中国市場のトレンドはロック・ミュージックからやって来る!?~ 中国市場マーケティング戦略考

中国市場のトレンドはロック・ミュージックからやって来る!?~ 中国市場マーケティング戦略考

中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説するこの企画。ヴァリューズで海外調査を行う、私、向井優が、最近の中国でのトレンドや調査事例をもとに考察します。「いかに中国のトレンドを先取りするか?」でお悩みの方は少なくないのではないでしょうか。今回は、中国のトレンドの「兆し」が現れるロック・ミュージックと、近年中国で台頭する「国潮」文化に関係について、中国の社会情勢にも焦点を当てながら解説します。


こんにちは。データマーケティングの企業・株式会社ヴァリューズでコンサルタントを務める向井と申します。

向井優(むかい・すぐる)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント
京都大学大学院で中国哲学史を専攻。前職では外務省や大手ホテル等を中心に訪日外国人施策を担当。ヴァリューズでは、国内でのマーケティング支援を行う一方で、食品・飲料・ヘルスケア領域を中心に中国本土進出・越境EC・訪日中国人市場の調査/マーケティング支援を行っている。趣味は旅行と漢文・民俗学の文献研究。

マナミナでは中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する連載を公開しています。前回は、トレンドをつかみ作り出しながら、ブランドを作っていく中国企業のマーケティング戦略についてお話をしました。

ラーメンに漢方薬を入れ、スマホをまな板に使う…「他人のフンドシ」でブランドを作る中国メーカーのしたたかさ~中国市場マーケティング戦略考

https://manamina.valuesccg.com/articles/1188

中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する新企画。ヴァリューズで海外調査を担当する、私、向井優が、最近の中国でのトレンドや調査事例を元に考察します。今回のテーマは中国メーカーのブランドづくりの施策に焦点を当てます。自社以外の力をうまく使いながら、認知やブランドイメージを高める中国メーカーのしたかかさな施策を、事例をもとに考えます。

台頭する中国「国潮」の流行

・国潮の解説
人民網日本語版」によると、国潮とは、

①中国伝統文化の要素が取り入れられている、②伝統文化と現在の潮流を組み合わせて商品にトレンド感を出す

という2つのトレンドを指すとされています。

近年、中国メーカーを中心に国潮を意識したプロモーションや商品が多く展開されていますが、海外メーカーにもこの流れに乗ろうとするケースが出ています。

その一つが、日本でも馴染み深いペプシ(中国ブランド名:百事)です。百事の中国でのプロモーションでは、若い中国人男性のキャストが、扇子を片手にポーズを決めるシーンが取り入れられています。2020年には、中国の伝統柄を用いたペプシも販売されていたようです。

一足早かったロックの国潮

実は、こうした中国の伝統的な要素への回帰は、一部の領域ではかなり早いタイミングから見られていました。その代表がロック・ミュージックです。国潮の流行りだす遥か前、2015年前後から中国では、ロック(特にメタルバンド)において、中国の伝統的な楽器やテーマを演奏に取り入れる動きが盛んになっていました。

その典型が、「中華メタル」バンドグループの一つ、黒麒(Black Kirin)です。琴をはじめとした伝統楽器を多用し、曲調もメタルと伝統楽曲を組み合わせたものになっています。

▼黒麒(Black Kirin)の曲『无双』

ロックはそこまで詳しくない筆者ですが、聞いてみると「確かにこれはカッコいい」と感じてしまいました。日本でもしばしば和風バンドが話題になっていますが、それに通じるものがあります。

このトレンドはやや下火になりつつも今でも継続し、2020年には中国CCTVで、「国潮」なロックバンドが登場し、演奏をする様子も放送されました。テーマは中世中国の悲劇の英雄、岳飛。下の画像左側のミュージシャンが琵琶のような楽器を演奏しているのが見えます。

▼CCTVでの放送の様子

こうした中国独自のロックバンドが発展した背景には、中国政府によるYouTube等の海外のネットサービス規制が、図らずも独自進化を促した面があるとされています。ロック好きのある友人は「モチーフが一般的なメタルバンドの悪魔でなはく、夜叉なのも中国的。一種のガラパゴスだ。」と評していました。

また、伝統を重んじるクラシックや、韓国の影響の強いPOPと異なり、ロック・ミュージックは、先端的であることや、独自性がより求められるようです。

それゆえに、その中で流行するものは、中国の若者のトレンドを先取りしているのかもしれせん。

次のトレンドはジェンダー?

