マッチングアプリとは?
マッチングアプリとは、恋活・婚活を主な目的とした出会いの場となるソーシャルメディアです。写真、名前、年齢、在住地域、趣味や価値観などが書かれたプロフィールを参考に、ユーザーの意思で相手を選ぶものと、AIなどのアルゴリズムに相手を選んでもらうものがあります。
初めから恋愛目的で・気軽に・日常では出会えない人と出会えることがマッチングアプリのメリットとして挙げられる一方で、友人・遊び相手づくり、恋人づくり、真剣交際など、アプリの性格によって出会いの目的が異なるため、目的に合わせたアプリ選択が重要と言えます。
2021年実施の出生動向基本調査では、結婚のきっかけについて以下のように述べられており、マッチングアプリ経由の結婚が増加していることがわかります。
妻の初婚年齢別に、夫妻が知り合ったきっかけの構成割合をみると、初婚年齢に関わらず「ネットで」知り合った夫婦の割合が、2015年7月〜2021年6月の6年間の結婚では大幅に増えている
職場や友人を介した結婚が減り、SNSやマッチングアプリといったインターネットサービスを利用して知り合った夫婦が最近の結婚の13.6%を占める
今回の記事では、マッチングアプリのなかでも登録者数が多く認知度の高い、「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」の5アプリを取り上げます。
各アプリの特徴まとめ
利用実態調査の前提として、5アプリについて、マッチングの根拠・方法と主な利用目的をまとめました。利用目的は、結婚相手を探す「婚活」、恋人を探す「恋活」のほか、恋人だけでなく趣味や食事などの友人関係も含めた「遊び」の3つに分類しています。
下記の表は、以下を参考に筆者が作成したものです。
https://my-best.com/7070
https://with.is/welcome
https://www.pairs.lv/
https://tapple.me/
https://tinder.com/ja
https://fb.omiai-jp.com/
アプリ名 | マッチングの根拠・方法 | 主な目的 |
---|---|---|
with | 性格・価値観・趣味→診断コンテンツによるレコメンドや、趣味・価値観コミュニティの閲覧 | 婚活=恋活 |
Pairs | 趣味・価値観・ライフスタイル・結婚観→コミュニティチャットへの参加と履歴によるレコメンド | 婚活>恋活 |
タップル | 趣味・外見→行きたい場所ややりたいことでつながる | 恋活=婚活 |
Tinder | 外見・位置情報・趣味→コミュニティ閲覧と位置情報検索 | 遊び>恋活 |
Omiai | スペック・外見→独自のアルゴリズムによるレコメンド | 婚活 |
マッチングの根拠としては、外見や氏名・年齢といった履歴書的な項目に加え、趣味や価値観といった内面の項目が挙げられています。そのなかで重視される項目と、それを用いたマッチング方法はアプリによって異なりますが、この違いが、アプリ利用の主な目的の違いとして現れているようです。
各アプリユーザーの属性の違いは?
マッチングアプリユーザーの属性は、各アプリの特徴を反映していると考えられます。
ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて、市場の定量調査をし、属性の違いが生まれる理由を考察しました。
■ユーザー数と利用実態
下記のグラフは、5アプリのユーザー数推移を示しています。
Tinder、Pairsは特にユーザー数が多く、利用目的を問わない様々な人との出会いに向いていると言えるでしょう。一方Omiaiは、その名称通り婚活目的で利用する人が多いためか、ユーザー数は他のアプリに比べて少なくなっています。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者のユーザー数推移
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
アプリユーザー数はどれも20万人以上と多いですが、ユーザー全員がヘビーユーザーだとは限りません。下記のグラフは、5アプリユーザーの月平均アプリ起動日数の分布と推移を示したものです。
どのアプリでも起動日数が1〜5日のユーザーが50%以上存在しているのに対して、月平均稼働日数はアプリを問わず概ね6〜12日となっています。ここから、一定のユーザーが何度もアプリを起動するために月平均アプリ起動日数が多くなっており、アプリを入れたままほとんど利用していないユーザーも存在するとわかります。
自分の恋愛観やライフスタイルに合わなければ簡単に辞めることができるというのも、マッチングアプリの特徴です。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の月平均アプリ起動日数分布
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の月平均アプリ起動日数推移
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
■男性割合が高いのはTinderとタップル
下記のグラフは、5アプリの男女比を示したものです。男性の割合が高いのは、Tinder(男女比4:1)、タップル(男女比2:1)となっています。
マッチングアプリでは、「男性側のみ、2通目以降のメッセージからは課金制」という料金形態をとるものが多いですが、Tinderでは男性も利用が完全無料であるため、男性比率が高くなっていると考えられます。一方タップルの利用料金は、Pairs、With、Omiaiの3社とほぼ同額ですが、招待キャンペーンの常時開催やミッションクリアでメッセージし放題という裏技があるためか、他3社に比べて男性割合が高いと考えられます。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の性別割合
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
■アプリによる20・30代の構成比の違いは?
