食品メーカーのデジタルマーケティング事例 サッポロホールディングスのレシピ提案アプリ「うちれぴ」の狙いと効果は?

食品メーカーのデジタルマーケティング事例 サッポロホールディングスのレシピ提案アプリ「うちれぴ」の狙いと効果は?

サッポロホールディングス(株)がリリースした、”がんばらない”ごはん作りアプリ、「うちれぴ」。「家族」をキーワードとした他レシピアプリとの差別化や、他の食品メーカー・レシートアプリ・調理家電との提携方法について解説し、ヴァリューズのデータからユーザー特性を分析した上で、今後の可能性を考察しました。


「うちれぴ」とは?

「うちれぴ」とは、サッポロホールディングス(株)がリリースした、”がんばらない”ごはん作りアプリ。その特徴は、以下の3つです。

①約30社の食品メーカーによる約2万件の良質なレシピを掲載
②アプリ内で「今日のごはん」をシェアし、家族から反応・感想をもらえる
③おうちのレシピ集「うちレピ帳」の定番レシピで献立決めに困らない

一般ユーザーによる投稿も多い他のレシピサイト・アプリと異なり、うちれぴは食品メーカー提供のレシピということで美味しさに確証があり、家族からの評判を踏まえて簡単に献立決めができるという点で、他のレシピ検索アプリと差別化が図られています。食品メーカーの同業他社を味方に引き入れ、それぞれのプラットフォームとなるという差別化手法です。各社のレシピをまとめて閲覧でき、ユーザビリティが高いことを特徴としています。

サッポロホールディングスの狙いは?

①「食」を通じた家族コミュニケーション

サッポロホールディングスは、アプリ開発への思いについて以下のように述べています。

「うちれぴ」正式版アプリは料理をつくる人だけがレシピを検索するサービスに留まらず、家族みんなで家庭の『食』を楽しみながらコミュニケーションが生まれるような、各家庭のライフスタイルに寄り添ったサービスをコンセプトに開発を進めます。


アプリ内の「ごはんトーク」というチャット機能では、献立共有や帰宅時間の報告、買い物の相談をすることができます。また、「うちれぴ帳」では料理への感謝や感想を伝えることができます。これらの利用により、作る人だけではなく食べる人もごはん準備に協力する、「ひとりじゃない」ごはん作りを可能にしています。

②「がんばらないごはん作り」という価値観の伝播

「うちれぴ」は、「ごはん作りって、がんばらなくて良いらしい。」をコンセプトとしており、以下のようなメッセージ性を携えたアプリです。

「うちれぴ」は、このコンセプトと親和性が高い調理家電との連携サービスを展開しています。うちれぴアプリからCOCORO KITCHENのレシピを選び、AIoT調理家電に送信して調理する仕組みになっており、調理のタイパを良くすることで、できた時間を家族時間に充てることを可能にしています。

③家庭内フードロスの削減

「うちれぴ」は、電子レシートがスマートフォンに届く、東芝テック株式会社のレシート管理アプリ「スマートレシート」と連携し、「スーパーマーケット等でのお買い物情報を食材在庫として自動で取得し、今ある食材で作ることができるレシピを提案する」サービスを提供しています。

これについて、サッポロホールディングス株式会社は、次のように述べています。

日々の食材の在庫管理を「うちれぴ」が簡単・便利にし、さらには食材を無駄なく使い切ることや、余分な食材の購入防止にも繋げることで、深刻な社会課題であるフードロス削減に寄与することを期待しています。


サッポロホールディングスは、以上のような取り組みについて、次のように述べています。

電子レシートや調理家電をはじめとした利便性の高いサービスが「うちれぴ」を通じて繋がることで、それぞれが単独では得られなかった価値を創出し、ユーザーにとってより良い唯一無二のサービスを生み出していけるよう取り組んでいきます。
「うちれぴ」は家族の食を通じてあたたかい世界の実現を目指し、フードロス削減への取り組みも含めて、家庭での「食」体験にこれまでにない新たな価値を創出するサービスを提供していきます。これらの取り組みにより、サッポロホールディングス(株)の経営理念である「潤いを創造し 豊かさに貢献する」の実現を目指します。

人と暮らしと環境のためを思ったレシピ提案サービス「うちれぴ」。実際には、どのような人が利用しているのでしょう。

ユーザー特性と今後の可能性

基本属性

ここからは、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使って分析していきます。人気の高い他のレシピアプリ2つと比較し、アプリユーザーの性年代をみていきましょう。

「うちれぴ」ユーザーの男女比は1:3で、女性が多くなっています。「うちれぴ」では、レシピ検索だけではなく献立や感想を共有する機能があるためか、他2アプリに比べて男性の利用率が高いです。
年代について他2アプリと比較してみると、「うちれぴ」は30〜40代の割合が低い一方で50〜60代の割合が突出して高いことがわかります。

「うちれぴ」「クックパッド」「DELISH KITCHEN」利用者の性別割合(Dockpit)
集計期間:2023年2月~2023年7月
デバイス:スマートフォン

