楽天西友ネットスーパーアプリの概要
「楽天西友ネットスーパー」は、全国に300以上の店舗を展開するスーパーマーケットチェーンである西友と、インターネット関連サービスを多角展開する楽天が、双方の強みを活かして取り組んでいるOMO事業です。
OMOとは「Online Merges with Offline(オンラインとオフラインの融合)」という意味で、顧客に対してネット(EC)と実店舗の垣根を無くし、購買意欲の向上を目指すマーケティング手法を指します。西友の大久保社長が「西友は日本を代表するOMOリテーラーをめざす」とトップメッセージで掲げていることからも、創業60周年を数える西友が、今後このOMOという領域に並々ならぬ注力を考えていることがうかがえます。
元々、楽天西友ネットスーパーは2018年10月よりWebサイトでスタートしています。西友が持つ、低価格かつ高品質を担保した商品ラインナップと強力な配送キャパシティに加え、楽天が有する膨大な会員基盤やEC販路のシナジーを狙ったものと説明されています。
その後、2021年7月にアプリ版がリリースされ、今年4月には機能面の大きなリニューアルがなされました。リニューアルされたアプリ版では、Webサイトよりもシームレスな挙動により、EC利用時の商品閲覧のストレス緩和が図られています。また、店頭においては楽天ポイントの獲得、楽天ペイの使用やチラシの閲覧など、オンライン・オフラインの双方でよりスムーズな活用ができる機能が充実したといえるでしょう。
楽天西友ネットスーパーのアプリ集客状況を分析
楽天西友ネットスーパーのアプリについて、ユーザーの利用状況を分析していきましょう。Dockpitを用いてアプリのユーザー数を見てみます。
※Dockpitとは、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール
「楽天西友ネットスーパー」アプリのユーザー数(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
上記グラフを見てみると、ユーザー数は2021年7月のリリース以降じわじわと伸びてはいましたが、それでも今年の春先までは50万ユーザー前後に留まっていました。ところが、アプリのリニューアルがされた今年4月からはユーザー数が急増し、5月には約270万ユーザーまで伸長しています。
これは、リニューアルに際して開催されたキャンペーンの効果によるところが大きそうです。当該キャペーン期間中は、会計で楽天ポイントが5倍になったり、さらに楽天Edyの決済分でポイントが2倍になったりと、ポイント目的でアプリを入れるユーザーが増えたことが推測されます。
なお、本記事の執筆中である6月現在は第2弾キャンペーンも実施されており、今後も同様のキャンペーンが続くのであれば、継続してユーザー数が大きく伸びていく可能性がありそうです。
■アプリとWebサイトのユーザー属性の違い
続いて、利用しているユーザーの属性についても分析していきます。楽天西友ネットスーパーはアプリとWebサイトの両方で提供されているため、双方のユーザーの違いも比べてみます。
「楽天西友ネットスーパー」アプリとWebサイトのユーザー属性(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
まず、性別(上グラフ)に関してはアプリ版もWebサイト版も大きな差はなく、女性ユーザーの割合がやや多いです。しかし、年代のデータ(下グラフ)には明確な差が出ており、アプリのほうが20代~40代の若年層が少なく、逆に50代以上の割合が多くなっています。特に、アプリでは60代が全体の25%という最も大きな割合を占めるのが、非常に興味深いですね。
これは1つの推測ですが、アプリとWebサイトにおけるユーザーの利用傾向の違いが、この年代の差を生んでいる可能性があります。デジタルネイティブを含有する若年層の利用が多いWeb版は、文字通りネットスーパーとしてECの活用が多く、一方で、リアルでの買い物が主である年配の層は、実店舗でのポイ活などをフックにアプリのインストールをしている、といった背景があるのではないかと考えられます。
■アプリのリニューアルでユーザー状況に変化は起きたか
大きく利用ユーザーを伸ばす楽天西友ネットスーパーのアプリですが、元々Webサイトを利用していたユーザーに変化を与えているのでしょうか。Dockpitを用いて、アプリから見たWebサイトの併用率のデータを見てみます。
「楽天西友ネットスーパー」アプリとWebサイトの併用率(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
