ブランド公式アプリはオムニチャネルの肝となるか
ブランド公式サイトでの通販にとどまらず、今や公式アプリは重要なマーケティングツールとなっています。ユーザーにとっては商品を購入できることはもちろん、ポイントが貯まるなどのメリットが、そしてアプリ提供者側にとっては顧客データの一元化によって商品開発に生かせるデータ分析ができるなどのメリットがあります。
まずはサイト・アプリ市場調査ツールのeMark+を用いて、人気のアパレルブランド公式アプリについて分析します。2019年10月のユーザーランキング(カテゴリ:ライフスタイル)を参考に、以下の人気のアプリを取り上げます。
■PAL CLOSET(パルクローゼット)(PAL CO.,LTD.)
■URBAN RESEARCH(urbanresearch)
■NANO・UNIVERSE(nano・universe)
■ONWARD(オンワード)(ONWARD KASHIYAMA CO.,LTD.)
■BEAMSの公式スマートフォンアプリ「WeBEAMS」(株式会社ビームス)
※2019年10月アプリ起動ユーザーランキングより、上位にランクインしたアパレルブランドから5社を選定(ユニクロ、GU、H&Mなどのファストファッションを除く)。
アクティブ率が高いアプリは?
まず、それぞれのアプリの利用ユーザー数と所持ユーザー数、アクティブ率を比較します。
『CIAOPANIC』『mystic』などを展開する『PAL CLOSET』が圧倒的なユーザー数を獲得していました。特にアクティブ率が非常に高く、ユーザーが日常的に利用していることがわかります。
次にアクティブ率が高いのが『NANO・UNIVERSE』でした。
ちなみに、アクティブ率をファストファッションブランドと比較すると、ユニクロ(66.8%)とセオリー(62.5%)が非常に高く、その他ブランドはおよそ40%程度。所持ユーザーが多い『URBAN RESEACH』 と『BEAMS』は今後の展開に期待したいところです。
アパレルブランド公式アプリ利用ユーザー数・取得ユーザー数
2019年10月アプリインストールユーザー数ランキングより抽出(カテゴリ:ライフスタイル)
各ファッションブランドアプリの特徴は?
次に、それぞれのアプリのコンテンツ、機能面での特徴をまとめながら、アクティブ率の差はどこにあるのかを探ります。
<PAL CLOSET(パルクローゼット)> 提供元:PAL CO.,LTD.
コンテンツ・機能
・グループ店舗と公式通販サイトの購入金額に応じてポイントが貯まる(スマホ会員証)
・クーポン、イベント案内
・年間購入金額に応じた特典
・お気に入りブランドの最新情報
・Amazonペイメント
<URBAN RESEARCH> 提供元:urbanresearch
コンテンツ・機能
・購入金額に応じてポイントが貯まる(スマホ会員証)
・店舗の在庫状況が確認できる
・スタッフのコーディネートを参考にできる
・店舗取り置きサービス
・楽天ペイ、Amazon Pay、キャリア決済
<NANO・UNIVERSE> 提供元:nano・universe
コンテンツ・機能
・購入金額に応じてポイントが貯まる(スマホ会員証)
・年間購入金額に応じた特典
・店舗来店でチェックインポイント付与。NANO・UNIVERSE以外の提携店舗でもチェックインポイントが貯められる
・クーポン、イベント案内、豊富なネット限定商品、ネット割(NANO割)
・楽天ペイ、キャリア決済
<ONWARD(オンワード)> 提供元:ONWARD KASHIYAMA CO.,LTD.
コンテンツ・機能
・購入金額に応じてポイントが貯まる(スマホ会員証)
・店舗チェックインポイント
・コーディネートカタログ毎日更新
・楽天ペイ、キャリア決済
<WeBEAMS> 提供元:株式会社ビームス
コンテンツ・機能
・購入金額に応じてポイントが貯まる(スマホ会員証)
・店舗チェックインでバッジ付与。貯まるとノベルティに交換。
・キャリア決済
5つのアプリについて特徴を確認しましたが、自社EC、スマホ会員証、キャリア決済(PAL CLOSETを除く)などの施策はどれも整っており、使いやすさにも大差はないように思われました。
その中でも、バーチャルで試着できたり、店舗取り置きサービスなど、URBAN RESEARCHがサービス面で一歩リード、オンライン限定サービスが豊富なNANO・UNIVERSEがEC戦略において一歩リードという印象です。
男女比や年代構成には差が見られた
続いて、アプリ利用者の性別や年代構成を比較します。
<アプリ所有者・男女比>
PAL CLOSETが9割以上が女性。
→男性向け商品もあるにも関わらず他アプリと大きな差がある
BEAMS、NANO・UNIVERSEは男女比がほぼ均等であった。
期間:2019年1月〜12月
<アプリ所有者・年代比>
20代、30代が多いのは NANO・UNIVERSEとURBAN RESEARCH、
50代、60代が多いのはONWARD。ONWARDはキッズ・ジュニア商品も多く、
他4アプリとはユーザー層が異なると考えられる。
期間:2019年1月〜12月
アクティブユーザーは30代、40代の女性。ECサイトのアプリ化も進む
PAL CLOSETのアクティブ率の高さはユーザーの女性比率にあるでしょう。また、時間的にも余裕があり、自分と家族のファッションに興味がある30代、40代のユーザーをしっかり囲い込んでいる事もわかりました。
NANO・UNIVERSEのネット戦略の強さも注目です。他ブランドが行なっていない自店舗以外のスポットでのデータ収集も、今後のマーケティングに大きな影響を与えることになりそうです。
スマホで便利に買い物ができるようになった背景に、各ブランドの新たな取り組み、攻めの戦略が見えてきました。今後の展開が楽しみです。
調査概要
株式会社ヴァリューズが保有するモニター会員のネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2019年1月~12月におけるアプリの行動ログを分析。
※アプリユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
※アプリ名、カテゴリはGooglePlayのアプリカテゴリに準拠。
■関連記事
渋谷パルコのデジタル戦略、鍵はWebメディアのリアル店舗? サイト分析から紐解きます
https://manamina.valuesccg.com/articles/7662019年11月にリニューアルオープンした渋谷パルコ。国内唯一のメディア連動店舗や、リアルとデジタルを融合させた様々な仕掛けが注目の次世代商業施設です。そんな今話題の渋谷パルコの特徴やユーザー属性、認知度などについて調査・解説します。
ファストファッション市場の5ブランドを調査。ユニクロやZARAの戦略とデジタルユーザー数を探る
https://manamina.valuesccg.com/articles/6122019年10月をもってフォーエバー21が日本市場から撤退しました。ファストファッション企業がECの成長著しいアパレル市場を生き残るには何をすべきなのでしょうか。5つのファストファッションブランドのウェブサイトとアプリを比較し、eMark+を用いてユーザー数の動向、ユーザー数獲得の施策などを分析してみます。
ファッションECで前年比の訪問者数が54%増のサイトも。巣ごもり消費と新型コロナ影響の関係を探る
https://manamina.valuesccg.com/articles/818外食産業や観光業をはじめ、あらゆる業界に深刻な売上不振をもたらしている新型コロナウイルス。しかしそんな中で、“巣ごもり消費”でEC売上が向上していると言われているのがファッションECです。本稿では、外出自粛の影響で、実際にファッションECが伸びているのか、またどのような影響が現れているのか、実態を調査していきます。
フリーライター。大手キャリア系企業で編集の仕事に出会い、その後、3つのメディアの立ち上げなど行い、2014年にフリーランスに。医療系、就活系、教育系、結婚系のサイトで執筆中。