世界でシェアを拡大中!中華圏家電メーカーとは
本記事では、中国や台湾を拠点とするメーカーのことを「中華圏家電メーカー」と呼称します。家電メーカーとはいっても、主力製品のほとんどはパソコン・タブレット・スマートフォンなどのデジタル・通信機器であることが多いです。
近年、中華圏家電メーカーは世界市場を席巻しており、日本においてもその潮流は少しづつ訪れています。ここでは、中華圏家電メーカーを代表する3社、HUAWEI(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)、ASUS(エイスース)について、基本的な概要を述べていきます。
■スマートフォン事業が好調なHUAWEI
HUAWEIは、中国・深センに本社を置く、情報通信技術(ICT)インフラとスマートデバイスを提供する会社で、世界最大との呼び声も高いです。スマートフォンやノートパソコン、ウェアラブル端末などさまざまな製品を製造していますが、中でもスマートフォンは世界でもトップクラスの規模で市場を拡大しています。台湾メディア「聯合報」によると、HUAWEIは2023年の時点でハイエンドスマホの世界シェアでアップル、サムスンに次ぐ第3位であり、折り畳みスマホの世界シェアで2024年第1四半期にトップに立つことが予測されたと報じられています。HUAWEIが手がけるスマートフォン事業の勢いの強さがうかがえますね。
■スマート家電で注目を集めるXiaomi
Xiaomiは、中国・北京に本社を置く会社です。スマートフォン会社として設立され、シェアを獲得してきましたが、サムスンやHUAWEIに抜かれて以降は、インターネット技術と家電を掛け合わせたスマート家電を手がける会社へとシフトしています。依然、スマートフォンのシェアは世界で見ても高いですが、注目を集めているのはやはりスマート家電です。Xiaomiハウスと呼ばれるオフラインでの専門店・直営店を大量出店し中国国内を中心に人気を博しています。
■ASUSは高品質製品で世界を席巻
ASUSは、台湾台北市に本社を置く、PCやスマートフォン、PC部品および周辺機器を取り扱う会社です。ASUSの一番の主力商品はマザーボード(CPUやメモリを取り付ける、パソコンの土台となる重要な基盤)であり、世界の40%ものシェアを占めています。つまり、世界の半数ほどのパソコンがASUSのマザーボードを搭載していることになるのです。また、e-sports向けのハイエンドPCも世界シェア2位を獲得するなど高性能製品で世界市場を席巻していることが分かります。また、スマートフォン事業も手がけており、ZenFoneという高品質スマートフォンが主力となっています。
日本での人気製品は3社で少しずつ異なっている
先ほど見たように、世界でスマートフォンを始めとするデジタル製品で世界的なシェアを獲得している3社でしたが、日本ではどのような商品を中心に事業を展開しているのでしょうか。ここでは、3社の公式サイト訪問者が関心を抱いているコンテンツをもとに、3社の日本での人気製品を調べていきます。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールDockpitを用います。
■HUAWEIはスマートウォッチで勝負
まずは、HUAWEIです。下の表は公式サイトにおいてよく見られているページをランキング形式で表したものです。3位・10位の「HUAWEI Band」シリーズをはじめ、10位以内のほとんどをスマートウォッチを始めとするウェアラブル端末が占めていることから、日本ではスマートフォンやタブレット端末よりも人気があることが分かります。
「HUAWEI」公式サイト訪問者がよく見ているコンテンツ
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
このことから、HUAWEIの日本における主力の製品はスマートウォッチを始めとするウェアラブル端末であるといえ、スマートフォンが主力の世界市場全体とは異なるという結果となりました。HUAWEIのスマートフォンが各国と揉めたことや、Google系のアプリが使えないことなどが影響しているのかもしれません。
■Xiaomiはスマートフォンで地盤を固める
続いて、Xiaomiについても同様の分析を行っていきます。下の表を見ると、スマートフォンがランキングの上位を占めていることが分かります(2位の「Redmi 12 5G」、3位の「Xiaomi 13T Pro」、4位の「Redmi Note 10T」なども含む)。このことから、Xiaomiの日本における現在の人気製品はスマートフォンであるといえるでしょう。
「Xiaomi」公式サイト訪問者がよく見ているコンテンツ
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
加えて、Xiaomiはスマートフォンのみならず、今後は他製品でも日本市場を開拓していくということが示されています。CNET Japanによると、2023年9月に実施されたXiaomiの発表会において、中国市場で好調だったチューナーレステレビ(※)を始めとするスマート家電を、日本での販売に向けて準備していることが明らかになりました。このチューナーレステレビはKDDIが独占販売することが決まっており、Xiaomiは日本での将来の販売網を着実に確保しているといえるでしょう。
※地上波や衛星放送を受信する「チューナー」を持たない代わりにGoogle TVなどのOSを持つ、YouTubeなどの動画配信を楽しむことに特化したテレビ
■ASUSはゲーミング機器など、主力製品が軒並み人気
最後に、ASUSについて見ていきます。下の表を見ると、ハイエンドスマートフォンである「ZenFone」、ゲーミング用のスマートフォン・PC、マザーボードが上位にランクインしていることが分かります。このことから、ASUSの日本での人気製品は、主力製品である高性能PC・スマートフォン、マザーボードが主となっているといえるでしょう。
「ASUS」公式サイト訪問者がよく見ているコンテンツ
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
また、ASUSのマザーボードは2006年から19年連続で日本国内販売シェアNo.1、ゲーミングPCは日本国内のシェアNo.1を達成するなど、実績の面からもASUSの主力製品は日本でも人気を博していることが分かります。
3社の日本での集客層は?