上記のグラフから、アプリがリリースされて間もない2021年8月時は一時的にWeb版の併用率が60%を記録していますが、その後は併用率が30%代で横ばいとなり、アプリのユーザー数が急増した今年4月からは20%よりも低下していることがわかります。このことから、楽天西友ネットスーパーのアプリとWebの利用ユーザーはほぼ被っておらず、その利用意向やシーンには何か違いがあることが推測されます。
前段で、双方のユーザーの年代に差異があるのは、ECをメイン利用する人と実店舗の利用がメインな人との間で、利用傾向の差があるからではないかという可能性を挙げました。そこへ「アプリとWebサイトのユーザーに被りが無い」というデータも踏まえると、ECを使用している比較的若い層は、まだ本格的にアプリに移行できていない状況にあると考えられます。
このECと実店舗の利用世代のギャップを埋めることは、楽天西友がアプリ展開を進める1つの狙いであるとされているので、今後はこの顧客層の差を埋めるための施策が行われていくと考えられます。
ネットスーパー市場の集客状況を比較
楽天西友ネットスーパーと、その他のネットスーパーのユーザーに差異はあるのでしょうか。楽天西友アプリと、イオン、イトーヨーカドーのネットスーパーのアプリおよびWebサイトを一挙に比較してみます。
まずは、ユーザー数のデータからです。
「楽天西友」アプリ、「イオン」「イトーヨーカドー」のアプリ・Webサイトのユーザー数(「Dockpit」キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
上記グラフを見てみると、最もユーザーが多いのは「イオンお買い物アプリ(ピンク線)」の700万ユーザーです。続いて、ここ数か月で一気にユーザーが伸びた「楽天西友アプリ(青線)」の270万、「イオンネットスーパーWebサイト(緑線)」の160万…と続きます。やはり、国内のショッピングモール大手であるイオンは、アプリ・Webサイト共に非常に多くのユーザーを集めている印象です。
一方、イオンのお買い物アプリはクーポン提示やチラシの閲覧はできるものの、ECの機能は持ち合わせていないため(2022年6月現在)、「ネットで生鮮食品が注文でき、自宅に届く」という純粋なネットスーパーの機能を備えるものだけで考えると、最もユーザーが多いのは楽天西友のアプリであるということになります。
ユーザーの属性に関しても比べてみましょう。
「楽天西友」アプリ、「イオン」「イトーヨーカドー」のアプリ・Webサイトのユーザー性別(「Dockpit」キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
上記、性別のデータを見ると、総じて男性割合が少ないのは共通している印象ですが、女性割合には各社で色がある印象です。最も女性ユーザーが多いのはイトーヨーカドーで、Web版・アプリ版ともに60%を超え、特にアプリ版は70%近くに達しています。次に多いのはイオンで、女性の割合は60%前後、最も割合が少ないのが楽天西友アプリの55.7%です。
そして、各社に通じて言えるのがWebサイトよりもアプリの方が女性比率が高い、という点です。楽天西友の例から、Webサイトは自宅からのEC利用、アプリは店舗でのポイ活やチラシの閲覧などの利用シーンがあると考えると、実店舗に買い物へ訪れる機会が多い女性ユーザーは、アプリの利用が多くなる傾向にあるのではとも考えられます。
続いて、年代別のデータです。
「楽天西友」アプリ、「イオン」「イトーヨーカドー」のアプリ・Webサイトのユーザー年代(「Dockpit」キャプチャ)
期間:2021年6月〜2022年5月
デバイス: PC・スマートフォン
ユーザーの年代データで特徴的なのは、イトーヨーカドーのアプリが20~30代の割合が大きいことと、楽天西友アプリほどではないですが、イオンお買い物アプリが50~60代の年配層の割合が大きいこと、の2点です。
前者のイトーヨーカドーのアプリは、前段のユーザー数の比較では最も少ない結果が出ていたため、まだデジタルネイティブ世代へのアプローチしか進んでおらず、したがって新しいもの好きの若者の割合が高くなっている可能性があります。
後者のイオンお買い物アプリは、楽天西友アプリが伸長した背景と同様に、ECではなく実店舗でのクーポン利用層などを取り込んでいると考えられます。総じて俯瞰してみると、やはりEC機能の利用は若者が中心で、実店舗でのアプリ利用は年配層が中心、という二極化が起きていそうです。
国内のOMO施策の事例を見てみよう
