中国で睡眠障害市場が急拡大。スリープテック製品も流行|中国トレンド調査

中国で睡眠障害市場が急拡大。スリープテック製品も流行|中国トレンド調査

中国では近年、睡眠障害者の増加によって睡眠障害市場規模が急速に大きくなりました。伝統的な安眠サポートグッズはもちろん、最先端のテクノロジーを用いた商品も続出しています。今回の記事では、中国の睡眠障害市場の現状と展望について分析しました。


中国の睡眠障害市場

睡眠障害市場は、不眠症や不十分な睡眠症候群などの睡眠障害を持つ者のニーズによって形成された市場です。安眠をサポートするための安眠グッズのジャンルは様々で、例えば、快眠枕や耳栓などの伝統的な安眠グッズもあれば、安眠ミストやスリープ系ガジェットのようなテクノロジーデバイスもあります。

中国中央電視台財経チャンネル『第一時間』の報道によれば、中国の睡眠障害市場の規模は4000億元(約6.5兆円)を超えており、2030までには1兆元(約16兆円)を超えるそうです。

中国睡眠研究会が昨年3月に公開した『全国民が自宅待機期間中の中国国民の睡眠白書』によれば、中国では3億を超えた人々が睡眠障害を患っています。そのうちの75%以上は23時以後に入眠し、25%近くは25時以後に入眠すると言われています。

また、自宅待機期間中、中国人の寝る時間帯は全体的に2〜3時間後退し、24時以降に就寝する人数はコロナ前より40%上昇、睡眠障害に関する検索量も43%増長したと、睡眠障害の傾向がある人数が増えていると考えられます。

自宅待機期間中の休み時間に関するグラフ

安眠サポートアプリ「Snail Sleep」による『2020国民睡眠報告』では、Snail Sleepのユーザーの平均睡眠時間は6時間46分であることが報告されています。特に、若者は寝る時間帯が遅く、お年寄りは睡眠時間が短い、北京や上海などの主要都市の住民の平均睡眠時間は他の地域の住民よりも短い、といった特徴があります。

中国の安眠グッズ市場の現状と展望

Tianyanchaのデータによれば、中国では2,400社以上の企業が「安眠」や「不眠」などの「睡眠」と関わる商品の経営・販売を目的としています。また、こういった睡眠関係の企業の62%はこの5年間に設立されており、特に2020年には470社も増加しました。

同じくTianyanchaのデータにより、アイマスクや耳栓、ディフューザー、安眠ミストなどの商品を経営・販売している企業は2692社にも達し、広東省や浙江省などに分布しています。また、これらの企業も半数近くはこの5年間に設立されています。

睡眠関係企業の数

スリープテック製品の流行

スリープテックとは、睡眠中にテクノロジーを活用して睡眠状態を把握することであり、前記の伝統的な安眠グッズ以外に、中国ではスリープテック製品も流行っています。

中国家電製品研究院測定技術研究所が発表した『2019年中国睡眠テクノロジー白書』では、スマートバンドやスマートウォッチなどの睡眠トラッカー製品の市場はこれから最も成長すると予測されました。

実際に、Samsungは2015年にイスラエルの医療機器会社「EarlySense」を合併吸収し、Appleは2017年にフィンランドの睡眠追跡デバイスと睡眠追跡アプリを販売しているテクノロジー企業「Beddit」を吸収合併するなど、世界中の大企業がスリープテックに焦点を当てて行動しています。

中国でも、HuaweiやXiaomiなどの企業はスリープテック製品を開発・販売しています。例えば、Huaweiは2018年に快眠モード付きのアロマライトを発売し、非侵襲的脳波観測設備メーカーの「回車」はスマートアイマスクを発売しました。

非侵襲的脳波観測設備メーカーの「回車」のスマートアイマスク

スリープテック製品の流行はまだ始まったばかりであり、スマートバンドやスマートベッドなどの製品の効用も睡眠の観測に止まっています。また、一部のユーザーはスリープテック製品の効果について懐疑的な態度も取っています。しかし、急速に発展しているテクノロジーを活用して良質な製品を開発できたら、そこには大きな商機があるに違いないでしょう。

