ふるさと納税の趣旨
「ふるさと納税」は2008年から実施された、比較的新しい制度です。その趣旨は、都会と地方の税収格差を是正することにあります。地方で育った人が都会で進学・就職して納税すると、地方には税収が落ちない、という問題提起から創設された経緯があります。
ふるさと納税の仕組み
ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です。
こうした寄付金に対して各自治体からは返礼品が用意され、その内容は寄付額の3割相当とされています。また、災害支援や子育て事業など、返礼品を求めないタイプのふるさと納税もあります。
ふるさと納税の寄付上限額は収入と家族構成で決まり、例えば給与所得500万円の場合49,700円から61,000円となります。収入が3,000万円ある方なら、寄付上限は100万円を超えます。
全国自治体の返礼品を取り扱うポータル的サイトとして「ふるさとチョイス」「さとふる」「ふるナビ」などがあり、一般的にはこれらのポータルを通じて返礼品を申し込みます。
寄付による還付・控除を受けるには翌年確定申告する必要がありますが、確定申告した経験がない方も多いでしょう。そこで手続き簡素化のため、給与所得者で寄付先が5自治体以内であれば、確定申告が不要になる「ワンストップ制度」が用意されています。
年末に高まるふるさと納税需要
ふるさと納税は各年度12月31日が締め切りのため、ふるさと納税ポータル各社のTV CMが流れるなど、年末に向け盛り上がることが知られています。これを実際に確認するため、ヴァリューズの分析ツール「Dockpit」で「ふるさと納税」の検索ユーザー数推移を調査してみました。
検索ユーザー数のグラフを見ると、例年11月~12月に人々の関心が一気に高まること、今年11月の検索ユーザー数は昨年11月の1.3倍と昨年のピークにも迫る勢いで、年末までにさらなる高まりが予想されます。
「ふるさと納税」検索ユーザー数推移
期間:2019年12月〜2021年11月
デバイス:PCおよびスマートフォン
ふるさと納税の返礼品競争と3割規制
ふるさと納税は、還元率が5割以上に達するなど自治体間の返礼品競争が激化したため、還元率等を制限する「3割規制」が行われ現在にいたります。
返礼品競争では、換金率が高いAmazonギフト券などの金券・旅行券、三種の神器と呼ばれ人気が高い「肉・米・カニ」を地元産でないのに返礼品とする、還元率が5割以上に達する返礼品などが設定されました。
返礼品競争が加熱した結果、一部自治体に寄付が集中する、自治体の手元に残るお金が減る、都内自治体から巨額の税収が流出するなど、本来の趣旨から離れているとの批判を招くようになったのです。
・都内自治体、ふるさと納税増加目立つ 流出額なお多く: 日本経済新聞
・ふるさと納税訴訟、泉佐野市が逆転勝訴 最高裁判決: 日本経済新聞
2019年6月以降「返礼品は寄付額の3割以下とし、地場産品に限る」との基準が加わり、国が対象自治体を指定する新制度が実施されました。過去日本一寄付を集め、新制度で対象自治体から除外された泉佐野市が、国と最高裁まで争うなど自治体からの反発もありましたが、2021年現在、各自治体の返礼品は3割規制で運用されています。
ふるさと納税の利用額の推移
ふるさと納税の利用額の推移は、総務省から取りまとめた資料が毎年出ています。グラフ左端の平成20年度が、制度が始まった2008年度です。2008年に約81億円だった寄付額が年々増加し、3割規制が実施された令和元年度(2019)は一時的に減少したものの、翌年の令和2年度(2020)には過去最高位となる約6,725億円に達するなど、その後も寄付額が増えています。
令和2年度(2020)に利用額が大きく伸びた理由の一つとしては、新型コロナウイルス感染症で低迷する地域経済を支援するため、農林水産省が返礼品調達比の半額を補助する制度を設けるなど、一時的に返礼品がお得な状況になったことも影響したと考えられます。
