■スピーカー紹介
図:スピーカー紹介
情報探索行動のリアルを表す「バタフライサーキット」
株式会社ヴァリューズ 齋藤義晃(以下、齋藤):「バタフライ・サーキット」は、Google社とヴァリューズの共同研究で開発された、Web上の購買行動にもとづく情報探索の行動モデルのことを指します。
「AIDMA」や「AISAS」といった従来の情報収集モデルでは、ブランド認知から購入までが「認知・検討・購入」の順で直線的に進むというイメージで捉えられていました。しかし、Web行動ログデータをもとに実際の情報探索行動を調査したところ、商品の選択肢を広げる「さぐる」動きと、選択肢を絞っていく「かためる」動きが何度も繰り返されており、情報探索が必ずしも一直線に進んでいないということがわかりました。
下の図の左側で言えば、階段を一つ飛ばしで進むこともあれば、上の段に戻ることもあり、そうした行動を行ったり来たりしているということですね。
また最近はスマートフォンによる情報探索が増加していることに伴い、瞬間的、直感的な「パルス消費」が増えているといいます。このことを鑑みると、ぐるぐると蝶の動きの様に動く情報探索行動である「バタフライ・サーキット」が、現代の情報探索行動のリアルだと考えます。
図:バタフライ・サーキットとは
齋藤:この「さぐる」「かためる」行動を8つの動機に整理したものが今回のフレームワークとなります。
具体的に列挙すると、商品の選択肢を広げる「さぐる」に該当するのが、
・気晴らしさせて
・学ばせて
・みんなの教えて
・にんまりさせて
となり、商品の購入を絞っていく「かためる」を意味するのが、
・納得させて
・解決させて
・心づもりさせて
・答え合わせさせて
となります。
例えば「学ばせて」を見ると、今まで知らなかったことに関して網羅的に知識を得たいということが動機となっており、一方で商品を固めていく行動の「心づもりさせて」では、購入したサービスや商品に後でがっかりすることのないように、予め期待値を下げるような動きが見られます。
図:情報探索を掻き立てる8つの動機
齋藤:「バタフライ・サーキット」はYouTubeの公式媒体資料にも活用されるなど、様々なシーンにおいて、Googleさんがご活用されています。
図:YouTubeの公式媒体資料にも活用されるフレームワークに
「バタフライ・サーキット」を用いたコスメ購買行動の分析事例
齋藤:「バタフライ・サーキット」を活用し、コスメの購入における情報探索行動を分析した事例をご紹介します。
「商材×バタフライ・サーキット」という粒度で見ていくと、商材ごとに優位になる動きが異なることがわかりました。例えば、口紅・リップライナーは「色々な商品が見たい」という「さぐる」動きが優位である一方、化粧水は「自分に合う商品がほしい」という「かためる」動きが優位になっているというように、商材によってそれぞれ優位になる動機の違いが把握できています。「メイクは楽しみながら、スキンケアは確実に」という消費者心理が見て取れます。
さらに8つの動機別に見ていくと、「ファンデーション」「アイシャドウ」「美容液」で動機の強さが商材ごとに異なっていることが明らかになりました。
図:商材×バタフライ・サーキット~商品別と8つの情報探索モチベーション
■広告クリエイティブで、8つの情報探索モチベーションの反応率はどう変わる?