快眠サポートアプリの普及

中国ではモバイル向けの快眠サポートアプリ市場の活性化も著しいです。
App Store上で「睡眠」と検索すれば、Snail Sleepや潮汐、小睡眠、睡眠助手など、20以上の快眠サポートアプリが表示されます。そのうち、Snail Sleepは2020年だけで1,800万以上のユーザーデータを収集することができました。

快眠サポートアプリの主な機能は、睡眠時間や寝返り回数などの記録と、浅い眠りからの目覚ましサービスなどがあります。

特に、Snail Sleepは安眠をサポートする基本的な機能だけでなく、ECアプリとしても利用することができます。Snail Sleepの「Snail mall」では、Snail Sleepが独自に開発したスマート枕などの安眠グッズをはじめ、化粧品や雑貨、食品などを販売しています。また、アプリ内で寝言記録をシェアをすることなど、SNSアプリとしても利用することができるため、ユーザーのロイヤルティが高いと言われています。

SnailSleepの快眠サポート機能

独特の寝かしつけサービス

睡眠障害の問題が深刻化している中、中国では大人の寝かしつけサービスが数年前に誕生しました。

このような寝かしつけサービスを提供する人は寝かしつけ師と呼び、仕事内容はWechatやテンセントQQなどのインスタントメッセンジャーソフトを用いて絵本を読み聞かせたり、歌を歌ってあげたりすることです。寝かしつけサービスの料金は1時間あたり60〜80元(約980〜1,300円)が相場となっています。

また、快眠サポートアプリである「小睡眠」は、2017年から吳克群(Kenji Wu)や王鴎(Angel Wang)など100名以上の芸能人を集めて、絵本の読み聞かせをレコーティングし、そのナレーションをユーザーに提供しました。この芸能人による寝かしつけサービスはとても大人気で、登場してからわずか9ヶ月で、2億超のユーザーによって利用されました。

一方、R18のASMR作品が存在しているように、エロティックな寝かしつけサービスを提供するところもあります。中国では子供に悪影響が出ることを防ぐために、公共でのアダルトビデオなどの鑑賞は禁止されており、エロティックな寝かしつけサービスも厳密に言うと、法に触れている要素もあるようです。例えば、昨年9月に、寝かしつけサービスを提供するアプリ「Lizhi」はこのような理由で一部のサービスを停止するように命じられました。

まとめ

スマート枕、快眠サポートアプリ、寝かしつけサービス。中国の睡眠障害者は睡眠を改善するために様々な方法を試してきたと同時に、睡眠障害市場の拡大を促進しました。

前記のように、安眠グッズの効果の不十分性や非合法性があるなど、中国の睡眠障害市場はまだまだ問題点もありますが、潜在市場は非常に大きく、これからも引き続き拡大すると考えられるでしょう。

<参考文献>

「熬夜时代迎“睡眠经济”黄金期?行业过半企业都是近5年才注册的」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1690586288674639196&wfr=spider&for=pc
「年轻人的睡眠经济,前途堪忧!」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1690766020763640076&wfr=spider&for=pc
「你还在“熬”生命吗?超3亿中国人有睡眠障碍,却使睡眠经济趋好」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1690485086086223719&wfr=spider&for=pc
「超3亿人存在睡眠障碍催生万亿睡眠经济,这两大行业受益明显」
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_9765677
「超3亿人失眠,千亿级睡眠经济兴起」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1683614023447193615&wfr=spider&for=pc
「“睡眠经济”睡着了吗?」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1676600943486826760&wfr=spider&for=pc
「2020全民宅家期间中国居民睡眠白皮书」
https://www.jianshu.com/p/e729e33eea64
「小睡眠升级睡眠服务2.0 携手爱豆哄你入睡」
https://m.chinaz.com/mip/article/1119405.shtml

