史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』
『ブルーロック』とは、週刊少年マガジンで2018年8月から連載されているサッカー漫画です。第45回講談社漫画少年部門で受賞し、「史上最もアツく、史上最もイカれたサッカー漫画」として話題を呼んでいます。連載が開始された2018年といえば、サッカーW杯がロシアで開催された年でもあります。『ブルーロック』の物語は、この現実の出来事と結びついて展開していきます。
舞台は2018年、W杯、日本代表ベスト16敗退…。日本フットボール連合はW杯優勝を目指し、全国から才能ある300人の高校生を育成寮“青い監獄(ブルーロック)”に集めます。主人公である潔世一(いさぎ よいち)は”青い監獄”に入寮し、世界一の「エゴイストストライカー」を目指します。
『ブルーロック』の最大の特徴は、登場する選手が全員FW(フォワード)であることです。作中では、日本がW杯で優勝できない理由は、エゴが足りないからだとされています。日本サッカーはその国民性から高い組織力を有していますが、その反面、周囲を気にせず主体的に得点を奪いにいく革命的なストライカーが存在しないことを問題視しているようです。そのため、登場人物全員が超エゴイスト。これが『ブルーロック』が「史上最もイカれたサッカー漫画」と評される所以です。
アニメやW杯の注目と共に検索者数も増加している
早速、『ブルーロック』人気の背景を探るために、検索者数の推移から見ていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使用します。
下記グラフは、2021年2月〜2023年1月の検索者数の推移を表しています。アニメ化が決定した2021年8月と、アニメが放送開始した2022年10月は、検索者数が増加していることが分かります。その後一時的に落ち着いたものの、2022年12月からは検索が再加熱する動きが見られました。
2022年12月ごろは、カタールで開催されたサッカーW杯が盛り上がっていた時期とも重なります。サッカーを題材にしている作品という性質上、サッカーというスポーツそのものの注目が、作品の人気にも影響していた可能性が考えられます。
「ブルーロック」検索者数の推移
集計期間:2021年2月~2023年1月
デバイス:PC、スマートフォン
『ブルーロック』はサッカー漫画の中でも、特に現実のW杯を意識して作られている作品です。そのため、あくまで推測ですが、『ブルーロック』の放送開始時期は意図的にサッカーW杯に被せて、シナジー効果を狙ったというTVアニメ制作陣の戦略があったのかもしれません。
スマホゲームでもシナジーが発揮されている
つづいて、検索者の掛け合わせワードから、読者の関心ごとを探っていきましょう。ランキング上位から順に見ていくと、最も検索されていたのは「アニメ」「声優」などTVアニメに関するワードでした。それに続いて「漫画」「ネタバレ」の検索が増加していることから、アニメを視聴して原作に興味を持った人も一定数いるのではないでしょうか。他にも、「攻略」「アプリ」といったスマホゲームに関するワードの検索が増加しています。
「ブルーロック」との掛け合わせ検索ワード
集計期間:2022年2月~2023年1月
デバイス:PC、スマートフォン
ここで、注目が高まっているアプリについて見ておきましょう。『ブルーロック』のスマホゲームアプリである、「ブルーロック Project: World Champion」は2022年12月30日にリリースされました。ゲームジャンルは育成シミュレーションで、アニメに登場したキャラクターたちを自分好みに育成することができます。2023年2月21日時点では、累計ダウンロード数が300万を突破し、順調に人気を伸ばしています。
このアプリがリリースされた12月末は、2クールで放送されたTVアニメの1クール目が終わったタイミングと重なります。ここでも、「2クール目の放送開始直前に、ゲームアプリでさらに盛り上げて新規ファンを獲得しよう」という意図があったのかもしれません。
さらに、このゲームの集客戦略として印象的なのは、コラボキャラクターとして実在する日本代表選手である三苫薫選手を起用していることです。三苫薫選手は2022年のカタールW杯でも見事な活躍ぶりでしたが、そのテクニカルなプレイが「まるでブルーロックのキャラの技を再現しているようだ」と話題を集めており、広告塔としてピッタリの選手と言えます。
先ほど、「TVアニメの放送開始時期は、サッカーW杯との相乗効果を狙って決定したのではないか」という可能性を示唆しました。その真偽は不明ですが、こうして実在の選手と作品のつながりを強めていることから、やはり「作品の人気をW杯の盛り上がりでさらに後押ししよう」という意図はあったのではないでしょうか。
それでは実際のところ、『ブルーロック』とサッカーW杯の視聴者はどのくらい重なっているのでしょうか。
ワールドカップのファンは『アオアシ』に類似。『ブルーロック』はファン層が異なる?