齋藤:続いて、「バタフライ・サーキット」を実際のマーケティング活動にどのように活用していけば良いかを考えた時、情報探索モチベーションによって、刺さるコミュニケーションも異なるのでは?という仮説を立てました。
そこで、架空の化粧水のオンライン広告クリエイティブを制作し、それぞれの反応率の実験を行いました。制作したのは2種のクリエイティブです。
⚫︎機能を表現したクリエイティブ
⚫︎気持ちを表現したクリエティブ
異なる情報探索モチベーションを持つ人に「どちらの広告に興味を惹かれるか?」という調査をしたところ、反応に大きな差が見られました。
「機能を表現したクリエイティブ」は、「かためる」文脈の「心づもりさせて」という動機で情報収集をしているユーザーの反応が良く、「さぐる」文脈の「気晴らしさせて」という動機を持つユーザーの約2.6倍の反応率となっていました。
一方、「気持ちを表現したクリエイティブ」においては、「心づもりさせて」ユーザーの反応がイマイチだったのに対し、選択肢を広げたい「さぐる」文脈の「みんなの教えて」という動機を持つユーザーの反応が良いという結果になりました。
図:広告コミュニケーション×バタフライ・サーキット
齋藤:この調査結果から、広告クリエイティブにも「さぐる」「かためる」モチベーションによる選好が起きていると考えられます。
したがって、プロモーション領域においても「さぐる」「かためる」の8つのモチベーションに合わせた「バタフライ・サーキット」の理解が必要といえます。
「バタフライ・サーキット」にもとづくクリエイティブ開発
齋藤:マーケティングにおいては、消費者の動機とそれに対応するトリガーを整理し、有効なクリエイティブを開発していくことが重要です。
そこで、「バタフライ・サーキット」を通して捉えた消費者の情報探索動機にもとづき、デジタルマーケティングに活用するクリエイティブをどのように開発するかという方法をお伝えしたく思います。
個人的に「バタフライ・サーキット」に最も注目しているポイントは、消費者が選択肢を広げようとする動きに注目している点です。情報探索の階段の下から上に戻るような動きのことですね。
なぜここに注目するのか、「解釈レベル理論(Trope&Liverman)」という概念をご紹介しつつ、ご説明できればと思います。
■「解釈レベル理論」の紹介と、その課題
齋藤:解釈レベル理論とは、人は同じ対象でも心的距離感が異なれば、捉え方が変わってしまう、という理論です。
下図では、引っ越しをする際の心理を例に挙げています。①は時間の経過、②は引っ越す場所の変化、それぞれによる心的距離を表現しています。
図:解釈レベル理論とは?
齋藤:具体的に説明すると、①は時間の経過に伴って、より具体的な要素に注目するようになるということです。
引っ越しの6か月前は立地や間取りといった望ましさに注目し抽象的だった視点が、引っ越しが近づいた1か月前になると、家賃や予算など、より具体的な要素に注目するようになります。
このように注目する視点が逆転することを「選考逆転」と呼びます。
続いて②の、自分が経験のないような心的距離の遠い事象について考える際は、住んだことのない土地への望ましさといった抽象的な視点に注目し、まさに「隣の芝生は青いといった」現象が起こり、自分の現状というより具体的な要素の方が注目しにくくなってしまいます。
ここから言えるのは、人は対象に対して心的距離感が変わると、注目するポイントが変わってしまうということです。
この解釈レベル理論から得られる示唆としては、心的距離が近い場合、商材が持つ本来価値(機能性等)のほか、「使いやすさ」などの副次的な属性の評価が増すということ。
距離が遠い場合、本質的な属性、望ましさ、Why(なぜ)を重視する傾向にあるということです。
とはいえ、解釈レベル理論の課題も無いわけではありません。
1つ目は個人の特性によって左右されうること、2つ目は心的距離感はあくまで主観的な距離感であるということも、解釈レベル理論の課題として指摘されています。
■主観に依存しないのが「バタフライ・サーキット」の強み
齋藤:一方「バタフライ・サーキット」では、「選択肢を絞る(対象に近づく)」「広げる(対象から遠ざかる)」動きを消費者がぐるぐると繰り返し、こういった行動は個人の性質に依存しにくいと考えられます。
言い換えると、「選択肢を絞る」と「広げる」ことが情報収集の「向き」として逆向きであることで、「遠い」から「近い」の一方通行の中で距離感がプロットされません。つまり、個人の特性によらず、解釈レベルが揃いやすいことが、「バタフライ・サーキット」の注目ポイントではないかと考えています。
