経済圏確立へキャリアが向かう道|金融編(2) ペイとの親和性は?

経済圏確立へキャリアが向かう道|金融編(2) ペイとの親和性は?

金融編第1回では各社の戦略を概観し、銀行と証券/資産運用サービスの利用状況から金融事業に関し一日の長がある楽天をKDDI(au)が追う構図を確認しました。今回はそうした動向をふまえつつ金融事業の主戦場である決済アプリバトルのその後、そして金融事業の相乗効果を考察してみます。


主戦場・決済アプリはPayPay独走が続く

マナミナでは「増税を機に定着するキャッシュレス決済 実態そして普及推進のキー」をはじめ定点的に決済アプリの利用状況に注目してきましたが、決済アプリに関しては「100億円あげちゃう! キャンペーン」で2018年来バトルフィールドを創造し盛りあげてきたPayPayが圧倒的な強さを見せつけてきました。

コロナ禍が生活と経済に甚大な影響を与えたこの数ヶ月もその傾向は変わることなく、2020年5月には2,590万人がPayPayを利用。横ばいのLINE Payを除くとd払い、au PAY、楽天も増加傾向ではありますが、2番目に使われているd払いでも5月は1,330万人。PayPayは2倍近く利用された計算です。

銀行の決済アプリはというと通信キャリアアプリには遠く及ばず、みずほ銀行のJ-Coin Payがやっと100万ユーザーを超えた程度でした。

通信キャリア及び銀行のQR決済アプリ利用状況

通信キャリア及び銀行のQR決済アプリ利用状況

※LINE Payは専用アプリのみでLINEアプリの決済機能利用は含まない

キャッシュレス決済普及を強力に後押ししてきた政府のキャッシュレス・ポイント還元事業も6月末で終了し、コロナ禍による景気後退も相まって今後の利用状況には不安材料です。

これを補うため今秋予定されているマイナポイントは、マイナンバーカード取得者対象に最大5,000円分のポイントを配布するしくみですが、選択できる決済手段は1サービスのみ。QR決済だけでなくクレジットカードやデビットカードも対象になるため、ここで選ばれるための施策が今後本格化しそうです。

みずほがソフトバンク(ZHD、LINE)、三井住友がジャパンネット銀行、三菱UFJがKDDIとの提携を強化していますが、老舗金融機関が通信キャリアへ秋波を送るのも、一気に定着した(そして当面勝ち目のなさそうな)QR決済というチャネルを取りこぼしたくないからなのでしょう。

マイナポイント事業概要

(総務省「マイナポイント事業」より)

キャリア決済アプリの併用状況からは、ますますPayPay一強が際立ちます。

半年前の2019年12月に比べてau PAYユーザーは10ポイント、d払いと楽天ペイのユーザーもそれぞれ3ポイントPayPayの併用が増え、その分「併用なし」の高ロイヤルティユーザーを減らしています。

LINE PayユーザーはPayPay併用だけでなくd払い、au PAY、楽天ペイの併用もそれぞれ増加していて、他のアプリに比べると移り気なユーザー像を想起させます。

通信キャリア決済アプリの併用状況変化

通信キャリア決済アプリの併用状況変化

(上段は2019年12月、下段は2020年5月)

各アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリから囲い込み状況を確認してみましょう。

auだけは上位10アプリすべてが自社ブランド及び提携先(Pontaカード)で、楽天は同8アプリが自社ブランドでした。

PayPayはユーザー数が多い分他社ブランドの利用も目立ちますが、ECで後塵を拝する楽天やメルカリの牙城に食い込めているという見方もできます。

LINE Payユーザーの上位10にはau PAY以外の主要決済アプリ全てが顔を揃え、おトクのために複数アプリを使い分ける労を厭わないということなのかもしれません。

ソフトバンクの提携先であるTポイント、そしてファミペイは、決済アプリユーザー全体に人気があるようです。

通信キャリア決済アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

通信キャリア決済アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

(2020年5月に各アプリを利用したユーザーの利用が5月にユーザー全般に比べて多かったアプリ。
太字は自社サービス。紫は金融、ピンクはポイント、オレンジはEC、ベージュは決済)