それでは、「ブルーロック」と「ワールドカップ」に、同じく2022年4月から放送されたサッカーアニメ「アオアシ」を加えて、それぞれの検索者層を比較してみましょう。下記グラフは、それぞれの検索者の性別割合を示しています。「ブルーロック」の検索者の男女比はおよそ半々なのに対し、「ワールドカップ」と「アオアシ」は男性が約65%と男性にやや多く検索されています。
「ブルーロック」、「ワールドカップ」、「アオアシ」検索者の性別割合
集計期間:2022年2月~2023年1月
デバイス:PC、スマートフォン
同様に、年代についても見てみましょう。「ブルーロック」は20代を中心に若い世代から人気を集めているのに対し、「ワールドカップ」と「アオアシ」は40代の検索者が最も多いことが分かりました。
「ブルーロック」、「ワールドカップ」、「アオアシ」検索者の年代割合
集計期間:2022年2月~2023年1月
デバイス:PC、スマートフォン
これらのことから、「ワールドカップ」と「アオアシ」の検索者には共通点が見られましたが、「ブルーロック」はファン層が異なると考えられます。なぜこのような結果が得られたのでしょうか。詳しく分析していきます。
『ブルーロック』ファンがサッカーファンと異なる理由は?
「ブルーロック」と検索していたのは20代が中心であり、いわゆるZ世代と重なります。家にテレビを置いていない若者が一定数存在することを考えると、「W杯を観戦するための手段がないから見ない」「ネット配信もあるものの、視聴設定が手間だから見ない」という人もいたのかもしれません。
また、Z世代というと、タイパ(タイムパフォーマンス)を意識していることも特徴として挙げられます。サッカーは1試合90分かかり、アディショナルタイムや延長戦を含めると2時間以上かかることもあります。「最低でも90分はかかるコンテンツを見続けるのはしんどい」という若者もいるのかもしれません。
以上の理由から、「『ブルーロック』は手軽に楽しんで見れるけど、W杯を見るほどではない」という層がいると考えられます。
他にも、「W杯は視聴したけど、ワールドカップというワードで検索はしなかった」という人もいるかもしれません。基本的にSNSを駆使して情報収集していたり、選手名や国名で検索していた可能性が考えられます。
タイパに関しては、以前マナミナでも取り上げています。タイパを意識する人の価値観について気になる方は、是非チェックしてみてください。
タイパとは?Z世代が重視する「タイパ至上主義」の背景とマーケティング事例
https://manamina.valuesccg.com/articles/2112Z世代の多くは、生活のさまざまな場面でタイパ(タイムパフォーマンス)を意識しています。「タイパ至上主義」という言葉が登場するほど、Z世代は時間効率を重視しているのです。この記事では、Z世代の購買心理・最新のトレンドを知るために、タイパの概要や価値観、マーケティング事例を解説します。
一方の『アオアシ』は、40代を中心に注目を集めています。40代の視聴者には、前述したようなタイパを意識した価値観を持っている人は、若年層よりは少ないでしょう。そのため、サッカーが好きな『アオアシ』の視聴者は自ずとW杯も視聴したのかもしれません
ここまで『ブルーロック』が若い世代に人気だという前提で分析を進めましたが、30〜40代の人気も決して低いわけではありません。むしろ、今までサッカー業界がアプローチ出来ていなかった層にもリーチできていると考えると、『ブルーロック』の人気は大きな意味を持つかもしれません。『ブルーロック』がサッカー関連市場全体にどのような影響をもたらすのか、引き続き注目です。
まとめ
今回は、人気急上昇中のサッカー漫画『ブルーロック』について分析しました。まとめると、以下のようなことが分かりました。
・『ブルーロック』はアニメやW杯をきっかけに人気が加速している作品である。
・ゲームアプリでもW杯との相乗効果を狙っている可能性がある。
・『ブルーロック』の主な視聴者層であるZ世代は、タイパを意識するためW杯の視聴者層と重ならなかった可能性が考えられる。
2022年はサッカーW杯もあり、サッカーというスポーツへの注目が集まる中、アニメの放送が開始された『ブルーロック』。意図的かは定かではありませんが、『ブルーロック』の人気はサッカーW杯とのシナジーによって後押しされたと考えられます。
新たにコンテンツを生み出す際には、流行を常にキャッチしタイミングを見計らうことで、より効果的に売り出すことができるかもしれません。マナミナでは、そんな流行に乗り遅れないための情報を引き続き発信していきます。
大学では経済学部で主に会計学を学び、2024年に新卒でヴァリューズに入社しました。現在はデータプロモーション局にて、弊社プロモーション事業のフロントを担当しています。