Z世代マーケターが音部さんに訊く!最新作『マーケティングの扉』の読み方

Z世代マーケターが音部さんに訊く!最新作『マーケティングの扉』の読み方

悩めるマーケターからの質問に痛快な回答と気づきを与えることで人気の「Agenda note」連載「音部で『壁打ち』」が2023年4月に『マーケティングの扉〜経験を知識に変える一問一答』として書籍化。この出版に際し、著者である株式会社クー・マーケティング・カンパニー音部大輔氏をお招きし、ヴァリューズのZ世代マーケター代表として小幡のぞみが本書の中身の深掘り、出版にまつわる裏話などをインタビューしました。 ※書籍プレゼントの受付は終了いたしました。皆さまのご応募、誠にありがとうございました。


Profile

自分のステージに合わせて読むことができる

一気に読まないでください。
一回に一つか二つ読むのが適量です。
悩みや迷いが生じたときに読んでください。
その日、その悩みによって違う「こたえ」が見つかることがあります。

(著者手書きの「注意書き」より。開高健氏著書「風に訊け」(集英社文庫)を踏襲。)

『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』

『マーケティングの扉
経験を知識に変える一問一答』
音部 大輔(著)
(株式会社 日経BP)

株式会社ヴァリューズ 小幡のぞみ(以下、小幡):始めに、この本の執筆に際しての背景をお聞かせいただけますか?

株式会社クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏(以下、音部氏) :連載を書くにあたって、毎回のテーマ選びがとても難しいんです。今回、連載の編集の方が一問一答にすれば、毎回テーマを考えなくてもいいですよ、とアイディアを出してくれました。

小幡 :早速冒頭から目を引いたのですが、プロローグの4行目にある“公共財”、先輩や上司に助けられてきたことで得られ、自分のものともなった知見という言葉が印象的でした。

音部氏:ありがとうございます。自分の知見はもちろん自分のものではあるのだけれど、組織の進歩と発展のためには、自分の知見は詳らかにするべきだと思っています。自分の知見を公開すると、後進の育成や成長のアシストとなるだけでなく、思いのほか、自分自身の概念が進歩するという利点もあるのです。

小幡 :本書を読まれた周りの方の反応は、いかがでしたか?

音部氏:まず最初にお話しておきたいのは、本書は連載をまとめたものではあるけれど、半分以上は書き下ろしの初公開の内容です。出版が決まって、まとめ始めてみたら分量がもう少しあるといいですねと内容の増量を求められたんです。そこで、編集の方がいくつかの大学のゼミから質問を集めてきて、それに対して回答を出し増筆することになりました。これにはびっくりするくらいの分量があったのもそうですが、何よりスケジュールも厳しかったですね。実は苦労の産物なんです。

周りの反応としては、意外にもベテラン層からの良い反応が多くて嬉しく思っています。どのように読んでいるのかと聞いたら、自身の知見と答え合わせするかのように読んでくれているそうです。「経験を知識に変える」という副題の言葉がしっくりきたとも言われ、我ながら思いがけない思いもしています。

小幡 :私は巻頭から順序通り拝読しました。読みながら惹かれる箇所に付箋を貼っていったのですが、読み終わってみると「キャリアの章」に貼られた付箋が多かったんです。それを見て、自分の今の意識やキャリアステージを再確認したと言いますか、振り返ることができました。数年後に再読するときも、自分のステージに合わせて読むことができるのではないかと思いました。

「マーケティングの扉」

No.21 イノベーションを考える責は、マーケターにあり

【質問】マーケティングの仕事に取り組む上で、大切にしている軸は何ですか?

小幡 :本書のなかで、「現在の市場で課題・希望を聞いても「それらしい」回答はくれるが心底そう感じているとは限らない。「何が欲しいか」を聞くためではなく「何を提供すれば喜んでもらえるか」をよりよく想像するために調査する」という一文が印象的でした。調査会社として向き合う私達も、この視点を忘れずにいたいと思いました。

音部氏「消費者中心」と「消費者の言いなりになる」というのは混同されがちです。それに人間は自身が「本当に何がしたいのか」「何が欲しいのか」ということについては意外とわかりづらいものだと認識しています。したがって、消費者調査の結果をそのまま採用することが正解かは不明です。

自身も学生時代に先生から明示されて驚きましたが、「消費者調査で真理を知ることができるとは限らない」のです。実は調査を実施する側が意見を統一したり、確信を高めるための手段なのだと言っても良いかもしれません。よって、あくまでも調査は道具としての判断という認識が大事です。

そして、一概に「消費者理解」と言っても、「意思決定のための消費者理解」と、「世の中の仕組みを理解するための消費者理解」など諸々ありますよね。アンケート調査の時の質問がよくないことから真理から遠ざかることもままあります。そのような時は、仮説を捉え直してみると、何らかの示唆があるかもしれません。

「キャリアの扉」

No.26 優秀なマーケターを目指す人に向けた転職の心得

【質問】活躍している諸先輩を見ていると、何社か転職をして様々な業界に触れることが「優秀なマーケター」になるために必要だと思うようになりました。やはり、マーケターは転職すべきでしょうか?

