「怠け者経済」下の中国で、人気を集める家電とは?

「怠け者経済」下の中国で、人気を集める家電とは?

中国では「怠け者経済」と呼ばれる新しい消費スタイルが流行しています。多忙な日々の中、家で休める時間はますます貴重なものとなり、特に若者においては、家の中の様々なタスクにおいて、お金をかけてでも時間と労力をいかに節約するかが重視されてきています。本記事では「家電」に注目し、現代中国の「怠け者経済」が産んだ新しい家電トレンドを紹介します。


多忙な中国人とスマート家電

近年、中国では、若者を中心として「怠け者経済」と呼ばれる新しい消費スタイルが流行しています。
・掃除はしたくないけれど清潔感を保ちたい
・料理はしたくないけれど美味しいご飯は食べたい
等々、忙しい毎日で疲労を重ねる人々のこのような要求を満たす家電は、現代中国においてますます売れ行きを伸ばしています。

その中でも、人々の高品質・健康・スマート化への要求に答えるスマート家電が、特に注目を浴びています。データによると、2023年の中国における小型家電製品の市場規模は、1924億元に達することが見込まれています。スマート家電の使用者は「80後」や「90後」と呼ばれる、1980年代及び1990年代生まれの若者たちが中心となっています。短時間で自らの手を煩わせることなく高品質な生活を享受するために、スマート家電は必要不可欠な存在になっています。

中国のスマート家電のイメージ

中国大手ECサイト京東の、京東消費及産業発展研究院のデータによると、2022年の国慶節期間において、家電製品はスマート家電を中心に大きく売り上げを伸ばしました。最も伸びが顕著だったのは乾燥機で、売上高が前年比249%の増加を見せました。また、クローゼット型クリーニング機、洗靴機も前年の倍の売り上げを記録しました。さらに京東のデータによると、食洗器、浄水器、スチームオーブンレンジが若者を中心に人気を集めています。AIが搭載されたロボット掃除機も需要の高さを見せ、2022年10月1日時点で取引額が前年比110%の増加を記録しました

以下では、「怠け者経済」が浸透している現代の中国において、注目を集めている家電を取り上げ紹介していきます。

注目を集めている家電製品

スマート掃除家電(ロボット掃除機)

まず紹介するのは、掃地機器人(ロボット掃除機)です。ロボット掃除機は従来の掃除機が持つ吸引機能に加え、以前はモップや雑巾などで行っていた水拭き機能も有しています。また、掃除が完了すれば独りでに元の場所へ戻ってくれるなど、使用者が自らの手を動かすことなく部屋を掃除することができます。それだけでなく簡単な乾燥・抗菌機能や、AIによる温度調整機能、スマートフォン内にインストールした関連アプリを通じた接続や音声コントロール機能も備えており、多忙な現代人にとっての救世主となっています。

中国の企業・小米のロボット掃除機。ロボット掃除機を使うことで両手が解放できる、と強調している。全自動の各機能や、スマート機能も紹介されている

奥維雲網のデータによると、中国国内におけるロボット掃除機の売上高は、2016年の38.4億元から2021年には120.1億元と大幅に増加しました。また、2016年から2021年の年平均成長率は25.6%に上りました。今後も更なる発展が期待されます。

乾燥機

大型家電では干衣机(衣服乾燥機)が売上を伸ばしています。外の天気に関わらず室内で十分に服を乾燥でき、清潔を保てる乾燥機は中国国内で強い需要があります。丁科技網によると、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの市場が下降を見せている一方、乾燥機は数年連続して二桁の高成長を見せています。奥維雲網は今後3~5年において、乾燥機の国内市場は30%前後の成長速度を維持し続けるだろうと予測を示しています。

奥維雲網のデータによると、乾燥機の2020年、2021年の売上高は32億元、57億元と、前年比60.8%、78.1%の増加を見せました。また、2022年上半期ではネット上での売上が12.23億元と前年比56.67%の増加、実店舗での売上が14.84億元と前年比15.82%の増加を記録しています。売上台数に着目すると、2021年は約92.3万台を売上げ、2022年は126.3万台の売上が予測されるなど、現代中国人の需要の高さがうかがえます。

