1.2021年の学習塾政策の動向
今年の2月には、中国中央テレビが「学習塾産業は新しい大人気の産業になり、人気教師の年収は概ね100万元(およそ1,666万円)を上回るようです。」と報じていました。
データによると、2020年第4四半期の「大学生の就職で人気のある10業種」のランキングでは、教育・学習塾産業がインターネットや不動産を抜いて2位となり、2020年の採用需要は2019年に比べて36%も上昇していたことが判明しました。
また昨年の「2020 China Education and Training Industry Report」によると、もともと中国の教育産業の規模は、今後も8%以上の複合年間成長率で上昇を続け、2023年には教育産業の規模が4兆元(約67.8兆円)を超えると予想されています。
中国における教育産業の規模
ところが、今回の「二重削減」政策の公表に伴い、関連する教育産業のリストラや株式の下落などの影響が相次いでいます。
実は今回の政策変更も急なものではなく、以前から中国政府の政策により、全国の学校外学習塾教育に対する規制は強化され続けていたようです。
2021年1月、中国当局は小中学生向けのオンライン教育問題に対処するために、5つの文書を公表しました。
4月から5月にかけて、中国のいくつかの省や市では、地域の課外学習塾のビジネスを規制する新しいガイドラインが公表されました。 例えば、広州市教育局は5月25日、学校外学習塾を規制するための注意事項を発表し、「5つの厳守」を掲げています。(5つの厳守とは、「無認可の学校教育をしない」「事前に課金しない」「過剰な教育をしない」「教師の条件を厳しく規制する」「虚偽の広告をしない」というものです。)
5月初旬、教育規制当局は、アリババとテンセントがそれぞれ投資する課外学習塾プラットフォーム「Zybang」と「猿補導」の2社に最高250万人民元(約4,200万円)の罰金を科しました。
そして5月21日、「二重削減」の意見が可決され、学校外の学習塾が包括的に規制されるようになりました。
「二重削減」の意見
2.今回の政策による影響
■① 教育産業の株式下落
データによると、中国の学習塾企業は、米国の株式市場で約1,000億米ドルの価値を失ったと判明しました。
米国ナスダックに上場している「新東方」社の株価は、今年に入ってから半減し、同じく米国で上場している「高途」社の株価も、2021年に73%も下落しているとわかりました。
■② 教育産業の変革
教育機関に変革を迫り、今回の政策によると、保育園・幼稚園向けの一部の教育サービスが規制対象となりました。
実際にオンライン教育への規制は、オフラインの教育機関よりも先に2月から始まったようです。
北京市教育局は2月5日にオンライン教育機関に対し、現役教員の情報確認など、全ての教員が教職の資格を持っているかどうかを確認するよう求める政府文書を出しています。資格のない教師を中心に販売しているコースはすべて市場からの撤退を求められます。 この文書は、ほぼすべての大手オンラインスクールに影響を与え、一部の学習塾が授業コースを提供できなくなったケースも続々と報じられています。
3月下旬、中国中央テレビはオンライン教育の広告放送を中止し、TikTokやWeiboなどのSNSに掲載されたオンライン教育の広告数も激減したと見られます。
4月24日、北京市教育委員会は、「学而思オンラインスクール」「高途課堂」「網易有道精品課」「猿補導」のオンライン教育大手4社に対し、入学金、広告宣伝、授業コースなどの面における規則違反への是正や、未就学児向けコースの提供を停止するよう命じました。その主な理由は、中国教育部(文部科学省)の『幼稚園と小学校の科学的連携の推進に関するガイダンス』に準拠し、学外の学習塾企業が未就学児に教育を行うべきではないとするからです。
■③ 教育産業のリストラ
ByteDance社の張一鳴氏は、教育産業がByteDance社の新しいビジネスへの挑戦であると述べています。しかし、今回の政策が原因で、ByteDance社をはじめとする有名な課外授業プラットフォームの多くは、スタッフのリストラを行っているようです。
大力教育(ByteDance社)が運営する4歳から12歳までのオンライン児童英語1対1学習プラットフォーム「GOGOKID」は、8月5日以降、ライブクラス事業の完全停止と保護者への返金を発表しました。
