デザインと日本文明
美的センスの不足を自覚していますが商品を購入する際には、つい共感できるデザインの商品を選んでしまいます。デザインの良し悪しはなかなか言い表せませんが、斬新であったり、目立っていたり、独特の雰囲気があったり、心が安らぐような形であったり、と様々な観点と第一印象で好ましいデザインの商品を見つけ出します。誰もが欲しがり、グローバルに支持されるデザインの商品には共通点があります。これも言葉で説明するのは困難ですが、時代に即し、芸術的・美的であり、伝統と気品に溢れ、使い勝手がいい、辺りでしょうか。世界中で商品のコモディティ化が進み、デザインの力は一段と重要性を増しています。
年齢や性別によってデザインの選好は異なる傾向があります。国や地域、民族などによっても同様です。1996年に米国の著名な国際政治学者で当時ハーバード大学教授のサミュエル・P・ハンティントン氏が著した「文明の衝突」では世界の文明を8つ(西欧文明、東方正教会文明、イスラム文明、ヒンドゥー文明、アフリカ文明、ラテンアメリカ文明、中華文明、日本文明)に分類(どの主要文明にも属さない孤立した国も存在)しています。2世紀から5世紀にかけて中華文明から独立した日本文明は日本一国のみで成立する孤立した文明であり、ユニークかつ特殊な文化を誇ります。日本文明発のデザインや文化は過去から現在に至るまで、世界が憧れ、尊敬される独自の伝統と風土による美意識に根ざしています。
デザインとは?
「美しさ」や「使いやすさ」、「スタイル」などを実現するために創意工夫すること、さらに、その創意工夫の成果を反映させた機能や形態、見栄えなどのあり方をデザインと定義します。デザインは「図案」や「模様」、「柄」、「設計」、「形状」、「計画」等々幅広く用いられる言葉です。公益財団法人日本デザイン振興会では、「常にヒト中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する」、この一連のプロセスをデザインと定義しています。意匠・造形・装飾(デコレーション)などはデザインで扱われる一要素と考えられ、意匠とデザインは基本的には異なる概念となります。
デザインはアート(芸術)、人間工学、エンジニアリング、製作・建築など様々な他分野との関わりを持っています。デザインには美術的側面も強く、実用品に応用するものを応用美術とも呼んでいます。デザインの意識は、産業革命により高まりを見せ、アールヌーヴォー、バウハウスなどが代表されます。近年、オフィスのあり方やロボットなどで注目される人間工学はデザインの「ヒトが中心である」という思想から、ユーザーエクスペリエンスを突き詰め、工学的に活用するといった共通点が存在します。エンジニアリングは「科学的及び数学的原則を設計、製造、運用する」ものであり、「ヒトが中心である」デザインとは異なりますが、問題解決の点では一致します。製作・建築とデザインの関係は計画と実行です。デザインには必ずしも創造的でなく不完全なものも存在しますし、製作・建築は技術と工夫が継続する生産・作業ですが、創造的・創作的な面も持ち合わせ、お互いが共存しています。
デザイン思考
現在はVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれ、変化が著しく予測困難な時代ですが、同時に急速な技術革新も進んでいます。その影響もあり、デザイナーがデザインを考察する際に用いるプロセスをビジネス上の課題解決のために活用する考え方として、一時ほどの熱気はありませんが、デザイン思考(Design Thinking)が注目されています。前例がなく未知の課題に対して最適な解決を導き出す思考法であり、根本的な悩みの解決法ともいえます。混同しやすいアート思考とは異なり、デザイン思考はユーザーベースであり、イノベーションをもたらす点が特徴です。一方、アート思考とは自分の持つ自由な発想をベースに、誰もが思いつかなかったアイディアを生み出すこともあり、互いを使い分けることが効果的です。
デザイン思考を実践するための最も代表的な手法として、ハーバード大学デザイン研究所のハッソ・プラットナー教授は「デザイン思考の5段階」という5つのプロセスを踏む必要性をあげています。5つとは『共感(Empathize』、『定義(Define)』、『概念化(Ideate)』、『試作(Prototype』、『テスト(Test)』であり、包括的に捉えることが大切です。デザイン思考を導入すると、ビジネスや職場において5つのメリットが考えられます。①イノベーションを生む②幅の広い意見や考えの重要性を確認できる③常にアイディアを創出する習慣➃チームワークの実践⑤ユーザー視点からの解決策の徹底、です。デザイン思考を実践するためには、何度も改善を重ねて、より良いプロダクトやサービスを追求することが不可欠です。
デザイン経営
デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための経営資源として活用することで、ブランドの構築やイノベーションの創出を導き出すための経営スタイルです。2018年5月、経済産業省・特許庁は報告書「『デザイン経営』宣言」を取りまとめました。デザイン経営の本質とは、ヒト(ユーザー)の声に耳を傾けることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想に捉われない、それでいて実現可能な解決策を柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。大量生産を前提としたモノの豊かさが飽和し、ユーザーの求めるニーズは心の豊かさへと転換しています。これらのニーズに対応し、共感できる価値を備えた企業は高い競争力を維持し、成長を続けています。デザインへの投資やデザイン思考の導入は企業の成長において強力な武器となり、企業価値やブランド価値の向上につながります。
デザイン経営の必要条件として、①経営チームにデザイン責任者がいること、②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること、を挙げています。デザインを経営資源として生かしきれていない企業やデザイン経営を導入していない企業にとって、これからの成長のためにデザインを如何に活用するかが企業のイノベーションにとっての分水嶺となります。
改めてデザインの力を学び、デザイン思考への理解を深め、デザイン経営を導入することは、これからの企業の方向性を示すと共に、社会全体の価値創造にとって極めて重要です。
企業イメージは企業経営にとって最も重要なもののひとつであると言っても過言ではないでしょう。企業の価値と優位性をブランディングすることは直接的に企業の利益にもつながる可能性を持っています。では、果たしてブランディングとはどういった背景を持つのか、そして、現在のブランド企業はどのような歴史や背景を経てその地位を確立したのか、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、過去の万博などを背景にブランドの創造・盛衰の歴史について解説します。
企業が自社の存在意義を明確にし、社会に与える価値を示す「パーパス(purpose)」が企業経営において脚光を浴びていますが、どのような背景があるのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、パーパス経営の必要性とブランディングにおけるメリットについて解説します。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。