​​

メールマガジン登録

最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします

この記事のライター

中国出身の留学生。立教大学大学院に在学中。

関連するキーワード


中国市場 中国トレンド調査

関連する投稿


ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の間で近年広がっている「无料(むりょう)」文化。日本語の「無料」という単語がもとになっているこの言葉は、コンサート、音楽フェス、映画祭、ミュージカルなどといったオフラインのリアルなイベントの場において、ファンたちが自作したグッズを無料で交換・配布する現象のことを指します。この記事ではこの独特な文化を深堀りし、その背景と共に人々がどんなグッズをどのように交換してこの体験から何を得ているのかを紹介します。


【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

コロナ禍を経て、世界的な健康意識トレンドは一層の高まりを見せています。また、その傾向は国を超えて共通する点が多く見られます。本レポートでは、中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリスにフォーカスし、各国ごとの健康×飲食品トレンドに対してデスクリサーチを基に調査。世界的に共通して見られる最新トレンドと、各国ごとの特徴を分析しました。海外消費者のニーズや価値観を把握し、インバウンド戦略にご活用頂ける内容となっています。※本レポートは記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

トレンドの変化が速い、と言われている中国市場。「最近、中国市場の変化が掴めない。言語の壁もあり、中国人生活者の考え方がよくわからない。」というのも多く耳にします。従来の調査には1ヶ月以上の時間が必要ですが、Web調査ツール「ValueQIC(ヴァリュークイック)」なら、定量調査のほかに、動画を介して、迅速に、中国人の実態調査を実施することが可能です。 第4回は、ワークショップ機能の特徴を事例とともにご紹介します。


中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国の電気自動車(EV)市場は、販売台数で世界トップを誇り、街には新ブランドの車があふれています。価格競争も激しく、「誰でもEVを買える時代」が到来したかのように見えます。しかし、その華やかな表舞台の裏では、値下げ合戦による収益悪化、生産過剰による中小メーカーの淘汰、中古市場の急拡大、そしてバッテリー寿命という深刻な課題が同時進行しています。本記事では、この急成長市場を揺るがす4つの課題を整理し、今後の行方を探ります。


最新の投稿


約7割が再来店につながらず...単発購入で終わる顧客が増加傾向?小売業のリピーター獲得に立ちはだかる壁とは【iTAN調査】

約7割が再来店につながらず...単発購入で終わる顧客が増加傾向?小売業のリピーター獲得に立ちはだかる壁とは【iTAN調査】

株式会社iTANは、小売店経営者・店舗責任者・マーケティング担当者を対象に、「小売業界における再来店促進と顧客接点の実態」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


「1円スマホ」の購入経験者は約1割も、機会があれば利用したい人は約5割と利用に前向きな姿勢あり【イード調査】

「1円スマホ」の購入経験者は約1割も、機会があれば利用したい人は約5割と利用に前向きな姿勢あり【イード調査】

株式会社イードは、スマートフォンやデジタルライフについてユーザー目線で最新情報をお届けするメディア「LiPro(インターネット)」において、1円スマホに関心のあるユーザーを対象に「1円スマホ」に関する関心・意向についてアンケート調査を実施し、結果を公開しました。


新興テック企業「Nothing」。2年で7倍成長の理由を世代別に分析

新興テック企業「Nothing」。2年で7倍成長の理由を世代別に分析

ロンドン発、今注目のテクノロジーブランド「Nothing(ナッシング)」。2020年の設立以来、スマートフォンやオーディオ製品を中心に、透明感ある唯一無二のデザインと高い性能で、多くの大企業がひしめくテック業界で急速に存在感を高めています。そんな革新的なNothing製品は、どのような人々に支持されているのでしょうか。本記事では、Nothingのサイト訪問者データをもとにユーザー像を分析し、なぜNothingが注目を集めているのかを年代別に考察していきます。


電通デジタル、リテールメディアが生活者にもたらす購買行動とブランド指標への影響についての調査結果を公開

電通デジタル、リテールメディアが生活者にもたらす購買行動とブランド指標への影響についての調査結果を公開

株式会社電通デジタルは、生活者のリテールメディアへの接触が購買行動およびブランド認知に与える影響を明らかにするため、「2025年 リテールメディア調査」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