ダブルイレブンから見る中国の美顔器・スキンケア商品の売れ行き

ダブルイレブンから見る中国の美顔器・スキンケア商品の売れ行き

2023年10月31日の夜8時、Tmallの「ダブルイレブン」(以下、W11)セールが開始され、中でも美顔器はTmallで800%以上の成長を実現しました。また、京東商城(JD.com)やTikTokなどの電子商取引プラットフォームでも美顔器は持続的な高成長を示しています。従来の家電および美容・健康関連の業界ランキングでほとんどランクインしてこなかった美顔器ブランドが、2023年は急成長を見せています。この急激な成長の背後には、どのような理由があるのでしょうか? この記事では、2023年の中国のW11における美顔器とスキンケア商品の売れ行きトレンドについて解説します。


中国の美顔器業界は大きな変革を迎える?

2022年3月に中国国家医薬品監督管理局が射頻治療器や射頻皮膚治療器などの機器をⅢ類医療器具に分類すると発表しました。この公告は2024年4月1日以降、射頻治療器や射頻皮膚治療器などの製品が医療器具登録証を取得していない場合、生産や輸入、販売が禁止されると定めています。これにより、家庭用の美顔器は「小型家電」とは異なる位置づけとなり、より厳しい規制下で医薬器具として取り扱われることになりました。
業界関係者によると、一般的な業界の慣例ではⅢ類医療器械とされる機器は3段階の臨床試験が必要であり、承認プロセスには数年かかる場合があり、費用も数百万人民元かかることがあるようです。

多大な時間と費用の投資が必要とされることから、一部の企業は美顔器市場からの撤退を選択する可能性があり、これは業界における大きな変革であると言えます。そのため、今年のW11セールでは在庫を減らすために多くのブランドが大幅な値下げセールを行いました。これが今年のW11で美顔器が大量に売れる主要な原因だと考えられます。さらにデータによると、10月24日の夜8時から始まったTmallのW11のプレセール(10月24日~10月31日はW11のプレセール期間)がスタートして4時間、家庭用電化製品カテゴリーのTOP10ブランドのうち、上位3つのブランドはFLOSSOM、JMOON、JOVSとすべて美顔器ブランドが占めていました。Tmallだけでなく、TikTokなどの複数のプラットフォームでも美顔器ブランドがランキングに入っています。

TmallW11のプレセール 家庭用電化製品カテゴリーのTOP10

売れ筋ブランドの変化

では2023年のW11セールの人気美顔器ブランドは何でしょうか?また以前と比べてどのような変化があったのでしょうか?
アリババのデータによると、今年のW11プレセール期間中、美顔器の売上トップ10のブランドは次の通りです。
Amiro、Flossom、YA-MAN、SEAYEO、Jmoon、GEMO、TriPollar、JOVS、Ulike、XINYOU。
首位のAmiroは2015年に設立された中国のブランドで、昨年の売上は200億人民元(約4000億円)を突破しました。トップ20のリストにおいて、中国のブランドが17席を占めており、そのうちYA-MAN、Jmoon、Tripollarのみが海外のブランドです。

2023年W11プレセール期間天猫における美顔器販売量Top20

首位のAmiroは2015年に設立された中国のブランドで、昨年の売上は200億人民元(約4000億円)を突破しました。トップ20のリストにおいて、中国のブランドが17席を占めており、そのうちYA-MAN、Jmoon、Tripollarのみが海外のブランドです。

首位を取ったAmiro美顔器の広告ポスター

美顔器のブランド市場を見ると、中国国内のブランドが強力な競争力を持ち、徐々に美顔器業界の主力になっています。実際に以前までは美顔器市場の主役は日本のブランドでした。しかし2015年前後にはPanasonic、YA-MAN、Refaなどの日本ブランドが自社の美顔器製品を中国市場に導入しました。その後電子商取引プラットフォームの急速な発展やソーシャルメディアの影響もあり、美顔器は中国の消費者に認知されるようになりました。当時中国国内の美顔器ブランドは数が少なかったですが、ここ数年で国内ブランドは急速に成長し、多くの海外ブランドの市場シェアを奪っています。

中国消費者に好まれる機能

トップのランキングに位置する美顔器を見ると、中国の消費者から特に人気のある機能は「抗老化・抗衰え」です。
家庭用美顔器とは、物理学や電子技術、光学などの科学原理を利用して、皮膚を調整し改善する機器のことで、「サロンの技術を自宅で手軽に利用できるようにしたもの」と言えます。美顔器の技術は、音波技術やイオン導入、LEDライト、EMS微電流、RF射频、レーザーの6つの大きなカテゴリーに分類されます。