中国の企業・美的の衣服乾燥機。AIによる時間設定が可能なことや、折り畳んで収納できることが記載されている

食洗器

食洗器への需要も依然として高くあります。食洗器の売上高はここ数年伸び続けており、2016年は19.1億元だった売上高は2021年には99.6億元にまで増加しました。この売上高の増加速度から、食洗器市場の規模の急速な拡大がうかがえます。2022年は、上半期だけで既に51.5億元の売上を記録しています。

食洗器の需要高の原因は、手洗いのコストを削減するだけに留まりません。新型コロナウイルスの流行下において、日常用品の清潔さや消毒が重視されるようになり、食洗器が持つ消毒除菌機能が注目されるようになりました。さらに、中国の住宅状況が改善されていく中でキッチンのスペースが広く確保できるようになり、食洗器を設置できる場所が作られるようになったことも食洗器の需要高に貢献しています。

また、最近ではスマート食洗器も人気を博しています。食洗器に搭載されたAIが食器の汚れ具合を感知し洗い方や洗剤量の調整をしたり、自動的に開閉し熱や蒸気のコントロールを行ったり、関連するスマートフォン用アプリで離れた場所からでも作動させたりなどが可能となっています。スマート食洗器は2018年に売上が100万台を突破し、2022年は上半期だけで85.8万台の売上を記録しています。

食洗器市場はここ2、3年で売り上げが急速に伸びた市場です。市場成長が同様に伸びていけば、これからの数年で家庭において食洗器が必需品になる可能性も十分に考えられるでしょう。

洗鞋機

全自動で靴を洗える洗鞋機も注目を集めています。洗鞋機は2022年の国慶節期間の初めの3日間で、2021年の国慶節期間における売上の7倍の売上高を記録しました。また、2022年の1月から8月の期間のみで30万台以上の売上を見せ、洗鞋機の市場規模の拡大がうかがえます。

洗鞋機の需要が高い理由の一つに、「精致懒」という現代中国の若者たちの間で広まっている価値観があります。「精致懒」とは「手間をかけずに質の高い暮らしを」というニュアンスの言葉です。靴が好きな人たちの「手軽に靴の美しさを保ちたい」というニーズが、洗鞋機市場の拡大をもたらしています。

洗鞋機は2021年に市場参入したばかりです。洗鞋機市場自体が導入期段階であることを踏まえると、今後洗鞋機市場は発展していくと考えられるでしょう。

まとめ

多忙な現代中国人は、手間をかけずに質の高い暮らしを実現するために、スマート家電など高性能で便利な家電に注目しています。食洗器、洗靴機などここ数年で急速に普及が広がり売上が上がった家電製品も少なくありません。「怠け者経済」と呼ばれる新しい消費スタイルは、新しい家電の流行ももたらしているのです。

参考URL

国庆长假带旺“懒人”家电 洗烘套装、空气炸锅热销
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1746212919760063757&wfr=spider&for=pc
绿色智能家电创新升级 持续激发消费潜力
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1758975997108732821&wfr=spider&for=pc 
清洁电器:家电行业新赛道
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1758942295862188000&wfr=spider&for=pc
“现象级”的干衣机,为什么有些不能轻易买?
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1746935274302102003&wfr=spider&for=pc
中国洗碗机市场深度调查研究报告2023
http://info.js.hc360.com/2023/0309/27005.html 
懒人神器还是交智商税?洗鞋机销售额暴增700%
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1746163027779533120&wfr=spider&for=pc

この記事のライター

早稲田大学在学中。

関連する投稿


中国シルバー経済の新傾向を調査

中国シルバー経済の新傾向を調査

日本と同様、年々高齢者の割合が高くなっている中国。中国民政部が発表した《2023年民政事業発展統計公報》によると、2023年末の時点で全国の60歳以上の人口は29,697万人に達し、総人口の21.1%を占めました。高齢者の増加に伴い、近年中国では“銀髪経済”(シルバー経済)という高齢者を主力とした現象が発生しており、高齢者の間で新たな生活様式が広がっています。