一方で、weibo等を見渡しても、以前に比べれば、中華ロック・中華メタルの口コミも少なくなっているのも事実です。また、米中対立が取りざたされる昨今でも、中国SNS上では欧米のロックバンドがしばしば取り上げられています。

こうした中で、次に流行するトレンドは何なのでしょうか。

可能性の一つがジェンダー、より具体的にはジェンダーレスではないかと、筆者は考えています。
その兆しともいえるのが、近年、中国の若い女性の間で流行している「ガールズクラッシュ」です。

「ガールズクラッシュ」は「女性が女性にハマる」ことを意味しますが、中国では若い女性がボーイッシュな服を着たり、「ガールズクラッシュ」なパフォーマンスを見るため、ジェンダーレスなアイドルを応援したりする動きが、いまや軽視できないブームとなっています。

中国のガールズクラッシュ文化|中国トレンド調査

https://manamina.valuesccg.com/articles/1234

「ガールズクラッシュ」や「ジェンダーレス」の魅力を重ね備えたアイドルが中国で爆発的な人気を得ています。例えば、2020年iQIYIが制作を務め、合計18億の再生回数を獲得したアイドルサバイバル番組『⻘春有你2』では、中性的なメンバーである刘雨昕(リュウ・ユーシン)さんが最後に1位を獲得しました。ここ数年、可愛さだけでなく、個性的で独特の雰囲気を強みにするガールズクラッシュなアイドルとインフルエンサーの急増から中国人の「女性らしさ」に対する感覚の変化が反映されており、「ガールズクラッシュ」の時代に商機を逃さないため、様々なブランドが中国向けのマーケティング戦略に工夫を凝らしています。

こうした動きは音楽でも見られ、男性的あるいは「カッコいい系」の衣装を身に着けた女性アーティストを目にする場面が増えているのを感じます。

▼「ガールズクラッシュ」的な衣装で演奏する中国のミュージシャン

「ガールズクラッシュ」は、今はまだ音楽やファッションでの流行が中心ですが、今後の展開は注目です。「ジェンダーレス」や「ガールズクラッシュ」をモチーフにした商品やプロモーションが中国で広く展開される日も、遠くないかもしれません。


いかがでしたでしょうか。今回は、中国のロック・ミュージックに注目しつつ、中国社会の流行について解説しました。古代中国の賢人たちは、市井で流行する詩や歌を収集し、人々の暮らしや動向の把握に役立てたとされています。いにしえのリサーチ手法は今なお有効と言えそうです。

事例資料ダウンロード【無料】

オンラインセミナー『事例と調査結果を解説! 中国越境ECの特性と中国マーケティングのポイント』でも、中国市場に向けたプロモーションの効果的な事例をご紹介しました。

セミナー資料は無料でダウンロード頂けます。ぜひ下記フォームよりお申込みください。

セミナー資料の一例

資料のダウンロードURLを、ご入力いただいたメールアドレスに送付させていただきます。
ご登録頂いた方にはVALUESからサービスのお知らせやご案内をさせて頂く場合がございます。

この記事のライター

京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。

関連する投稿


プレスリリースアワード2024イベントレポ。受賞プレスリリースから考える、優れたプレスリリースとは

プレスリリースアワード2024イベントレポ。受賞プレスリリースから考える、優れたプレスリリースとは

株式会社PR TIMESが開催した、優れたプレスリリースを表彰する「プレスリリースアワード2024」に、マナミナ編集部員が参加してきました。入賞したプレスリリースがどんなものだったか、今回のイベントから考えられる優れたプレスリリースとはどんなものなのかを紹介していきます。


中国シルバー経済の新傾向を調査

中国シルバー経済の新傾向を調査

日本と同様、年々高齢者の割合が高くなっている中国。中国民政部が発表した《2023年民政事業発展統計公報》によると、2023年末の時点で全国の60歳以上の人口は29,697万人に達し、総人口の21.1%を占めました。高齢者の増加に伴い、近年中国では“銀髪経済”(シルバー経済)という高齢者を主力とした現象が発生しており、高齢者の間で新たな生活様式が広がっています。


