中国で加熱するペットブーム。注目が集まる「ペット向けスマート家電」の動向を調査

中国で加熱するペットブーム。注目が集まる「ペット向けスマート家電」の動向を調査

近年、中国ではペットブームが巻き起こっており、ペットにかける金銭を惜しまない飼い主も多いです。感染症の流行下で需要が増えたことも影響し、ペット業界の市場規模は拡大の一途を辿っています。本記事では中国のペット業界の中で、関心が高まっている「スマート家電業界」を中心にご紹介します。


中国で巻き起こるペットブーム

2020年のデータによると、中国国内で飼育されている犬と猫の数は1億匹を超え、飼い主の人数も6294万人に到達しています。2022年にはペット業界の市場規模は4936憶元にまで及ぶと予想され、さらに2025年の予測は8114億元までにのぼるなど、ペットブームの盛り上がりとペット業界の拡大が今後も続いていくことが予測されています。

この“ペット業界”が示す範囲は、動物にとどまりません。エサなどの食品やペット用具、医療費など、ペット関連の様々なサービス費用も含まれています。具体的には、主食、おやつ、栄養食品、薬、診療費、ワクチン、美容費、教育費、保険料、葬儀費用などです。ここからも、“ペット業界”という一つの枠組みの中に、様々な分野に属する企業が属していることが分かります。この業界内の分野の広がりも、ペット業界の広がり続ける市場規模に影響を与えています。

Z世代はペットブームの牽引者

中国のペットブームを牽引しているのが、若者の存在です。増加を見せている飼い主人口の中で、90後(1990年~1994年生まれ)、95後(1995年~1999年生まれ)の人口増加率が最も高く、2021年は46%にまでのぼりました。

Z世代は、ペットに多くのお金をかけています。データによると、中国におけるペットの飼い主全体のうち、48%の人々が毎月200~500元、25%の人々が毎月500~1000元を消費しています。そして8%の人々が毎月1000元以上をペットに費やしており、この8%の人々の中においては85後(1985年~1989年生まれ)と95後がメイン層となっています。

若者がペットを飼育するときに求めるものは、ペットが健康であること、より楽に飼育できること、清潔さを保つこと、遠く離れたところからでもペットの様子を見守れること、などです。そのため彼らが求めているペット用品は、スマート家電である傾向が強いです。以下では、このペット向けスマート家電について紹介していきます。

ペット業界における新たなトレンド分野:ペット向けスマート家電

現在の中国のペット業界の中で注目を集めているのが、ペット向けスマート家電業界です。ペット向けスマート家電とは、自動給餌器、自動給水器、スマートペットカメラ、スマートハーネスなどです。

中国におけるペット向けスマート家電の市場浸透率は、2019年の40.3%から、2021年は52.9%にまで上昇しています。中でも自動給水器の浸透率が最も高く63%、次いでペットカメラが60%にのぼります。ペット用品のIT化、IoT化は、今の中国ペット業界におけるトレンドになっています。

なぜ人々はペット向けスマート家電を求めるのでしょうか。ペット向けスマート家電を用いると、飼い主側の負担を減らすことが出来ると同時に、ペットにもより質の高い生活を提供することが出来ます。特に一人暮らしの飼い主が増えている現在は、飼い主が仕事などで家を空けている際も安心してペットに飲食を提供できるなど、ペットの様子を離れたところからでも見守ることができる機器への需要が高まっています。ペット向けスマート家電は、飼い主とペット双方の豊かな生活を実現する手助けとなる存在なのです。

では、具体的にどのようなペット向けスマート家電が普及しているのでしょうか。ペット向けスマート家電を取り扱っている中国企業を見ていきましょう。

ペット向けスマート家電の提供企業例

中国でペット向けスマート家電を取り扱っている企業は、主に3つのカテゴリに分類できます。1つ目は、昔からペット用品を取り扱っていた企業です。多尼斯佩蒂などがここに属します。2つ目は、ペット向けスマート家電を取扱製品の主軸に置いている企業です。小佩宠物霍曼科技CATLINKなどがここに属します。そして3つ目が、家電製品を主として取り扱っている企業が、業界の垣根を越えて参入してきたものです。小米美的などがここに属します。

上記のカテゴリごとに分けた企業一覧

小米は2019年9月、ペット向けスマート家電を取り扱っている企業・猫猫狗狗への投資を開始し、既に小米ブランドの自動給水器や自動給餌器を販売しています。美的は2020年にはTmallにペット用品の公式ショップを設け、猫の飲水器などの販売を開始しました。2022年3月には、ペット向けスマート家電を専門に取り扱う美新宠物科技有限公司を設立し、旗下に猫有引力とFluffy&Floppyという2つの独立したブランドを設けました。

