近年、拡大し続けている動画配信市場。2021年度は推定4,230億円(前年比114%)、そして2026年にはおよそ5,250億円まで成長すると推計されています(※)。一方で、さまざまな企業やメディアが動画領域に踏み込む中、「期待された結果が出ない」「運用改善がわからない」と課題を抱えることも多いのではないでしょうか。
「課題解決には動画視聴者アンケートを活用するのがオススメ」と話すのはリサーチャーの菅原大介さん。今回は動画需要が高まる背景や、動画視聴者アンケートの手法・効果についてお話しいただきました。
(※)一般財団法人デジタルコンテンツ協会『動画配信市場調査レポート2022』より
企業やメディアで動画重要が高まるワケ
――昨今、企業やメディアにおいて動画の需要は高まっていますが、この背景を菅原さんはどのように見ていますか?
菅原大介(以下、菅原):ブランドやサービスの認知獲得のため、動画を作成して配信していくという座組みは以前から行われていました。しかし最近ではプラットフォームの多様化に伴い、動画を公開・配信する目的も多様化してきていると感じます。動画配信の目的として購買の要素が入っていたり、あるいはコミュニティ醸成が目的だったり、役割が広がっていますね。同時に企業やメディアの動画配信にも工夫が見られます。
――動画配信の目的はさまざまあるなか、今回菅原さんにお話いただく「動画」はどのような位置付けですか?
菅原:情報コンテンツやキャンペーンの告知、あるいは生配信のイベント、LIVEコマースなど、動画は目的別にさまざまな種類があります。今回の動画の位置付けはサービス認知や購買などのマーケティング活動が目的のもの。いわゆるバズを狙ったような動画は対象外です。
――サービス認知や購買目的の動画コンテンツが出てきたタイミングはいつ頃ですか?
菅原:おそらく2021年前後からでしょうか。動画をサービス認知や購買のKPIに結びつけようと工夫する例として、ジーンズなどのカジュアルラインを取り扱っている小売店「RIGHT-ON」の事例があります。RIGHT-ONではハイクオリティな商品を提供してきたアウトドアブランド「キャンプセブン(CAMP7)」の販売を始めたと同時に、RIGHT-ONのWebサイト上でキャンプセブンの商品を動画で紹介していました。
動画の中では、実際にキャンプなどのアウトドアシーンでCAMP7の服を演者が着用し、ユースケースを具体的に視聴者に伝えています。LIVEコマースのように直線的に売り込んでいくというよりかは、キャンプ動画の中のところどころにファッションコーディネートのシーンが織り込まれていて、広告要素とコンテンツのバランスがとてもうまくできているなと感じました。
動画視聴者アンケートと2つのメリット
――動画の需要が高まっている背景を踏まえ、今回のメインテーマの「動画視聴者アンケート」とはどのようなアンケートですか?
菅原:動画視聴者アンケートとは動画訴求を通して視聴者から回答を集め、自社の動画運用やサービスや商品を改善していくことを目的に行うアンケートのことです。
――動画視聴者アンケートのメリットを教えてください。
菅原:動画視聴者アンケートのメリットは2つあると思っています。まず1つ目は、配信要件を最適化できることです。
動画の配信企画が成功するかどうかは視聴者の習慣によって左右されますが、読者アンケートを用いることで、動画に対する生活習慣や視聴目的を尋ねられます。配信プラットフォームや配信・投稿時間帯、配信・再生時間、またはアーカイブの有無などによって、視聴者が見たいか・見たくないかに関わらず、物理的に見られるか・見られないかが決まってしまいます。そこで読者アンケートを使うと、視聴者の動画視聴習慣を把握でき、運用のベースとなる配信要件を最適化して動画の視聴確率を上げられます。
――2つ目のメリットは何ですか?
