忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

日本の年間恒例行事のひとつでもある「忘年会」。「忘年会」と聞いてどのような会を思い出しますか?そのコミュニティはどのような集まりでしょう。「無礼講」の下、飲んで騒ぐといった「酒宴」は過去の産物なのでしょうか。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が「忘年会」の起源に触れ、現代社会においてあるべき社内コミュニケーションの姿、従業員エンゲージメントについて解説します。


忘年会の思い出

若手の社員の頃、忘年会の思い出は楽しかったり辛かったりと様々でした。気の置けない先輩や同期入社の同僚、学生時代の友人達との忘年会の幹事を担うと一度は行ってみたかったり、食べてみたいものがあったり、幹事特権がある店などを選び、当日をワクワクしながら待つものでした。

1次会終了後は2次会どころか3次会4次会へと足を伸ばし、明け方まで飲んでしまい、午前様となって何とか自宅へたどり着くといった危ない?思い出が沢山あります。それに伴い、店に忘れ物をしたり電車を乗り過ごしたり、タクシーが捕まらず歩き続けたりと気がつけば悲しいぐらい愚行を数知れず経験してきました。

仕事の一巻である会社の部会等の公的な忘年会は若手の場合は先に会場へ到着するのが必須なのに、その日に限って仕事上のトラブルが出発直前に起こってしまい、やむなく遅れて到着すると必ずうるさい上司や厄介な先輩の隣か目の前の席が空いていて、そこに座らされました。そうなると忘年会気分が一掃するどころか、絡まれたり説教されたりおもちゃにされたりと仕事以上に厳しく辛い時間を過ごさねばならず、魔の忘年会となりました。ましてや幹事を拝命すると、まずは出席者全員の食べ物の好き嫌いを聞きお店を選択し、席順の検討、清算、忘れ物のチェック、2次会の手配など目が回るほどの忙しさと気遣いでてんてこ舞いになりました。仕事同様に上手く忘年会を取り仕切る上司や神対応する優秀な先輩達を尊敬し憧れました。

忘年会の思い出

社内コミュニケーション

新型コロナ禍から在宅勤務が飛躍的に進み、社内でのコミュニケーションが不足する傾向にあります。オンラインではどうしても、仕事と無関係の雑談をする機会が減少するのは否めません。転職が当たり前となり、正社員で入社して定年まで同じ会社に勤め続けるといった従来の終身雇用モデルに沿った会社人生を送る人はすでに少数派となっています。多様な働き方や価値観により、コミュニケーションそのものが変化しています。

最近、単身者の社員寮や運動会など社内行事の復活がメディアで報道されています。今までは公私の境が欲しいと若手から嫌われた社員寮は減少の一途でしたし、社内行事は過去の遺物であり古臭いとして敬遠されていました。それらを復活させた企業は多くはありませんが、社内を活性化させるための起爆剤としてまずは『装置』からという考えには納得出来ます。会社に愛着を持つのは従業員それぞれの心持ち次第であり、様々な要因が存在するはずです。社内活性化を目指すにはコミュニケーションを深化させる価値ある手立てを各社が検討し、自社に相応しい独自の施策を実施する必要があります。忘年会ひとつをとっても必ずしもお酒を飲む宴会を開く必要はなく、会社の業務終了後に集まる必要もないのです。ランチでもお茶でもレジャーでも忘年会の名の元に年忘れを無礼講のように皆で喜び合い、一年間の出来不出来を確認し合う環境を創りだす年に一回の機会が大切なのです。近頃の若手はつき合いが悪過ぎると経営陣やミドルが騒ぎ立てる限り、社内コミュニケーションの深化は絶望的です。

忘年会の歴史

『忘年』の意味は、①自分の老いを忘れるほど面白く思うこと、②年齢の差を気に留めないこと、③年忘れ、その年の苦労を忘れること、となっています。中国の古典によると①と②だけが用例として出てくるようです。つまり、中国の古典では自分が老いたのも忘れて年少の志を同じくする者と語り合う楽しみを『忘年』という言葉で掴みだしているのです。

