発電から小売りまで一気通貫。業界に革新をもたらす
――まず最初に、Looopの具体的な事業概要をお聞かせください。
原田佳南さん(以下、原田):2011年の創業当初は太陽光パネルの法人向け販売・設置などを主に取り組んでいました。2016年に“電力小売り全面自由化”が始まったことを受け、現在では発電から蓄電、電力小売まで、一気通貫で電力事業を展開しています。
当社はそもそも、2011年の東日本大震災のとき、社長がボランティアとして太陽光パネルの設置のために被災地に出向いたことが創業のキッカケなんです。その際、「電気を届けて人を笑顔にしたい」「誰もが自由に電気を使えるようにしたい」という気持ちが芽生えたことが起業につながりました。
創業時の思いは「エネルギーフリー社会の実現」という当社の企業理念に反映されており、再生可能エネルギーの普及を推進し、エネルギーがフリーに使える社会を目指すため日々業務にあたっています。
株式会社Looop 電力事業本部 デジタルマーケティング部 プロモーション推進課 原田佳南さん
張哲琛さん(以下、張):電力小売り自由化の影響で、電力業界に参入する企業は増えました。しかし、発電から売電、蓄電まで一気通貫で再エネに関するサービスを提供できる電力会社はとても稀です。そこは当社の“強み”と自負しています。
小林克明さん(以下、小林):電力自由化以降に新たに参入した電気を販売する企業“新電力”の数は年々増え続け、現在約700社になります。しかし、“ユーザーに電力を売る”という部分のみを展開する新電力が多い。電力は売る前のフェーズが非常に難しく、株式のようなマーケットがあり、「どこから電力を集めてくるのか?」という点において熟練した技術や知識が求められます。そういったテクニカルな部分もしっかり自分たちで賄える電力会社は客観的に見ても少ないのではないでしょうか。
(左)株式会社Looop電力事業本部 デジタルマーケティング部 プロモーション推進課 主任 張哲琛さん
(右)株式会社Looop 電力事業本部 デジタルマーケティング部 プロモーション推進課 課長 プロモ・データ マネージャー 小林克明さん
――電力業界を見渡した時、Looopはユニークな存在なのですね。
張:はい。私たちは電力事業本部に所属していますが、基本的には当社の主力サービス“Looopでんき”を取り扱っています。今でこそ基本料金0円の電力サービスは珍しくありませんが、Looopでんきは基本料金0円を実現した業界初のサービスです。当社は発電でも、蓄電でも業界初にこだわり、従来の電気業界の枠にとらわれず挑戦を続けています。
電力業界は「堅い」「古い」といったイメージが根強く、ユーザーとの距離が遠い閉鎖的な業界に映っているかもしれません。しかし、当社は業界の常識を覆しながら、ユーザーに分かりやすく“電力”について伝えることに日々精進しています。
――ちなみに企業理念にもある「エネルギーフリー社会の実現」とは具体的にどのようなことなのでしょうか?
小林:一昔前では国際電話は1分間通話するのに数十円かかることが一般的だったため、通話時間を気にしながら話す必要がありました。最近はインターネットが普及したおかげで、ウェブ上のチャットツールを使用すれば無料でコミュニケーションが取れます。人と人とを隔てていた壁がテクノロジーによって取り除かれたことにより、これまで割いていたお金や時間を他の部分に活用できるようになりました。同じことを、電力で、ひいてはエネルギー分野全体で実現することを目指しています。
Looopでんきが抱えていたデジタルマーケティング上の課題とは
――みなさんが実際に取り組まれている業務を教えてください。
原田:私たちが所属するデジタルマーケティング部は主にLooopでんきの販促を行う部署です。私はその中でも、Looopでんきに関するリスティング広告やWeb広告などを担当しています。
張:原田が入社する以前は私がリスティング広告に関する業務を担っていました。原田の入社以降は業務を引き継ぎ、それからはサービスに関するユーザーの声やデータを分析するグロースハックの業務に半年ほど従事しました。最近は原田ともう一人在籍者がいるのですが、彼らがどのように動いているのかを見つつ、キャンペーンの企画やYouTubeの動画広告制作など、主にプロモーション関係に尽力しています。
