コロナの影響でAIを活用しやすい環境に変わった
私はAIのビジネス活用という領域に携わっていますが、今回の新型コロナの一連の影響により、当然のことながら業界にも変化が生じていると感じています。今回はAI活用の事例をお伝えできればと思いますが、まずは現在の業界の状況についての所感からお話ししましょう。
株式会社FUTURE VALUES INTELLIGENCE代表取締役社長 萩原静厳(はぎわら・せいげん)さん
2014年より株式会社リクルートマーケティングパートナーズにてビッグデータエバンジェリスト、リクルート次世代教育研究院にて主席としてデータ/AIを活用した事業づくりや東大松尾研との共同研究をはじめ産官連携共同研究などを推進。2018年12月、株式会社FUTURE VALUES INTELLIGENCEを立ち上げた。
まずひとつ、コロナによって対面(オフライン)から、IT機器を使って営業の面談や会議、採用面接などをオンラインで行うことが増えてきました。これはつまり、コロナ社会への変化でデータをとりやすい環境になったことを意味します。
例えば面接では、会話をデータ化できるので、応募者と面接官それぞれどういう話をしているか、どれくらいの比率で話をしていたか、面接中の温度感など音声からその人の特徴を収集し、AIで整理することもできるでしょう。
また、これは面接だけに限らず営業でも使えます。オンライン打ち合わせの際の営業マンの営業スタイルをデータ化し、マネージャーが評価する素材としてAIを活用することもできます。
オンラインになったからこそデータが集められ、AIの技術を通じて情報取得、整理を行うことで、業務の最適化が進めやすくなっていると思います。
■DXで大事なのはデータをトラッキングすること
もうひとつ感じている変化があります。今まではネットフリックスやアマゾン、またSNS周りなどBtoCでのAI活用がすごく進んでいました。しかしコロナ禍に入りインパクトが大きくなったのはBtoBです。
また、そもそも基本的な流れとして、AI活用より話題になっているのはDXです。コロナになる以前からオンラインでやらなくてはいけないことはたくさんあると言われており、実際企業には多くの課題があるかと思います。それがコロナ禍で顕在化したことにより、お受けする案件でもDX関係のご依頼は増えていますね。
DXでは組織変革、商品の売り方から、お客様対応、サプライチェーンなど、扱う領域は商品を形にしていくビジネスプロセス全体にも及びます。今のような大変な状況だからこそ、DXをちゃんとやらなきゃという声は多く上がっているのでしょう。
ただし、DXの定義は曖昧になりやすいのできちんとおさえる必要はあるかと思います。DXとは「デジタル技術を使って新たな価値を生み出していくこと」です。このようにDXを概念・コンセプトとして捉えた上で、手法のひとつとしてAIがあります。さらに、人の行動をデータの束で理解し、意思決定の助けとするBIの話もあります。これらのキーワードや概念を整理しておきましょう。
私の考えでは、DXでまず大事なのはデータをトラッキングすることです。特にヨーロッパではインダストリー業界でのデータ活用が進んでいます。この領域では、本当にすべてをトラッキングし、リアルタイムにデータを集めることがビッグイシューになっています。例えばベンツやBMWの工場では、すべてのデータをトラッキングしています。メーカーでも在庫の管理、製品の質を安定化させるため、データ追跡に力を入れているのです。
では、これらのバックグラウンドを念頭に置きつつ、ここからはAI活用の事例について「レシート画像認識」と「外食×AI」の2つをお話しします。
画像認識×ビジネスの事例~レシートからみえるデータ活用
画像解析技術はますます洗練されてきていますが、ひとつめはレシートを活用しマーケティングと掛け合わせた「レシートOCR」の事例についてお話しします。
OCRとは文字認識の技術で、Optical Character Recognition/Reader(=光学文字認識)の略。レシートOCRとはつまり、レシートの文字を認識してデータに置き換える取り組みを指します。
レシートがマーケティングデータとして利用価値が高いということはこれまでも言われていましたが、実はひとつひとつの項目を手入力するアナログな工程が必要で、実用化までに課題がありました。そこで、画像認識の技術を活用してレシートの項目を自動でテキスト化し、さらに商品のカテゴリ分け・タグ付けもAIで自動化。こうした購買情報を分析することで、消費者のインサイト発見につなげたり、マーケティング施策設計に活用するのが狙いです。