ここまで、3社が日本でどのような商品展開を行ってきたかについて調べました。次は、3社の公式サイト訪問者を深掘りしていくことで、3社の集客層やその流入経路について分析していきます。
■新規を獲得するHUAWEI、リピーターを獲得するASUS
まず、公式サイト訪問者数の推移から3社の市場規模を見ていきます。3社とも新商品発表・発売のタイミングで上昇局面に突入することが見て取れます。1年間の公式サイト訪問者数はHUAWEIが224万人、Xiaomiが203万人、ASUSが208万人と、規模感に大きな差はないものの、HUAWEIが最も多いことがわかりました。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト訪問者数の推移と新商品発売時期
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
次に、新規訪問者割合の推移です。下のグラフは3社それぞれの公式サイトを訪問した人数のうち新規の割合を示しています。HUAWEIは新規の割合を徐々に増加させ、2024年2月時点では45.1%を新規が占めている一方で、ASUSの新規訪問者割合は常に20%とかなり少なくなっています。HUAWEIが手がける広く多くの人が利用するスマートウォッチと、ASUSが手がけるゲーム業界を主戦場とするハイエンドコンテンツなどといった商品の特性の違いが、新規獲得とリピーター獲得という差を生み出しているのかもしれません。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト新規訪問者割合の推移
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
■HUAWEIは幅広い性年代を、ASUSは若者や男性を中心に集客
続いて、公式サイト訪問者の性年代割合も見ていきます。
下のグラフは3社の公式サイトを訪問した人の男女比を表したものです。3社とも男性の割合が高くなっているものの、HUAWEIの公式サイト訪問者は比較的女性の割合が高く、ASUSは対照的に男性が8割超を占めています。こちらも新規訪問者割合を比較したときと同様、様々な人が利用するスマートウォッチと、男性人気の高いゲーム関連のコンテンツというような商品の特性の違いによるものなのかもしれません。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト訪問者の男女比
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
公式サイト訪問者の年代割合も調べていきます。
情報通信やデジタル機器の話題ということが影響してか、40代以下の中年層までの公式サイト訪問者の割合が多くなっていることが見て取れます。また、HUAWEIがネット利用者全体の年代割合に近く、幅広い年代を集客しているのに対して、ASUSが3社の中で最も若年層の割合が高く、商品特性の違いによる影響がここでも見受けられています。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト訪問者の年代割合
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
ここまで、公式サイト訪問者数の様々な特徴を調べ、3社の集客層について分析してきました。市場規模については3社ともに大きな違いは見られなかったものの、集客層ついては以下のような違いが見られました。
・HUAWEI:集客層の性年代の幅が比較的広く、新規も多い
・Xiaomi:HUAWEIとASUSの中間的な層が多い
・ASUS:HUAWEIとは対照的に、男性・若者など絞られたリピート層が多い
■それぞれの集客層に即した集客構造
ここでは、3社の集客構造を分析していきます。下のグラフは、訪問者がどのチャネルから公式サイトに流入したかの割合を示しています。
HUAWEIは広告に該当する項目(リスティング、ディスプレイ広告、アフェリエイト広告)の割合が高くなっており、対照的にASUSは広告に該当する項目の割合が低く、外部サイトや自然検索の割合が他より高くなっています。新規が多く、性年代の幅も広いHUAWEIとリピート訪問者の多いASUSという、集客層の特徴が集客構造にも反映されていることが分かります。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト訪問者、流入経路割合(ノーリファラーを除く)
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
日本の家電メーカーとの比較は起こっている?
ここまで、3社について日本市場における製品や集客層、集客構造について分析してきましたが、日本企業との競合関係はどのようになっているのでしょうか。ここでは、3社の競合となる日本企業についても分析を行い、日本・中華圏両メーカーの比較検討層についても明らかにしていきます。
■3社の競合となる日本企業とは?