「感情」で消費する中国のZ世代

「感情」で消費する中国のZ世代

新型コロナウイルスが終息した後、経済が低迷しているように見える中国ではさまざまな新しい消費現象が現れています。以前から話題となっていたシティウォーク、ペット経済、リラックス感のあるファッションや「搭子社交」など、これらの現象をよく考えてみると、一つのキーワードに辿り着きます。それが「感情」です。社会的地位を証明するためにブランド品を追い求め、他人に自慢するのではなく、現在の中国のZ世代は、むしろ自己の癒しに注目し、一つの活動や商品を購入する際に自分に「感情的な価値」をもたらすかどうかを重要視しています。この現象は中国で「感情経済」を生み出すに至りました。本記事ではこの現象について詳しく紹介します。


中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

巨大市場中国。本調査は、中国の消費者の消費動向、購買実態や新しい消費トレンド、消費観を明らかにすることを目的として調査。中でもキーとなるのは、世代間比較。この比較を行うことで、“情緒経済”を重視していると言われているZ世代の特徴や、居住地域によるZ世代内の消費観の差について検討が可能となっています。海外展開事業担当者の方や中国Z世代向けマーケティングを考えている方必見のレポートです。※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。


中国におけるAI。スポーツ、就職、人材育成での活用動向

中国におけるAI。スポーツ、就職、人材育成での活用動向

さまざまな文化、技術発展の速い中国。そんな中国人は新しい技術に対して楽観的な態度を持つことが多く、AI技術も例外ではありません。2023年にスタンフォード大学が発表したAI Index Report の調査結果によると、中国人はAIに対して最も楽観的な態度を持っています。AIがもたらす可能性のあるプライバシー侵害などのリスクよりもAIが生活をより便利にすることが信じられているようです。本稿では中国AI業界の最新情報を詳しく紹介します。


健康志向が浸透する中国、飲料品トレンドを調査

健康志向が浸透する中国、飲料品トレンドを調査

近年、中国では人々の収入が高くなるにつれて生活の質に対する要求がますます高まっており、健康意識の向上が顕著になりました。さまざまな分野で健康志向に基づいたトレンドが生まれ、その影響は飲料品にも表れています。今回は、飲料品の流行にどのような変化が起こっているのかを紹介します。


最新の投稿


2025年大阪・関西万博の認知度は約7割!一方「EXPO2025デジタルウォレット」はまだ存在自体があまり知られていない【フォーイット調査】

2025年大阪・関西万博の認知度は約7割!一方「EXPO2025デジタルウォレット」はまだ存在自体があまり知られていない【フォーイット調査】

株式会社フォーイットは、『2025年日本国際博覧会(2025年大阪・関西万博/EXPO 2025)に関するアンケート』を実施し、結果を公開しました。


スマートニュース、SmartNewsのトップ画面全面に配信可能な縦型静止画広告の提供を開始

スマートニュース、SmartNewsのトップ画面全面に配信可能な縦型静止画広告の提供を開始

スマートニュース株式会社は、ニュースアプリSmartNewsのトップ画面全面に配信可能な縦型静止画広告「Top News Display Ads」の提供を開始したことを発表しました。


博報堂研究デザインセンター、生活者発想技研からメタバース生活者たちと共にメタバースの未来を考える 「メタバース生活者ラボ™」を設立

博報堂研究デザインセンター、生活者発想技研からメタバース生活者たちと共にメタバースの未来を考える 「メタバース生活者ラボ™」を設立

株式会社博報堂は、メタバース空間における新しい生活者価値の創出と、イノベーションを生み出すことを目指し、研究員全員がメタバース生活者当事者によって構成されたコミュニティ型プロジェクト「メタバース生活者ラボ™」を設立したことを発表しました。


【2024年12月2日週】注目のマーケティングセミナー・勉強会・イベント情報まとめ

【2024年12月2日週】注目のマーケティングセミナー・勉強会・イベント情報まとめ

編集部がピックアップしたマーケティングセミナー・勉強会・イベントを一覧化してお届けします。


ゴンドラ、CXデザイン・カスタマーサクセスの最新トレンドと顧客エンゲージメントに関する調査結果を発表

ゴンドラ、CXデザイン・カスタマーサクセスの最新トレンドと顧客エンゲージメントに関する調査結果を発表

株式会社ゴンドラは、カスタマーサクセス、CRM、CXデザイン業務経験者を対象に、顧客エンゲージメントに関するアンケート調査を実施しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