レシートOCRのサービス概念図。レシートデータをテキスト化し、タグ付けを行う流れ
利用シーンとして、弊社FUTURE VALURS INTELLIGENCE(=FVI)では例えば、飲料系メーカー様の販促キャンペーンの中でレシートOCR技術を使っていただいたりもしました。ただ、そのほかマーケティング・リサーチ系事業や流通様などで、「レシートを活用した消費者理解」といった多様なシーンにも使えるはずです。あるいは、会員カードのデータと結びつけることで、属性に基づいた購買行動の分析にも広げることができます。
FVIのレシートOCR技術では、購買行動の特徴となる要素をAIにより体系化/カラム化しています。これによって、たとえカテゴリ分けがいまだされていない新商品にも、過去のマスターデータの情報を参照しながら自動でタグ付けを行っています。
このようにビジネスプロセスの中でAIを活用し、人を介さずして分析を行うことで、購買特性や併売状況といったマーケティング上のインサイトを深く・速く発見していく。「人はりんごジュースと一緒にこの商品を買っているのか、ではこんな訴求をしていこう」と意思決定を進められます。DXという大枠で見れば、「データからものを考える習慣づくり」に役立つとも言えるかもしれません。
外食×AIの事例 ~AIで商品タグ付けすることで営業が変わる
ふたつ目は「外食×AI」の活用事例をご紹介します。先ほどと同じ「機械学習によるカテゴリ分け」を活用しており、具体的にはPOSデータをラベル化(タグ付け)することで、飲食店に来た方の支払い金額、注文した商品名とそのカテゴリ、来店日時といった特徴を把握した事例です。
今までの状況として、そもそも飲食店の商品はカテゴリ分けが自動化されていなかったという課題がありました。せいぜい「売れた商品ランキング」までしか分からなかったため、マーケティング施策設計までつながっていないケースが多く見受けられたのです。
そこでFVIは飲食関連企業と提携し、飲食店のメニューのマスターデータを保有。それらを機械学習で読み取り、飲食店メニューのカテゴリ分けを可能にしました。
飲食店のメニュー名は多様なため、カテゴリ分けは従来ならば目検による手作業でないと難しかった
粒度としては、例えばビールでは国内産か外国産か、あるいは瓶か樽か、といった程度までAIでラベリングします。これらのデータを飲料メーカーが活用すれば、例えば飲食店に対して「メニューではこのハイボールの横にからあげを添えると売れ行きが良い」といった、データドリブンなメニューブック提案が可能となるでしょう。
こうしたタグ付けデータでは単一店舗を超えた市場全体を把握できるので、提案時の説得力も増すはずです。さらにBIを活用し、自社保有データと結びつけるなどの活用先もあるでしょう。営業プロセスの変革に貢献するデータセットになるのではないかと思います。
レシートOCRでもカテゴリ分けの話をしましたが、おそらく「AIによるラベル化」は意外と一般に知られていません。しかし、タグ付けとDXを掛け算することで、営業の基盤が大きく変わるはず。活用先は広いはずですし、多くの方に知っていただければと思います。
まとめ〜DXの概念をデータとAIで実現する
では、最後に本稿をまとめます。コロナにより加速しているオンライン化やDXの流れ。これを実現するための手法としてAIやBIの活用が重要であり、具体的手法であるレシートOCR、外食×AIといった事例を通じて、「AIによるカテゴリ分け(タグ付け)」をご紹介してきました。この手法は汎用性が高く、営業プロセスを大きく変える可能性を秘めていると考えています。
最後に、DXを始めないといけないのは分かるが、結局何から始めたらいいか迷っている方も多いと思います。そんな方におすすめなのは、まず一歩目として「データのトラッキングを行うこと」です。意外とこの点は見落とされがちで、AIやBI活用に向けては、データがあればステップを進みやすいです。自社にどんなデータがあるか、またどうトラッキングする仕組みを構築していくのか。現在悩まれている方は、今一度そこから見直してみてはいかがでしょうか。
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2018年MRT株式会社に新卒入社。オンライン診療サービス新規事業部に所属し、医師患者医療業界の方の声からオンライン診療情報サイトの重要性を感じ「MedionLife」を立ち上げる。リアルな声を大事にした"web上にいきるbookづくり"を目指し日々奮闘中。料理したり植物を育てたりすることがすきです。マナミナ編集部元ライター。