ネットスーパーEC、UI改善の背景
こんにちは。ヴァリューズデータ分析チームの和田です。本連載「データアナリストが語る現場のデータ分析」では、ヴァリューズのデータ分析チームが実際に行なったプロジェクト内容を語り、そこから得られた知見や分析の手法などを解説していきます。
株式会社ヴァリューズ データアナライズグループ マネジャー
和田尚樹(わだ・なおき)
今回のテーマはネットスーパーECサイトのUI改善。ユーザーのスムーズな購買体験の障害となっていた要素をデータ分析で洗い出し、改善策を提案したプロジェクトです。
まずはプロジェクトの背景からお話ししましょう。クライアントは大手スーパーマーケット企業で、ネットで食料品を買うことがまだまだ一般的ではなかったタイミングから既にECサイトを展開していました。ただ、生鮮食品を扱うネットスーパーの領域では、通常のECよりもオペレーションが複雑という点が前提としてありました。
例えばAmazonのような大手ECモールでは、発注があるとAmazonの倉庫でピッキングして、運送会社による配送という流れになります。しかしネットスーパーでは、発注があるとリアル店舗の商品をピックアップし、店舗が配送をするオペレーションとなっていました。
このような背景から、ネットスーパーECサイトのユーザーは、まずリアル店舗を選択し、その後商品を選ぶという購買手順を踏みます。しかし、ステップの煩雑さなど、言語化は難しいが「なんとなく使いづらい」という印象がありました。そしてクライアントも同様の課題感を持っており、問題点を明らかにしたいというご依頼をきっかけに、本プロジェクトが始まったのです。
ページ滞在時間を競合と比較分析
今回のプロジェクトの目的としては、ネットスーパーECサイトのUIにおける問題点を洗い出し、改善策を導くことです。そこでまず、サイトとしてUIにどんな課題があるのか、全体観を掴むところから分析を始めました。
そのために、競合2社とクライアントのECサイトで「ユーザーが商品購入までにかかった時間」について、購買頻度でユーザーをヘビー/ミドル/ライトの3層に分けて比較分析します。そしてページカテゴリごとの滞在時間の差から、スムーズな購買への障壁となっている箇所を洗い出すことにしました。
まず、サイト全体の滞在時間をまとめたものが下のグラフです。
※ライト・・・購買完了セッションのうち、初めて当該サイトで購買したユーザー
ミドル・・・購買完了セッションのうち、年に2回以上、10回未満当該サイトで購買したユーザー
ヘビー・・・購買完了セッションのうち、年に10回以上当該サイトで購買したユーザー
このグラフから、初めて購入までたどり着いたユーザーについて、自社サイトと比べると競合Aの方が滞在時間が短く、スムーズに買い物を済ませていそうなことが分かります。自社サイトでは滞在時間のピークがやや右に寄っていますが、競合Aはより短時間帯にピークがあります。
このことは、データの中央値を取ってみるとより明らかになります。
この折れ線グラフにより、自社サイトと競合B(それぞれ青色、緑色の線)では、初回購入のタイミングではまだサイトの使い方に慣れていなく、買い物完了までにかかる時間が長くかかっているようです。一方、競合Aではライトからヘビーまで購入完了までの時間が一定。サイトの直感的な使いやすさからか、初回でも購入までの時間があまり変わらないと考えられます。
では、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか? この点を明らかにするために、今度は個別カテゴリーページごとの滞在時間を3サイト間で比較し、スムーズさを阻害しているサイトの箇所を洗い出しました。
下のグラフでは、カテゴリ別×ヘビー/ミドル/ライト×3サイトでの滞在時間を比較しています。
上記の表には項目が多くありますが、まずひとつ目のポイントとして、競合Aと自社について、ヘビーユーザーを比較してみましょう。すると、競合AではTOPの滞在時間が長い一方、自社では短いことが分かります。そして、自社では商品カテゴリーページや、商品検索結果の滞在時間が長くなっていました。
実は競合AではTOPページで主要な買い物が済む設計になっていました。おそらくこの方が使い勝手がよく、最終的に買い物が早く済むのではないかと考えられます。
さらにふたつ目として、「カートの中を見る」ページでも競合Aと自社で大きな差が読み取れます。実際のUIでは、競合Aではカートの中身を見るためにページ遷移が必要なく、ポップアップで確認できる仕様になっていました。一方、自社サイトでは毎回ページ遷移が挟まっています。これが滞在時間の長さにつながっていると考えられました。
まとめ
以上の分析から、UI改善の基本方針として次の2点が挙げられます。
1.商品カテゴリーページ内ではなくTOPページにある程度の機能を集中させ、買い物を可能にする
2.「カートの中を見る」アクションを簡略化する
このように、競合サイトと自社サイトについて、滞在時間という切り口でページごとの滞在時間の差分を見比べることで、改善策を洗い出すことができました。
また、今回の分析事例はサイトのファネル設計の見直しともつながっている話です。ただしネットスーパーECでは、例えば保険の申し込みサイトのように1回ゴールすればOKという設計ではなく、何度も繰り返し使ってもらえるかが重要。こうしたLTVを改善する施策の洗い出しにも、この分析手法は使えるはずです。
最後に本稿をまとめます。UI改善では細かくA/Bテストなどを用いて計測をしていくのも良いですが、前段階として大方針を見直すことが重要だと思います。そう考えた際、今回の分析は局所的なページ配置の最適化だけではない、全体設計の検証に役立つ事例でしょう。
分析では弊社・ヴァリューズ保有のモニターによるWeb行動ログデータを使用しています。この分析手法に関するご質問や、こんなデータ分析ができないかなど、ぜひお気軽にご相談ください。
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