以下では、各企業の製品を具体的に見ていきます。

①ペット向けスマート家電を主軸に置いている企業:小佩宠物

まずは、2013年に設立した小佩宠物です。小佩宠物は国内のペット向けスマート家電業界における売り上げで、数年連続でグランプリを受賞しており、海外30国あまりに製品を輸出しているなど、ペット向けスマート家電業界において重要な地位を占めている企業です。

小佩宠物の取り扱い商品例

②ペット向けスマート家電を主軸に置いている企業:霍曼科技

霍曼科技は2015年に広州で設立した、ペット向けスマート家電を取り扱う会社です。

霍曼科技の取り扱い商品例

③家電製品を主として取り扱っている企業が、業界の垣根を越えて参入:小米

先述の通り、小米はペット向けスマート家電を取り扱っている企業・猫猫狗狗への投資を行い、小米ブランドの自動給水器や自動給餌器を販売しています。

小米の取り扱い商品例

投資者からの熱い注目

投資者の立場からも、ペット向けスマート家電業界は最も勢いのある業界のうちの一つです。中国の大手投資会社がこぞって、金銭を惜しまずにペット向けスマート家電業界へ投資をしています。

例えば、2019年に設立されたばかりのペット向けスマート家電を取り扱う企業・有陪宠物は、2022年10月までの段階で既にラウンド5の融資*を達成しました。投資をした企業は国内でも著名な投資企業ばかりで、これは他の業界を見ても珍しいことです。

また、有陪宠物と同様の事業展開を見せている企業も複数存在します。これらの企業に共通する点は、2017年以降に設立されていること、スマート家電を利用したペットの家庭内飼育に主眼を置いていること、製品にスマート化、デジタル化の傾向があることです。ここから、企業が優れた科学技術によって投資先を惹きつけていることが分かるでしょう。

ペット向けスマート家電業界の市場は拡大を続けており、今後もこの業界に参入する企業の増加が予測できます。

*ラウンド5の融資:5つのステージに分かれている投資ラウンドの最終ラウンド。「ラウンド」とは、投資家が企業へ投資をする段階を指す。ラウンド5は、既に企業の経営が安定し、黒字化に目処が立ち、事業拡大への動きが加速する段階。資金調達もかなり大規模なものになる。

まとめ

中国のペットブームでは、若者のペット需要増加ペット向けスマート家電業界の盛り上がりが重要な要素となっています。中国のペットブームは、今後数年間は盛り上がりを続け、それに比例してペット業界もますます拡大していくことが見込めます。業界の垣根を越えて、様々な企業がペット業界へ参入していくことで、将来中国のペット業界がどんな様相を呈していくのか、今後も注目が期待されます。

参考URL

「智能宠物硬件是怎么火起来的」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1747822006881914036&wfr=spider&for=pc
「宠物智能硬件:资本的心头热,消费者的智商税」
https://m.thepaper.cn/baijiahao_20576205 
「宠物智能用品进入2.0时代,互联网和家电巨头,谁更具竞争力?」
https://new.qq.com/omn/20220623/20220623A03WEP00.html 
「【玖越】宠物智能硬件,智能家居的新蓝海?」
https://view.inews.qq.com/a/20221012A01QTH00 
「部分年轻人患上萌宠依赖症 Z世代拉动它经济发展」
https://m.gmw.cn/baijia/2022-11/30/36200253.html

この記事のライター

早稲田大学在学中。

関連する投稿


勢いを見せる中国国外旅行のトレンド調査

勢いを見せる中国国外旅行のトレンド調査

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって大打撃を受けた中国の国外旅行産業ですが、2023年からは徐々に回復傾向にあり、2024年現在は感染症流行前の2019年に追いつく勢いを見せています。現在中国ではどのような国外旅行トレンドが形成されているのか、その背景と共に紹介します。


史上最もシンプルな「618セール」?2024年中国「618セール」の変化を解説

史上最もシンプルな「618セール」?2024年中国「618セール」の変化を解説

中国のコロナ後の618として、今年の「618セール」は例年とは少し異なるようです。経済が低迷し、競争が依然として非常に激しい中、各大手ECサイトはこぞって「予約販売」を取りやめ、「史上最もシンプルな618セール」を推進しています。しかし、より理性的になった中国の消費者はどのように反応しているのでしょうか。また、中国のAIGC(人工知能生成コンテンツ)の発展はどのようにEC業界に取り入れられているのでしょうか。今回の記事では、中国における2024年の「618セール」の変化について解説します。


What is “reverse consumption,” the new consumption trend among Gen Z in China?

