パーパスとは
パーパスとは、企業としての「存在意義」を意味する言葉です。パーパス(purpose)という英単語には「目的」や「意図」という意味があります。「何のために自社は存在するのか?」という問いへの答えが、企業のパーパスといえます。
■パーパスの発端
パーパスは、2018年の「A Sense of Purpose (パーパスという意識)」というレターをきっかけに、ビジネスシーンで意識されるようになりました。
世界最大の資産運用会社であるブラックロック社CEOのラリー・フィンクCEOが、投資先企業の経営者に「A Sense of Purpose (パーパスという意識)」というタイトルの、LETTER TO CEO 2018(CEOへの年次書簡2018年版)を送りました。
ラリー・フィンク氏はこのレターの中で、以下のように言及しています。
「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません。企業が株主、従業員、顧客、地域社会を含め、すべてのステークホルダーに恩恵をもたらす存在であることが、社会からの要請として高まっているのです。上場企業、非上場企業のいずれも、確固たる理念を持たなければ、持てる力を十分発揮することができず、主要なステークホルダーから、その存続自体を問われることになるでしょう。」
このレターがきっかけとなり、世界中でパーパスが意識され始めました。
パーパスが注目される背景
パーパスが注目されている背景には、3つの要因があります。
■VUCA時代の到来
VUCAは「先行きが見えず、将来を予測することが難しい状態」を意味します。
それぞれ以下の頭文字をとりました。
・V(Volatility:変動性)
・U(Uncertainty:不確実性)
・C(Complexity:複雑性)
・A(Ambiguity:曖昧性)
VUCA時代では、幅広いステークホルダーとの関係性を築くことが大切になります。VUCA時代を生き抜くため、企業の存在意義を明らかにした行動指針として、パーパスは注目されているのです。
■SDGsの広がり
SDGsとは、「Sustainable Development Goals (持続可能な開発目標)」の略称です。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標」として掲げられています。
SDGsは、すべての企業に対し、地球の持続的発展のための課題を解決するよう求めています。「どのような社会の課題を解決するのか」とパーパスを設定することで、自社の立場を表明することが可能です。
■ESG投資の浸透
ESGは「Environment/環境」「Social/社会」「Governance/ガバナンス」の頭文字をとった言葉。企業はこれら3つの観点に着目することで、長期的に成長できるという考え方です。
国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名したことを受け、ESG投資が広がっています。
従来は財務情報に基づいて投資することが主流でしたが、今後は「環境や社会に貢献しているかどうか」を重視して投資することが主流となるでしょう。「環境や社会にどのように貢献するのか」というパーパスを設定し、事業の社会的な意義が求められています。
ミッション・ビジョン・バリューとの違い
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、企業経営の方向性を表明する考え方です。
・M(ミッション):企業が果たすべき使命
・V(ビジョン):企業が目指す未来像や構想
・V(バリュー):企業の価値観や行動指針
パーパスとMVVの違いは、「社会とのつながりを重視するか」にあります。MVVの内容は、社会への貢献を示す必要はありません。しかしパーパスの内容は、社会においてどのような価値を与えられるかを示さなければなりません。
パーパスとMVVの違いをまとめると、以下の通りです。
パーパスとMVVの関係性
言葉 | 5W1H | 問い | 内容 |
---|---|---|---|
パーパス | Why | なぜ社会に存在するのか | 企業の存在意義 |
ビジョン | When・Where | いつまでに | 企業の方向性 |
どこを目指すのか | |||
ミッション | What | 何を行うべきか | 実現すべきこと |
バリュー | How | どのように実現するのか | 価値観 行動指針 |
パーパス経営とは
パーパス経営とは、パーパスに重きを置いて事業活動を進めることです。欧米では「Purpose based management(パーパスに基づいた経営)」と呼ばれ、社会への貢献を軸に経営することを表します。
パーパス経営は、以下5つの条件を満たす必要があります。
・現代の社会課題を解決する
・自社の利益につながる
・自社のビジネスに直接結びつく
・自社で実現可能
・従業員のモチベーションにつながる
パーパス経営では、利益追求ではなく「社会にどのような貢献ができるのか」を表明することが求められます。
以下では、パーパス経営に紐づく「パーパス・ブランディング」と「パーパス・ドリブン」についても解説します。
■パーパス・ブランディングとは
パーパス・ブランディングとは、パーパスを中心に据えるブランディング手法です。パーパス・ブランディングと通常のブランディングは、目的が異なります。
・パーパスブランディング:社会における認知拡大、存在意義の表明
・通常のブランディング:商品単価アップ、売上数の向上、利益の拡大
パーパスブランディングのメリットは、「ブランドの認知拡大」や「イメージアップ」、「ファンの醸成」などです。消費者の共感を生むパーパスを設定できれば、企業への信頼を高められるでしょう。
■パーパス・ドリブンとは
パーパス・ドリブンとは、自社のパーパスに基づいて経営することです。自社のパーパスをもとに、あらゆる企業活動を決めていきます。
実は、パーパス・ドリブンの考え方は日本にも根づいています。言わば「志」に近いものです。明治維新を進めたリーダーたちを育てた吉田松陰の「志を立ててもって万事の源とす」という言葉にも示されています。
