Baiduの國井さんが見る中国デジタルマーケの今
ヴァリューズ 姜茹楠(以下、姜):本日は百度(Baidu)日本法人にて長らく中国市場と向き合ってきた國井さんに、2021年の中国デジタルマーケティングの現況についてお話をうかがえればと思っております。以前から中国向けデジタル広告の領域で一緒にお仕事させていただいていますが、あらためて、國井さんは最近どのようなご業務に携わっているのですか?
株式会社ヴァリューズ 姜茹楠(きょう・じょなん) 中国北京の出身。リサーチャーとして主に中国消費者を対象にしたアンケート調査、SNSやECデータの分析を担当する
Baidu Japan 國井雅史さん(以下、國井):現在は、2020年8月に新規事業としてリリースした中国向けの越境ECプラットフォーム「百分百(バイフンバイ)」事業の責任者を務めています。
Baidu Japan 事業企画・営業本部 国際事業室 室長
國井 雅史(くにい・まさふみ)さん
姜:ありがとうございます。では早速今日の本題に入りたいと思います。新型コロナウイルスにより消費者生活やインバウンド業界に激震が走った2020年ですが、中国でのデジタルマーケティング業界は現在、どのような状況なのでしょうか。まずは抽象度を上げてお聞きしてみたいと思います。
國井:はい、テーマが難しいですが……(笑)。まず、ふだん中国向けのマーケティングサービスを提供する先の企業様は大きく3つの分野に分かれています。ひとつはインバウンドを目的とするお客様です。業界で言えば、航空や鉄道、ホテル、商業施設やメーカーなど様々な企業様がいらっしゃいます。
もうひとつは越境ECの分野。ここはT-mall(天猫)や京東(ジンドン、JD.com)など、中国大手のECプラットフォームに出店しているメーカー企業様が多いです。ただ、日本でも同様だと思いますが、大手モールに出店するだけでは消費者はやって来ないので、ユーザー導線を作るためにリスティング広告やバナー広告などの広告施策を行っています。
最後のひとつが中国に現地進出している日本企業様で、中国国内におけるマーケティングを支援しています。この3分野のうち、新型コロナの影響でインバウンド業界はほぼストップしている状態です。
一方で、越境ECや中国進出の日本企業はアクティブに動けているのが現状です。特に中国国内は新型コロナからの回復が他国と比べて早かったのも功を奏しています。先のことはまだまだ予断を許しませんが、一時期は国内旅行も活発化しました。まとめると、中国市場はインバウンド領域を除けば通常のマーケットという感じを受けております。
中国越境ECに参入するプレイヤーは増加中
姜:2020年にインバウンド業界はほぼ停止した一方で、越境ECや現地進出はコロナ以前とそこまで変わりなく動いていたということですね。中国越境ECに新規参入する日本企業は増えているのですか?
國井:はい、増加していると思います。T-mallや京東など中国のECプラットフォームに出店するのは色々な意味でハードルが高く、以前から日本企業は大手メーカーを中心にプレーヤーは限定的でした。ただ、今回の新型コロナの影響で、新しく越境ECにチャレンジする日本企業様は多いですね。特にいまは第3次越境ECブームとも言われ、多くのメーカー様が取り組むようになっています。
姜:2020年のW11(=ダブルイレブン、11月11日に行われる中国の年間最大のショッピングイベント)は取扱金額の過去最大を更新しましたが、これに向けて越境ECにトライする日本企業が増えている印象もありました。2020年の中国ECシーンで特筆すべき新しい手法はありましたか?
國井:2020年もっとも注目されたのはライブコマースですね。特に2020年の上半期は外出が制限されていたので、ライブ配信でショッピング気分を味わえる購買体験が盛り上がりました。例えばショップの店員さんが店内で服を試着しながら商品の紹介をしたりします。ライブなので、その場で色やサイズ、質感などについて質問もでき、購入まで行えるような仕組みですね。
姜:特にライブコマースが伸びたジャンルはありますか?
國井:中国では比較的どのジャンルでも伸びている印象です。また、コマースでの利用以外にもライブ配信は様々なシーンで利用されており、例えば学校の補習を先生が生徒に向けてライブ配信していたりもします。今までもあったのですが、ライブ配信という手法がより注目されるようになったと言えます。個人的な印象ですが、中国の方は新しいテクノロジーに対して日本人より抵抗感なく導入していきます。人口規模の影響もあってか、サービスレベルをあげるPDCAサイクルも非常に早く、新しいムーブメントが広まるのもとても早い印象ですね。
姜:なるほど。Baidu Japanが立ち上げた越境ECプラットフォーム「百分百(バイフンバイ)」についてもこの流れでお聞きしたいです。まず特徴としてはどんなECプラットフォームなのですか?
國井:百分百(バイフンバイ)では基本的には日本で流通している日本の良いものを取り扱っております。大手企業様の有名商品というよりは、こだわりを持って作られている中小企業様の商品に軸足をおいて中国に向けて販売しています。また、越境ECでは通関手続きや配送が厄介なのですが、そこをプラットフォーム側でクリアし、日本から直送で中国のお客様に送ることができる仕組みを作っています。
姜:ヴァリューズでも日本企業が越境ECを行う際に何を出品すればいいのか、あるいは中国の消費者は何を求めているか知りたい、といった相談をよく受けるのですが、百分百(バイフンバイ)に出品したいお客様から悩み相談を受けたりもしますか?