What is “reverse consumption,” the new consumption trend among Gen Z in China?

At the end of 2023, “reverse consumption” became a hot topic on Chinese social media and still remains popular. In the rapidly changing Chinese society, new consumption attitudes and trends are constantly emerging. We will introduce “reverse consumption,” the most popular consumption trend among China's Gen Z.


中国Z世代の新しい消費トレンド「逆消費」とは

中国Z世代の新しい消費トレンド「逆消費」とは

2023年の年末から中国のSNSで「逆消費」というホットトピックが現れ、今日まで人気が続いています。急速に変化している中国社会では常に新しい消費観念や消費トレンドが生まれており、この記事では現在の中国のZ世代において最も流行している消費トレンドである「逆消費」について紹介します。


中国の若者に人気!生活の各分野で広がる「新中式」スタイルを調査

中国の若者に人気!生活の各分野で広がる「新中式」スタイルを調査

2023年に大流行した“新中式”。新中式とは、中国の伝統的な要素と現代的な要素を融合させたスタイルを指します。この新中式の流行は発展変化しており、小紅書が発表したデータによると、ファッションのみならず、メイク、グルメ、インテリアなどの領域にも次々と広がっています。それらに関する投稿は実に前年同期比350%以上の増加となりました。この記事ではファッション、グルメ、インテリアに焦点を当て、新中式がどのように広がっているのかを紹介します。


最新の投稿


アパレル系の店舗アプリを知ったきっかけは「店員からの案内」が約6割【Repro調査】

アパレル系の店舗アプリを知ったきっかけは「店員からの案内」が約6割【Repro調査】

Repro株式会社は、アパレル系店舗アプリのインストール前後の利用状況に関するユーザー調査を実施し、結果を公開しました。


認知度の向上にはコンテンツマーケティングが必須と回答した人は9割以上!実施の結果、7割以上が成果を実感している【未知調査】

認知度の向上にはコンテンツマーケティングが必須と回答した人は9割以上!実施の結果、7割以上が成果を実感している【未知調査】

未知株式会社は、全国の企業に在籍する20〜60代の方を対象に「コンテンツマーケティングの実施・成果」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


「美容成分オタク」のオンライン行動を分析!スキンケアの情報収集実態に見る、コミュニケーションのヒント|セミナーレポート

「美容成分オタク」のオンライン行動を分析!スキンケアの情報収集実態に見る、コミュニケーションのヒント|セミナーレポート

近年、美容インフルエンサーの発信により特定のスキンケア成分がフォーカスされ、「成分関心層」が増加しています。今回は、@cosmeを運営するアイスタイル社が保有する、日本最大級の美容に関する生活者データと、ヴァリューズが保有するオンライン行動データを活用。成分に関する情報感度の高いアーリーアダプター層に注目し、その裏にあるユーザーインサイトから、成分関心層と取るべきコミュニケーションを探ります。※本セミナーのレポートは無料でダウンロードできます。


官民連携の智略 ~ PPP/PFI

官民連携の智略 ~ PPP/PFI

高い効率性が求められるのは今や個人の仕事や学業の範疇にとどまらず、国の施策運営である公共事業などにもその思考傾向は浸透しつつあります。その結果、国は民間企業の協力を得て「官民連携」で公共事業を進めることでそれらを効率化し、さまざまな事業を支えている例が多く存在します。本稿では、このような「官民連携」で効率化を目指す手法のPPPやPFIなどについて、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


観るだけでポイントが貯まる「TikTok Lite」はSNSビジネスを革新するか。TikTokユーザーデータと比較調査

観るだけでポイントが貯まる「TikTok Lite」はSNSビジネスを革新するか。TikTokユーザーデータと比較調査

動画視聴を通じてポイ活を行うアプリ「TikTok Lite」が注目を集めています。「TikTok」に少し変化を加えただけに思えるこのアプリですが、実は「TikTok」と同じぐらい勢いがうかがえます。そこで、本記事では「TikTok Lite」と「TikTok」のアプリユーザーのデータを分析し、双方の違いから「TikTok Lite」の人気の要因を探っていきます。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