経済圏確立へキャリアが向かう道|金融編(1) 銀行・証券は楽天に一日の長

経済圏確立へキャリアが向かう道|金融編(1) 銀行・証券は楽天に一日の長

通信キャリアの経済圏確立へ向けた動向について、通信領域編、EC編に続いて今回は金融領域を分析してみます。通話や電話帳、予定表、メッセージや会議、ネット、ECそして出前での支払い、定期券、家計簿、健康管理..と生活にまつわるあらゆる機能を集約しつつあるスマートフォン。お財布を忘れるよりスマホを忘れた方が切実なほど身近な存在です。ペイバトルがほぼ通信キャリアへ集約されつつあるのも、まさにその生活密着度に根ざした顧客基盤、そして様々なサービスを通じポイント流通のしかけを作りやすい点が強みといえるでしょう。各社が通信(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)、EC(楽天)というコア事業に加え注力する金融領域について動向を探ってみましょう。


キャリアの金融事業の概観

2018年冬に始まったキャッシュレス決済アプリの浸透を機に、いまやお財布と化したスマホ。
2006年から「楽天エコシステム構想」を掲げECと両輪で金融事業を進めてきた楽天だけでなく、通信大手3社も生活に密着するチャネルを通じた金融事業強化を強力にメッセージし、銀行や証券/運用(以下証券等)、保険へとサービスを拡張しています。

キャリアの金融事業(カッコ内は提携先)

 

楽天

KDDI(au)

ソフトバンク

NTTドコモ

銀行

楽天銀行

auじぶん銀行(三菱UFJ)

ジャパンネット銀行(三井住友)

 

証券等

楽天証券410万口座

auカブコム証券(三菱UFJ)

auアセットマネジメント(大和証券)

One Tap BUY(みずほ)

LINE証券(野村)

THEO+docomo(お金のデザイン)

カード

楽天カード

au PAYカード

Yahoo! Japanカード

dカード

決済

楽天ペイ

au PAY

PayPay

d払い

ポイント

楽天スーパーポイント

(Pontaポイント)

(Tポイント)

dポイント

保険

楽天生命

楽天損保

楽天ペット保険、楽天超かんたん保険など

ライフネット生命

au損保(あいおいニッセイ同和損害保険)

ソフトバンクかんたん保険(損保ジャパン)

ドコモ医療保険(東京海上日動)

4社のうち最も金融領域の売上比率が高いのは楽天です。楽天銀行はすでに10年の歴史があり、証券等、カード、決済、ポイント、保険などすべて楽天ブランドで展開。1,964万人のカード会員を擁する楽天カード株式会社傘下にカード、銀行、証券、生損保を配置するユニークな体制は、ECをコアに金融領域へ事業を拡大してきた楽天ならではといえます。

インターネットサービス、モバイルと並ぶ事業セグメントとして「フィンテック」を位置づけていますが、あえて金融事業だけを訴求するメッセージは見当たらず、多様なサービスを通じた顧客LTVやクロスユース増による「メンバーシップバリュー」を全面に掲げています。銀行口座数は869万、証券口座数は410万です。

楽天はメンバーシップバリューを訴求

(楽天株式会社「2020年度第1四半期決算説明会」より)

KDDIは金融子会社として2019年にauフィナンシャルホールディングスを独立させ、傘下にauじぶん銀行やauカブコム証券等を配置して金融事業への本気度を示しています。auじぶん銀行は口座数が400万を突破し、auカブコム証券の口座数は116万(2020年6月)です。

お客さま接点の拡大により強いエンゲージメントを構築

(KDDI 2020年3月期決算説明資料より)

金融を「メディア・コマースに次ぐ第三の収益の柱」と位置づけるのはソフトバンク。
決済で圧倒的な強さを誇るPayPayを軸に、自社サービスのカスタマージャーニーにおける「シナリオ金融」を力強く推進(ソフトバンク/Zホールディングス)するとしています。

ただし「シナリオ金融」にジャパンネット銀行、ネット証券One Tap BUYの名は見当たらず、ポイント事業もCCCとの合弁であるTポイントが担っています。ジャパンネット銀行の口座数は459万(2020年3月期)です。

お客さまに寄り添ったFinTechサービス 簡単・便利・安心を実感」を掲げるのはドコモ。
4社のなかでは唯一、金融事業の本丸といえる銀行事業とは距離をとりますが、dカード契約数は1,297万人と対前年比14%増の勢いで成長。証券等の事業においてはお金のデザインと提携により資産運用サービスTHEO+docomoを展開しています。

お客さまに寄り添ったFinTechサービス

(NTTドコモ中期戦略2020beyond宣言より)