国際日本文化研究センター教授の園田英弘氏の著作、文春新書「忘年会」による年忘れの最も古い用例は室町時代の「看聞日記」の記録にあり、連歌の同好会の納会として12月末に行われ、忘年会のルーツのひとつとされています。戦国武将も「関八州古戦録」には戦国末期に毎年12月30日に小田原城で、群臣を集めた連歌の会の催しとして酒宴を夜明けまで続けたと記されています。ここでは君主と群臣が無礼講で酒宴を催した、つまり近代忘年会の原型と考えられます。

忘年会は明治時代に入ると経済的余裕と社会的自由によって、都市の風俗となり一段と世間に拡がりを見せ、隠し芸や芸者、団体旅行といった宴会にはつきものの要素が出現し、近代忘年会へと進化してゆきます。昭和に入ると忘年会は国民的な年末行事となり、忘年会のための社内積み立てや会社からの補助金などが生まれ、一時第2次大戦下では全廃となったものの戦後復活を遂げ、高度経済成長を迎えると忘年会ブームが到来。忘年会と企業は切っても切れない関係とまでなりました。

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは、従業員が会社の向かっている方向性(企業理念)に共感し、企業業績向上のため自発的に貢献したいと思う意欲であり、「従業員の企業に対する信頼の度合い」あるいは「従業員と企業とのつながりの強さ」といえます。残念なことに日本企業は世界最低水準にあるといった調査結果もあります。今後、企業が成長を維持するためには、従業員との強固なつながりは必要不可欠といえます。

従業員エンゲージメントを高めることにより、①生産性が向上する、②社内が活性化する、③モチベーションを上げる好循環が作れる、➃離職率が低下する、⑤企業イメージが高まる、などが考えられます。また、従業員エンゲージメントと似た言葉に従業員満足度(Employee Satisfaction)がありますが、これは職場環境や人間関係、業務内容などに対する満足度の指標であり、同じくロイヤリティ(Royalty)は従業員の企業に対する忠誠心を意味し、企業と従業員の主従関係を指します。

従業員エンゲージメントを向上させるためには、①社内コミュニケーションの活性化、②ワークライフバランスの確立、③企業理念・ビジョンの浸透、④パーパス経営の導入、⑤職場環境の整備、⑥人事制度やキャリア形成の体系化、などが挙げられます。働きやすさと働き甲斐は微妙に異なり、働きやすさだけを意識すると従業員満足度は高まりますが、従業員エンゲージメントの向上には影響しません。また、企業理念やビジョンが度々変更されると、従業員が共感した根幹が変更することとなり従業員がやる気を失います。

忘年会や運動会などの社内行事は日本独特のものかもしれません。従業員エンゲージメントを高めるための再活用には今風の改良が求められます。

従業員エンゲージメント

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連するキーワード


渡部数俊

関連する投稿


世界の水問題 ~ 危機とビジネス

世界の水問題 ~ 危機とビジネス

海に四方を囲まれ森林にも恵まれた島国、日本。元来我が国は水資源に恵まれていますが、世界に目を向けると、この地球上には安全な飲み水を手に入れられない約20億の人々が存在するそうです。そして、淡水は飲料だけでなく、農業にも必要不可欠な資源。この資源を守るため、世界中では「水ビジネス」が拡大しています。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が水問題や海水の淡水化方法を解説。世界の「3大メジャー」などにも触れ、「水ビジネス」のあり方を考えます。


適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

経済や環境改善を底上げするためには企業や組織の能力向上が求められます。ではその求められる力とは一体何でしょうか。それは組織、及びそれを形成する人間が持つ、変化に対する適応力と柔軟性が軸であると説く本稿。企業成長に欠かせかない「暗黙知」にも言及し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が真のナレッジマネジメントの重要性を解説します。


人新世をめぐって ~ 人が起源の地質革命

人新世をめぐって ~ 人が起源の地質革命

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉にも慣れ、人類と環境の関係に関しても再考が必要との認識が深まりつつある今。人類が我がもの顔で地球資源やそれら環境の利益だけを享受する行動を制し、あらゆる自然環境と共存するという考えとその行動を真剣に追求することを急がねばならない時に来ているかもしれません。本稿では「人新世(じんしんせい)」というワードをキーに、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、人類と地球の歩んできた歴史関係の精緻な理解の薦め、そして未来のために今とるべき行動は何かを問いかけます。


