「未病」と「予防」におけるCEP(カテゴリーエントリーポイント)とは

「未病」と「予防」におけるCEP(カテゴリーエントリーポイント)とは

生活者が「予防」に取り組みはじめる“きっかけ”=CEP(※)とはどのようなものでしょうか?少し不調が出始めていたり健康診断の結果が悪かったりして「予防に取り組まなきゃ」と思っていても、なかなか行動に移せないこともあるでしょう。そんな「未病」の状態に着目して、ヴァリューズの持つWeb行動ログデータの分析から、実際に予防に取り組み始めた生活者の文脈と、ヘルスケア業界における課題を考察しました。 ※CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは、「ある商品を購買または利用する際に、それを検討するきっかけとなる状況」のことを指します。


未病とは

日本未病学会では、以下の両方を未病(みびょう)と定義しています。

①自覚症状は「ない」が、検査では異常が見られ、放置すると重症化するもの
 例:肥満、境界域高血圧、高脂血症 など
②自覚症状は「ある」が、検査では異常が「ない」状態
 例:冷え、だるさ、頭重感、疲れやすい・疲れがとれない、おなかの調子が悪い など

これに対し、病気は「自覚症状があり、検査でも異常がある状態」と定義されています。
つまり、下図のような健康と病気の間にある連続的な状態を指す概念といえます。

未病の状態

この未病領域が注目されている背景には、日本の少子高齢化に伴う医療費の増大に伴い、政府から予防医療やヘルスケアが促進されていることが挙げられます。

例:
・健康経営の促進
企業が従業員の健康管理を経営課題として捉え積極的に改善に取り組むことを認定・表彰
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
・スマートライフプロジェクト
「健康寿命をのばそう。」をスローガンに、国民全体が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標とした厚生労働省による運動
https://www.smartlife.mhlw.go.jp/

生活習慣病等が発症する前の「未病」段階で対策しておくことで、国全体の医療費を抑えられるよう、政府から様々な助成金やプロジェクトが発足しています。

ヘルスケア業界の各企業も、そうした啓蒙によって盛り上がった消費者関心をビジネスにつなげるべく、商品・サービスの展開やプロモーションに投資をしています。

ヘルスケア業界の動向

では、ヘルスケア業界は盛り上がっているのでしょうか?
日本のセルフヘルスケア市場規模は、下図の通りコロナ禍の2020年で大きく伸長し、コロナ禍以降もコロナ禍以前より高い水準を維持しているものの、直近は微減傾向にあるようです。

「風邪などの感染症予防・免疫力改善」セルフヘルスケア市場規模

コロナ禍によって健康意識が高まったことは間違いないはずですが、コロナ禍以降も啓蒙活動や問題意識はますます高まっているのに市場規模が伸長していかないのは少し不思議です。

実はヴァリューズが支援しているお客様からも、「想定より売上が伸びてない」というお悩みをよく伺います。
これは、生活者が「健康になりたい・病気を予防したい」と思っている意識面と、「実際に費用を払う・行動する・習慣化する」という行動面に、どうしても乖離が生まれるからではないでしょうか。

ボトルネックとなっているのは生活者の「意識と行動の乖離」

ヴァリューズのWebログデータ分析ツール『Perscope(ペルスコープ)』を用いて、「健康」について調べている方の行動を分析しました。

実際のWeb行動は下図のようなジャーニーになっており、突発的に健康によい食材や効能について調べるもののすぐに別の検索に移り、単発的で何か習慣ができたとは言えなさそうです。

「健康」検索者のジャーニー

「健康」検索者の分析
調査期間:2023年12月~2024年11月
デバイス:PC

例えば、Aさんはヨーグルトの検索から大腸ポリープ関連の閲覧までたどり着きましたが、何か危機感が強まることは無く、そのまま検索は中断されました。突発的に健康意識が高まっても、習慣化に繋がっていない様子が推察されます。

実際、我々の自主調査でも、アンケートとWeb行動ログを紐づけると意識と行動が大きく乖離する領域があることが分かっています。

アプリ利用日数に関するアンケート回答と実際の起動日数との差に関する自主調査

アプリ利用日数に関するアンケート回答と実際の起動日数との差に関する自主調査

特にこの「未病」領域では、「健康でいたい」という意識と実際の行動に、「社会的望ましさバイアス」が働いて乖離が生まれやすいのだと考えられます。

「社会的望ましさバイアス(social desirability bias)」とは、“他人に好ましいイメージを与えたいという欲求によって、社会的に望ましくなるように報告を歪めてしまうこと″です。
参考:R.J. Fisher, Social desirability bias and the validity of indirect questioning, Journal of consumer research, 20 (1993) 303-315.

