LTVとは
LTVはLife Time Value(ライフタイムバリュー)の略で、「顧客生涯価値」を意味します。
LTVは顧客がその企業と取引する期間中に生み出す総収益を示す指標で、EC事業においては、初回購入で顧客となったユーザーが、その後にもたらす利益の総額を指します。
たとえば、20,000円の商品を1回購入した顧客のLTVは20,000円、3,000円の商品を10回購入した顧客のLTVは30,000円です。単に1回の取引だけを見ると前者の方が利益をもたらしているように感じますが、LTVの視点においては、実は後者の方が多くの利益につながっています。
新規顧客獲得コストは既存顧客維持の5倍かかるという「1:5の法則」からも分かるように、新規需要を開拓するよりも既存顧客を維持する方が効率的であるため、LTVが高い顧客を増やしていくことが重要です。
【関連記事】既存顧客からの売上を維持・拡大する「LTV(ライフタイムバリュー)」の考え方とは?
https://manamina.valuesccg.com/articles/1015#outline8顧客の行動を分析し、自社の商品やサービスの改善に役立てるデータマーケティングにおいて、重視されるようになってきたのが「ライフタイムバリュー(LTV)」という概念です。顧客の一定期間の売上貢献度を計るこの指標について、計算方法から活用方法まで解説します。
LTVの計算方法
LTVには複数の計算方法がありますが、一般的なEC事業では次のような方法が用いられます。
■① 累計売上÷新規購入ユニークユーザー数
一定期間の売上と新規購入のユニークユーザー数をもとに、1人の顧客がどれだけ購入したかを計算する方法です。
たとえば、一定期間の累計売上が3,000万円で、新規購入のユニークユーザー数が2,000人だった場合、
3,000万円÷2,000人=15,000円
となり、1人の顧客が一定期間で平均15,000円分を購入してくれたことになります。
■② 平均購入単価 × 平均購入回数
既存顧客全体の平均購入単価と平均購入回数を掛け合わせて算出する方法もあります。
たとえば、顧客が一度に平均2,500円、平均6回購入するECサイトの場合、
2,500円×6回=15,000円
で、LTVは15,000円となります。
ただ、この方法は平均値であるため、購入単価や購入回数に偏りがある点に注意が必要です。
■③ 購入単価×購入回数×継続年数
一人の顧客の年間取引額と継続期間を掛け合わせて算出する方法です。
たとえば、購入単価が2,500円、年に2度の購入で継続年数が3年間だった場合、
2,500円×2回×3年間=15,000円
で、LTVは15,000円となります。
■④ サブスクリプション型の場合
サブスクリプション型(定期購入)においては解約率が影響してくるため、次のような方法で算出します。
たとえば、顧客の平均単価が1,500円で解約率が10%の場合、
1,500円÷0.1=15,000円
となり、この定期購入で顧客を1人獲得した場合、15,000円のLTVが見込めると判断することができます。
LTVを高めるために重要なこと
LTVを高めるためには、上記の計算式に含まれる要素をそれぞれ改善する施策を行う必要があります。
具体的には以下のような方法が考えられます。
・クロスセル、アップセルを活用する
・購入頻度を高める(サブスクリプション、キャンペーンの告知、休眠顧客へのアプローチなど)
・継続期間を延ばす(クーポンの発行、継続特典の付与など)
LTVを上げるためには、こうした一つひとつの要素を改善するだけでなく、総合的な顧客体験(CX)を向上させることが非常に重要です。
顧客満足度を高めることで商品・サービスやブランドに愛着を持ってもらうことができ、繰り返しの購入、口コミやSNS投稿による集客にもつながっていきます。顧客体験(CX)の向上を中心に据えた戦略を継続的に実行し、改善を図ることがLTV向上の鍵だと言えるでしょう。
データ分析でLTVを向上させた事例〜JA全農〜
ただし、これらの施策を顧客のニーズとかけ離れたところで展開しても意味がありません。データを分析して仮説を立て、その都度方向を修正していくことが大切なのです。
ここからは、データ活用によりEC事業のLTVを向上させたJA全農の事例を紹介します。
全国のJAおよびJAグループの会社が出品した商品を産地直送で販売するインターネットショッピングモール『JAタウン』。『JAタウン』は、ヴァリューズがデータ活用の支援を始めてから、一気に毎年二桁成長を続けるという成果を出しました。
急激な成長の裏では、どのようなデータマーケティング施策が行われたのでしょうか。
■予想外のニーズが明らかに
JA全農との協業において、ヴァリューズはデータ活用による課題解決を支援してきました。