金融サービス間シナジーは楽天に強み

さて、金融という通信キャリアにとっては新たな領域で、各社が目指す経済圏への囲い込みは奏功しているのでしょうか。銀行/証券アプリと決済アプリの併用状況が2019年12月と2020年5月の半年間でどう推移したか確認してみましょう。

金融領域で一日の長がある楽天は、銀行869万口座、証券410万口座と、キャリアのなかでは圧倒的なユーザー数を誇ります。そのうち銀行アプリユーザーは52%(半年前から+2ポイント)、証券アプリユーザーは50%が楽天ペイを併用していて、金融→ペイの送客は奏功しているようです。

証券ユーザーの銀行併用は半年前から2ポイント下がったものの61%で、証券→銀行でも高いロイヤリティが確認できます。他方、銀行ユーザーの証券併用は25%から29%と4ポイント、ペイユーザーの証券併用は2ポイント増えました。

楽天金融サイト・アプリの併用状況変化

楽天金融サイト・アプリの併用状況変化

(上段は2019年12月、下段は2020年5月。スマートフォン)

auじぶん銀行のau PAY併用は半年前すでに63%ありましたが、5月に10ポイントも増えて73%に。また証券ユーザーのau PAY併用も23%から40%へ急増し、併用なし42%に迫る勢いで、金融→ペイの送客はうまく回っているようです。

ただ、証券ユーザーの銀行併用は30%、銀行ユーザーの証券併用は3%で半年間の変化はみられません。他方、ペイユーザーは75%が銀行も証券も使っていないので、楽天に比べると相乗効果は限定的です。

au金融サイト・アプリの併用状況変化

au金融サイト・アプリの併用状況変化

(上段は2019年12月、下段は2020年5月。スマートフォン)

銀行・証券ユーザーのペイ併用が最も浸透しているのはソフトバンク

ジャパンネット銀行ユーザーの75%(+2ポイント)、One Tap BUYユーザーの69%(+11ポイント)がPayPayを併用し囲い込みが進んでいます。ただしPayPayユーザーの銀行・証券併用は5%に届かず、ペイ→金融の本格化はこれからなのかもしれません。また、銀行・証券間の併用もほとんどありませんでした。

ソフトバンク金融サイト・アプリの併用状況変化

ソフトバンク金融サイト・アプリの併用状況変化

(上段は2019年12月、下段は2020年5月。スマートフォン)

THEOサイトユーザーのd払い併用はサイトが52%から68%へ16ポイント増加した一方、アプリユーザーは4ポイント減の50%に。それでも半数以上はd払いを併用しているので、金融→ペイへの送客としてはまずまずといえるのではないでしょうか。

逆にd払いユーザーのTHEO併用はサイト、アプリとも数%にとどまり、併用なし比率は4キャリアのうち最多でした。

ドコモ金融サイト・アプリの併用状況変化

ドコモ金融サイト・アプリの併用状況変化

(上段は2019年12月、下段は2020年5月。スマートフォン)

証券アプリユーザーは損得に敏感?

キャリア系銀行アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリからは、楽天銀行とauじぶん銀行の囲い込みが奏功していそう。楽天ユーザーは9位PayPay、auユーザーは8位楽天Edyと10位三菱UFJ銀行を除くと自社ブランド及び提携先のアプリが並んでいます。

楽天は3行のうち唯一7位に自社証券アプリがランクイン。また5位スーパーポイントスクリーンや10位楽天ウェブ検索といったポイ活アプリの利用も多く、ポイント意識が高そうです。auじぶん銀行ユーザーは契約者向けサービスなどコンテンツによるロックオン効果が感じられます。

他方、ジャパンネット銀行ユーザーも1位PayPayや4位Yahoo!ショッピングをはじめグループアプリ利用が特徴的に多いものの、2位楽天銀行や5位楽天ペイなどもよく利用されています。Yahoo!やPayPayといったソフトバンクブランド名を想起させないせいか、2行に比べるとグループ力が感じられませんでした。

通信キャリア銀行アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

通信キャリア銀行アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

(2020年5月に各アプリを利用したユーザーの利用が5月にユーザー全般に比べて多かったアプリ。太字は自社サービス。紫は金融、ピンクはポイント、オレンジはEC、ベージュは決済)