小林:私はデジタルチャネルを中心とした「契約数増」の責任を担う立場です。デジタルマーケティング部の基本的なミッションとしては、Looopでんきの契約数をいかに増加させるか。つまり、申込の獲得に加えて、サービスを終了されたお客様の声や動向を分析し、継続的に利用してもらうための施策を検討しています。
「Looopでんき」。業界初だった「基本料金0円」を打ち出すなど、革新的な取り組みを続けている
――Looopでんきのデジタルマーケティングでは競合の状況を把握するため、ブラウザ上で競合サイトの流入状況や集客構造などを簡単に分析できるWeb行動ログツール「Dockpit(ドックピット)」を活用されています。まず、Dockpit導入の背景をお聞かせください。
原田:デジタルマーケティング部では「Looopでんきの契約件数を前年1.5倍にする」という目標を掲げており、これまでも契約件数は伸ばしていましたが、1.5倍にはなかなか届かない状況が続いていました。マーケティング施策の改善については当時Googleアナリティクスやヒートマップツールを使用していましたが、自社サイトの分析にとどまり、効果的な動きができていなかったのです。電力業界は競合他社の動向がわかりにくいということもあり、自社の過去データを参照するしか検証の方法がないことも一因でした。
そこで従来のやり方をアップデートするだけでなく、競合分析ができるツールを探していたところ、ヴァリューズのセミナーに参加した当社社員からDockpitの存在を教えてもらい、つないでもらったことが最初です。
――セミナーがキッカケになったんですね。
原田:はい。その後、営業の方とやり取りさせていただき、Dockpitなら競合他社が実施したプロモーションの反応だけでなく、マーケティングに役立つ様々なデータを収集できることも教えていただきました。当時は他の競合ツールもトライアルで使用していたのですが、Dockpitに惹かれて小林に猛プッシュしました。
――Dockpitを最初に利用した時の印象はいかがでしたか?
原田:入社まではデジタルマーケティングに関して明るくなく、自社内のデータのみで手探り状態でした。ですので、Dockpitなら競合他社がリスティング出稿を強化しているキーワードなど、欲しかったデータを容易に獲得できて感動したことを覚えています。
Dockpitは「競合他社の貴重な情報源」その理由
――Dockpitをどのように利用しているのか、具体的な事例をお聞かせください。
原田:競合他社を複数社ピックアップし、LPやシミュレーションページのセッション数などをまとめたレポートを月に1回行っています。サイトのアクセスが増加した際にどのように導線が変わったのか、キャンペーンを実施した際の反応はどうだったのか、他社のクリエイティブを参考に自社のバナーの訴求案はどうあるべきか等を分析しており、レポートの作成に大きく活躍しています。
また、Dockpitのデータをテキスト(TSV)ファイルで手元に落とせるのもありがたいです。ダウンロードした数字をエクセルに移して、独自にグラフを作ることで、角度を変えた視点でデータを捉えることもあります。
Dockpitの競合分析のダッシュボードイメージ。複数のサイトの利用状況を一目で確認でき、データはテキスト、画像、エクセルなど様々な形式でダウンロードできる
――周囲の方から見て、原田さんのDockpitの活用状況はいかがですか?
小林:原田が使用している様子を横で見ている限り、苦労していたのは最初の1か月くらいでしたね。ただ、その期間も御社からサポートしていただき、こちらからの「こういうことを調べたい時、どうすれば良いですか?」といった具体的な操作以外の相談にも、迅速かつ丁寧に回答してもらいました。ですので、特に操作面でつまずく様子はなかったです。原田は新卒2年目なのですが、私の「競合他社のことを知りたい」というオーダーにも即座に対応してくれ、戦力として活躍してくれています。また、Dockpit導入後は他の人からも競合分析のオーダーが頻繁に行われるようになり、データ収集だけでなく社内のコミュニケーション円滑化にも貢献しているのではないでしょうか。
――Dockpitの使いやすいポイントとして、どのようなことが挙げられますか?