それでは、そうした行動へのハードルを乗り越え、実際に「予防」に取り組んでいるのはどのような領域なのでしょうか。

Web行動ログで見る「予防」の年代差

まず、「予防」と検索している人(=能動的に情報収集している人)のボリュームと年代をヴァリューズの市場分析ツール『Dockpit(ドックピット)』を用いて見てみます。

「予防」検索者数推移

「予防」キーワード検索者数推移
調査期間:2022年11月~2024年10月データ
デバイス:PC、スマートフォン

予防検索者の男女割合

「予防」キーワード検索者の年代別割合
調査期間:2022年11月~2024年10月
デバイス:PC、スマートフォン

「予防」の検索者数は直近2年間ではゆるやかな減少傾向にあり、おおよそ30代から予防を気にし始めるようです。60代をすぎると検索割合が減っていくのは、むしろ「対処」が多くなってくるからかもしれません。

それでは、検索者の年代ごとに何の「予防」を検索しているのか、同じデータを使って掛け合わせワードを見てみます。

「予防」検索者の掛け合わせワード

「予防」検索者の掛け合わせワード(上位5つ)
調査期間:2022年11月~2024年10月
デバイス:PC、スマートフォン

年代ごとの特徴として、10代~20代では「二日酔い」など近日中に起こる症状、30代では「インフルエンザ」や「コロナ」など仕事に影響の出る流行り病、40代や50代では「動脈硬化」など具体的な疾患・症状、60代以上では誤嚥性肺炎など高齢層に起こりうる疾患を予防しようとしているようです。若年層で「認知症 予防」が検索されるのは、自分の親のための検索かもしれません。

若いうちはあまり先を心配せず、ミドル層に入るにつれ具体的な数値が悪くなって対処しようとし、ご高齢になると対処すべき症状が増えていく、そんな流れが推察できます。

では、若いうちから予防が検索されているものは、何が背景にあるのでしょうか。そこに、未病に気づかせ、行動させるヒントがあるかもしれません。

10代~30代にも幅広く検索されていた、「糖尿病 予防」を例として取り上げ、深掘りしてみます。

Web行動ログで見る、若年層における「予防」のCEP

再度『Perscope(ペルスコープ)』を使って、今度は「糖尿病 予防」と検索している20代~30代の方のWeb行動ログをピックアップし分析しました。

「糖尿病 予防」検索者の分析

「糖尿病 予防」検索者の分析
調査期間:2023年10月~2024年9月
デバイス:PC、スマートフォン

ここから「予防」に繋がるCEP(カテゴリーエントリーポイント)について以下のようなヒントを得ることができます。

1.自分の好きなもの、習慣になっているものを「許されたい」というインサイト
2.仕事や趣味など、自分の日常に関連すると行動に移りやすい
3.「健康」そのものに興味は無いため、「食べたい」「面白い」といったプラスの心の動きも必要
4.客観的な診察や数値、遺伝など「自分の状態の可視化」が自分ごと化に繋がる
5.自分の好きな芸能人など、自分に身近な人が何か起こると自分ごと化に繋がる
6.合併症や治療など、「なった後・その先」の生活実感まで進むと危機感が高まる

皆さまが何かの予防に取り組み始めたきっかけはなんだったでしょうか。
少なくとも、「健康になりたい」ということがきっかけだった人は、ごく少数ではないでしょうか。

予防に繋がるCEP(カテゴリーエントリーポイント)を考えるためには

コロナ禍をきっかけにヘルスケア業界は盛り上がり、今では多種多様な商品・サービスが利用されています。

例えば「食」ではあすけんやカロミルといった食事管理・糖質管理アプリ、サプリメントなど。「運動」ではRIZAPやchocoZAPが伸長し、ヨガ・ピラティスも盛り上がっています。

とはいえ、実際の行動ログデータを見ていくと、例えばRIZAP閲覧者に特徴的にマッチングアプリが利用されていたり、「ロカボ」の検索者に特徴的に「タクシー」が検索されていたりと、背景にある生活者には「モテたい」「楽したい」といったあまり大っぴらに話せない生々しいインサイトが潜んでいます。

「未病」やヘルスケアの領域で生活者にアプローチしようとする場合、そうした「深い消費者理解」に基づいてマーケティング戦略を立てることが必要です。

ヘルスケア業界のマーケターの方々も、自社のターゲットについて改めて消費者理解に取り組んでみてはいかがでしょうか。ボトルネックは消費者の意識でなく、「いかに行動に至るか」にあるのかもしれません。

ヴァリューズで支援したヘルスケアテーマの事例として、こちらの記事も是非ご覧ください。

Web行動ログデータを用いて、有効なCEPを発見するための手段を紹介するセミナーを開催します。オンライン形式で無料ですので、ぜひご参加ください。

この記事のライター

データマーケティング局 マネジャー
マーケティングコンサルタント プランナー

新卒でヴァリューズに入社後、事業会社のマーケティング、市場調査・消費者調査を支援。大手メーカーを中心に家電、住設、自動車など支援先は多業界にわたる。現在はプランナーとして、アンケートとWEBログを掛け合わせた独自調査や、調査とWebプロモーションを組み合わせた施策設計など、複合案件の提案設計に従事。

※下記セミナーにも登壇
・購買プロセスセミナー https://www.valuesccg.com/seminar/20241205-8562/
・家電業界セミナー https://www.valuesccg.com/seminar/20240408-7345/
・売上につながるKPIセミナー https://www.valuesccg.com/seminar/20230622-1872/
・ミニカンファレンス https://www.valuesccg.com/seminar/20241129-8547/

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