値上げが続く2023年。ファストファッション業界の動向は?
「データドリブン就活」シリーズも6回目。今回は、あらゆる物価の高騰が叫ばれる中、今後もニーズが高まると予想されるファストファッション業界を取り上げたいと思います。とても身近な業界ではありながら、いざ業界分析や企業分析をしようとすると難しいと感じる方も多いはず。ぜひ、この記事を参考にしてみてください。
ファストファッション業界の中で、今回分析する企業は「ユニクロ」「GU」「H&M」です。各社がオンライン上でどのように集客を行い、どのようなユーザーを集客できているのか、各社の公式サイトとアプリをマーケティングの視点から分析していきます。
公式サイト分析
■訪問者数は、リピーターの多いユニクロが最多
まずは各サイトの訪問者数の推移を見てみます。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のサイトのユーザー数推移
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
各サイトの月平均ユーザー数を比べると、ユニクロ:GU:H&M=10:4:1となっており、ユニクロのユーザー数が最多となっています。5月にユニクロサイトのユーザー数が伸びているのは、5月27日~6月6日に開催された、プレゼント企画や割引が豊富な「ユニクロ感謝祭」が影響していると考えられます(参考:ユニクロ感謝祭2022年5月27日~6月6日で開催、全国47都道府県ご当地銘菓などのプレゼント企画も|印西とぴっく)。
また、GUのグラフはユニクロと似た波形をしています。これの背景には、上記のようなユニクロのキャンペーン中にユニクロでは目当てのものが見つからなかったため、同じファーストリテイリングのGUに探しに行くという消費者の動きが考えられそうです。
続いて、各サイトの新規ユーザー率の推移がこちら。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のサイトの新規ユーザー率推移
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
新規ユーザー率は、H&Mが約30%をキープしており、最も高いことがわかります。一方でユニクロは新規ユーザー率が低く、リピーターの割合が高くなっています。このようになっている理由を探るために、次は各サイトの集客構造を見ていきましょう。
■ユニクロはメルマガ、GUはLINEショッピングで集客
各サイト、どの経路からの流入が多いのでしょうか。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のサイトの集客構造(セッション数ベース)
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
まず、ユニクロは自然検索の割合が高いですが、それと同じくらいメールの割合も高いことは特筆すべき点です。ユニクロのメールマガジンに登録すると、値下げアイテムやキャンペーンに関する情報をいち早く手に入れられたり、メルマガ限定クーポンがもらえるようです。メールマガジンはリピーターを呼び込むためのCRM施策。一方でH&Mに関しては、自然検索からの流入が目立ち、メールからの流入の割合が3ブランド中最も低くなっています。
これらのことが、先述したようなH&Mは新規ユーザー率が高く、ユニクロはリピーターが多いという特徴につながっているのではないでしょうか。
また、H&Mはソーシャルの割合も高いことがわかります。H&Mとしては、ソーシャルでの集客に力を入れることで、新規顧客の呼び込みに成功し、結果として新規ユーザー率が高くなっているのかもしれません。
では、H&Mはソーシャルに関してどのような施策を打っているのでしょうか。その内訳を見てみます。
「H&M」のサイトのソーシャル構成
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
約90%をLINEが占めています。LINE上で実施している施策としては、コラボLINEスタンプが挙げられそうです。H&Mは、うさぎ帝国やこねずみ、うるせぇトリなどの人気スタンプとのコラボスタンプを期間限定で公開していました。それらのスタンプを使うためには、H&MのLINE公式アカウントを友だち追加する必要があります。つまり、人気のLINEスタンプとコラボすることでH&M公式アカウントの友だち追加を促し、多くのLINEユーザーへリーチしていたと考えられます。
一方、GUは自然検索やリスティング、メールなどのチャンネルを平均的に網羅しています。その中でも、ソーシャルの内訳がH&Mと同様に特徴的です。
こちらが各サイトのソーシャルの内訳です。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のサイトのソーシャル構成
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
サイト全体のセッション数(訪問回数)は冒頭のユーザー数同様、サイト規模が大きいユニクロがトップなのですが、LINEからの流入セッションに関してはGUが群を抜いてトップになっています。
これにはまず、H&Mと同様にコラボLINEスタンプが関連していそうです。GUは人気イラストのちいかわとのコラボスタンプを公開しており、このスタンプの無料利用条件はGUの公式LINEアカウントを友だち追加することでした。
それに加えて、LINEショッピングでのオンラインショップの展開もLINEからGUへの流入につながっていそうです。LINEショッピングは、LINEアプリ内で利用できるサービスの一つで、購入額の数パーセントがLINEポイントとして還元されるお得なショッピングサービスです。GUはLINEショッピングに1900点以上もの商品を出品しています(2023年1月10日時点)。そして、LINEショッピングで購入するときでもGUのサイトへ遷移する仕組みになっています。つまり、ポイント還元でお得なLINEショッピングを利用しているユーザーを1900点を超える商品で惹きつけて、GUのサイトへ誘導するという流れでソーシャルからの流入セッションを増やしていると考えられます。