「感情」で消費する中国のZ世代

「感情」で消費する中国のZ世代

新型コロナウイルスが終息した後、経済が低迷しているように見える中国ではさまざまな新しい消費現象が現れています。以前から話題となっていたシティウォーク、ペット経済、リラックス感のあるファッションや「搭子社交」など、これらの現象をよく考えてみると、一つのキーワードに辿り着きます。それが「感情」です。社会的地位を証明するためにブランド品を追い求め、他人に自慢するのではなく、現在の中国のZ世代は、むしろ自己の癒しに注目し、一つの活動や商品を購入する際に自分に「感情的な価値」をもたらすかどうかを重要視しています。この現象は中国で「感情経済」を生み出すに至りました。本記事ではこの現象について詳しく紹介します。


掃除の悩みや求めることは同じ?中国における家庭の掃除意識を調査

掃除の悩みや求めることは同じ?中国における家庭の掃除意識を調査

コロナ禍が後押しとなって、中国において家庭掃除への関心が高まっています。その中でユーザーは掃除に関してどのようなことに苦労し、どのようなことを望んでいるのでしょうか。ヴァリューズ独自の中国定性調査サービス「百路QIC(ヴァリュークイック)」を用いて、ユーザーの本音を明らかにしました。


中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

巨大市場中国。本調査は、中国の消費者の消費動向、購買実態や新しい消費トレンド、消費観を明らかにすることを目的として調査。中でもキーとなるのは、世代間比較。この比較を行うことで、“情緒経済”を重視していると言われているZ世代の特徴や、居住地域によるZ世代内の消費観の差について検討が可能となっています。海外展開事業担当者の方や中国Z世代向けマーケティングを考えている方必見のレポートです。※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。


最新の投稿


SEOに積極的に取り組んでいるサイトの9割以上が表示速度の重要性を認識!改善に取り組む目的は「顧客体験の向上」と「リピート率の改善」が上位【Repro調査】

SEOに積極的に取り組んでいるサイトの9割以上が表示速度の重要性を認識!改善に取り組む目的は「顧客体験の向上」と「リピート率の改善」が上位【Repro調査】

Repro株式会社は、Webサイト運営・管理者を対象とした、「Webサイトの表示速度改善についての実態調査」を実施し、結果を公開しました。


感性について ~ マーケティングとハプティクス

感性について ~ マーケティングとハプティクス

人には5感が備わっています。さらに突き詰めれば第6感という感覚も。それら人の持つ感性や感覚を補うべくあらゆる技術も日々進歩していますが、人のそれらの代替となるような技術はまだ未完の途上です。それほどに他に取って代われない私たちの感性・感覚。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、広告やマーケティングを通して人の感性の深さを説き、ハプティクス(Haptics)を用いて人の感覚の重要性を解説します。


イードとガイエ、リアルとデジタルの融合でアニメファンの推し活を支援する広告パッケージを提供開始

イードとガイエ、リアルとデジタルの融合でアニメファンの推し活を支援する広告パッケージを提供開始

株式会社イードと株式会社ガイエは、全国のファミリーマート、ローソン(※一部店舗を除く)に設置されているマルチコピー機で展開するコンテンツサービス「エンタメプリント」を活用した広告パッケージ「Anime Touch Ad」を共同開発し、販売開始することを発表しました。


ネオマーケティング、ボーダーリンクとの協業で在日外国人リサーチサービスを提供開始

ネオマーケティング、ボーダーリンクとの協業で在日外国人リサーチサービスを提供開始

株式会社ネオマーケティングは、株式会社ボーダーリンクと協業し、在日外国人リサーチサービスを提供開始したことを発表しました。


コンテンツマーケで成果を上げるには営業部門との連携がカギ!?約9割のマーケターが営業視点を取り入れた効果とは【PRIZMA調査】

コンテンツマーケで成果を上げるには営業部門との連携がカギ!?約9割のマーケターが営業視点を取り入れた効果とは【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、コンテンツマーケティングに携わっているBtoB企業のマーケティング担当者を対象に、「コンテンツマーケティングに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