DX推進組織の必要性
本記事では最近ますます需要が高まっている、DXを推進する組織づくりを紹介します。まずはその前に、DX=デジタルトランスフォーメーションとはなにかを振り返りましょう。
広義のDXは、進化したデジタル技術を浸透させ、生活をより良いものとする変革のことを指します。変革には、既存の価値観や枠組みを根底から覆すようなイノベーションという意味合いも含まれます。
これを踏まえ、企業におけるDXとは、市場環境のデジタル化に対応し、従来の権益を保つために競争力の維持・強化を図るべく、組織の制度や文化までもを変革する取り組み、となります。
”デジタル”というワードがあるため、業務のIT化やそれを利用しての効率化であると捉えられてしまうかもしれませんが、企業においてDXを推進する場合はIT化や業務効率化では不十分です。
先述したように「組織の制度や文化までもを変革する取り組み」が革新的なビジネスモデルを生み出す原動力になります。そのためには、既存組織の変更や再構築が必要不可欠となるため、DXを担当する部門をどうすべきか、まで考える必要が出てきます。
デジタル技術の進化にともない、ビジネス環境にも変化がみられます。ここ数年注目を集めている概念「デジタルトランスフォーメーション(DX)」もそのひとつです。 デジタルトランスフォーメーションの定義や意味、日本の現状を解説します。具体的な企業事例も紹介しながら、DXの効果や単なるIT化にとどまらず、革新的な変化を起こす点を理解しましょう。
【DX事例集】これでデジタルトランスフォーメーションを理解しよう!
https://manamina.valuesccg.com/articles/762デジタル技術でビジネスに変革をもたらすDX(デジタルトランスフォーメーション)。概念はわかるものの海外の華々しい事例のほかに、日本ではどのようなDX事例があるでしょうか?身近な企業の取り組み事例を元に、デジタルトランスフォーメーションを理解していきましょう。
企業内でDXを担当する組織編成のタイプ
DXを推進する組織編成には、以下の3つのタイプがあります。
■IT部門拡張型DX担当組織
既存のIT部門を拡張してDX担当組織にします。ITに詳しいメンバーで組織されているので、新規デジタルツールやサービスの導入、システム開発などにスムーズに対応できるのがメリットとなります。
一方でIT部門が保守・管理が主業務のシステム管理部門だった場合、DXの本質であるビジネスモデルの改革に至らない、ツール導入や部分的な業務効率化にとどまりがちというデメリットも考えられます。
こうしたデメリットの解消法として、事業部門のメンバーを招いたり、IT部門のメンバーを現場に派遣するローテーション、外部からDXに関する知見がある人材を採用するといった方法があります。
■事業部門拡張型DX担当組織
事業部門を拡張してDXを担当する組織にするメリットとして、押し付けではない現場サイドに沿ったDXを進められることが挙げられます。
この場合、先述のIT部門拡張型DX担当組織、つまりIT部門と比較してデジタルに関する知見を持つメンバーが少なくなりがちという問題点が出ます。この場合、デジタルによる実現可能/不可能の判断をつけづらく、実現が難しい施策が上がってくるなどのデメリットが考えられます。
その解決策は、IT部門との密な連携です。実現できるかを都度確認するようにします。この場合、IT部門とコミュニケーションを先導するメンバーがいれば、より円滑に話を進められるでしょう。
■専門組織設置型DX担当組織
既存の部門・部署を拡張するのではなく、あくまでもDX推進のために新たな専門部署を作ります。この場合、社内だけではなく、DXのノウハウを持つ人材を迎え入れたり、他企業との連携も視野に入れます。これによって、よりイノベーティブな施策の創出が期待できます。
この組織編成で注意すべきは、編成当初の一体感の薄さです。さまざまな部署、場合によっては外部から人材を登用するため、どうしても最初はまとまり、一体感を出しづらくなってしまいます。その対策として、チームの立ち上げといったマネジメントに強い担当者もメンバーに加えておくとよいでしょう。
■DX担当組織を編成するにあたっての注意点
業種やビジネスとITの関連性によって最適な組織編成のタイプが変わりますが、社内の各部門からメンバーを招集し、従来の業務と兼務する場合だと、多忙である、権限が与えられていない、既存部門との協力を得られない、といった理由で活動が停滞する事態に陥りがちです。
そのため、DXを本気で推進するには、専任の組織やメンバーを置き、明確な組織ミッションを与えることが有効です。IT部門拡張型や事業部門拡張型においても、先述した活動停滞理由を払拭できるよう、全体的な視点を持ち、組織を横断して活動できるように配慮する必要があります。
ビジネスモデルの変革に及ぶDXの推進には、既存のやり方を変えることへの抵抗も想定されます。DXを推進する姿勢を内外に示し協力を得やすくする環境づくりは、経営層の役割です。
■DXに取り組む企業はどのタイプが多い?
