2023年から2024年にかけては各地で多くの施設がオープンしました。みなさんは何か記憶に残っているものはありますでしょうか。
オープンしてからの数か月は、多くの人たちが訪れ、混雑します。その時期に訪れる人、言い換えれば最新のトレンドに触れることに積極的な人たちは、「アーリーアダプター」と言えそうです。
そんなアーリーアダプターはいったいどんな人となりなのか、何を情報源にして最新のトレンドを得ているのか。今回はここ1年以内で話題に挙がった施設から「イマーシブ・フォート東京」「豊洲千客万来」「麻布台ヒルズ」の3つをピックアップして詳しく調査していきます。
そもそもアーリーアダプターとは?
「アーリーアダプター」とはアメリカの社会学者エベレット・M・ロジャースが提唱した、イノベーター理論における消費者の5分類のうちの一つ「新しい商品やサービスを比較的早い段階で受け入れ、購入する人々」のことです。要はトレンドに敏感で、情報収集を積極的に行い判断する人々のことを指します。
アーリーアダプターはマーケティング施策において非常に重要な役割を担っており、彼らが新商品・サービスを受け入れてくれないと、他の人たちに評判が広まらず、売り上げなどに大きな影響を与えます。
イマーシブ・フォート東京
ここからはここ数年で話題になった施設を見ていき、アーリーアダプターが何をソースに情報を得ているのか、調べていきます。
調査には、毎月更新される行動データを用いて、競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」とWeb行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank」
を用いました。
1つ目は、「イマーシブ・フォート東京」です。オープンしたのが2024年3月1日ということで、今アーリーアダプターが最も注目している施設と言っても過言ではないでしょう。
「イマーシブ・フォート東京」は、その名の通りイマーシブ(没入)体験をメインにした完全屋内型テーマパークであり、来場した人がアトラクションの登場人物の一員となって物語にのめり込むことができます。
「イマーシブ・フォート東京」HPより引用
■サブカルに興味がある若者がアーリーアダプター?
では、「イマーシブ・フォート東京」の公式HPにアクセスした人がどのような人たちかを見ていきましょう。まずは訪問者の属性から。
男女比を表したグラフを見てみると、男性が4割、女性が6割の比率になっています。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:男女比
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
続いて年齢層について。20・30代で半分以上を占めており、若年層からの関心が高いことがわかります。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:年齢層
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
アンケート調査結果を用いて、興味・関心についても見ていきましょう。下図のマップでは、右上に行くほど調査対象者の興味関心が一般のネット利用者と比べて高いことを表します。
これを見ると、アニメやマンガに特に関心があることが分かります。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:興味関心
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
(縦軸)リーチ率:対象者のうち、アンケートで当該項目に回答した人数の比率
(横軸)特徴値:対象者が、一般的なネット利用者と比べて特徴的に回答したもの
これらを踏まえると、「若年層(特に女性)でサブカルに興味がある人」が「イマーシブ・フォート東京」に関心を持つアーリーアダプター層と言えるのではないでしょうか。
また、どこから情報を得ているかですが、「イマーシブ・フォート東京」サイトへの流入元で最も多いのが自然検索でした。次に多いのはソーシャル、SNSからの流入です。若い人はSNSで情報を得ることが多いので、このような結果になっているのでしょう。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:集客構造
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
さらに詳しく見てみましょう。自然検索で流入した人は、検索ワードとして「イマーシブ」を多用しているのが分かります。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:自然検索キーワード
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
ソーシャル、SNSから流入した人は、X(旧Twitter)が8割ほど占めています。
「イマーシブ・フォート東京」サイト:各SNSからの流入割合
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
豊洲千客万来
2つ目は、2024年2月1日にオープンした「豊洲千客万来」です。「豊洲千客万来」は、江戸の街並みを再現した商業施設の「豊洲場外江戸前市場」と箱根・湯河原の温泉を利用している温泉施設「東京豊洲 万葉倶楽部」が合体したものです。イマーシブ・フォート東京とオープンした日は一ヵ月しか違わないので、こちらもアーリーアダプター注目の施設でしょう。
豊洲千客万来HPより引用
■中高年層がアーリーアダプター?
