応援できる幸せ
野球やサッカー、バレーボール、卓球、ゴルフ、ラグビーと日本人は本当に様々なスポーツに関心があります。また、贔屓のチームを応援することを楽しんでいます。地域性や地元意識があったり、勤め先の企業や団体と関係があるチームであったり、実際に家族や友人など身近な選手達や所属するチームであったりと多様な理由で応援するチームや選手を決めています。熱烈に愛するチームや選手を持つのは幸せだと思います。羨ましい限りです。
1985年に阪神タイガースがセントラルリーグで久しぶりの優勝の際、京都に駐在していたこともあり、その熱狂ぶりとエネルギーに驚いた記憶があります。古いかもしれませんが、3番バース選手、4番掛布選手、5番岡田選手の3連続ホームランは未だに記憶に残っていますし、阪神タイガース優勝、当日の夜の京都は街中が浮かれていたような雰囲気でした。
現在、熱心に応援するスポーツやチームや選手は特にありませんが、応援することの本質を多少理解できるようになりました。大好きなチームや選手に声援を送ることで自分自身を元気づけているのだと。子育ては「ほめる」ことの効果が高いようです。応援する対象を愛し支えることは生き甲斐であり、自分の成長も促します。自分をも応援しているのです。
応援消費とは
応援消費とは、人や企業、団体などを応援・支援するためにモノやサービスを消費する活動を指します。2011年3月11日に起こった東日本大震災以降、被災地の人々を応援・支援するための行動がきっかけとなり使われ始めました。必要な商品を家から近い店舗や商店で購入するばかりでなく、生産者やサービス提供者へ応援・支援する意味を込めて消費を行うことです。エール消費ともいわれるこの消費行動は、東日本大震災の被災地の農産物や海産物を積極的に購入する運動ともなり話題になりました。新型コロナの感染が続く中でも、売り上げが減少する飲食店や宿泊施設への応援消費は拡大しました。
応援消費の特徴は3点が考えられます。1つ目は地域とのつながり・関係性です。家族の出身地や勤務先、親類や友人の居住地など日頃から関心の深い地域には愛着があります。そこに住む人々を少しでも応援・支援したいという気持ちを持つのは当然です。
2つ目にメディアやSNSの活用です。生産者が困窮している姿をメディアは動画や紙面を使用して取り上げることにより注目が集まります。また、SNSを活用して消費者が応援消費を行ったことを投稿することで、それを見た人が同じように消費するといった情報の拡散は起こりやすいはずです。
3つ目は消費者の満足感やモチベーションを高められることです。モノからコトを重視する消費行動のトレンドもあり、コト消費である応援消費を行うことで満足感が高まります。同時に、何故その場所で、あるいは何故その商品・サービスを購入するのかという意味が明確化し、モチベーションが高まります。応援消費とは積極的かつ前向きな消費行動ととらえることができます。
ストーリー性のある消費
応援消費の種類として考えられるものは大雑把に4つ挙げられます。
①好きなアイドルやスポーツ選手などへの推し消費です。推す対象の商品やコンサートチケットの購入、あるいは試合の観戦や舞台の観劇などです。
②何らかの理由で売れない商品の購入促進です。被災地の農産物や海産物、最近では消費が進まず大量廃棄になる牛乳、風評被害を受けた地域の商品・サービスです。
③新型コロナ感染拡大で売り上げ不振の飲食店や災害などで訪問客が減った観光地などの場所や施設に対する消費行動です。
④直接の消費ではありませんが、クラウドファンディングやふるさと納税など消費行動に近い、金銭的な支援活動です。
以上を通して、共通していることに消費のストーリー性があります。単純にモノを購入するだけでなく、そこに心動かす何かを感じさせる消費行動こそが応援消費です。ストーリーに自ら参加する気分が持てることこそが消費者の満足度を高めることにつながります。被災地の生産者を支える、あるいはまだ知られていないアイドルの人気を高めるために推す、売り上げが低迷する飲食店に通う、伝統ある商品が今後も存続できるよう購入するなど消費者は様々なストーリーを思い浮かべ、それに興味を持ち、消費行動を行うのです。
応援消費とバイコット
ボイコット(boycott)とは、世間に問題を与えるよう企業や団体などの組織を罰することを目標とした不買行動を指します。その対義語として、環境保護や社会貢献などの社会善を行っている企業や団体などの組織に報いるために商品やサービスを購入する消費行動をバイコット(buycott)と呼びます。
バイコットは必ずしも、応援消費と同じものではなく、政治的な側面を持っていますが、今日的な消費のスタイルとして欧米でも注目されています。従来、ボイコット運動はメディアとして取り上げられることも多く、積極的で政治問題や社会問題化しやすい運動でした。逆にバイコットはボイコットに比べて、消極的で見えにくい運動で、さほど注目を集めるには至りませんでしたが、SNSの普及を通して、その消費スタイルは定着してきました。新しい日常生活(ニューノーマル)にも適応しています。
物心ついた頃から、PCやスマホ、SNSが存在していたZ世代(1990年代後半~2010年代生まれ)はあふれる情報の中で育ちました。モノは必要な時だけ所有し、サブスクやレンタルを活用し、モノより経験や体験を重視するコト消費を大切にしています。SNSで人とつながり、興味を持ち、情報を共有することで消費し、自己表現をはかるといった消費スタイルがZ世代です。Z世代こそ、応援消費をけん引する世代となり得ます。
応援消費が注目されるところに、『自分に対する応援』という切り口があります。応援する対象を応援することで自分を応援できます。応援消費で購入する商品・サービスが手に入れるのが困難であったり、高額であっても、頑張っている自分へのご褒美と捉え消費できれば、自分を応援することにつながります。自分へのご褒美の実践は精神的な満足度を高め、明日への希望が持てる極めてポジティブな行為なのです。幸せを実感できるはずです。
今後、応援消費やバイコットなど新しい消費行動が拡大することは間違いありません。
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観光業界をはじめ、「コト消費」といわれる体験型の消費を重視するサービスが伸びています。単純にニーズを満たすだけの消費活動ではなく、「経験」で得られる価値はどのように捉え、創り出していけばよいのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、「経験価値マーケティング」を考察します。
株式会社創造開発研究所所長。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員、一般社団法人マーケティング共創協会 理事・研究フェローなどを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。