ByteDance社の関係者によると、リストラの補償については、「瓜瓜龍」「清北網校」「你拍」などのプロジェクトでは、N+2の補償プラン(仕事年数+2ヶ月の平均賃金というリストラにあたる経済的補償)を実施し始めたようです。また一部のスタッフを他部署に異動させたり、新しいプロジェクトに投資したりしていると明らかになりました。
ByteDance社のリストラは決して稀ではなく、「猿補導」「VIPKID」「Zybang」などの大手オンライン教育企業もリストラを行なっているようです。
大力教育(ByteDance社)のビジネス展開
3.今後の展望
■① 学生や保護者という側面
今回の政策は学生や保護者にとっては一時的な負担軽減になるでしょう。
教育機関の財務監督の強化、学生と保護者の権利と利益を保護することに加えて、過大な進歩・学習、短期的なスコアアップに対する功利的な需要を抑制しようとするものでもあるでしょう。すなわち保護者の考え方を根本的に変え、保護者の教育に対する不安という課題を解決できることが期待されます。
ところが、高校・大学受験のプレッシャーが変わらない中で、中国の保護者の学校外教育に対する需要は、今後も拡大していくと考えられます。
■② 教育機関という側面
教育機関にとっては、変革こそが唯一の道です。大規模な教育関連企業は資金調達ができるため存続できますが、中小規模の事業者は今回の変革の中で消滅する可能性があるでしょう。
■③ 新しいビジネスモデル
学校内と学校外の間で教育サービスの連携
今後は、質の高いコンテンツを持つ学校外教育機関が、学校の既存システム・プラットフォームと連携することを通じて、独自のカリキュラム・リソースを学校内の伝統的な教育システムと融合し、学校内教育サービス利用率を向上させることができると考えられます。
義務教育に対する新しいニーズ
中国における伝統的な教育システムは非常によく構築されてきましたが、国語や数学、外国語科目の点数だけで生徒の将来が決まることは、合理的判断ではないでしょう。
新しい世代の中国の若者には、強い体作り、機敏な思考力、コミュニケーション能力、協調性、さらには中国の伝統文化に基づく美的能力など、より総合的な能力が求められています。こうした新しい教育ニーズの中で、充実した多角的な教育は求められるでしょう。
以上のことから、今後、新政策の導入は教育業界にいかなる変化を起こせるのかが期待されます。 金融や不動産など多くの業界では、これまでより厳しい政策がとられていましたが、政策が施行された後、業界全体が悪い状況から徐々に良性かつ積極的な発展へと移行していきました。教育関連企業も、教育者としての初心を忘れず、本質に立ち返り、長期的な視点から業界の方向性を見据える必要があるでしょう。
4.まとめ
今回の政策が「3人の子供」政策を補完する政策であり、教育・学習塾産業への規制にあたって国家レベルの決意が確認できました。
現在、中国の若者が子供を持つことに消極的であると言われる理由は、「教育資金が足りない」点にあります。中でも教育資金の不足は多くの一般家庭の課題であると言われています。
こうした教育に対する不安が強まる中、今後、国家は学生の負担を軽減するだけではなく、「三人っ子政策」を推進するためにも、人口減少の根底にある教育問題を解決するためにも、教育産業をさらに規制する必要があるでしょう。
参考URL
「字节教育大缩水?各校外教培机构集体熄火」
https://www.163.com/dy/article/GGQICBK60519F5EB.html
「教培新政的最全解读」
https://xw.qq.com/cmsid/20210518A0BW5400
「2021年校外培训政策发展趋势」
https://sxy.91goodschool.com/wz-100662.html
「教育部发布新规定,今年暑假正式实施,校外补习班欲哭无泪」
https://www.163.com/dy/article/GE7D2HGF0536REWL.html
「教育部 2021 工作部署将大力治理整顿校外培训机构,会对学生、家长、学校和教育培训行业带来什么影响?」
https://www.zhihu.com/question/442834254/answer/2024874245
「字节跳动旗下大力教育大批量裁员,赔偿 n+2,具体情况如何?被裁的员工将何去何从?」
https://www.zhihu.com/question/477422286/answer/2049795544
慶應義塾大学在学中。