パーパス経営のメリット
パーパス経営を実践するメリットは3つ挙げられます。
・迅速な意思決定ができる
・従業員エンゲージメント
・ステークホルダーから共感を得られる
■迅速な意思決定ができる
パーパスは企業にとって、行動指針そのものになります。パーパスを設定することで、事業の方向性を考える基準ができます。全社同じベクトルで仕事を進められるため、ブレのない迅速な意思決定が可能となるでしょう。
■従業員エンゲージメントを向上させる
パーパスは、自社で働く意義・意味を定義したものです。パーパスを設定することで、従業員は自分の仕事が社会貢献にどのようにつながっているのか実感を得られます。
「何のために仕事をしているのか」、「自分の仕事が社会に役に立っているのか」ということがわかれば、自身の仕事に誇りを持てるため、企業へのエンゲージメントを向上させることができます。
■ステークホルダーから共感を得られる
今後、社会全体が企業のパーパスへの取り組みを注視する時代が訪れると考えられます。実現可能なゴールに向かってアクションすることで、ステークホルダーからの共感や支持を得ることが可能です。
パーパス経営の注意点
パーパス経営の注意点は2点あります。
・パーパス・ウォッシュを避ける
・社会全体とのつながりを意識する
■パーパス・ウォッシュを避ける
パーパス・ウォッシュとは、「パーパスを掲げながらも、実態が伴っていないこと」です。これはグリーン・ウォッシュ(環境に配慮しているように見せて、ごまかしていること)から派生した言葉です。
パーパス・ウォッシュの状態では、ステークホルダーから信頼を失いかねません。「実現不可能なパーパスを掲げている」、「立派なパーパスを掲げているが、実現する行動が伴わない」など不誠実な姿勢は、信頼関係を壊します。
パーパス・ウォッシュを避けるために、実現可能なパーパスを掲げ、行動で示していきましょう。
■社会全体とのつながりを意識する
パーパスは、社会全体とのつながりを意識する必要があります。特定の個人や組織を優遇するような内容ではなく、社会全体への貢献を意識した内容でなければなりません。
以下のような社会問題を意識することが大切です。
・「地球温暖化」「大気汚染」などの環境問題
・「男女格差」「人種格差」などの人権問題
・「食品ロス」「水不足」などの生活に密着した問題
「自社のビジネスは社会問題の解決に、どのようにリンクしているのか」を明らかにしたパーパスを定めましょう。
パーパス経営の事例
実際にパーパスを導入している企業では、どのようなパーパスが策定されているのでしょうか。パーパス経営を実践している企業を例として紹介します。
■ソニーのパーパス
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
2019年1月に、ソニーは「Sony’s Purpose & Value」を発表。パーパスと共に「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」4つのバリューを表明しました。
コロナ禍より前(2019年)にパーパスを共有していたことで、社員の意識統一にも成功しています。リモートワーク下でも大きな打撃がなく、新しい業務プロセスへ移行できました。さらに業績も好調で、2022年3月期の営業利益が1兆円を超えています。
従業員の8割以上がパーパスをポジティブに捉えるなど、パーパスの活用に成功しています。
■富士通のパーパス
「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくことです。」
富士通では、パーパスを実現していくために新しい評価制度「Connect」を導入。パーパスを起点に、マネジメント層がビジョンを描き、そのビジョンに向けてどれだけのインパクトを与えたかを評価しています。また、個人のパーパスを起点にどれだけ成長したか、なども評価の対象となります。
パーパスが評価制度に採用すれば、全社員が自然とパーパスを意識する環境が整うでしょう。
■ネスレのパーパス
「ネスレは、生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します。」
ネスレ日本の深谷龍彦CEOは、「ネスレは、世界187カ国で事業展開し、約30万人の従業員が、『食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます』というネスレのPurposeを示すために働いています」と語っています。
ネスレはこのパーパスに則り、SDGsを達成するための以下の目標も掲げています。
・5,000万人の子どもたちがさらに健康な生活を送れるように支援
・ネスレの事業活動に直結するコミュニティに暮らす3,000万人の生活を改善
・ネスレの事業活動における環境負荷ゼロ
引用:ネスレが社会に与えるプラスの影響|Nestle
同社が様々な食品を取り扱い、世界中に供給する事業を通じて社会に貢献する姿勢が表れています。
まとめ
パーパスは、社会において「自社は何のために存在するのか?」という問いかけへの答えです。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違いは、「社会とのつながり」を意識しているか、という点が大きく異なります。
パーパス経営を実践するには、パーパス・ウォッシュを避けるために実現可能なパーパスを掲げるだけでなく、企業例を参考として全社員に浸透するような仕組みづくりが重要といえるでしょう。
販促ライター。ITベンチャーを経て2015年からライターとして独立し、2023年に株式会社SHIKIを創業。ライター兼編集者として大手企業が発信するコンテンツの企画や制作管理を担う。多岐にわたる業界の制作経験から、見込み客のステージに応じた文脈の使い分けを得意とする。会社員や主婦など92名のライターを育成。ライター採用やレギュレーション制作の実績もあり。ご依頼はokada@shikcorp.comまで。