京都観光に行きたい気持ちを可視化した「行こう指数」とは?DMOのデータ活用事例を聞く

京都観光に行きたい気持ちを可視化した「行こう指数」とは?DMOのデータ活用事例を聞く

京都市観光協会では、京都観光に行きたい人の動向を把握するため「行こう指数」を開発しました。この指標ではヴァリューズのWeb閲覧データ等を使用。ホテルの宿泊客数データとも照らし合わせ、市場ニーズの増減把握に役立てています。「行こう指数」開発の背景や課題、今後のデータ活用と京都観光のあり方について、京都市観光協会の堀江卓矢さんにお話をお聞きしました。


「行こう指数」とは何か?

――本日は、京都市観光協会様が開発された「京都観光意向指数(通称:行こう指数)」についてお聞きしていきたいと思います。まず初めに京都市観光協会の事業概要と、堀江さんのご担当業務について教えていただけますか。

堀江卓矢さん(以下、堀江):まず歴史からお話しすると、京都市観光協会ができたのは約60年前です。当時から続く事業としては、祇園祭等の有料観覧席の販売や、通常時には入れない文化財の特別公開の企画・実施などがあります。京都市観光協会ではこれらの事業を通じて観光客の誘致を図ってきました。

その後、外国人観光客の増加に伴ってDMO(Destination Management/Marketing Organization)として体制を強化し、ホテル統計をはじめとしたマーケティング事業や、海外メディア等による京都の取材サポート、京都市認定通訳ガイドの育成、免税制度の手続き支援など、幅広く京都観光にまつわる業務を行っています。

私の担当業務は京都市内の観光に関する様々なデータを集計して、現在の京都観光がどうなっているのかを、メディアを通してお伝えし、京都観光に関連する事業者様の経営の参考材料にしていただくのが狙いです。また、情報を公開することで、京都観光に対する新たな投資を呼び込むことにも、繋げていきたいと考えています。

堀江卓矢(ほりえ・たくや)さん
公益社団法人京都市観光協会 企画推進部 DMO担当
主幹(マーケティング専門官)

――今回開発された「行こう指数」とはどのような指数なのですか? 概要と目的について教えてください。

堀江:観光協会では2014年から、市内の主要ホテルから宿泊者数や客室稼働率、国別の訪問者数などのデータをいただき、統計として発表してきました。ただし、これらはあくまでも実績値でしかないため、過去の結果を整理することには使えますが、今後の動向を予測するデータとしては不十分だと感じていました。

特に新型コロナウイルスによって観光業界の先行きが不透明ななかで、事業者のみなさまは将来に対して不安な思いを和らげるためには、未来予測のための指針にできるデータを作る必要がある、という背景がありました。

とはいえ「1年後に観光客が◯◯人来るか」を予測することは簡単ではありません。そこで、京都観光に行きたいと考えて情報を調べている「旅マエの観光客の動き」をデータで可視化することで、需要の前段階を捉えるチャレンジとして始まったのが今回の「行こう指数」の試みでした。

発表した行こう指数は、京都の観光にまつわるサイトについてヴァリューズのWebサイト閲覧データ等を活用し、一定の条件で指数化したものとなっています。

「行こう指数」の算出方法の概略図(京都市観光協会プレスリリースより引用)

「京都に行きたい気持ち」が見えてわかったこと

――行こう指数開発の際にはどのようなデータが候補としてあがったのでしょうか。

堀江:旅マエの動向を把握するにあたり、当協会で管理している公式サイト「京都観光Navi」の閲覧者数のデータだけでは、京都観光全体の動向を把握することは難しいため、京都観光に関するWebサイトの閲覧者数を網羅的に把握したいと考え、ヴァリューズにお声がけしました。これに加えて、ソーシャルリスニングツールを活用してTwitter投稿数のデータも採用しました。それ以外にも、京都観光に関するインターネット検索数や、ガイドブックの売上高なども考えられますが、まずは入手しやすいデータから始めることになりました。

――ヴァリューズの「消費者ネット行動ログデータ」を選定された理由はどのようなものだったのですか?

堀江:外部のWebサイトのアクセス情報を把握する方法はいくつかありますが、ヴァリューズのサービスは、Webサイト全体だけでなくサイト内のディレクトリ単位で計測できることに優位性があります。たとえば、宿泊予約サイト全体の閲覧者数は京都以外の情報について調べている人数まで含まれてしまうことになりますが、そのサイトの京都に関するページの閲覧者数だけを抽出することができれば、京都への訪問意向に関連する数値として考えることができます。

また、これらのページを見ている人の居住エリアがわかるということも、ヴァリューズのサービスが優れている点です。行こう指数の算出に利用している数値は「京都府外に住む人で、かつスマホではなくデスクトップPCで閲覧している人のみに絞り込む」という設定にしているため、京都観光中に閲覧している人の影響を省くことができます。細かいことではありますが、信頼される統計をつくるうえで、このようにかゆい所に手が届くデータ分析ができるかどうかは、サービスを選ぶうえで重要でした。

――「行こう指数」開発により、実際にどのようなことが把握できたのでしょうか?