たとえば「JAタウンの中でリピート率をどのように上げていくか」という議論が上がった際、会員データを分析した末に見えてきたのは意外な事実でした。
JA全農では「ギフト需要が多いだろう」という仮説のもとに数々の施策を打っていたものの、データを分析したところ、実はギフト需要よりも自分のための購入の方が多いという実態が明らかに。
また、データによると1%ほどの顧客による異常な購入が存在しており、「もしかしたら業務用での購入かもしれない」と仮説を立てて検証したところ、この異常値はやはり業務利用だということが分かりました。
こうした結果を踏まえてJAタウンの方向性を修正するとともに、新たに「業務用のサイト」を立ち上げたところ、大きな反響があったのです。
まさに、データ分析による可視化が功を奏した例だと言えるでしょう。
【関連記事】JA全農が実践したデータドリブン運営につながる可視化・分析とは|MarkeZine Day 2020 Springレポート
https://manamina.valuesccg.com/articles/820テクノロジーの発達により大量のデータを取得できるようになり、そのデータを活用したマーケティングの重要性に気づいたものの、具体的な進め方や運用に悩みを抱えている方も少なくないでしょう。今回はそんな方にも参考になるような事例として、「MarkeZine Day 2020 Spring」で語られたJA全農の事例をもとに、セミナーレポートをお送りします。
LTVを向上させた企業の成功事例
続いて、LTVを向上させた企業の事例を2つご紹介します。
■カゴメ
飲料、食品、調味料の大手総合メーカー「カゴメ」の事例です。
原材料の高騰や流通コストの増加により、成績の悪化に悩んでいたカゴメのEC部門は、コールセンター業務の改善に取り組みました。
同社ではまだまだ電話で注文する顧客が多かったものの、コールセンターではマニュアル的な対応に終始しがちで、顧客満足度の観点で多くの課題を抱えている状態でした。
そこで見直されたのがオペレーターの裁量権。顧客と直接会話をするオペレーターの判断に重きを置き、オペレーターが自身の判断で柔軟に対応できるように改善しました。
その結果、オペレーターが顧客一人ひとりのニーズに対してきめ細やかな提案を行えるようになり、取り組み開始6ヶ月後にはLTV前年比28%増、ROIは約7倍を記録しました。
同時にカゴメでは、「顧客にとってのマイナス要素をゼロにする」という点にも力を入れています。
たとえば、ECの利用者には60代の顧客が多く、コールセンターには「外装段ボール箱が開けにくい」という声が多数届いていました。そこで、ミシン目を入れることで力を入れなくても開けやすい段ボール箱への改良を実施。その他にも、定期購入をやめてしまった顧客に理由のアンケートを行う、初期にフォローコールをするなど、顧客の“不安の芽”を拾って改善につなげています。
【参考】通販通信|カゴメとDM0が語るCRMの極意…LTV28%増・ROI7倍の舞台裏
■キリンビール
キリンホールディングスのビール製造会社であるキリンビールでは、「キリン ホームタップ」というサブスクリプションサービスを展開しています。
「キリン ホームタップ」は、“工場つくりたてのビールのおいしさをいち早くお届けする”をテーマにした会員制サービス。月額制で自宅用のビールサーバーを借りることができ、毎月2回ビールが定期配送されます。
ギフトや一部のお店でしか味わえなかった最上位ブランドの「一番搾りプレミアム」をはじめ、会員限定のビールを自宅で手軽に楽しむことができます。専用ビールサーバーには保冷機能があり、簡単にクリーミーな泡付けができるなど本格的な生ビール体験にこだわったサービス設計が魅力です。
サービス開始以来、ビールの製造が追いつかなくなる恐れがあるため一時的に申し込みを停止したほどの人気ぶりで、顧客体験を追求した結果、LTVの向上に成功した事例だと言えるでしょう。
【参考】グルメWatch|キリンが会員制生ビールサービス「ホームタップ」を始めた理由
まとめ
本記事では、LTVの計算方法や実際にLTVの向上に成功した事例を紹介しました。
LTVを向上させるためには、顧客のニーズを的確に捉え、顧客満足度やロイヤリティを高めることが重要です。
そのためにはデータを分析して仮説を立て、検証していくプロセスが欠かせません。JA全農の成功事例からも分かるように、データドリブンなアプローチが顧客の真のニーズを明らかにし、顧客体験(CX)向上のための戦略を導き出すヒントとなるでしょう。
フリーライター。JRグループ会社にて経理・総務として勤務。
子育てとの両立のためWebライターに転身。3児の母。
バックオフィス業務関連の記事を中心にBtoBライティングを手がける。