続いて、5アプリの利用者年代割合をみていきましょう。
どのアプリにおいても、ネット利用者全体と比べて20〜30代の割合が高く、40代以上では年代が上がるほど利用割合が低くなっています。具体的にみると、20代の割合では、with・タップル・Tinder・Pairs・Omiaiの順、30代の割合では、Omiai・Pairs・Tinder・with・タップルの順で高くなっています。
OmiaiやPairsといった婚活が主目的のアプリでは30代の割合が高く、withやタップルといった恋活が主目的のアプリでは20代の割合が高いという傾向が見られます。一方Tinderでは、遊びが主目的であるためか、ユーザーの年代割合が各世代に分散されています。
新規ユーザーにとっては、個々人の利用目的に合わせてアプリを選ぶことが重要です。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の年代割合
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
■地域・アプリ特性による利用のバラつき
下記のグラフは、5アプリ利用者の地域割合を示したものです。
全体傾向として、近畿地方では、ネット全体に対してマッチングアプリ利用者の割合が低いということがわかります。
Omiai・Pairs・タップルでは、その地域割合はネット利用者全体と概ね一致しています。対して、withでは関東地方の利用割合が突出しており、Tinderでは北海道・東北・中国・九州といった地方で他アプリよりも利用割合が高くなっていることが特徴的です。
マッチングアプリでは、マッチング後にメッセージ交換やビデオ通話などを経て実際に会うという流れが一般的ですが、Tinderでは位置情報でマッチングした相手とすぐに会えるようになっています。この点が、飲み友・趣味友といった友人関係を求めて利用する層と親和性が高く、日常生活を送る上で出会える人が限られる地方での利用者割合が高いと考えられます。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の地域割合
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
■利用者のなかには既婚者も?
下記のグラフは、5アプリ利用者の未婚・既婚割合を示したものです。
恋活・婚活を目的としたマッチングアプリでは、「18歳以上・独身(未婚で交際相手もいないこと)」を利用条件として掲げているものがほとんどですが、ユーザーのなかには一定数既婚者も存在するようです。マッチングアプリでは、はじめから恋愛対象として出会えるというメリットがある反面、相手が既婚であることを隠して利用しているという可能性も念頭に置いた方が良いのかもしれません。
なお、アプリ内で恋人だけでなく友達づくりも推奨しており、利用条件に独身であることを含めていないTinderでは、既婚者の割合も高くなっています。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」利用者の未婚既婚割合
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
■マッチングアプリユーザーの興味関心
利用実態分析の最後に、ヴァリューズのターゲット分析ツールであるstory bank(ストーリーバンク)を用いて、アプリユーザーの定性調査をしていきます。
下記の図は、縦軸をリーチ率(※1)、横軸を特徴値(※2)とした5アプリいずれかの利用者の興味/関心の散布図です。
※1 リーチ率…対象者のうち、アンケートで当該項目に回答した人数の比率。
※2 対象者が、一般的なネット利用者と比べて特徴的に利用するサイト・起動するアプリ・検索するワードを可視化するための指標。(特徴値) =(対象者のリーチ率)ー(ネット人口全体のリーチ率)で算出される。
「恋愛」の特徴値が18.38ptと極めて高いことに加え、「アニメ」「ゲーム」「動画共有サイト」のリーチ率が35%以上と高く、アイドルの特徴値も11.15ptと高いことが特徴で、二次元・アイドルの推し的な興味・関心の高さがうかがえます。
今回取り上げたアプリのひとつ「Omiai」や「ハッピーメール」「O-net」「ゼクシィ縁結びエージェント」といった恋愛・結婚を斡旋する事業が、それぞれで恋愛総合メディアを展開して恋愛のノウハウを指南するコンテンツを設けていることからも、これらの事業が一定数恋愛初心者向けに構築されたものであると考えられます。
「with」「Pairs」「タップル」「Tinder」「Omiai」いずれかの利用者の興味/関心
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:スマートフォン
掛け合わせワードからみるニーズと市場の可能性
■男女別・掛け合わせワード
ここからは、「マッチングアプリ」の検索掛け合わせワードから、マッチングアプリに関連する人々のニーズを読み解いていきます。掛け合わせワードとは、メインキーワードと組み合わせて検索されているワードのことで、「マッチングアプリ ⚪︎⚪︎」の⚪︎⚪︎の部分を指しています。分析ツールはDockpitを用いました。
以下は、男性・女性それぞれの「マッチングアプリ」検索の掛け合わせワードランキングです。
