タイにおける日本食ブーム
タイで日本食ブームが起きている主な理由としては、
・平均寿命の伸びやコロナ禍による健康志向の高まり
・経済成長による中・高所得層の増加
などが挙げられます。
また日本への旅行客の増加に伴い、その追体験をするためにタイで日本食レストランを訪れる人も増えています。彼らは、タイの屋台で売られているようなタイ人によってアレンジされた日本食ではなく、日本と同じクオリティーの本物の日本食を求めているのです。
タイに進出している日系和食チェーン店
タイでの日本食ブームを象徴しているのが「スシロー」です。タイではコロナ禍の2021年3月に1号店をオープンして以来、勢いを弱めることなくバンコクを中心に次々と新店舗を展開しています。私が訪れた際には、1号店がオープンして半年が経っていたにも関わらず3時間待ちという人気ぶりでした。2023年7月現在は、17店舗展開されており、スシローの店舗数は今後も増えていくと予想されます。
左:オープンから半年後のセントラルワールド店(1号店)の様子
右:タイバージョンのメニュー表(2021年オープン直後)
タイのスシローでも、店内ではスタッフの「いらっしゃいませ」の声が響いていて 、日本と変わらないおもてなしと美味しさでお寿司が提供されています。しかし、価格は一皿あたり40〜120バーツ(約160〜480円)と日本よりも高く設定されています。ではなぜ、コロナ禍にオープンし、日本よりも高価であるにも関わらずこれほどまでにスシローは人気なのでしょうか。
それはコロナ禍でなかなか日本に旅行に行けないことが起因しています。 日本と同じ回転寿司のスタイルとクオリティーで提供されるスシローに行けば、日本に行かずとも少しでも日本らしさを味わうことができるのが、人気が出たきっかけの一つかも知れません。また、タイではスシローと同じクオリティーの回転寿司は他になく、唯一無二の存在であることも支持を得続けている理由でしょう。
寿司の次に人気がある日本食はラーメンです。タイには一風堂やフジヤマ55など、いくつか日本の人気ラーメンチェーン店がありますが、その中でも特にタイ人に定着していて人気が高いのが「8番ラーメン」です。
タイの8番ラーメン公式ホームページ
8番ラーメンは石川県で創業し、北陸三県を中心に全国で132店舗を構えるラーメンチェーン店ですが、何とタイでは日本よりも多い151もの店舗数を構えています。ラーメン一杯の平均価格は約110バーツ(約440円)と、タイの物価に合わせたお手頃な価格設定になっています。また、メニューもタイ人の好みに合うよう工夫がなされており、タイ限定オリジナルメニューであるトムヤムクンラーメンや日本のメニューにはない焼きそばなどが揃っています。
また、様々なものを少量ずつ食べることを好むタイ人の趣向に合わせて麺の量を少なめにし、サイドメニューには麺以外の豊富なメニューを少量ずつ用意しています。さらに、タイ人の食事には欠かせない唐辛子や砂糖、お酢も各テーブルに置かれていて、自分好みに味付けをすることもできます。タイの文化やタイ人の食事スタイルに合わせて上手くローカライズしたことが、成功の鍵と言えるでしょう。
タイから撤退した日系和食チェーン店
タイに進出している日本食レストランの全てが成功しているという訳では決してありません。その例として、赤字が続き2022年3月にタイから完全撤退した「丸亀製麺」が挙げられます。2012年に1号店をオープンして以降、店舗数を増やしていったものの、赤字の状態が続き、ついには閉店となりました。メニューにはトムヤムうどんなど、8番ラーメンが行っているようなタイ人好みのメニュー作りも成されていました。
では日本では圧倒的な支持を得ている丸亀製麺が、なぜタイでは受け入れられなかったのでしょうか。
その原因の一つとして、注文から食器の返却までを一貫してセルフサービスで行うという日本の方式をそのまま導入したことが、タイの文化とは合わなかった可能性が考えられます。タイではフードコートでの食事でさえ、食器を返却するという仕組みがなく、食べた後の食器はそのままテーブルに置いておけば、必ず店員さんが片付けてくれます。そのため、丸亀製麺では「食べた後の食器を自分で直さないといけない」という仕組みに、煩わしさや違和感を感じたタイ人は少なくないはずです。
まとめ
これまでの3社の日経和食チェーン店の事例を比較すると、
・日本と同じメニュー・クオリティ・スタイルを徹底し、日本らしさが新鮮で受け入れられた事例
・様々な面からタイ人の文化や趣向に合わせ、ローカライズしたことで受け入れられた事例
・タイ人の趣向に合わせる工夫をしつつも、日本のスタイルを押しつける形になってしまった事で受け入れられなかった事例
に分けられます。
決してローカライズする事だけが正解ではなく、その国の文化や趣向をしっかりと理解し、その経営スタイルが受け入れられるかどうかしっかりと見極める事が大切でしょう。
大阪大学外国語学部でタイ語を勉強中。タイのカセサート大学に約一年間留学をし、それまで知らなかったタイの文化やタイ人の優しさに触れ、タイがいつしか心のふるさとに。老後はタイ移住も検討中。