ふるさと納税の利用額(受入額)及び受入件数の推移(全国計)
ふるさと納税の利用者数の推移
ふるさと納税の利用者の人数は、ふるさと納税に関わる控除適用者数を集計することで得られます。総務省の資料によれば、令和3年度(2021)課税における控除額の実績は約4,311億円(対前年度比:約1.2倍)、控除適用者数は約552万人(同:約1.3倍)と大きく伸びました。
前年の寄付が翌年の税額に反映されるため、利用額の年度とは1年ずれることにご注意ください。
利用者数のグラフで平成24年度(2012)の利用者数が突発的に増えているのは、2011年に発生した東日本大震災を受けて被災自治体への寄付が集まったためです。
また、令和元年度(2019)の3割規制の影響で利用額は一時的に減少しましたが、利用者ベースでは増加していたことがわかります。
ふるさと納税の利用者数の推移(住民税控除額・控除適用者数)
ふるさと納税の利用率の推移
ふるさと納税の利用率は、利用者数÷国民数ではなく、利用者数÷納税義務者数で算出できます。一定以上の収入があり住民税を支払う義務がある納税義務者は約5,900万人いるため、ふるさと納税を利用して、必要な控除手続きを行った人は、約552万人÷約5,900万人で約9%です。
ここまでをまとめると、ふるさと納税市場は年々拡大し、令和2年度(2020)には利用額で約6,725億円、利用者数で約552万人と両方とも過去最高を記録したものの、利用率ではまだ約9%と、今後も成長余地があると考えられます。
ふるさと納税の受入額が多い自治体
ここでは視点を変えて、ふるさと納税の受入額が多い自治体を見てみましょう。3割規制によりおトク度では横並びになったものの、魅力ある返礼品があったり、PRが上手だった自治体がわかります。
宮崎県都城市は2020年度を含む過去3回受入額日本一になった常連自治体。宮崎牛に地鶏、焼酎の霧島酒造という人気ブランドを擁しています。さとふるの年間ランキングで1位の返礼品「オホーツク産ホタテ玉冷大(1kg)」を持つ北海道紋別市、イクラやカニなど海産物に強い北海道根室市などが続き、地元産の縛りがあるなかでやはり「肉・米・カニ」のブランドを持つ自治体が強い印象です。
ふるさと納税の受入額が多い自治体
なお、控除額が多く税金が流出している自治体も公表されていて、横浜市・名古屋市・大阪市・川崎市・世田谷区・さいたま市・福岡市など大都市が上位を占めています。
ふるさと納税の人気カテゴリー
「肉・米・カニ」が三種の神器と呼ばれ人気が高い話が出ましたが、実際にデータで見てみましょう。さとふる「2020年総合ふるさと納税お礼品人気ランキング」を見ると、さとふるでは上位10品中、肉・米・魚介類以外は1品のみでした。肉・米は相変わらず人気ですが、魚介類については、かつては「カニ」単品だったものが、ホタテやうなぎ、サーモンやイクラなどに広がっている変化が見られます。
まとめ
年末を迎えふるさと納税シーズンであることから、ふるさと納税の仕組みや歩み、利用額・利用者数・利用率の推移、受入額が多い自治体など市場の基礎データをまとめました。
一時は還元率が5割を超えるなど加熱した返礼品競争が3割規制を受けてどう変化したかが注目されますが、利用額ベースでは一旦減ったものの翌年以降利用額・利用者数とも大幅に伸びていることや、利用率はまだ9%で今後も成長余地が大きいことがおわかりいただけたかと思います。
まだふるさと納税をしていない方は、受入額が多い人気自治体や人気カテゴリーを参考にして年末の締め切りまでに申し込んでみてはいかがでしょうか。
※本記事の検索キーワード分析は、Web行動ログ分析ツール「Dockpit」を利用しました。Dockpitには無料で利用できる機能もありますので、ぜひお試しください。
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