ここまで楽天西友ネットスーパーを中心に分析をしてきましたが、肝となる「OMO」という概念について、他にどのような国内事例があるのかも見ていきましょう。
■CHOOSEBASE SHIBUYA | 商品説明も買い物かごも要らない購入体験
西武渋谷店内に居を構える「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」は、百貨店業界初のOMOの取り組みとしてSNS等で話題を読んでいます。
ファッション・コスメ・雑貨などを中心に取り扱う大型店舗ですが、陳列されている商品にはQRコードが付帯しています。これを読み込むことで商品概要をスマートフォンで確認し、そのままオンラインストアで購入することができるという点が特徴的です。
店員による商品説明、セールスなどを受ける必要が無く、自身のペースで商品選択から購入まで進められる、新しいタイプの実店舗のありかたといえるでしょう。
■TOUCH-AND-GO COFFEE | ラベルまで自分好みのコーヒーをLINEで注文
飲料業界大手のサントリーは、「TOUCH-AND-GO COFFEE(タッチアンドゴー コーヒー)」というOMOストアを2019年から実証実験していました(2022年現在閉業)。
ユーザーは実店舗へ向かう前にLINEからコーヒーの種類、ミルク・甘さといったブレンドやオリジナルのラベルまでをカスタマイズし、注文します。その後、店舗では無人機を介して商品を受け取ることができるサービスです。
かつて無い購入体験やラベルをカスタマイズできる点の斬新さなどが受け、女性ユーザーを中心に大きな反響を呼びました。
まとめ | ネットスーパーのOMOを成功させるためには
楽天西友アプリのユーザー数は確かに急激に伸びていましたが、いま時点でOMOという壮大な構想を成すほどに、顧客へ意図を伝えきれているかはわかりません。特に、年代や性別のユーザーデータ分析で把握できた、「ネットスーパーと実店舗の利用者層には差がある」という点を、どのようにアプリを用いて解消していくのかが大きなポイントになりそうです。
このポイントについては、まだ楽天西友アプリのリニューアルから日が浅いこともあり、今後どのように発展させていくのか興味深いです。「楽天ポイントがもらえるから」とアプリをインストールした顧客といかにタッチポイントを継続し、オンラインとオフラインの相乗効果を狙った施策を打ち出していくのか楽しみですね。
また、日本での事例はまだまだ少ないですが、世界的に見てOMOを非常に大きく生活へ取り入れることに成功しているのはお隣、中国です。そもそも中国では日本と比べ物にならないレベルで電子決済が普及していることから、企業が自然にOMOを考慮した施策が打てる環境が形成されています。
例えば、中国IT大手のアリババは「盒馬鮮生(フーマーシェンシェン)」というスーパーマーケットを展開しています。この「盒馬鮮生」では、例えば「3キロ以内であれば最短30分で商品を配送する」であったり、商品の成分や産地、政府の認可情報などをバーコードスキャンできたりと先進的なOMOが取り入れられています。
前段の「CHOOSEBASE SHIBUYA」も同様ですが、こうした「オンラインとオフラインの垣根を無くす」という本質的なOMO施策の実施が、ただのポイントやクーポン活用といった領域から、国内ネットスーパー業界がブレイクスルーを起こすために必要な手段となりそうです。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2021年6月〜2022年5月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
【参考文献】
西友公式サイト
https://www.seiyu.co.jp/company/about/
「楽天と西友、「楽天西友ネットスーパー」をグランドオープン」
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2018/1025_01.html
「楽天×西友“OMO”本格化。ネットスーパーと店舗融合や西友楽天カード」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1394423.html
CHOOSEBASE SHIBUYA 公式オンラインストア
https://choosebase.jp/
TOUCH-AND-GO COFFEE Produced by BOSS
https://bascule.co.jp/work/touch-and-go/
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。