MAUは2000万超え「All About」立ち上げのきっかけ
―まずあらためて、生活総合情報サイト「All About」とはどのようなメディアなのか教えていただけますでしょうか。
All AboutはまだブログやSNSがほとんどなかった2001年に立ち上げ、現在は毎月2000万人以上の方に見ていただいているメディアです。その出発点としては、世の中の専門家と呼ばれる方々の知識をいろんな生活者のみなさまに届けたい、という思いがありました。
株式会社オールアバウト メディア事業部 メディアビジネス部 ジェネラルマネジャー
徳永正利(とくなが・まさとし)さん
立ち上げ当時の前提としてあったのは、今後の世の中では「個人の自立」が重要になってくるという点です。その重要性は現在でも加速しており、社会保障や年金の問題も含めて、未来がますます不確実な時代になっています。今までのように国や会社が全てを守ってくれるという環境もおそらく減っていくでしょう。
この「個人の自立」を考えるときに、私たちは三角形のピラミッドみたいなものをイメージしています。そこには3層のレイヤーがあって、一番下が「不安なく」、次が「賢く」、一番上が「自分らしく」。この3つを満たせて初めて、個人は自立して満足した生活ができると考えています。
「All About」が考える「個人の自立」のピラミッド
ただ、そのために必要なお金や健康のこと、あるいは仕事やキャリアといったいわゆる「生活学」みたいなテーマは、学校では学ぶ機会がありません。そこで、生活にまつわる情報について詳しい専門家の知恵を、インターネットを通じて生活者に届けられればと考え、All Aboutを立ち上げました。
―では、徳永様はオールアバウト社のメディア事業の中でどのような業務を担っているのですか?
私はメディアビジネス全体を管轄するような業務に携わっております。コンテンツを通じて生活者や専門家に対してどのような価値を提供するか、さらにはメディア部門をどう収益化に繋げていくかという点で、新しいビジネスモデルの構築も模索しています。
オールアバウトではコンテンツによる個人の態度変容のノウハウを活かし、2001年当時からタイアップ広告などのソリューションをクライアント様に提供してきました。現在では広告商品に加えてオウンドメディアの支援や、コンテンツマーケティング全体を支援するためのプラットフォーム事業等も展開しています。
ただ、現在のメディアのビジネスモデルでは非連続に収益を向上させる難易度が非常に高いんですね。つまり、All AboutのMAUである2000万という数字を3年後に10倍にするとなると、国内人口は限られているためトップラインはなかなか上がっていきません。そこで管轄するメディアビジネス部では既存の戦略を進めつつ、我々が持っているアセットを使った新しいビジネスモデルを構築し、トライを重ねています。
生活総合情報サイト「All About」のキャプチャ画像。住宅、マネー、健康、ビューティーなど多様なジャンルにおいて専門家の情報を掲載している
All Aboutがデータからメディア方針を立てる方法とは
―オールアバウト社ではヴァリューズ社のWeb行動ログ分析ツール「eMark+」を長らく利用されていますが、最初に導入された際はどのようなビジネス上の背景があったのでしょうか?
2016年頃の導入の際から私が携わりましたが、目的としてはSEO対策がやはり大きいポイントでしたね。当時はパンダアップデートやペンギンアップデートも含め、検索順位の変動が激しい時期でした。
前提として、総合情報サイトであるAll Aboutでは大きなカテゴリを14個ほど設け、その下に1,300個ほどのテーマを紐付ける形を採っています。すると、特定のテーマのみを扱うメディアと比べ、どの観点でどのテーマの記事が変動を受けているのかという分析がすごく難しい。
そうしたときに、他メディアの動きがヒントになります。例えば、All Aboutのマネーカテゴリであればバーティカルのマネー系メディアの変動と比較したり、あるいはレシピカテゴリであれば他のレシピ系サイトと比較する。そして、他メディアでも同じような変動を受けているとしたら、その共通点はなんだろう、などと考える。他社と比較することで、自社メディアの方針策定のヒントを得るためにeMark+を活用し始めました。
―では、具体的にはどのようにeMark+を使っているのでしょうか。
私が使うときの実際の流れをお伝えしますね。ひとつめは市場ニーズのトレンド把握です。まずeMark+の「サイトランキング」でカテゴリを「メディア」に絞り、他メディアのユーザー数や前年同月比などを一覧で出します。
「eMark+」のサイトランキング画面キャプチャ。メディアのカテゴリに絞って当月のユーザー数ランキングが確認でき、データのダウンロードも可能
そしてデータをExcelに落としてピボットテーブルを組み、大カテゴリごとのユーザー数の前年同月比を見ます。これが一番初めの段階で、大きな粒度感でテーマごとの前年同月比がどう変わっているかをつかみます。
次にサブカテゴリで前年同月比を見ていくと、その中でもどういうジャンルが特に増減しているかが分かるんですね。例えば2020年9月現在は「家電・AV・IT」が上がっていて、情報へのニーズが大きいと把握できます。
さらに今度は、それぞれのメディア単体で同様のデータを見ていきます。すると当然ながら、同カテゴリ内のサイトの中でも異常値があったりと、数字を伸ばしているメディアもあるんですね。結果、「このジャンルにユーザーのニーズがあるから注力すべき」あるいは「その分野で何かできることはないか」と考えることができます。
―なるほど…。まずは大カテゴリの前年同月比で市場ニーズの大まかなトレンドをつかみ、その後サブカテゴリ、それぞれのメディアへと粒度を細かくしていく、と。