同様に「豊洲千客万来」の公式サイト訪問者の男女比から見ていきましょう。男女でほぼ1:1の比率です。
「豊洲千客万来」サイト:男女比
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
年齢層では、40代~50代で高い割合が出ています。
「豊洲千客万来」サイト:年齢層
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
興味・関心を見ると、下図の通り、マップの右上に「国内旅行」がきており、圧倒的に高いです。「イマーシブ・フォート東京」で高い数値だったゲーム・アニメは、「豊洲千客万来」では低い数値になっています。
「豊洲千客万来」サイト:興味関心
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
(縦軸)リーチ率:対象者のうち、アンケートで当該項目に回答した人数の比率
(横軸)特徴値:対象者が、一般的なネット利用者と比べて特徴的に回答したもの
以上より、「旅行などアウトドアな趣味を持つ中高年層」が「豊洲千客万来」に関心を持つアーリーアダプターと言えるのではないでしょうか。
流入元も見ていきましょう。ほとんどが自然検索から来ています。今回は若年層があまり高くないということからか、SNSからの流入がかなり低くなっています。
「豊洲千客万来」サイト:集客構造
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
自然検索のキーワードは「千客万来」や「豊洲」をよく用いているのが分かります。
「豊洲千客万来」サイト:自然検索キーワード
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
麻布台ヒルズ
3つ目は、2023年11月24日にオープンした「麻布台ヒルズ」です。「麻布台ヒルズ」は「緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街−Modern Urban Village−」をコンセプトに、そこに集まる人の絆を深め、豊かなコミュニティを醸成していくことを目的に開発されました。
麻布台ヒルズHPより引用
■豊洲千客万来と似た属性
男女比を見てみると、男性が4割、女性が6割で女性の方がやや多くなっています。
「麻布台ヒルズ」サイト:男女比
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
年齢層は30代から50代にかけて割合が高いです。
「麻布台ヒルズ」サイト:年齢層
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
興味関心は豊洲千客万来と同じように「国内旅行」が一番高くなっています。他にはビジネスや芸術系に関心が高い様子がうかがえます。
「麻布台ヒルズ」サイト:興味関心
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
以上より、ビジネスや芸術系に興味のある中高年の女性がアーリーアダプターと考えられます。
最後に流入元も見てみるとやはり自然検索が一番多くなっていました。豊洲千客万来とほぼ同じような結果になりました。
「麻布台ヒルズ」サイト:集客構造
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
自然検索のキーワードも「麻布台ヒルズ」をそのまま使用しているものがほとんどです。今回調査したどのスポットでも、自然検索では指名検索が上位を占めていました。
「麻布台ヒルズ」サイト:自然検索キーワード
調査期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:PC・スマートフォン
トレンドスポットから分かるアーリーアダプターの特徴
ここまで3つのスポットに注目し、アーリーアダプターがどんな人なのか、どのように情報を集め最新のトレンドスポットを調べているのかを見てきましたが、いくつか特徴として分かったことがあります。
1つ目は、トレンドに敏感なのは若者だけではないということ。今回調べたスポットは全て半年以内にオープンしているので、最新トレンドであると言えます。ですが、3つ中2つのスポットで中高年層の割合が高いことが分かりました。年齢に関係なく、全世代の人がアーリーアダプターになり得ると言えるでしょう。
2つ目は、年齢によって情報収集法が異なること。自然検索によってサイトに訪問する人が一番多いのはどの年齢でも同じですが、若年層がアーリーアダプターとして多い「イマーシブ・フォート東京」では、SNS経由も多くなっていました。Z世代と言われる人はSNSはもはや生活必需品となりつつあるので、このような結果になっているのでしょう。
3つ目は、スポットのコンセプトによってアーリーアダプターの属性が変わること。イマーシブ・フォートでは映画やアニメ・ゲームの世界に没入するイマーシブテーマパークなので、サブカル好き・元々テーマパーク好きな人がアーリーアダプターになりやすい傾向にあります。
逆に麻布台ヒルズでは、住宅やオフィス、美術館、商業施設などが都心部の立地1つに集約されており、若者というより、比較的年齢を重ねた人・可処分所得の高い人がアーリーアダプターになりやすいと言えるでしょう。
まとめ
今回は今年1年以内にオープンした施設をいくつかピックアップして、それら施設に関心を寄せるアーリーアダプターの特徴を調査しました。
今後新しい観光名所やアミューズメント施設が出来た場合は、そのスポットのコンセプトに共感する人・周辺施設を利用する人からアーリーアダプターを予想することもできそうです。
スポットだけではなく、他の商品・サービスにも当てはまりますが、彼らが受け入れてくれないと、一時的なトレンドで終わってしまうので、マーケティング施策において、アーリーアダプターの存在はかなり重要な要素になっています。
初期段階で関心を持ってくれた顧客の属性や志向をしっかり分析することが、今後の評判を予測するうえで大切なのかもしれません。
今後もアーリーアダプターの動きに注目ですね!
早稲田大学商学部1年生のハルです。愛知から上京してきて絶賛一人暮らし中。自炊にはまっています。現在マナミナにてインターン中。