原田:競合他社のデータがわかりやすくチェックできる上に、ディレクトリ単位まで見られるため、当社の数字の良し悪しを客観的に分析できることが魅力です。また、他社サイト内の見たいページをピンポイントで見ることができ、「全体のページの中で特定のページがどれだけ見られているのか」といった細かい部分も確認できるため、非常に戦略が練りやすくなります。他にも、競合他社のサイトだけでなく、比較サイトからの流入が確認できる点もありがたいです。
小林:細かいポイントを挙げるなら、分析対象のサイトごとに表示色をわりあてられるため、各企業のカラーを反映させておければ、いちいち文字を読む必要がなく、ストレスを感じずに直感的に理解できます。
▼関連記事:Dockpitで何ができるかについては、下記の記事で詳しく解説しています。興味を持たれた方はぜひ併せてお読みください。
「Dockpit」を活用したマーケティング戦略立案に直結するデータ分析手法とは
https://manamina.valuesccg.com/articles/13721つのツールで3C分析を実施できる「Dockpit」の有効な活用方法をご紹介。効率が良くスマートな3C分析の方法を解説しました。
膨大な消費者Web行動ログデータを素早く可視化・分析。新リリースしたマーケターのためのリサーチエンジン『Dockpit(ドックピット)』とは
https://manamina.valuesccg.com/articles/1023Dockpitは消費者のWeb行動ログデータをもとに、市場調査やユーザー理解をサポート。これ一つで短時間でデータドリブンなマーケティングを可能にします。機能の特徴について詳しくご紹介します。
「データドリブンに軌道修正する」ベンチャー企業としての戦い方
――競合他社の情報収集に大きなメリットを感じているのですね。
小林:はい。他業界、他社様でも同じ部分はあるかと思いますが、電力業界では新規参入は増えている一方で、電力サービスそのものは差別化を図りにくい業界です。私たちはベンチャー企業ですので、まだまだ伸びしろは十分にあると自負していますが、迅速かつ臨機応変に軌道修正しながら前に進む必要があり、そのためには競合他社の動向は逐一収集することが重要です。
――競合他社と戦うために、どのような点を意識していますか?
小林:サービスに当社独自の色を持たせることはもちろん大切ですが、いかにユーザーの心をつかみ、コミュニケーションできるかは重視しているポイントです。そのため、必然的にスピードとタイミングが重要になります。
今現在、競合他社が展開していたキャンペーンは半年後には往々にして新しいものではなくなる時代です。業界的にも消費者的にも「今、何が起きているのか?」をおさえながら、「当社としてどのようなサービスが求められているのか」を検討していく必要があり、自社だけではなく競合他社のデータ収集はマスト。加えて、定点的に見つつも、「世の中の出来事をうけて消費者や業界にどのような変化があったのか」についてチェックするアドホック的な使い方も多い。幅広いケースでDockpitを使用しています。
――ベンチャー企業ならでは戦い方があるのですね。
張:そうです。新電力は全国に約700社ありますが、当社の売り上げは全国9位にランクインしています。他の上位に入っている企業は大企業の子会社が多いにもかかわらず、上位に入れたことは当社の自信と誇りです。上位の企業に追いつき追い越すために、今まで以上に施策の反応をチェックし、良い施策があれば参考にしながら事業に取り組んでいきます。
「データから未来を予測したい」Looopでんきが見据える今後
――Dockpitを使って今後どのようなことを展開していく予定でしょうか?
原田:競合他社の分析を主にやっていますが、Dockpitの検索キーワード分析はまだ充分に使いこなせていないと考えています。電力サービスの切り替えに興味のある顕在層に対するアプローチは、リスティング広告などを活用し、ある程度はできています。しかし、潜在層には十分リーチができていません。電気の切り替えに興味を持つ一歩前の人たちの特徴を、Dockpitを使って明確にしていきたいです。
張:また、私たちが接しているユーザーの全体像の把握、いわゆる“ターゲティング”の部分はまだフワッとしています。ターゲットの姿形をはっきり定義してこなかったのですが、昨年からターゲティングの強化を本格化し、ペルソナのブラッシュアップが進むようになりました。
ですが、「引っ越しを検討している人に向けた最適なリスティング広告の出し方」といった具体的なアクションはできていない状況です。ターゲティングを細分化させ、「こういったターゲットには、こういった広告を出そう」といった定義づけを早く実現したいです。また、Looopでんきはプラン自体が多くありません。分かりやすさを重視しているので、メインのプランは「おうちプラン」一つのみとしています。一方で、基本料金0円が一般化し、市場が均一化している現状において、画一的なサービスの提供は適切なのか、そろそろ議論していきたいと考えています。
小林:電力業界と聞くと“マーケティング“のイメージはあまり持たれていませんが、当社では業界の先頭に立つくらいの気持ちでマーケティングに長けた会社を目指しています。その中で、「いかにデータドリブンなマーケティングをするか」を軸に据え、データ収集だけではなく、集めたデータを解釈・施策検討することにリソースを集中させたい。Dockpitだけでなく他のデータソースもまとめて、解釈・分析に時間を割けるように整備することが大きな課題になると思います。
また、解釈・分析の部分で言いますと、過去のデータを組み合わせて今後の予測ができるツールやサービスに期待したいですね。これらが可能になれば、定量面から物事を考えつつ、定性面において十分な肉付けでき、より効果的な戦略が実現できると考えています。
――今後ともサービスの成長に貢献できればと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました!
取材協力:株式会社Looop
ライター兼動画編集者。“マーケテイング”という、よくわかりそうでよくわからない世界をわかりやすく伝えていきます。