセールスも多かったんです。この年末、1年の振り返りとして営業にヒアリングをしたのですが、そこで「前任者の提案の質をデータ活用で担保できたと思う」といった声がリアルに上がってきました。「事件は現場で起きている」ことを念頭に置き、現場はどう使いたいかを徹底的に議論した結果、彼らが使いやすいものを作ることができたと思います。
データドリブン組織の4つの要素とは
杉井:GDOさんの例には、企業がデータドリブンの文化を浸透させていく上で良い要素が詰まっていると思いますね。まずデータカルチャー組織には、分析に対する戦略とビジョン、エグゼクティブの理解とサポートが不可欠とTableauは考えています。
そのための4つの要素を体系化しており、まず基盤として必要なのが、「どこにどんなデータがあるかが整理された状態」としてのデータのガバナンス。その上に3つの柱として「アジャイルに開発できるプラットフォームがある」「ユーザーの分析成熟度を上げるスキル育成」「社内コミュニティが活発であること」があります。
GDOさんは組織としてこの4つの要素を体現しながら、実際に社内コミュニティが活発というところも特徴的です。普段からコミュニケーションがとれているため、異なる部署同士でも議論がしやすい環境があり、だからこそ現場の営業のニーズにあったダッシュボード化ができたのではないかと思いました。
子安:データドリブン文化を浸透させたいと考える企業は多いと思いますが、なかなかうまく進まない企業も多いです。意識を浸透させていく上では何か秘訣があったのでしょうか。
小池:GDOの場合はトップがデータ利用を進めようという意識を持っていたのが、全社に早いスピードで意識が進んでいった理由のひとつだと思います。あとは、まず小さなプロジェクトから始めるのが重要ではないでしょうか。GDOの場合も、データ利活用を進めようという思いを持った社員がまずひとりで小さく始めました。トップダウンで一気に進めるのは、企業によってはなかなか難しい場合もあるかもしれません。まずは小さいプロジェクトで事例を作れれば、説得材料にもなって全社展開につながりやすいと思いますね。
子安:では最後に、今後データを使って取り組んでいきたいことはどのようなものでしょうか。
野中:より効率的・効果的な営業アクションに直結させるようなデータ利活用を進めていきたいですね。現在では営業メンバーの9割ほどが週に3〜4回はTableauにログインしている状況で、データを見る文化がかなり浸透してきたと思います。しかし一方で、データを見すぎてしまって提案のアクション数が減っている可能性があります。データを活用するのは手段なので、それが目的になってしまうとアクション数が減ってしまうでしょう。そこで、営業活動の行動履歴のデータ活用を進めて、効率とアクション数のバランスを図っていきたいですね。
あとは、ゴルフ場にデータを提供する形で、もっとゴルフ場の経営支援に関与していきたいですね。ゴルフ場を経営する企業には、データ活用の文化はほとんどありません。GDOがデータを提供しながら活用をサポートすれば、そういう会社に必要なデータ人材・雇用が生まれる可能性もあります。最終的には、ゴルフに携わる多くのステークホルダーへの支援を通じて、ゴルフ業界全体を盛り上げることにつながる取り組みを今後も仕掛けていきたいですね。
子安:データ活用は人材の創出や働き方改革にもつながりそうですね。本日は、お時間をいただきありがとうございました!
▼ヴァリューズではTableauの導入支援も行っております。BIツールの導入でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。