堀江:「京都観光に行きたい気持ち」の可視化につながっています。例えば、昨年2020年の4月の行こう指数は38.8と年間で一番低い数字でした。新型コロナによる影響が「行こう指数」にも現れたと言え、指数の正確性を信用できる証拠になります。

一方で、Go Toトラベルキャンペーンが全国で利用できるようになった2020年10月には、首都圏の方々が京都観光について調べ始めた動きが反映され、「行こう指数」は155.8にまで急上昇しました。そして、その気持ちの高まりが、実際に11月に入って現れ、2019年と比較した宿泊客数の指数も105.1まで回復しました。

このように、ひと月前の行こう指数が次の月の宿泊客数の増減と連動すれば「行こう指数」を将来予測の指標として活用することができます。しかし残念ながら、必ずしもこのような関係性が全ての期間で見いだせなかったので、今のところは予測指標として活用するところまでは至っていません。ただし、宿泊客数の指数に対して「行こう指数」が上回っている状態が続いていることを踏まえると、行きたくても行けない状況に置かれている人が増えていると考えられるので、今後の需要回復を期待するうえでの証拠になるのではないかと思います。

2020年の「行こう指数」と市内主要ホテルにおける日本人実宿泊客数(京都市観光プレスリリースより引用)

――マーケティング活用の面では、宿泊客数の予測がわかるとどんな良い点があるのですか?

堀江:例えばホテル業では価格の設定が重要です。観光客のニーズが高いと分かれば高めの料金設定が可能になります。また、人員の整理や雇用の調整の判断材料としても使えるはずです。宿泊客数の実績を上司に報告するにあたって、増減の理由のひとつとして「行こう指数」を活用していただく、といったシーンも想定できます。

また、物販や飲食店など旅マエの予約が発生しない業態でこそ「行こう指数」の真価が発揮されます。ホテル業界など、予約が伴う業態では事前にニーズの増減が把握しやすく、自社のデータだけでもある程度動向を把握することができますが、物販や飲食店業界では自分たちだけで予測が立てづらいはずですので、外部環境を客観的に定量化したデータがあるとお役に立てるのではないかと思います。

これからの京都観光と「データ」の関わり

――新型コロナの影響で観光業界は先行き不透明な状態が続いているかと思うのですが、京都観光は現在どのような状況でしょうか。

堀江:廃業されてしまうお店も目立ち、市内の様子も変わっています。厳しい状況と言えるでしょう。ただ、この苦境を乗り越えた先の京都はより魅力的な観光体験を提供できる状態になっていると前向きに捉えようとも考えています。今がこらえどころですね。

また、コロナ前は京都の観光客の飽和状態が全国的な報道もあって注目されており、住民の暮らしにも影響がありました。現在は京都観光を我慢されている人も多い状況だと思いますので、コロナが終息すればすごい勢いで観光客がお越しになる可能性もあります。実際、2020年11月は日本人だけで、外国人観光客がいた前年同月に迫るほどの観光客が京都を訪れました。そう考えると、コロナ後の観光体験をいかに設計していくかを今まさに京都は考えなければなりません。例えば、スマホのビッグデータを使うことで、どの観光地にどれくらい観光客がいるかという「混雑度」をWebサイト上で発信し、密を避けた観光を促すような取り組みも行なっているところです。

――「行こう指数」は今後どのように活用されていく予定でしょうか。展望を教えてください。

堀江:まずは毎月の宿泊客数統計と合わせるかたちで発表し、毎月必ずチェックすべき指数だと事業者の方々に認知していただけるよう発信を続けたいです。その上で将来予測につなげていきたいですね。現在は観光客が旅行を検討し始めるリードタイムが短いためか、予測指標として利用することが難しいですが、分析の仕方や、指数のもととなる数字の重み付けの仕方などを工夫していければと思います。

――最後に、京都市観光協会の今後のデータ活用のあり方を教えていただけますでしょうか。

堀江:これまで京都市観光協会はデータを集めて発表し、かつそのデータを踏まえて戦略や計画を作ることを中心に取り組んできました。しかし、データを作って発表するだけで精一杯で、データの活用方法までフォローしきれていないのが課題でした。今後は、観光客向けビジネスを行うホテルやレストランなど、観光業界の最前線の方々にもっとデータを使ってもらいたいと考えています。発表したデータをメディアに取り上げていただくなど情報発信を積極的に行い、よりわかりやすく実用的な情報を提供していくことに注力して参ります。

また、今回の行こう指数のようなマクロ統計だけでなく、ひとりひとりの観光客がどのような行動をしたかや、接客に対してどう感じたかなど、ユーザーひとりひとりの行動を軸にしたミクロのデータ分析にも手を広げていきたいです。例えば、観光地にビーコンを設置するなどして、これまで拾いきれていなかった動きをデータ化していきたいです。いつかコロナが終息したとき、京都がより魅力的な観光体験を提供できるように邁進して参ります。

取材協力:京都市観光協会

▼ヴァリューズの取り組み内容について気になった方はお気軽にお問い合わせください。

この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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