実際に、W11で売れた美顔器の多くは射頻美容器です。射頻美容器は主に皮膚の真皮層のコラーゲン繊維を特定の温度で加熱し、熱変性を利用してコラーゲン繊維を収縮させ、皮膚を引き締め、血液循環と代謝を促進し、皮膚の弾力性を高める効果があります。ですから、主に抗老化の領域で利用されています。Amiro、Jmoonといったのブランドの人気商品「胶原炮」も射頻美顔器の一種です。

現在市場には多くの種類の家庭用美顔器があり、一つの製品に多様な機能を搭載し、美顔器には複数の技術が組み合わせられています。たとえば、しわを除去する美顔器の多くはEMS微電流とRF射频の2つの技術が組み合わされています。商品の競争力を上げるために各ブランドは多機能型の美顔器の開発に力を入れているようです

Amiro美顔器の広告ポスター 

スキンケア製品の売れ筋ブランドの変化

天猫の報告によると、2023年のW11期間中天猫で販売量のトップ10にランクインしたスキンケアブランドは以下の通りです。
珀莱雅(PROYA)、ロレアル(L'Oréal)、ランコム(Lancôme)、エスティローダー(Estée Lauder)、ヴィノーナ(Winona)、ラ・メール(LA MER)、オレイ(Olay)、スキンシューティカルズ(SKINCEUTICALS)、ヘレナ・ルビンスタイン(Helena Rubinstein)、ゲラン(Guerlain)。

2023年W11に天猫におけるスキンケア品販売量Top20

中国国内ブランドのひとつである珀莱雅が、2023年のW11で初めて首位を獲得し、40%以上の成長を達成しました。珀莱雅は、エスティローダーやロレアル、ランコムなどの国際的な大手ブランドを上回り、トップ3に入っています。Tmallのデータによると、珀莱雅はセール開始から2時間で売上高10億人民元(約207億円)を突破し、あるフェイスクリームは1時間で50万個以上販売されました。Tmall以外にもJDやTikTokなどのプラットフォームでも1位を獲得しました。
トップ20のブランドのうち、中国国内ブランドが6つランクインし、昨年より2ブランド多くなりました。その中には新しいブランドも含まれています
一方、今年のトップ10のスキンケアブランドには日本のブランドが1つもランクインしていません。中国の観察者ネットの統計によると、SK-IIは2016年以来初めてトップ10から脱落し、同時に資生堂も2017年以来初めてトップ10から外れました。これらのブランドは長い間トップ10にランクインしており、SK-IIは7年間、資生堂は6年間ランクインしていました。

新しいトレンド

近年、中国の消費者は护肤品の成分にますます注目し、より特定のスキンケアニーズを持つようになりました。例えば抗老化やシミの薄化、にきび対策、美白などです。このような需要に対して、欧米系の強力な効果が見えるタイプの製品が人気を博しています。
特に美白ニーズに対して、珀莱雅は「朝C晚A」(朝にビタミンC、夜にビタミンAを使用する)のコンセプトによって、ロレアル、ランコム、エスティローダーなど多くの大手ブランドを凌駕し、Tmall、TikTok、JDなどのプラットフォームでトップに立っています。

PROYAのフェイスクリーム

IPG中国の首席エコノミストである柏文喜氏は、「中国の消費者が化粧品に対する需要と理解を高めている中で、特に化粧品の品質と効果に対する要求も高まっている」と述べています。要するにイノベーションや優位性が不足しているブランドは業績の低下につながる可能性があります
柏文喜氏はさらに、現在中国国内の化粧品市場が非常に競争激しいことを指摘しています。国産の美容ブランドは中国の消費者のニーズや文化的背景をより理解して、品質、価格、流通などの面で一定の優位性を持っています。これは消費者が国産の美容ブランドをより選好する理由であり、また、このW11で国産美容品が注目される理由でもあります。

参考資料

一边被骂一边卖爆,双11美容仪杀疯了
https://www.cbndata.com/information/287196
日系美妆品牌,消失在双十一榜单
https://www.guancha.cn/GongSi/2023_11_14_715708.shtml
珀莱雅赢麻了,天猫美妆双11首轮榜单公布
https://www.cbo.cn/article/id/51934.html
2023年双11:美容仪的“美丽泡泡”要碎了
https://36kr.com/p/2510800483065728

この記事のライター

広東省出身の中国人留学生。現在は名古屋大学でメディアを専攻している。

関連するキーワード


中国トレンド調査

関連する投稿


健康元年、中国社会はどこへ向かう? 「体重管理年」から見るフィットネスと健康食品市場

健康元年、中国社会はどこへ向かう? 「体重管理年」から見るフィットネスと健康食品市場

2024年、中国政府は「体重管理年」と銘打った3年間の国家プロジェクトを始動。「ダイエット」「低糖質」「ヘルシーライフ」などのキーワードが、SNSでも頻繁に取り上げられ、若者を中心に関心が高まり、静かな「健康ブーム」が巻き起こっています。そんな中国における健康意識の高まりと、それに伴うフィットネス、および健康食品市場の成長について考察しました。