「うちれぴ」「クックパッド」「DELISH KITCHEN」利用者の年代割合(Dockpit)
集計期間:2023年2月~2023年7月
デバイス:スマートフォン

続いて、ユーザーの家族構成をみていきましょう。未既婚割合や子供の有無を示した下記のグラフから、「うちれぴ」ユーザーは、ネット利用者全体と比較して既婚割合および子供ありの割合が高いことがわかります。

「うちれぴ」利用者の未婚・既婚割合(Dockpit) 
集計期間:2023年2月~2023年7月 
デバイス:スマートフォン   

「うちれぴ」利用者の子供なし・子供あり割合(Dockpit)
集計期間:2023年2月~2023年7月
デバイス:スマートフォン

先ほどご紹介したアプリ機能やサッポロホールディングスの狙いからもわかる通り、「うちれぴ」は家族向けにつくられたアプリです。50〜60代の割合が高く、現役子育て世代というよりも、子育てがひと段落ついた世代の家庭で利用されているという利用実態がわかりました。

普段の買い物行動

続いて、ヴァリューズのターゲット分析ツールである「story bank(ストーリーバンク)」を用いて、「うちれぴ」利用者の消費行動特性をみていきましょう。
下記の表は、買い物時の購入チャネルの特徴値(※)をスコアとして示したものです。ネット利用者全体に対して、その割合が高いものは赤く、割合が低いものは青く表示されています。
※特徴値…対象者が、一般的なネット利用者と比べて特徴的に利用するサイト・起動するアプリ・検索するワードを可視化するための指標。
特徴値 = 対象者のリーチ率 ー ネット人口全体のリーチ率

「うちれぴ」利用者の買い物行動・購入チャネル(story bank)
集計期間:2023年2月~2023年7月
デバイス:スマートフォン  

「うちれぴ」利用者は、スーパーマーケットや100円ショップ、ディスカウントショップの特徴値が高く、これらをよく利用する節約志向が高い層の囲い込みに成功していることがわかります。節約志向の高さは、狙いの3つめで掲げた、「スマートレシートを用いた家庭内フードロス削減」とも繋がる部分があります。

ここから考えられる、既存顧客が魅力に感じるであろう施策としては、以下のようなものが挙げられます。
・お気に入りレシピが登録された「うちれぴ帳」のデータを用いて、献立と買い物リストを1週間単位で例示する機能
・地域のスーパーマーケットと提携したレシピの提供
・100円ショップの調理グッズを用いたレシピの提供


「うちれぴ」では調理家電連携レシピを提供していますが、実際のユーザー層は家電量販店をあまり利用しないようです。加えて節約志向も高いため、調理家電購入という大きな支出を必要としない上記のような施策の方が、魅力的な施策として既存ユーザーの目に写るのではないでしょうか。

興味関心

続いて、「うちれぴ」利用者の興味関心を見ていきましょう。以下の図は、縦軸をリーチ率(※)、横軸を特徴値とする興味/関心の散布図です。
※リーチ率…対象者のうち、アンケートで当該項目に回答した人数の比率。

「うちれぴ」利用者の興味/関心(story bank)
集計期間:2023年2月~2023年7月
デバイス:スマートフォン

レシピ提案アプリの利用者であるためか、やはり「料理」「グルメ、レストラン」といった食への関心が強いようです。他にも、「音楽鑑賞」「歌手・ミュージシャン」「映画」「俳優・女優」といったエンタメへの関心が強く、「健康、医療、病気」「ダイエット」への関心から健康志向の高さもうかがえます。

今後の可能性として、エンタメコンテンツとのタイアップや、ダイエッター向きレシピ掲載が有効だと考えられます。
特にダイエッターがいる家庭は、以下3点に「食」の難しさを感じているかもしれません。「家族で食べられる美味しいダイエット飯」へのニーズは高いでしょう。
①ダイエッターに合わせると、献立のレパートリーが少なくなりがち
②思春期の娘がダイエットを理由に家の食事を抜いてしまう
③ダイエット食を家族に強制するのは気が引けるが、ダイエッターとそれ以外の家族向けに2種類献立を考えるのは面倒

まとめ

「うちれぴ」は、「食による家族形成」をコンセプトの中心に据え、確実に美味しいレシピ、内食に対する意識改革、フードロス削減といった手法で他社と差別化を図っているようです。

そのユーザーは50〜60代の既婚・子供あり家庭に多く、その消費行動特性や興味関心に注目すると、節約志向と食への関心の高さがうかがえます。ここから、食材を余すことなく使う1週間献立や、地域のスーパーマーケットや100円ショップとの提携、エンタメコンテンツ・ダイエッター向けコンテンツの発信といった潜在顧客獲得の方法が見えてきました。


▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。

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▼Web行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank」の詳細は以下からご覧ください。

この記事のライター

2024年春にヴァリューズに入社しました。大学では歴史学と社会学を専攻していました。

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