図:解釈レベル理論を受けてバタフライ・サーキットに再注目
■「かためるクリエイティブ」と「さぐるクリエイティブ」の特徴
齋藤:前述をもとに、本日は「かためるクリエイティブ(かたクリ)」と「さぐるクリエイティブ(さぐクリ)」というワードを仮称として、「かためる」文脈の動機、「さぐる」文脈の動機それぞれに合ったクリエイティブをどのように開発していくかをお話ししたいと思います。
まずは「かためるクリエイティブ」についてお話します。
これは解釈レベル理論に準じた仮説となりますが、心的距離感が近づいている状態で、より具体的な訴求が有効であり、How的な訴求、実現可能性を評価しやすい訴求が効果的です。
例として「納得させて」を見てみます。このケースの場合、商品・サービスを使うことに対して納得感を得たいという動機に対する解決策として、求めるクリエイティブとしては「ベネフィット訴求」が有効かと考えます。要は、この商品・サービスを使うと、私にとってどんな良いことがあるのか?どのような自己実現ができるか?という点を訴求するものです。
図:かためる動機が求めるものと解決策
齋藤:続いて「さぐるクリエイティブ」も見てみましょう。
解釈レベル理論に準じた仮説としては、心的距離感が遠ざかっていく状態で、抽象的・本質的訴求が有効であると言え、Why的な訴求、「望ましさ」を評価しやすい訴求が効果的です。
ここでもひとつ例として「学ばせて」を見てみます。
知らなかったことに対して知識を得たい、という欲求の「学ばせて」ユーザーに対しては、個人の興味に役立つインフォメーション、例えば一般知識に関する理解などの「啓蒙コンテンツ」をあてて、その上で消費者の「課題」を指摘することが必要となります。
図:さぐる動機が求めるものと解決策
齋藤:では、「さぐるクリエイティブ」と「かためるクリエイティブ」の訴求では何が違うのでしょうか?
「かためるクリエイティブ」に関しては商品・サービスが主語になり、「さぐるクリエイティブ」においては「私(消費者)」が主語になると整理できます。「私の興味に合うことが知りたい」、あるいは「他の人が何を選んでいるのか知りたい」という「人」視点での上方こそ、「さぐる」動機が求めるものです。
「さぐるクリエイティブ」は「かためるクリエイティブ」と比べ、より人間の欲求や気持ちに接続した動機に即したものである必要があります。
ここで、先程ご覧いただいた架空の広告クリエイティブの反応について、振り返りたいと思います。
8つの情報探索の文脈において反応率の差を調査してみたところ、結果がきれいに二分されました。
「さぐる」モチベーションには気持ちを表現したクリエイティブの方が反能率が高く、「かためる」モチベーションに関しては、より機能を具体化したクリエイティブの方が高いという結果となっています。
図:Q.オンライン上で接触したとき、興味を持つと思う広告は?
■バナーとLPの両者に「バタフライ・サーキット」を活用
齋藤:ここまで、「かためるクリエイティブ」「さぐるクリエイティブ」のお話をして来ましたが、これらには「理性」と「感情」という整理も可能かと考えます。
「人は感情でモノを買い、理論で納得させる」という言葉がありますが、デジタル上ではそのサイクルが非常に短期間に繰り返されるということが、Web行動ログデータを通じて確認できています。
ヴァリューズでは今、「かためるLP」「さぐるLP」といった視点から、バナーだけではなく、実際の遷移先として何を伝えていくのかというご支援もさせていただいております。
コンテンツとテキストをセットで用意して初めて、クリエイティブのアセット(資産)となります。より消費者の動機に寄り添った資産を制作し、PDCAを回すことが重要です。
図:Googleと共同研究を行ったヴァリューズからの提案のまとめ
まとめ
齋藤:まとめとしては以下になります。
図:まとめ
齋藤:弊社ではGoogle周辺領域に関する豊富な知見を集約し、集客からCRM(LTV増大を目指す接客)まで一気通貫でつながるコミュニケーション設計と実行をワンチームで支援しています。
ぜひお気軽にご相談ください。
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■「バタフライ・サーキット」における8つの情報探索動機と消費者に刺さるクリエイティブとは?〜日経クロストレンドフォーラム レポート
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マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。