老舗とネット勢の垣根

そもそも金融機関がどれだけあるかというと、2020年5月時点で1,458。2015年からの5年間で101法人減っています。1996年に三菱銀行が東京銀行を吸収合併して18年後の2018年には「三菱東京UFJ銀行」から「東京」の名前が消えて「三菱UFJ銀行」になるなど、大きな流れとしては統廃合が進んできました。

マイナス金利で融資による利益確保が難しくなり、最近では口座管理手数料の導入や振込手数料の見直し、ATM相互解放、採算の合わない自治体税収等の収納代行業務縮小など、伝統的な銀行事業は変革の渦中。

一方ではRPAやAI導入による生産性向上、不採算店舗の撤退なども進みます。さらに昨今では振込手数料値下げや全銀システム、API等のフィンテック勢への解放といった圧力が加わり、従来通りのビジネスモデルで劇的な成長を目指すのは難しい状況です。

情報銀行などの新事業に活路を見出そうとする動きと並行して、みずほはソフトバンク(銀行/証券)やLINE(銀行)、三井住友はヤフー(銀行)、三菱UFJはKDDIとの提携を進めています。

国内金融機関数

(日本金融通信社「最新の業態別金融機関数」より)

上図の分類でいうと「その他銀行」に分類される通信キャリア系銀行は、いずれも数少ない新規参入組

日本初のインターネット専業銀行・ジャパンネット銀行は2000年、イーバンク銀行は2001年、じぶん銀行は2008年に設立されました。ジャパンネット銀行は現三井住友系、じぶん銀行は三菱UFJ系の生い立ちで現在も資本関係がありますが、いずれのキャリアもあとから銀行事業へ参入し、段階的に出資比率を高めて傘下に収めています。

金融機関のなかでも1971年に1,163存在した銀行(信金等を含む)は半数程度にまで数が減っていますが、個人預金はこの間金利がほとんどつかなくなっても増加し続けていて、投資や運用市場からみるとターゲットといえるのでしょう。

国内個人預金額と金融機関数

国内個人預金額と金融機関数

(個人預金額は日銀統計、金融機関数は預金保険機構預金保険対象金融機関数の推移より)

楽天が一線を画すネット銀行

ブランド別キャリア系銀行のユーザー数は、楽天銀行がダントツ。2年間右肩上がりで成長していて、4月に若干利用が減ったものの5月は1,300万人が使っています。

auじぶん銀行は2018年10月の600万人強が最多で2019年以降はやや停滞気味。ジャパンネット銀行は大きな変化がなく400万人前後で推移しています。

通信キャリア系銀行のブランド別ユーザー数推移

通信キャリア系銀行のブランド別ユーザー数推移

(スマートフォン及びPCでサイトまたはアプリを使ったユーザー数)

チャネル別だと、楽天銀行は1.7倍程度、ジャパンネット銀行は2.5倍程度アプリよりサイトの方が使われています。

auじぶん銀行だけは2019年以降アプリがサイトを上回り、2年間通期で見てもサイトとアプリのユーザーはほぼ同じ程度。2行とは傾向が異なりました。

通信キャリア系銀行のユーザー推移

通信キャリア系銀行のユーザー推移

(サイトはPC+スマートフォン)

一般社団法人 全国銀行協会「よりよい銀行づくりのためのアンケート」によるとインターネットバンキングチャネルはPCブラウザが54.3%、スマホブラウザ12.9%に対しスマホアプリ18.0%なので、これら3行はそれでも比較的アプリ利用率が高いといえます。老舗金融機関が通信キャリアとの提携を進めるのも、自社ブランドだけに頼っていては接点の少ない若年層などのターゲットへのリーチを狙ってのことなのでしょう。

世帯年収800万円以上のユーザーが増加

いずれの銀行も男性が多いなか、とくに男性比率が高いのはジャパンネット銀行で70%超。楽天銀行とauじぶん銀行は40%前後が女性です。対前年比でみるといずれのブランドも1~2ポイント男性比率があがっていました。

通信キャリア系銀行のユーザー数推移

通信キャリア系銀行のユーザー数推移(男女別)

※アプリ・サイトを含むPC+スマートフォンユーザーを集計

年代別だと、どのブランドも40代が最多で1/4程度を占めています。
比較的シニアに強そうなのはジャパンネット銀行で、44%が50代以上です。

対前年比では楽天銀行は20代と50代が若干増え、相対的に40代が減少しました。
auじぶん銀行は20代と30代がそれぞれ2ポイント増加し、若年層の取り込みに成功しているようです。

結果として楽天銀行、auじぶん銀行の年代別構成比はほぼ相似形に近づいています。ジャパンネット銀行は1年間の変化がほとんどありませんでした。

通信キャリア系銀行のユーザー数推移(年代別)