感受性から知性へ ~ マキャヴェリ的知性仮説とは

感受性から知性へ ~ マキャヴェリ的知性仮説とは

「感受性が強い」イコール「繊細」などといった一般的な見方だけでは、多文化共生社会との共存が必要な現代を上手に生き抜くのは難しいようです。今や、「感受性」を駆使して社会的共存や組織の成長を促すといった「社会的感受性」や、それらを内包する「社会的知性(SQ)」と呼ばれる、複雑化した社会環境への適応として進化した人間の能力への理解が必要です。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、イタリアの政治思想家であるマキャヴェリによる『君主論』の一説なども例に用い、解説します。


アテンションエコノミー ~ 課題と今後

アテンションエコノミー ~ 課題と今後

インターネットが一般消費者に普及し始めて何年経ったでしょうか。Windows95が発売された頃からと見做せば、30数年という年月で、インターネットは私たちの生活にはなくてはならないテクノロジーとなりました。そして今や私たちの受け取る情報は溢れるほどに。その情報は真偽だけでなく善悪という側面を持ち、経済活動にも大きく影響しています。本稿では「アテンションエコノミー」と題し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が今後の課題へも言及し解説します。


最新の投稿


20~30代の8割以上が商品購入前にSNSでの評価を確認!全年齢でも6割強が該当【アルティウスリンク調査】

20~30代の8割以上が商品購入前にSNSでの評価を確認!全年齢でも6割強が該当【アルティウスリンク調査】

アルティウスリンク株式会社は、20~79歳の男女を対象に、購買行動におけるSNSの利用状況や、企業公式SNSのフォロー状況、購入後の疑問や不安の解決におけるSNS活用の実態などについての調査『購買行動におけるSNS利用動向調査』を実施し、結果を公開しました。


ヤプリ、次世代型のWeb構築プラットフォーム「Yappli WebX」を提供開始

ヤプリ、次世代型のWeb構築プラットフォーム「Yappli WebX」を提供開始

株式会社ヤプリは、企業のモバイルDXを加速させる次世代型のWeb構築プラットフォーム「Yappli WebX」(ヤプリウェブエックス)の提供を開始したことを発表しました。


【カテゴリーエントリーポイントの概要を解説】 マーケティング担当者のための「CEPの発見」と「CEPの活用」

【カテゴリーエントリーポイントの概要を解説】 マーケティング担当者のための「CEPの発見」と「CEPの活用」

「CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは何か」、「CEPは知っているが、どのように活用したらいいのかわからない」というマーケティング担当の方必見。本資料では、CEPの基本知識から、CEPを発見して活用するにはどのような手法や考え方で取り組むべきかなど、具体的なHowToを事例を元に解説します。自社CEP発見のための具体的なプロセスやインタビュー設計・アンケート設計にどのように繋がるのかなどの全体像も知ることができる内容となっています。※本資料は記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


SMN、AIを活用したコミュニケーション戦略支援サービス「SENZAI」の提供を開始

SMN、AIを活用したコミュニケーション戦略支援サービス「SENZAI」の提供を開始

SMN株式会社は、AIを活用して、消費者ニーズの把握からペルソナ構築を行い、広告・クリエイティブ等によるコミュニケーションプランの策定・実行を支援するサービス「SENZAI」の提供を開始したことを発表しました。


電通ダイレクト、生成AI技術を活用しショッピング番組などのオリジナルキャストを作成する「AIショッピングキャスター」の提供を開始

電通ダイレクト、生成AI技術を活用しショッピング番組などのオリジナルキャストを作成する「AIショッピングキャスター」の提供を開始

株式会社電通ダイレクトは、株式会社デライトチューブの協力のもと、生成AI技術を活用してインフォマーシャルなどのショッピング番組のオリジナルキャストを作成する「AIショッピングキャスター™」の提供を開始することを発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