「怠け者経済」下の中国で、人気を集める日用品を調査

「怠け者経済」下の中国で、人気を集める日用品を調査

中国では多忙な日々の中、家で休める時間はますます貴重なものとなり、「怠け者経済」と呼ばれる新しい消費スタイルが流行しています。家事などにおいても、時間と労力をいかに節約するかが重要視されているのです。 マナミナでも、過去に怠け者経済下の美容や家電トレンドについて取り上げてきました。本記事では「日用品」に注目し、現代中国の「怠け者経済」が産んだ新しい日用品トレンドについて紹介します。


怠け者経済下の中国人の消費

怠け者経済下の生活スタイルは、新たな消費者のニーズを生みだしました。CBNDataが発表した「年轻人智慧生活洞察报告(若者の生活の知恵洞察報告)」によると、「懒人神器(怠け者の神器)」というキーワードは2020年11月においては30万回以上検索され、2019年と比較し200%の増加を見せました。また、2020年、消費者が「怠ける」ために消費した金額は1000億元を突破し、中でも90後や95後と呼ばれる、1990年代生まれの若者の「怠けるために消費する」金額の増加速度が最も早いことが窺えました。

ジェルボール(洗衣凝珠)

精致懒」という価値観が現代中国の若者たちの間で広まっています。「精致懒」とは「手間をかけずに質の高い暮らしを」というニュアンスの言葉です。生活の質が向上していくに伴い、消費者は洗濯においても更なる清潔さを求めるようになりました。その結果、中国の洗濯関連製品の精緻化と高品質化の発展をもたらしたのです。

ジェルボールは両手を汚すことなく使用でき、頑固な汚れも素早く有効に落とせると、「精致懒」の価値観に合致した製品です。2016年に中国国内のジェルボール市場は盛り上がりを見せ始め、当初1億元前後しかなかった市場規模は、2018年には3億元と、同年比200%の増加を記録。2020年には市場規模は11.6億元に達し、年平均成長率は273.3%にのぼります。さらに市場規模は、2021年には15億元前後にまで到達すると見込まれました。

また、ジェルボールの主な消費者は90後、95後といった1990年代生まれで、全体の55%を占めています。ジェルボールの便利さは、特に若い世代を惹きつけていることが分かります。

記事をもとに、ヴァリューズが作成
出典:中国洗衣凝珠市场现状及格局分析,疫情助力产业快速扩张「图」

中国国内において最も注目を集めている、ジェルボールを販売している企業は立白(Liby)です。立白(Liby)は昨年2022年のダブルイレブン(11月11日)商戦期間のみで、7000万粒以上のジェルボールを売り上げ、ジェルボール部門のランキングの首位に立ちました。
中国のジェルボール市場の規模はこれからも成長し続けることが見込まれ、ジェルボール業界は更なる発展が訪れるでしょう。

ドライシャンプー(免洗发喷雾)

忙しい人々にとって、朝の身支度と化粧の時間はとても貴重なものになっており、より効果的で便利な道具が求められるようになっています。その一つがドライシャンプーです。「髪を洗う時間がない」「髪を洗うのは面倒くさい」「だけど人前での良いイメージは保ちたい」と思う人々は、ドライシャンプーを使って頭髪の清潔感の維持を試みています。

「免洗喷雾(ドライシャンプー)」と検索すると、小紅書(RED)では3万件以上の関連投稿、天猫(Tmall)では7万件以上の関連商品が見られます。

ドライシャンプーは缶スプレー状の商品が主流となっています。中国のブランド诗裴丝(Spes)はドライシャンプー製品の中で最も注目を集めており、天猫(Tmall)の旗艦店では、ひと月で5万本以上の売上を記録しました。同時に、京東商城(JD.com)ではシャンプー部門のランキングで140日間連続1位を維持しました。诗裴丝(Spes)はさらに2億元の融資も受けており、ここからもいかに市場から注目を集めているか窺えます。

加工調理済み食品(预制菜)

2022年は、加工調理済み食品が大きな話題に。「#年越しの加工調理済み食品、消費の7割が若者」、「#95後の怠け者式加工調理済み食品調理」などが度々weiboのトレンドに上がりました。

艾媒咨询が発表した「2022年中国预制菜行业发展趋势研究报告(2022年中国加工調理済み食品業界発展趨勢研究報告)」によると、2021年の加工調理済み食品市場規模は3459億元に達し、同年比19.8%の増加を見せました。さらに2023年には5100億元、2025年には8000億元、2026年には1億元を突破する見込みだと予測しています。