通信キャリア系銀行のユーザー数推移(年代別)

※アプリ・サイトを含むPC+スマートフォンユーザーを集計

世帯年収別には、3行ともボリュームゾーンは200-600万円のやや年収低め~平均的家庭です。
対前年比ではどのブランドも800万円以上が増加し、全体に裕福なユーザーを獲得できているようです。
特に楽天銀行とジャパンネット銀行は、それぞれ世帯年収1,000万円以上の富裕層が1ポイント増加しました。

通信キャリア系銀行のユーザー数推移(世帯年収別)

通信キャリア系銀行のユーザー数推移(世帯年収別)

※アプリ・サイトを含むPC+スマートフォンユーザーを集計

ネット証券も楽天独走

資産運用に関しては楽天証券、auカブコム証券、NTTドコモはフィンテックスタートアップお金のデザインとの協業によりdポイント連携運用サービスTHEO、ソフトバンクはスマホ証券One Tap BUYを展開しています。

ネット証券全体で見るとトップはSBI証券。日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(2019年9月末)について」によると2019年9月時点で85社がサービスを展開し、約2,800万口座(うち有残高口座は1,757万)が開設されています。

主要ネット証券の口座数

(楽天証券プレスリリースより)

キャリアブランド別にユーザー数を見ると、証券等に関しても楽天が独走

2020年4-5月は若干利用が減るもののほぼ右肩上がりで、2年間で最も利用が多かった2020年3月は1,010万人が利用しました。auカブコム証券は100-200万ユーザーで推移しましたが、楽天証券のような成長は感じられません。

TEHOは2018年12月に利用が急増、2019年5月までは増加傾向ながらその後は横ばいです。
One Tap BUYは15万-20万程度で推移し、4サービスのなかではあまり存在感がありませんでした。

キャリア系証券等のユーザー数推移

キャリア系証券等のユーザー数推移

(PC+スマートフォン)

銀行同様、証券等に関しても、いまのところサイトユーザーがアプリユーザーを上回ります。最多の楽天証券でもサイトユーザーがアプリユーザーのほぼ3倍なので、銀行以上にサイトの使い勝手がアプリを超えているということでしょうか。銀行ではサイトとアプリの差が小さいauも、証券では圧倒的にサイトの方が使われています。

キャリア系証券等のユーザー数推移(チャネル別)

キャリア系証券等のユーザー数推移(チャネル別)

(PC+スマートフォン)

若年層に強いキャリア系証券

4サービスのうち最も女性比率が高いのは楽天証券です。1年前に比べると1ポイント下がっているものの3人にひとり以上は女性。

楽天に比べると他のサービスは男性比率が高く、なかでもOne Tap BUYは80%近くが男性です。比較的男性が多いネット証券において、女性を獲得できている点は楽天の特徴といえるかもしれません。

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(男女別)

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(男女別)

(PC+スマートフォン)

楽天証券、auカブコム証券、THEOはいずれも40代が最多ゾーン。楽天とTHEOはそれぞれ1年前に比べ1ポイント増えています。

他方、One Tap BUYだけは20代が最多。1年間で60才以上が7%から15%へ8ポイント増加したため8割以上を占めていた20-40代が相対的には減りましたが、なお40代と同じ24%が20代です。

auカブコム証券は年代分布にほとんど動きがありませんが、50代以上が4割以上を占めていて比較的年齢層高めです。楽天証券とauカブコム証券は1年間で大きな変化がありませんでした。

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(年代別)

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(年代別)

(PC+スマートフォン)

とはいえ、インターネット証券の残高がある取引口座数でみると、60才以上が全体の4割以上を占め、30才未満は4.4%にすぎません。

これに比べるとキャリア系証券等サービスは20代が最も少ないTHEOでも13%と、比較的若い層の取り込みに成功しているといえるでしょう。

インターネット取引口座数

(日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(2019年9月末)について」より)

最後に、世帯年収はいずれも400-600万円未満の平均的家庭が最多ゾーンですが、1年前に比べるとどのブランドも1,000万円以上のユーザーが増加し、全体に高所得化がみられます。

1年間の変化が大きかったのはやはりTHEOとOne Tap BUYで、THEOは600万円以上のユーザーがそれぞれ2ポイント、One Tap BUYは600-800万円未満のユーザーが5ポイント増加しています。

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(世帯年収別)

キャリア系証券ブランドのユーザー数推移(世帯年収別)

(PC+スマートフォン)

金融編第2回では、通信キャリア金融事業における当面の主戦場である決済アプリの利用状況を中心に、経済圏への囲い込み状況を考察してみます。

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この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

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