男性・女性ともに、「おすすめ」「メッセージ」「(顔)写真」「プロフィール」「(初)デート」が上位にランクインしています。男性では、「会話」「話題」「誘い方」といった関係構築の具体的な方法・テクニックに関するワードが目立ち、女性では、「LINE」「電話」といった会うまでの関係構築手段に関するキーワードが目立ちます。
「マッチングアプリ」の掛け合わせワード(男性)
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:PC、スマートフォン
「マッチングアプリ」の掛け合わせワード(女性)
集計期間:2023年3月~2023年8月
デバイス:PC、スマートフォン
ここからうかがえるアプリ利用者のニーズは、以下の3つです。
①マッチングアプリの選び方
②恋愛初心者でもすぐに使える恋愛術
③マッチングアプリ用のプロフィール写真撮影
最後に、これら3つのニーズについて簡単に説明し、マッチングアプリ市場の今後の可能性を考えてみましょう。
■ニーズ① アプリの選び方
マッチングアプリの利用に不信感・抵抗感がある人も一定存在します。そういった人に対して、アプリのユーザーが恋愛・結婚に対してどれだけ真剣で、どんな属性の人が多いのかという情報提供をすることは、アプリの提供者・利用者双方にとって重要だと考えられます。
アプリ比較をするネット記事は無数に存在しますが、これらの記事は、アプリダウンロードの導線になります。利用者側はメディアリテラシーを身につけてこれらの情報に接し、提供者側は利用者を欺くことのない健全な運営を心がけることが重要と言えるでしょう。
■ニーズ② 恋愛術指南
マッチングアプリの利用者は恋愛への関心が高く、恋愛術を指南するコンテンツも必要とされるでしょう。
最近では、「えみ姉」「モテ期プロデューサー荒野」「仮メンタリストえる」「よきちゃんねる」といった恋愛系YouTuberも多くみられ、その登録者数は10万人を超えている(2023年9月13日時点)ことからも、恋愛術指南コンテンツへのニーズの高さがうかがえます。
[参考]
えみ姉 https://www.youtube.com/@emk_oooo/videos
モテ期プロデューサー荒野 https://www.youtube.com/channel/UCxZvMVUAvOidCSYFviR0NIw
仮メンタリストえる https://www.youtube.com/@eru_
よきちゃんねる https://www.youtube.com/@yokichannel/featured
恋愛系YouTuberとの連携によって、アプリ利用者の増加を図ることもできるでしょう。
■ニーズ③ プロフィール写真撮影
マッチングアプリでは、プロフィールの一部として顔写真を公開するものが多いです。
アプリ利用者にとって、その人の第一印象を決める顔写真への関心は高く、プロフィール写真撮影サービスの市場も拡大しています。
このトレンドと親和性の高い写真撮影スタジオやプロカメラマン・美容院は、マッチングアプリ利用者に向けて広告宣伝を打つことで、大きな効果を得られるかもしれません。
まとめ
マッチングアプリ5つを比較しましたが、その特性や利用目的は人それぞれです。恋人づくりや婚活はもちろんのこと、飲み友・趣味友づくりのために利用する人もいれば、会話のネタづくりに利用を始める人も居ます。
ユーザーは利用目的に合わせてアプリを選び、アプリ提供者はニーズに合わせて健全にアプリを運営していくことで、Win-Winな関係を構築することができるでしょう。
2023年9月現在では、プロフィール詐欺や性被害といった問題のほか、マッチングアプリユーザーであることを人に知られたくないという「負い目」も一定数存在しますが、一方で、マッチングアプリ経由の結婚が増加しているのも事実です。
また、2023年9月1日よりマッチングアプリ業界の地上波TVCMが解禁され、Pairs・タップルのTVCMが放送開始されました。同日、Tinderはブランドキャンペーンを開始し、渋谷には多くの屋外広告が見られるようになりました。
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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000227.000005528.html株式会社エウレカのプレスリリース(2023年9月1日 10時00分)恋活・婚活マッチングアプリ[ペアーズ]累計登録数2,000万を突破 小関裕太さん・横田真悠さんを起用した地上波TV CMを9月1日(金)より初めて放映開始
マッチングアプリ「タップル」、2023年9月1日(金)より初のTVCMを全国放送開始 YUIの名曲『CHE.R.RY』をなえなのがカバー
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000044116.html株式会社タップルのプレスリリース(2023年9月1日 10時59分)マッチングアプリ[タップル]、2023年9月1日(金)より初のTVCMを全国放送開始 YUIの名曲『CHE.R.RY』をなえなのがカバー
こういったプロモーション活動により、マッチングアプリへの評価・価値観が変化し、市場のユーザー数や利用者層にも変化が出てくるかもしれません。マッチングアプリが今後どのように受容され利用拡大していくのか、今後も目が離せません。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2024年春にヴァリューズに入社しました。大学では歴史学と社会学を専攻していました。