ユニクロはメルマガ、GUはLINEというように、同じファーストリテイリングの中でも、ユニクロとGUのブラウザ版の集客構造には違いがあるということは興味深いですね。
公式アプリ分析
■ファーストリテイリングはアプリ、H&Mはサイトで集客
ここまで各社サイトの集客状況について見てきましたが、ユニクロ、GU、H&Mの3社ともスマホアプリを公開しており、各社のマーケティングにおいて重要な役割を担っていると考えられます。そこでここからは、各社の公式アプリについて分析していきます。
まずはアプリ起動者数の推移がこちら。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のアプリのユーザー数推移
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
各アプリの月平均ユーザー数を比べると、ユニクロ:GU:H&M=15:7.5:1となっており、サイトと同じく、ユニクロアプリのユーザー数が最も多いです。また、ユニクロアプリのユーザー数が2022年10月に増えているのは、プレゼント企画やクーポンがもらえる「ユニクロ アプリ10周年祭」が10月21日~11月2日まで開催されていたからだと考えられます。(参考:さぁ アプリでお買い物上手に。「ユニクロアプリ10周年祭」が10月21日から開催|プレスリリース)
しかし、10月に伸びたユニクロアプリのユーザー数がそのまま2022年11月まで高止まりしていないということは、この施策の効果は短期的なものだった可能性があります。また、サイトと同じくアプリでも、ユニクロとGUの波形が似通っているのが特徴的です。
サイトとアプリのユーザー数を比較してみると、3社ともアプリの方がユーザー数が多くなっています。このことから、サイトよりもアプリに力を入れることがファストファッション業界のトレンドであると考えられます。
■ユニクロの強みは、幅広い性年代からの支持
各アプリのユーザー属性も見ていきましょう。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のアプリユーザーの性別と年代
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
性別に関しては、全アプリで女性のほうが多くなっていますが、特にGUとH&Mのアプリでは女性の割合が70%以上と高いことがわかります。
年代に関しては、GUとH&Mは20~40代の割合が高いのに対して、ユニクロはネット利用者全体のグラフと似た形をしており、幅広い年代から利用されています。
ファーストリテイリングの中のユニクロとGUという観点から考えると、GUが若い年代の女性を、ユニクロが男性、50~60代を含めた幅広いユーザーを獲得しています。GUはトレンド寄り、ユニクロはライフウェア、というブランドコンセプトが反映されている結果ではないでしょうか。
■各アプリユーザーの関心アプリから見る各社の特徴
続いて、各アプリユーザーが他にどのようなアプリを使っているのかを見ていきます。
「ユニクロ」「GU」「H&M」のアプリユーザーの関心アプリ(リーチ差優先)
期間:2021年12月~2022年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
GUとH&Mではメルカリが上位ランクイン
基本的には同じアプリが並んでいますが、GUとH&Mのユーザーの関心アプリTOP10にはメルカリが入っているのに対して、ユニクロアプリではメルカリは入っていません。GUとH&Mのユーザーはプチプラ(値段が安いの意味)志向がより強いため、フリマアプリであるメルカリが関心アプリTOP10にランクインしていると考えられます。
ユニクロではコンビニ受け取りサービス強化の影響が
ユニクロユーザーの関心アプリ上位にAmazonショッピングアプリがある理由は、ユニクロアプリが年代を問わず非常に多くの人に利用されており、ネット人口と同じようなユーザー属性の傾向を持つためだと考えられます。
また、ユニクロにコンビニアプリが2つランクインしていることも特徴的です。これにはユニクロがコンビニ受け取りサービスを積極的にアピールしていることが関係していそうです。
各社のコンビニ受け取り情報。ユニクロで受け取り対応をしているローソン、セブンイレブンが関心アプリ上位にランクインしていた。
H&Mは古着回収サービスで実店舗での接点も持つ
H&Mユーザーの関心アプリランキングを見てみると、三井ショッピングパークアプリがランクインしています。
H&Mは、着なくなった古着を実店舗で回収するサービスを行っており、そのサービスを利用するとH&Mアプリでクーポンを受け取ることができます。H&Mの実店舗に足を運ぶ必要性と、H&Mのアプリを所持している必要性があることから、実店舗を揃える三井ショッピングパークのアプリもH&Mアプリユーザーの関心アプリとして、上位ランクインしている可能性が高いと考えられます。
ファストファッション業界の動向とまとめ
今回は、ファストファッション業界のユニクロ、GU、H&Mを分析しました。
最後に、今回の分析で発見したことを企業ごとにまとめます。
全体
・3社ともサイトよりアプリのユーザー数の方が多い
ユニクロ
・サイト、アプリともにユーザー数が最多
・サイトの新規ユーザー率が3社の中で最も低い
・メールからの流入の割合が高く、それがリピーターの多さにつながっている
・アプリユーザーには比較的男性が多く、40~60代を含めた幅広い世代に利用されている
・コンビニ受け取りサービスについての積極的な発信により、コンビニアプリが関心アプリにランクインしていると考えられる
GU
・ソーシャル流入の中では、LINEからの流入が非常に多く、LINEスタンプやLINEショッピングなどの施策の影響と考えられる
・アプリユーザーには若い世代と女性が多い。
H&M
・サイトの新規ユーザー率が3社の中で最も高い
・自然検索からの流入の割合が高いが、メールからの流入の割合は低く、それが新規ユーザー率の高さにつながっている
・アプリユーザーには若い世代と女性が多い
・古着回収サービスにより関心アプリに三井ショッピングパークアプリがランクイン
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