ショッピングよりも体験重視!中国の若者の間で広がる「経験経済」とは

ショッピングよりも体験重視!中国の若者の間で広がる「経験経済」とは

コロナ禍以降、中国における消費スタイルは理性的になったと言われています。ここ数十年の消費パターンは商品の購入によってニーズを満たすものでしたが、近年の若者は独特な消費体験をもたらす製品やサービスを選ぶようになりました。このような状況において成長しているのが「経験経済」です。この「経験経済」は農業、工業、サービスに続く第四の経済形態とされており、人々の需要は表面的な満足ではなく「実際的な価値」を得られるものに向いています。この記事では、人々が「実際的な価値」を得るにあたってどのような体験を楽しんでいるのかを紹介します。


独身者増加の中国で「一人暮らし経済」が成長中

独身者増加の中国で「一人暮らし経済」が成長中

人口抑制政策などの影響により少子化が進んでいる中国ですが、近年では結婚率も低下し独身者が増加しています。人口減少に拍車がかかる一方、このような状況によって生まれた新たな消費スタイルが「一人暮らし経済」として発展しています。本記事では、この「一人暮らし経済」において人々の間にどのようなニーズが存在するのか調査しました。


より早いスピード感で手軽に調査をスタート!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」とは【第1回】

より早いスピード感で手軽に調査をスタート!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」とは【第1回】

トレンドの変化が速い、と言われている中国市場。「最近、中国市場の変化が掴めない。言語の壁もあり、中国人生活者の考え方がよくわからない。」というのも多く耳にします。従来の調査には1ヶ月以上の時間が必要ですが、サブスクリプション型のWeb調査ツール「ValueQIC(ヴァリュークイック)」なら、言語の壁を感じることなく最短1週間で調査結果を確認することが可能です。第1回は、その特徴を事例とともにご紹介します。※本資料は記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


中国で勢いを見せる「氷雪経済」を最新調査

中国で勢いを見せる「氷雪経済」を最新調査

2022年に開催された北京冬季オリンピックの「オリンピック効果」によって、中国では「氷雪経済」の成長が加速しています。アイススポーツを中心にレジャー、文化などを総合的に巻き込むこの経済システムは、広いサプライチェーンと高い集客効果を持っています。本記事では、氷雪経済が中国にどのような変化をもたらしているのかを調査しました。


最新の投稿


買い物にAIを活用するZ世代は約3割!Adyen、買い物および決済体験における消費者と小売企業に関する2025年度調査結果を発表

買い物にAIを活用するZ世代は約3割!Adyen、買い物および決済体験における消費者と小売企業に関する2025年度調査結果を発表

Adyenは、顧客の決済体験と企業のテクノロジー投資に関する年次調査「リテールレポート 2025」を発表しました。


TikTok Shop、3社に1社は導入意欲あり!「運用体制の構築」と「コスト」が導入の鍵に【テテマーチ調査】

TikTok Shop、3社に1社は導入意欲あり!「運用体制の構築」と「コスト」が導入の鍵に【テテマーチ調査】

テテマーチ株式会社は、同社が運営するサキダチラボにて、国内の小売業および直販メーカーを対象に「TikTok Shopの認知・導入意向に関するアンケート調査」を実施し、結果を公開しました。


PLAN-Bマーケティングパートナーズ、AI Overviews導入前後のCTR変動を定量分析した最新調査レポートを公開

PLAN-Bマーケティングパートナーズ、AI Overviews導入前後のCTR変動を定量分析した最新調査レポートを公開

株式会社PLAN-Bマーケティングパートナーズは、AI Overviews (Google検索結果に表示されるAIによる要約)の表示に伴うクリック率(CTR)の変動を業界別・サイト別に明らかにするため、「AI Overviewsによる各業界サイトのCTRへの影響調査」を実施し、その結果を公開しました。


au・UQモバイル・povoを比較!料金プラン・ユーザーの違いは?

au・UQモバイル・povoを比較!料金プラン・ユーザーの違いは?

通信会社は多様なプランを展開し、幅広いユーザー層の獲得を目指しています。本記事では、KDDIが展開するau・UQモバイル・povoを比較し、それぞれのユーザー層の違いを分析します。


エアコン購入の検討フローを分析。データが示す、重要な"媒体"とは

エアコン購入の検討フローを分析。データが示す、重要な"媒体"とは

購入検討のピークが近づくエアコン。夏には欠かせないアイテムですが、消費者はどのような流れで、何を軸に検討を進めているのでしょうか。エアコン検討者の行動データから、情報収集の実態を調査しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