國井:自社の商品の相談から、中国国内のマーケット環境、越境ECの実施方法、中国商標など多方面でご相談を受けております。基本的なスタンスとしてはクライアント様がやりたいことを実現できるようにしたいと考えています。もちろん、クライアント様の中国マーケットに対して向き合う姿勢があるかが非常に重要だと考えております。
姜:百分百(バイフンバイ)のターゲット層はいかがでしょうか?やはり、日本に興味があり、年代は主として30代以降、お金もそれなりに持っていている人でしょうか。
國井:中国消費者のターゲット層はそのイメージですね。現在、百分百(バイフンバイ)で扱っている商品は中国で大人気の日本商品というよりは、日本の工芸品や、こだわりを持って作っている商品が中心です。百度の「検索」という強みを活かして、日本の工芸品、文化などに関連するキーワードを検索した際に、検索結果からサイトに誘導をしております。リスティング広告というのは、知りたいことを能動的にキーワード検索するので、ユーザーニーズとマッチし、ターゲティング効果がとても高いのです。
より多くの企業様に中国マーケットにチャレンジしてみて欲しいという思いから、現在は出店したい日本企業様に関して、弊社側で商品をこだわって選定してはいません。販路を作りたいと考える企業様をサポートする意味合いが大きいですね。
Baidu Japanが運営する「百分百(バイフンバイ)」のTopページ。日本の工芸品特集も組まれている
「中国人リサーチャー」が重要な理由とは
姜:ここからは次のテーマに移りたいと思います。中国市場に向けたマーケティングにおいて「調査」はどのような意義があるとお考えでしょうか。
國井:調査にはアンケートやFGI(グループインタビュー)もあれば、有料や無料などいろいろなパターン・手法があると思います。また、そのシチュエーションとしては事業計画やマーケティングプランを作る企業の担当者様が、計画の根拠を作るために行うのが調査の位置づけだと考えています。
この点を前提に、調査を実施する意義としては2つあると考えています。ひとつは「仮説を立てる」という面。日本国内ではマーケターの生活感覚からある程度の仮説も立てられますが、海外の消費者のこととなると、ほぼ妄想になってしまいます。もちろん、多少言語ができれば、ニュースを調べたり、マクロ統計から情報は分かるでしょう。しかし、そうしたデータは自分たちの事業に落とすと意味がなくなりがちです。そこで、消費者の生の声を聞くアンケートデータに有用性があります。
もうひとつは、そもそもなぜ調査をするべきなのかという点。僕は極論、予算が有限だからだと思っています。予算が潤沢にあれば広告をたくさん打てばいいわけですよね(笑)。しかし現実に予算が限られている以上ターゲットを絞る必要があって、効率よくマーケティング施策を実施したいから調査が必要なのだと思います。
姜:ご相談をいただくなかでも、中国の消費者が普段どういう生活をしているのか、どんな価値観を持っているのか深堀りしたいというお話もあれば、予算をうまく使ってPDCAを回していきたい方もいますね。これまで國井さんにヴァリューズでの調査をご依頼いただいてきて、ご評価いただけたのはどのような点でしょうか。
國井:中国調査をできる会社は複数あり、相見積もりで他社さんを比較することもありますが、結局ヴァリューズさんを選ぶことが多くなります。理由はシンプルで、中国の方の目線が入ったアウトプットをいただけるからですね。
他社ではたいてい日本人リサーチャーの方が担当されますが、分析結果に意外性がない場合があり、発見や面白さが見えづらいときもあります。すると、中国市場に触れている僕たちの方が解釈の精度・理解度が高かったりする場合が多くなってしまって、リサーチ結果の可能性を探りづらくなります。
しかし、ヴァリューズでは姜さんをはじめ、中国の方の目線が結果に反映されています。だから市場感の共通認識を取りながら、リサーチ後の展開まで共にディスカッションでき、中国調査の文脈でとても良い面だと考えています。
姜:ありがとうございます。フェイス・トゥ・フェイスでおっしゃっていただけるとちょっと恥ずかしいですね(笑)。
対談の様子。取材はオンラインで行われた
決して簡単ではない中国市場…それでも狙うためには
姜:現在多くの日本企業が中国越境ECに参入し始めている状況というお話がありましたが、現時点で「勝ち組」と言える日本企業はありますか?
國井:僕が個人的に見る範囲では、ごく一部の有名企業だけという印象があります。早い時期から中国に現地進出し、長い期間をかけて市場を開拓し、ブランディング活動を行っています。だからこそ越境ECも黒字でしっかりと運営できているのだと思います。
ただ、多くの企業様は越境EC事業は赤字で行っているのではないかと考えています。よく聞く話としては、越境EC事業をブランディング活動と見ているということです。これから越境ECを始める企業様は、まずは色々な手法で、自社の商品を中国人消費者に知ってもらうことが大切だと思います。
姜:なるほど…。では最後に、中国市場に向けたマーケティングや越境ECの今後の展望について、國井さんのお考えを教えていただけますか。
國井:本来、越境ECや海外に向けたマーケティング活動は簡単に実施できるものではないと思っています。中国に向けて販促活動を考えるのであれば、日本国内で行うよりも難易度は高いと思います。生活環境の違い、地域性の違い、人口の違い、言語的なハードルもあります。自社でしっかりと把握できていないマーケットを相手にすることになるので、様々なギャップ、想定外の結果などに臨機応変に対応していくことが必要です。
どのような目線で中国市場を見据えているかが重要だと思います。インバウンド、越境ECを中国人消費者の嗜好性を捉えるためのテストマーケティングだと考え、商標の問題等も意識しながら、その先の一般貿易、現地進出…といった道のりを描いているか。そこまで意識した展開を考えている企業様は少数だと思っています。
海外展開の施策がコロナ禍でデジタルに限られているなかで、中国市場を攻めたいという思いがあれば、積極的に弊社にご相談いただけますと幸いです。中国市場は今後も伸びていきますし、Baidu Japanとして企業様がやりたいことを実現できるサービスの提供やサポートを続けていきたいと考えております。
姜:本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:Baidu Japan
マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。