菅原:企画や演出を強化できることです。動画の効果検証にはインプレッションや再生数、再生時間、シェア、購買数などさまざまな指標が存在しています。実際に運用ではアナリティクスのツールで成果を確認していくと思います。しかしデータだけ見ていても、内容面の改善・対策は立てにくいものです。
ここで読者アンケートを使い、動画の中身に焦点を当てた質問をすることで、演者や企画の効果を問います。アンケートではファンユーザーだけでなく、今後ファンに結びつけたいノンコアのユーザーも対象にしてアンケート設計をしていくと、効果的な企画演出を把握できますよ。
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「動画視聴者アンケート」の4つのモデルケース
――実際に「動画視聴者アンケート」を行なっている事例を教えてください。
菅原:動画コンテンツは視聴者の日常における1つのイベント体験です。生配信などのライブ的な要素をもったコンテンツも、定常的な投稿も同じ価値をもつはずであり、同様に検証対象として見ていくことをオススメします。今回は最近見かけた、動画視聴者アンケートの4つのモデルケースを紹介しましょう。
■1.実態把握モデル
菅原:1つ目は実態把握モデルで、視聴者の自社動画視聴習慣の把握に使います。視聴者の動画視聴習慣を把握していくことがアンケートのポイントです。実態把握モデルはどの企業やメディアでも実施しやすく、動画コンテンツを立ち上げたばかりでも運用の参考にしやすいモデルです。
――実態把握モデルの質問構成を教えてください。
菅原:主に視聴習慣、視聴形態、視聴目的の3つで構成されます。「視聴習慣」では自社動画の視聴頻度を確認します。注意点としては配信・投稿頻度によって回答が左右されるため、「週に1回」「月に1回」などの選択肢ではなく、「ほぼ毎回」「ときどき」などの選択肢で構成しておくとよいでしょう。
次に生配信・アーカイブなどの「視聴形態」を確認します。そして最後は「視聴目的」を確認。動画コンテンツのテーマのほか、出演者やコメント・チャット、情報発表、暇つぶしなど、視聴する目的を尋ねます。動画コンテンツの企画や演出、編成の強化ができますね。
――実態把握モデルの事例はありますか?
菅原:「WBS ワールドビジネスサテライト」の視聴者アンケートの例が挙げられます。夜の激戦区である放送時間帯を考えると、番組開始からの視聴時間(≒完全視聴率)の回答は有効な情報です。また経済コンテンツや経済コメンテーター、経済界の人的ネットワークをなどの選択肢を通じて番組の強みを検証していました。
■2.希望聴取モデル
菅原:2つ目は視聴者層に最適な動画編成の確認に使える「希望聴取モデル」です。動画の配信や投稿のルーティンは自社の運営形態や営業時間によってある程度決まってしまいがちですが、アンケートを使うと視聴者側の事情も考慮に入れられます。ある程度、動画運用に慣れた企業やメディアにオススメのモデルです。
――希望聴取モデルの質問構成を教えてください。
菅原:希望頻度や希望時間、希望時間帯で構成し、希望ベースでの視聴者の分布や割合を把握します。あくまで視聴者の希望であり、運営上の理由ですべて実現するのは難しいかもしれません。しかし作り手都合になりがちな配信や投稿を、アンケートを取ることで視聴者希望へと調整する余地を模索できます。
――希望聴取モデルの事例はありますか?
菅原:株式会社ミクシィのエンタメ事業ブランドXFLAG(エックスフラッグ)が運営するパズルRPGゲームアプリ「コトダマン」のユーザーアンケートの例を見てみましょう。「コトダマン」ではアプリ側のイベント実施と並走するように定期的にユーザーアンケートを実施しています。質問を通じて、頻度・分数・時間帯などの配信実施要件の希望を視聴者から聴取して、YouTubeでの生配信イベントに役立てています。
生配信・アーカイブ問わず、配信の実施要件を生活のルーティンにフィットさせる取り組みは重要であり、「○曜日の○時にアクセスすると見たい情報(コトダマンでは最新情報や攻略情報など)がアップされる」という意識を育めますね。
■3.効果測定モデル
菅原:3つ目の効果測定モデルは、動画コンテンツに登場した演者の起用効果や意識変容の確認に使います。商品・サービスの魅力を伝える動画ではだれが薦めているかは重要な要素です。タレントやYouTuber、インフルエンサーの起用効果を検証できます。
――効果測定モデルの質問構成を教えてください。
菅原:アンケートでは動画認知や動画印象、動画効果の質問を通じて、イメージキャラクターを起用したことによるブランドの認知や印象の成果の差分を把握できます。ユーザーのアカウントがアクティブかパッシブかも取得しておくことで、既存と新規それぞれへの効果の程度も見極められます。企画のアップデートのたびにアンケートを実施しておけば、前回比較による成果をいっそう認識できます。
――効果測定モデルの事例はありますか?