IDC Japanの調査結果では、DX専任組織(=専門組織設置型)を「第2のIT部門」として推進の中核とするケースが(計28.7%)と最多であることがわかりました。続いて組織横断的プロジェクトチームが17.7%、事業部門が17.4%、情報システム部門(=IT部門)が6.9%という調査結果になっています。
このデータから、DX推進にあたっては専門組織を設置するのが一般的であると読み取れます。
DXを推進するために必要な4つのポイント
■経営陣のDXへの本気度を再確認する
DXの概念は広く、個々人が考えるDXのイメージもばらつきがちです。当然、DXに取り組む目的と目標が定まらず、うまく機能しない事態に陥ります。
DX推進を機能させる最大のポイントは、経営陣がDXのビジョンを持ち、DXへの本気度を高めることです。これなくして成功はありえません。まずトップみずからが、自社が抱えるリスクを洗い出し、DXのビジョン、DXを通じて「どうなりたいのか」「何を達成したいのか」を掲げる必要があります。
■DXを現場で推し進める人材の確保
DXを推し進めるうえで、優秀なIT人材の育成・確保も重要です。開発に携わるエンジニアだけでなく、プロジェクト全体をデザインできるビジネスモデルの構築、新たな発想を生むイノベーターの存在も欠かせません。
しかし、国内外問わずエンジニアは不足しており、優秀なIT人材の確保は一筋縄にはいきません。経産省の調査では、2019年にIT人材の供給量のピークを迎え、2030年には50万人以上の人材不足が生じると推計されています。
優秀な人材を確保するため、メルカリやサイバーエージェントなど「初任給を一律にしない企業」も出てきています。つまり、必要な人材を集めるためには、採用・教育の面からもDXを考えないといけません。
■DXの費用対効果を検討する
DXの取り組みは一朝一夕にはいかず、継続的な努力を続ける必要があります。そこで問題になるのが、「DXの費用対効果」です。たとえばDX専門の部署を設立し、イノベーションのために投資をするものの、最初は収益が出ない期間があります。その間我慢できないと、撤退ということにもなりかねません。
■既存システムとの調整コストの調査
DX投資の費用対効果に加え、日本で特に問題となっているのが「レガシーシステム」です。既存のシステムがあるゆえに、新たな技術を導入できないケースが多くあります。
特に大企業の場合、事業・部署ごとに個別のシステムを抱えていることが多く、全社最適の視点でITインフラが構築されてきませんでした。システムが肥大化すると、維持コストが多大なものになります。このように複雑化した既存システムをレガシーシステムと呼びます。
DXを取り組むうえでは、既存システムを刷新するのか、新旧システムを共存させるのか、その意思決定が重要です。
自社のDX組織編成をAIで診断
自社のDX組織編成について、どのようにすべきか悩んでいるのであれば、外部のコンサル・診断を受ける方法もあるでしょう。
例えば、自社のDX組織編成をAIで診断するようなサービスもあります。「DX簡易組織診断」は、株式会社アイデミーおよび慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)は、経団連と産業技術総合研究所(産総研)の協力を得て、組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進レベルを簡易的に診断することができるウェブアプリケーションとなっています。
無料サービスゆえにあくまでも簡易的な診断ですが、今後の取り組みのヒントになるのではないでしょうか。
各社のDX推進組織の事例
■住友商事のDX推進組織事例
住友商事ではDX推進を目的に、全社横断組織である「IoT & AIワーキンググループ」を2016年4月に発足。続いて2018年4月からは専任組織である「DXセンター」をデジタル事業本部に設置しました。
DXセンターだけにとどまらず、グループ会社のSCSKや、同社が出資する経営・ITコンサルティング会社であるアジアンフロンティア、また、同社が出資するベンチャー企業各社とも連携し、DXの推進をさらに加速させています。
最先端の技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/business/case/group/dx「最先端の技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進」についてご紹介している住友商事の事業紹介ページです。
■花王のDX推進組織事例
花王ではDXを推進するため、同社内に専務執行役員が統括する「先端技術戦略室(SIT)」を発足させました。この「先端技術戦略室」の役割はデジタル先端技術戦略の立案・実行を推進することです。
「先端技術戦略室」直下に戦略企画グループを配置し、「能率化活用グループ」「情報戦略グループ」「販売グループ・事業」「IT設計管理グループ」という実務を担当する4グループの活動をコーディネートする体制を取っています。
なお、花王の「先端技術戦略室」は研究開発や生産、販売など各部門の社員を集めて編成しているので、既存部署との兼務者が多くなっています。
DXのために花王が実践した“具体的な”体制づくりと取り組み - IBM THINK Business
https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/kao-ts2019-session/デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、いまやどの企業でも関わる課題だ。しかし、DX実現に向けて、うまく動けていない企業も多い。花王グループもそうだった。しかし、同社はDXに向けて体制整備を行い、DXに動き出した。花王 代表取締役 専務執行役員 長谷部佳宏氏がこれまでDXで歩んだ道のりを具体的に解説する。
■NECのDX推進組織事例