预制菜の商品例

さらに、「2022年中国预制菜行业发展趋势研究报告」は、若者がより加工調理済み食品を受け入れていることを明らかにしています。22歳から31歳までの消費者は全体の43%を超え、中国の都市階級の一線都市及び二線都市の消費者は全体の80%以上を占めています。加工調理済み食品を求める人は「時間を節約でき、かつ美味しい」ものを求めています。これらの結果から、仕事が忙しく生活リズムが速い都市部において、「作れない、美味しくない、時間がない」といった料理における問題を加工調理済み食品が解決してくれるからこそ、人気を集めていることが分かります。

天猫(Tmall)が発表した「2022中国预制菜数字消费报告(2022年中国加工調理済み食品データ消費報告)」によると、2021年において最も消費された加工調理済み食品はインスタント食品で、売上額は全体の60%近くを占めました。次いで冷凍火鍋食材や、冷凍餃子と冷凍饅頭(下記のグラフではまとめて冷凍面点と総称されています)が並びました。

記事をもとに、ヴァリューズが作成
出典:中国预制菜数字消费报告(2022)

また、調理済み食品は直接消費者の手に渡るものだけではありません。レストランなど飲食業界へ向けられるBtoB商品として取引されるものが、加工調理済み食品市場の8割を占めています。各飲食店の店員は調理工程の簡略化ができたり、料理時間を短縮できたり、チェーン店では味の画一化を達成できたりなど、調理済み食品の使用は経済的な選択となっています。

スマート調理器(自动炒菜机,智能炒菜机)

料理関連では、スマート調理器も人気を集めています。毎日の忙しい生活に疲れて、料理をする時間も体力もない人々は、簡単に手早く調理ができ、片付けも楽で、その上美味しい料理が作れるスマート調理器を重宝しています。

自動調理器やスマート調理器は数百通りものレシピを内包しており、さらに中国各地域の料理系統に合わせ味付けも多様。異なる地域の人々の食事習慣に適応が可能です。操作も簡単で、案内に基づいて材料を入れるだけで、数分後には美味しい料理が出来上がります。スマート調理器は市場規模が2014年の2744億元から、2020年には8365.2億元にまで伸び、年平均成長率は20.41%に達しており、消費者の強い需要を示しています。

捷赛(Gemside)が販売している自動調理器の商品例。一台の自動調理器だけで、様々な調理方法で多様な料理が作れることを表している。

スマート調理器の市場は将来的な発展が見込めるため、多くの企業の関心を集めています。既に美的集団、苏泊尔、赛米控、捷赛厨电、饭来、圈厨などのブランドが自動調理器を製造しており、今後も業界内の競争が激しくなっていくことが予測されます。

まとめ

現代中国では、都市部に住む若者を中心に「手間をなるべくかけずに質の高い暮らしを送りたい」と考える人が増えています。本記事で取り上げた日用品は、そんな人々のニーズを満たすために作られ、市場規模を拡大してきました。「怠け者経済」と呼ばれる現代中国の新しい消費トレンドが続く限り、人々のニーズを満たせるような商品の市場規模は今後も広がり、更なる商品も生まれていくことが考えられます。

参考URL

中国洗衣凝珠市场分析报告-市场竞争策略与发展动向前瞻
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1752879382191377978&wfr=spider&for=pc
中国洗衣凝珠市场现状及格局分析,疫情助力产业快速扩张「图」
https://m.163.com/dy/article/GTE98FUI05387IEF.html
双11连续霸榜超46个榜单 Liby立白售7000万颗凝珠再创新高
https://www.163.com/dy/article/HMABPBST0525F4AU.html 
“挑战不洗头+1天”,懒人经济带动洗护发的新增长点
https://www.jiemian.com/article/7348145.html
不爱洗头也是商机,这个本土品牌靠免洗发喷雾拿下2亿融资
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1720376477496560647&wfr=spider&for=pc
疯狂的预制菜:谁在买?哪些火?
https://www.pingwest.com/a/271970
《2022年中国预制菜行业发展趋势研究报告》发布 预制菜产业能否突出重围
http://www.cnfoodnet.com/index.php?c=show&id=3948
中国预制菜数字消费报告(2022)
http://www.logclub.com/articleInfo/NTExMTA=
懒人福音,自动炒菜机问世,未来发展前景如何?
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1743931116296817290&wfr=spider&for=pc
智能炒菜机市场规模持续增长
https://www.163.com/dy/article/H9BO10FB0511UCNV.html

この記事のライター

横浜国立大学、早稲田大学を卒業後、2024年に新卒でヴァリューズに入社。
海外領域のリサーチャーとして、中国、東南アジア、アメリカなどの地域において、定量調査だけでなくSNS分析などの技術型調査手法を活用し、これまで家電、食品、飲料、小売系の企業様のマーケティング支援に携わる。

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