菅原:ゴルフゲームのロングセラー「みんゴル」(アプリ)のユーザーアンケートの事例です。アンバサダーの起用効果を検証するため、利用動機や公認YouTuberの認知を尋ねていました。また希望の動画企画(自由回答)では企画の切り口とバリエーションが重要になるYouTube展開において、ファンおよび視聴者の声をもとにアンバサダーの効果的な起用を模索しています。
■4.実演企画モデル
菅原:最後は世界的に成長産業であるライブコマースとも通ずる、実演企画モデルについて紹介します。実演企画モデルは実演販売で購入を促す演出の検討に使われます。
――実演企画モデルの質問構成を教えてください。
菅原:実演企画モデルでは総じて、自社または他社のライブコマースメディアを調査対象とします。まず「購入商品」の質問で購買実績が高いカテゴリを確認し、実演販売に向く自社の商材や演出を把握。つぎに「購入の後押しになった演出」を尋ね、過去に動画配信や再生中に購入のきっかけとなったポイントを探ります。実際の視聴者の回答を見てみると、商品説明や価格発表、コメントなどが上位に上がりますね。最後に「購入時の気分や感情」の質問を投げかけ、人を動かす動機になる演出の強化に繋げていくのです。
この調査モデルで目立った企業事例をまだ見たことはないのですが、ECや動画/コミュニケーションSNSのプラットフォーマーがこぞってライブコマース事業に参入しているここ数年の現状を見ると、今後リサーチのニーズが増していくテーマだと考えています。
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動画視聴者コンテンツの需要は今後も高まる?
――動画視聴者アンケートが向いているのはどのような業種やコンテンツのアカウントでしょうか?
菅原:動画を制作・発信できる環境であれば、どの企業やメディアでも動画視聴者アンケートは行えます。動画コンテンツを作るとなると、「ライブで何かやらなきゃいけない」「LIVEコマースのように作り込んでいかなきゃ」などと思ってしまいますよね。ただ動画視聴者アンケートに関しては、それらに関係なくまずは自由にやってみてください。
向いているコンテンツはないと思っていますが、しいて言えば“サービス系”よりも“モノ”を所有している企業やメディアの方が、絵として視覚的に訴求していける点で動画コンテンツと相性がいいとは思います。
――動画視聴者アンケートの実施間隔はどの程度あけるのがいいでしょうか?
菅原:実施のサイクル設定で重要なのは、一定の視聴者が存在しているタイミングで行うことです。目安としてはフォロワーがある程度集まったときや、一定間隔で動画コンテンツの運用が行えるようになったとき、LIVEコマースなら商品が何点か売れ始めたときが良いタイミングかなと思います。
――では、動画視聴者アンケートを実施する場合、動画はどの程度の長さが多いですか?
菅原:相場はまちまちで、企業やメディアによってもだいぶ異なる印象です。ドラマや番組のようにストーリー仕立てで制作されている動画の場合は大体30分から120分程度です。サービスのノウハウを伝えていく動画の場合は1分から15分程度の主流ですね。その差は結構広いですが、自分たちが制作できる範囲で行ってみていいのではないでしょうか。あるいはアンケートで、動画の長さについて尋ねてみてもいいかもしれませんね。
――最後に今後の動画運営において、菅原さんが大切だと思われる点を教えてください。
菅原:雰囲気の作り方でしょうか。雰囲気作りができているケースだとコメント欄が活発になり視聴者に応援してもらいやすい環境ができます。応援してもらいやすい企業やメディアだと、商品やサービスの購買にも繋がりますし、この点「雰囲気作り」は大切といえるのではないでしょうか。こうした点もアンケートで視聴者から聞き出すことで、データだけでは見つからない視聴者の価値観が浮かび上がってくるはずです。ぜひ試してみてください。
▼今回菅原さんにお話しいただいた周年キャンペーンでのアンケート施策については、菅原さんのnoteでもまとめられています。ぜひ併せてお読みください。
動画コンテンツの視聴者フィードバックをアンケートで集める方法|菅原大介|リサーチャー|note
https://note.com/diisuket/n/n7c8fbf512eab近年、企業が生み出す動画コンテンツは、「情報コンテンツ・キャンペーン告知・生配信イベント・ライブコマース」などの形で展開され、インパクト・情報量・ライブ性・シリーズ展開などの訴求力の高さから、最重要のコミュニケーション施策の一つです。 一方で、「労力の割に露出が伸びない」「企画演出の判断基準が無い」「タレント起用効果が不明瞭」など、継続的な運営や効果的な活用に至るには改善活動が欠かせず、動画配信における露出力・訴求力・計画力に対する懸念事項は尽きないものです。 そこでおすすめしたいのが「動画の視聴者アンケート」を実施する方法です。
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業でマーケティング戦略・中期経営計画・UXデザインを担当する。
会社では小売・サービスの分野における市場調査・ユーザーリサーチ・プロダクトリサーチを担当し、自身もマーケティング・広報・店舗開発の実務経験を有する。また、スタートアップから大企業まで各規模のIT企業でリサーチ組織の立ち上げ経験を持つ。
個人でも「リサーチハック」をキーワードに、リサーチの魅力や技能を普及させる著述・講演活動に取り組み、業界・職種・施策・課題ごとの調査設計やデータ分析のノウハウが、マーケティング・調査メディアでの寄稿やセミナー・研修会で好評を得ている。
主な著書に『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』『新・箇条書き思考』(ともに、明日香出版社)がある。
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