NECではDX専任組織として100人規模の「Digital Business Office」を設置。全社横断でデジタルビジネスを推進する体制を確立しています。
「Digital Business Office」には、社内だけではなく外部のメンバーも招聘しています。体制に関しては現状のものにとどまらず、新たな職種が求められればそれを用意し、人員の確保を行って柔軟に変化する組織を目指しています。
NECは、DXに関する記者会見で「デジタルトランスフォーメーション(DX)事業を推進するうえで“出島(=別会社、別組織)”は必要ない。全社組織をシフトしていけるような体制にしないと、DX事業はうまくいかないと考える(吉崎敏文執行役員)」としています。
DXに「出島」は必要か?――NECと富士通の違いに見るDX組織設立の勘所
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1911/11/news057.htmlNECがDX事業の強化に乗り出した。最新技術の提供形態を示したデジタル基盤を整備するとともに、顧客企業のDXを支援する組織を新設。その組織の在り方で、競合する富士通との違いが浮き彫りになった。
■JALのDX推進組織事例
「JAL Innovation Lab」という、社内外の知見を活かして新しい付加価値やビジネスを創出する“オープンイノベーション”の活動拠点に、さまざまな部門で活躍する社内人財と社外パートナーシップからの知見を集めてDXを加速させています。
これによってIT部門の取り組みにとどまらず、全社で新たな価値創造を推進できる体制を整備しています。
JALの取り組みが評価され、「DX銘柄2021」に選定されました
https://press.jal.co.jp/ja/release/202106/006092.htmlJALはこのたび、経済産業省と東京証券取引所が共同で取り組む「DX銘柄(*1)2021」に選定されました。JALでは経営戦略として、強みである「人財」とオープンイノベーションによる「テクノロジー」の力でDXを推進し、新しい顧客体験の創出と、継続的な社員体験の向上に取り組んでいます。今回、JALならではのDX推進体制に加え、既存航空サービスの深化と新規事業への取り組みが高く評価されました。なお、本銘柄の前身である「攻めのIT経営銘柄」に続いて4度目の選定となります。
■ENEOSホールディングスのDX推進組織事例
ENEOSホールディングス株式会社では、デジタル推進責任者・CDOを議長とするDX推進委員会を設置し、トップダウンでDXを推進する体制を整備。
そして、CDOオフィスを新設し、DX人材育成をはじめ、各組織のDXの取り組みに対する支援や情報発信を通じて全社のDXの機運醸成に取り組んでいます。
ENEOSホールディングスは「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定されました
https://www.hd.eneos.co.jp/newsrelease/20200825_01_1080071.pdf当社(社長:大田 勝幸)は、本日、経済産業省と東京証券取引所が共同で取り組む「デジタルト ランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定されましたので、お知らせいたします。
まとめ
いち早く既存システムを刷新する判断を下し、DXを推進している企業には、必ずと言っていいほど経営層のコミットがあります。
また、マーケティングにデータを活かすためのデータマーケティング組織についても、同様のことが言えるでしょう。データマーケティング組織のあり方については下記の記事で詳しく解説しています。気になる方はそちらも参考にしてみてください。
Webアクセスのログなど大量のデータが取れる今「データマーケティング」に取り組む企業が増えています。データマーケティングに取り組むには、データを扱える人材を組織的に育成する努力が必要です。データマーケティングできる組織づくりを事例も参考にしながら見ていきます。
DX推進組織の編成にあたっては、自社をどのような企業にするのかというビジョンによって組織体系は変わってきます。経営戦略をしっかりと固め、社内の理解・協力を得たうえで一丸となって取り組んでくことが大切です。
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【まとめ】データ活用やDX組織づくりを進めていくには?3ステップから学ぼう!
https://manamina.valuesccg.com/articles/906DX組織づくりに困っている方に向けた3stepガイド。「そもそもDXとは何か?具体的にはどういうことなのか基本を理解したい」「DXの成功事例を知りたい」「データに強い組織はどのように作っていけばいいのか」そんな悩みに応えたブック型記事になっています。Step順に見ていけばDX組織づくりの基礎知識も身につき、自社で組織づくりを進める際の土台になるはずです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されるようになった理由のひとつに、経産省のDXレポートがあります。今後、多くの企業でDXの推進されるなか、実際に自社の発展につなげるために必要なこととは?まずは、DXの本質である「ビジネスプロセスの変革」を明確に理解することです。
株式会社デジタルガレージCDOの渋谷直正さんが語る、データ分析組織づくりの2つの方向とは
https://manamina.valuesccg.com/articles/559データ分析組織づくりの2つの方向性は、トップダウンかボトムアップか。日本航空(JAL)にて10年間データ分析に携わり、現在は株式会社デジタルガレージにてCDO(チーフ・データ・オフィサー)を務める渋谷直正さんが語ります。
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