小幡 「優秀」の定義が俊逸だと感じました。私自身いま向き合う仕事についても、言われてみれば優秀さは単位時間あたりの経験値獲得量で示されていると実感しています。転職という意思決定においてはもちろん、今向き合う仕事に対して人よりも多くの経験値を獲得できるように向き合いたいと思いました。

音部氏:若い頃、もちろん雑巾仕事も多かったですよ。同じような仕事を繰り返ししているだけと感じる時期もありました。けれど、毎回のプロジェクトに取り組みつつ「何の経験値が得られるか」というお題を自分に出してみるんです。どこの部分の能力をどう使っているか確認したり、鍛えたい筋肉に集中してトレーニングする筋トレしたり、といった話ですね。能力開発に関しても同じことが言えると思うんです。今の仕事で何の経験値を得られるかに目をむけてみる。そうやって蓄積される経験値にフォーカスすることで、また新たに得られる経験値があると思うんです。言い換えれば、経験値を得るためにプロジェクトを進めるということもできるようになりますよね。だからただの繰り返しにはならない、しっかりと経験値はついてくると言えると思います。

No.28 新入社員へ、まずは「優秀な2年生」を目指しましょう

【質問】もし新卒のマーケター志望の人が音部さんの部下に配属されたら、音部さんはその人に何を求めますか。また、どんな人だと新卒でも重宝されると思いますか?

小幡 1、2年目は掲げた目標へのコミットの結果が大事になりがちで、将来の展望というものが描きづらいとも感じます。けれど、「何ができたか」だけでなく「何をできるようになったのか」を大切にする。掲げた目標の達成にコミットするだけでなく、達成あるいは未達に関わらず「何をできるようになったのか」を振り返ることが必要だと実感しました。

音部氏:目につきやすい「売り上げが立ったからそれでよし」ではなく、「何をできるようになったか」という自分の使える道具の理解も大事なのです。この「何をできるようになったのか」という振り返りは、年に一回でも半年に一回でも行ってほしい気づきと言えます。
経験的には、「何をできるようになったか?」という問いに答えられるのは、通常の組織では全体の5%程度の人達なんです。「何をできるようになったかを知ることができる」ことの希少さを示しているとも言えます。

また企業・業種によって「優秀な2年目」の定義は変わってきます。前述のように「何ができたか」ではなく「何をできるようになったか」を軸とした育成から優秀な人材を成長させるという概念は、組織の持続的な成長にきっと役立つと思っています。
若いうちはもちろんあまりわからないことが多いもの。先輩が道標として示す必要はまだまだあると思います。

「戦略の扉」

No.56 コロナ禍のマーケティング、変化するものとしないもの

【質問】新型コロナウイルスの感染拡大によって経済全般に大きな影響が出ています。今回の騒動を経て、マーケティングはどう変わると考えていますか。または、変わりませんか?

小幡 :この章に代表されますが、横断して提唱されている“「いい商品」を新たに提案し変えていく”マーケティングの本質は変わらない、という知見もとても興味深かったです。

音部氏:天変地異的な変化が起きたときには、属性の順位の変更は有無を言わさず起きるものです。例えば、コロナ禍の際、「非接触」という属性がにわかに大事になりましたよね。通常はマーケターが働きかけて属性の重要度は変化するものですが、天変地異などが起きると、自然発生的に変化することもあります。こうした変化をつかむのは大事だと思います。

小幡 :そのような属性の重要度をつかむ方法としてはどのような事が必要でしょうか?

音部氏:まず、社会を広く観察して共通項を抽出することです。そしてどの属性が重要になりそうか消費者をよく見ることです。

例えば、今起きていることを具象ではなく抽象化すると見えてきますし、また中小の対義語である「捨象」に注目してみるのが有意義なこともあります。何を抽出するかも大事ですが、捨てた「捨象」にも大きな気づきがあるかもしれません。

100から10を選ぶと、大きく外れる可能性が高いと言えますが、100から捨てる50は大外れしないと思いませんか。的を射た抽象化のために、「捨象」を練習して慣れるのもひとつの手だと考えます。

蓄積される経験を知識へと変えていくには

小幡 :最後になりますが、本書は「経験を知識に変える」が共通テーマですが、文中でも「成長」「戦略」など、各言葉の定義が示されていたことによって、理解を深めるきっかけになったように感じています。私自身、今後は自分の経験を自分自身で知識に変えていきたいと思ったのですが、音部さんにとって積まれた経験が知識に代わる瞬間はどういったタイミングに訪れるのか、また、その言語化された事柄をどうやって蓄積しているのかを教えてください。

音部氏:基本的には文字、メモをとって蓄積しています。
経験は暗黙知で任意に取り出しにくいものです。例えば、スランプに陥った時というのは自身の暗黙知を見失った状態と言えますよね。好調なときに、自分の暗黙知を明文化して、自分マニュアル化を用意しておきましょう。スランプに際して、OSを再インストールするように自分マニュアルを参照すればピンチを乗り越えられます。

また、この書き記された自分マニュアルはアルゴリズムの共有の役目を果たすこともできます。まさにアルゴリズム(自分マニュアル)を部下と共有するというギフトにもなり得ます。部下にとってみれば、自身の視点に加えて上司の視点も手に入れば、視点を倍にすることができます。視点が倍であれば、気づきも経験値も増えていきそうです。

経験を知識に変えるということは自分にとっても企業にとっても有益なことです。
特に普遍的な気づきをいつでもメモする媒体を持つことをおすすめします。不意に出現してきたときにいつでもキャッチできるように。そうして蓄積された自分の言葉に学ぶということもありますから。

はじめの一歩は、経験をうまく抽出すると普遍的な知識になるということに気がついているかどうかと言えます。あらゆる経験は個別固有なので、何も手を加えなければ汎用性はほとんどありません。いつの時も普遍性を見抜くことが重要です。

小幡 :変わる瞬間というのはいつ訪れるかわからないものですよね。これはどんな業種の方も同じだと言えると思います。全ての経験を流し見し、忘却する前に知識として蓄積すべきで、それができるか否かでスキルやキャリアに大きく違いが現れるのだと思いました。
本日はありがとうございました。

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この記事のライター

マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経てマーケティング・リサーチ業界へ。
趣味は食と旅行。

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