ここでは、3社の公式サイトを検索した人が関心を持つコンテンツという観点から競合相手を探していきます。下の表は左からHUAWEI・Xiaomi・ASUSの順に、各公式サイトを検索した人の関心コンテンツの中から、ヴァリューズが定義する「家電 企業」カテゴリのサイトに絞り(訪問者が他にどの家電企業の公式サイトを訪問したか)、ランキング形式で示したものです。表を見ると、日本企業でいえばソニー、シャープが複数社の関心コンテンツ5位以内にランクインしていることが分かります。この結果から、今回の分析ではソニーとシャープを競合相手として分析します。
左から「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」公式サイト訪問者、関心コンテンツ
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
■日本企業には規模で及ばない
ここからは競合相手であるソニー、シャープと比較して分析を行っていきます。分析項目は先ほどと同様、公式サイト訪問者数・新規訪問者割合・集客構造、そして併用状況です。
まずは公式サイト訪問者数から、規模を比較していきます。下のグラフを見ると公式サイト訪問者数はソニーとシャープが中華圏家電メーカーの3社を大きく上回っていることが分かります。このことから、市場規模において中華圏家電メーカー3社は、現時点では日本での競合相手であるソニーやシャープに差をつけられているといえるでしょう。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」、「ソニー」、「シャープ」公式サイト訪問者数の推移
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
次に、新規訪問者割合を見ていきます。ソニーとシャープの新規訪問者割合はどちらも10%ほどと、ほとんどがリピート訪問者であることが分かります。両者の市場規模がとても大きく、認知度が十分に高くなっているためかも知れません。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」、「ソニー」、「シャープ」新規訪問者割合の推移
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
同様に、集客構造についても見ていきます。ソニーとシャープは中華圏家電メーカーの3社とは大きく異なり、自然検索の割合が相対的に低く、ソニーでは外部サイトから、シャープではメールから公式サイトを訪問した割合が高くなっています。ソニーは外部サイトからの導線が確実に敷かれていること、シャープは700万人以上が利用するメールマガジン「COCORO MEMBERS」を通じたCRM施策に注力していることが、このような結果につながったのかもしれません。実際にシャープの公式サイトへの流入キーワードを見ると、「COCORO MEMBERS」に関するワードが上位の多くを占めていることがわかります。
「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」、「ソニー」、「シャープ」公式サイト訪問者、流入経路割合(ノーリファラーを除く)
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
「シャープ」公式サイト訪問者、流入キーワード
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
最後に、日本・中華圏両メーカーの比較検討層を明らかにするために、ソニーとシャープそれぞれの視点からの併用状況を見ていきます。
まずは、ソニーの公式サイトから見た他公式サイトの併用状況です。下のグラフから、ソニーの公式サイトを訪問した人のうち、シャープの公式サイトも訪問している人の割合は20%強であるのに対し、中華圏家電メーカーの公式サイトを訪問した人は5%未満と少ないことが分かります。
「ソニー」公式サイト訪問者における「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」、「シャープ」公式サイト併用状況
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
また、シャープから見た併用状況も調べていきます。シャープの公式サイトを訪問した人のうち、ソニーの公式サイトも訪問している人の割合は30%弱であるのに対し、中華圏家電メーカーの公式サイトを訪問した人は5%未満となっており、ソニーから見た併用状況と同様の結果が得られました。
以上のことから、日本の家電メーカーと中華圏家電メーカーを比較検討する層は今のところ少ないといえるでしょう。
「シャープ」公式サイト訪問者における「HUAWEI」、「Xiaomi」、「ASUS」、「ソニー」公式サイト併用状況
集計期間:2023年9月~2024年2月
デバイス:PC、スマートフォン
ここまでの結果から中華圏家電メーカー3社は日本市場においては、日本企業に規模で大きく劣っており、日本の家電メーカーと中華圏家電メーカーを比較検討する層はまだまだ少なそうです。ですが、3社は日本市場に参入して間もなく、十分伸びしろもあるので、今後どのような戦略をとり日本市場での規模を拡大させていくのか注目です。
まとめ
ここまで、日本にも進出している代表的な3つの中華圏メーカー、HUAWEI、Xiaomi、ASUSについて、日本における人気製品や集客層について分析を行ってきました。ここでは、大まかに分析結果をまとめていきます。
・HUAWEIは、日本ではスマートウォッチを主力とし、集客層の性年代の幅が比較的広く、新規の割合も高い。
・その一方で、ASUSはゲーム業界を中心としたハイエンド製品を主力とし、リピーターが集客層のほとんどを占めている。
・Xiaomiはスマートフォン事業で日本市場での地盤を固め、今後はスマート家電など様々な製品で日本市場を開拓しようとしている。集客層はHUAWEIとASUSの中間的なものといえる。
・日本で競合しているソニーやシャープと比較すると市場規模は小さく、日本と中華圏のメーカーを比較検討する層はまだ少ない。
今回取り扱った3社の中華圏家電メーカーは世界的に見ても大きくシェアを獲得しつつある大企業です。性能の高さや値段の安さ、ユーザーの自由度の高さなど3社の製品はそれぞれ大きな強みを持っています。そのような中で、ガラパゴス市場としばしば呼ばれる特殊な日本市場において3社はどのような戦略をとり、強みをアピールしていくのでしょうか。今後に注目です。
2025年4月に入社予定の大学4年生です。大学では、経済学部で計量経済学を学んでいます。