はい。ただ、カテゴリ全体としては特に伸びているわけではないのに、なぜかユーザー数を伸ばしているメディアがあったりします。これはおそらく、何かそのメディアならではの良い施策がハマっているから。こうした成長メディアの戦略を深堀りたいときに使うのが、eMark+の「流入元」の機能です。
eMark+の「流入元」画面キャプチャ。Webサイトの流入構成がグラフで示され、外部サイトランキングや自然検索時の流入キーワード、LP等も比較できる
eMark+ではサイトへの流入元の内訳を見ることができます。そうすると、成長しているメディアがどの流入チャネルで伸ばしているのかも大体分かるんです。例えば、参照流入が増えていたら外部サイトとのアライアンスを強化したな、とか、あるいは検索流入が増えていたらSEO対策が効いているな、などですね。
これらは、eMark+の「外部サイトランキング」を使えばアライアンス先も想像がつきますし、検索流入に関しても「流入コンテンツ」を見ればSEO施策が把握できます。そこからAll Aboutでもまだやっていない施策があれば、実行を検討したりしています。
加えて、eMark+では「LP指定」機能でディレクトリごとにグリップした分析ができる点も良いですね。メディアは基本的にテンプレートの構造とURLの構造が一致していることが多く、URL単位で扉ページなのかリストページなのか、または記事ページなのかを分けているのが一般的です。
そこで、テンプレートごとに何か問題がないかを分析するときにも、ディレクトリごとに絞って見ることができる。こうした分析が他のツールでできる印象はあまりなく、重宝しています。
メディアの核は「チャネル構成」である
先ほど新しい収益化の形も模索しているとお伝えしましたが、新規事業立ち上げの際のリサーチや分析にもeMark+を活用しています。使い方は先ほどの2パターンと近く、ひとつはサイトランキングを用いた市場ニーズの調査、もうひとつは新規立ち上げを検討する領域のメディア群が採用している、チャネル戦略の分析です。
どういうことかと言うと、先ほどの「流入元」の際にもお話ししましたが、流入構成を見れば「このメディアは割と検索に力を入れてるな」などと、注力しているチャネルが分かります。
メディアの戦略がもっとも色濃く出るのがチャネル選定だと私は思っていて、情報をいかに届けるかがメディアの骨格を作ります。例えば新聞社系のサイトを並べると、ほとんど流入傾向が一緒なんですね。また、それらと近い構成なのがNewsPicksだったりします。新聞が読まれるのは全国に配送網があるからでもありますが、こうした配信戦略はメディア戦略の核と捉えられます。
そうしたとき、例えば女性系メディアを並べてみると、各メディアはチャネル構成が似通っている場合もあれば、全く違う場合もあります。すると切り口によっては意外といろんな戦略を取れるな、といった点も分かってくる。なので、新規で新しいジャンルのメディアに参入をしたいと考えるとき、流入構成を見るのは戦略策定の大きな参考になるんです。
―なるほど…!「チャネル戦略がメディアの骨格である」といった考えがあるからこそ、データを役立たせることができると感じました。
そうですね。メディア事業では「リーチ・コンテンツ・マネタイズ」の3つがうまくバランスしないと成立しません。まずは良いコンテンツを作ることが重要ですが、ここに加えて「どう届けるか」が整っていないと自己満足になってしまう。さらに、継続的に続けるにはマネタイズが必要です。こうした仮説設計や戦略を描く部分は当然メディアビジネスにおいて必須だと思います。
eMark+は過去のデータが見えるツールですが、これはつまり、過去に同じような挑戦や努力をされてきた事業を知ることで、車輪の再発明を防げるツールということです。世の中のメディアと比較し、自社に対する客観的な視点を得て新たなチャレンジをするために、とても有用だと考えていますね。
今後メディアが価値を提供するためには
―では最後に、オールアバウト社のメディア戦略として今後どのような展開を目指しているのか教えていただけますでしょうか。
素直に申し上げると、従来型のメディアでユーザーに提供できる付加価値は年々目減りしている印象はあります。これはユーザー数など数の話というより、単純に専門家の方々が活躍できる機会が世の中的に増えていることから来ています。ブログもSNSも発達した今の状況において、我々がメディアとしてどのような付加価値を提供するかは大きなテーマです。
また、ユーザーが情報を得る手段としてもっとも摩擦が少ないのがテキストコンテンツではあるものの、一方で、もっとも差別化しにくいのもテキストコンテンツだと思うんですね。もちろんそこに対して我々は違いがあると思っているので、引き続き良いコンテンツをユーザーに提供していきますが、それだけでは充分な売りにはならなくなってきた。
そこで今年から、専門家の方の魅力が肌感で伝わるように動画チャンネルを作り、主にマネーなどの情報をより身近に感じてもらえるようなコンテンツを届けるトライを始めています。
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ただ、そもそもオールアバウトという会社はビジョンとして「個人を豊かに、社会を元気に。」という言葉を掲げています。また、「システムではなく、人間。」というミッションも持っています。そのための手段として私たちはメディアを提供しているので、メディアよりもいい手段でその場所に近道で行けるのであれば、そちらを選ぶでしょう。個人の自立をより応援するために、新規事業も含めて様々なチャレンジを続けていければと思っています。
―本日はメディア戦略やeMark+の活用法、そしてAll Aboutの目指す場所など多くの示唆に富んだお話をお聞かせいただきました。お時間をいただきありがとうございました!
取材協力:株式会社オールアバウト
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。