証券/投資アプリユーザーでは、キャリアブランドのアプリ利用が特徴的に多いといえるのは、上位10アプリ中9アプリが自社ブランドを占める楽天証券と同じく5アプリを占めるTHEO。

とくに楽天証券ユーザーは自社ブランドの金融やポイント、決済の利用が特徴的に多く、ポイントがうまく循環している印象です。

THEOを提供するドコモは金融サービスのラインナップがもともと多くありませんが、d払い、dポイントクラブ、dカード、またdポイントが貯められるdヘルスケアなどが上位。提携先のAmazonも67%が利用しています。

auカブコム証券、One Tap BUY、THEOそれぞれ決済は決済アプリが上位ながらいずれも楽天銀行も利用が多いようです。auカブコム証券はポイントだと楽天系の1位楽天ポイントクラブや4位スーパーポイントスクリーン、ソフトバンクと提携する2位Tポイントが9位Pontaカードを上回り、銀行も7位じぶん銀行に比べ楽天銀行が上位でした。

One Tap BUYユーザーは同ブランドの別アプリや9位Yahoo!ファイナンスが使われている一方で、やはり6位楽天銀行や8位住信SBIネット銀行、証券では7位楽天証券が食い込んでいます。

通信キャリア証券等アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

通信キャリア証券等アプリユーザーの利用が特徴的に多いアプリ

(2020年5月に各アプリを利用したユーザーの利用が5月にユーザー全般に比べて多かったアプリ。太字は自社サービス。紫は金融、ピンクはポイント、オレンジはEC、ベージュは決済)

どのブランドのユーザーもユーザー全体に比べ楽天銀行の利用が特徴的に多いのは、ネット取引との親和性が高いということなのでしょうか。いずれにせよ、証券等アプリユーザーは損得に敏感と考えられ、銀行アプリに比べると囲い込みのハードルは高そうに見えます。

総じて、キャリアの銀行や証券サービスユーザーは比較的同ブランドの決済アプリに親和性が高いものの、ペイユーザーを銀行や証券に呼び込むのはそう簡単ではない印象です。

さらに身近なサービスである銀行と、一定のリテラシーや投資意欲、そして資金が求められる証券併用にはそもそも壁があり、いまのところ「ロックオン」といえそうなのは楽天くらいでしょうか。

他方、証券等サービスのユーザーは積極的に市場動向やよりお得なサービスへの関心が高いと考えられ、おそらく銀行よりもアプリ起動、サイト閲覧などのユーザー接点を多数確保できる高ロイヤルティユーザー予備群といえそうです。

ウィズコロナ時代へ向けて

コロナ禍を機に非接触決済へのニーズは高まり、生活への直接的影響が薄い給与所得者の預金口座には給付金が滞留し、減った通勤時間で株やFXデビューする人も増えていると考えられます。

他方コロナは、給付金や保健所のシステム、接触確認アプリなど、お金と健康にまつわるオンライン社会基盤整備の致命的な遅れを一挙に露呈させもしました。第2波そしてウィズコロナ時代へ備えるデジタル・ガバメントの加速やそのための法改正なども議論が始まり、現行法では給付完了後廃棄しなければならないと解釈されている国民の銀行口座番号が、マイナンバーと紐づけられるようになる見込みです。

通信キャリアにとっても老舗金融機関にとっても、またお金にまつわるサービスを享受する私たちにとっても、想定外の転換期。マイナポイントの決済アプリやマイナンバー連携口座としてブランドが選ばれる闘いも当然想定されますが、GDPR等で対応を迫られるデータポータビリティやデジタル・ガバメントが目指すワンストップサービスの実現へ向けた協調も進むと期待されます。

総務省の統一QR決済コードJPQRは6月22日から受付が始まり、楽天を除くキャリア3社と大手金融機関、トッパン・フォームズ、JCBなどが参加した金融機関横断の共通手続きプラットフォーム「AIRPOST」をはじめ、闘うばかりではなく協調の動きもみられます。

いずれにせよいまや切り離せない相棒であるスマートフォンとスマートフォンを通じたサービスの多くを担う通信キャリアの存在は、ますます私たちの生活へ深く入り込んでいくのでしょう。

金融業界とキャリアがタッグを組んだAIRPOST

(トッパン・フォームズプレスリリースより)

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この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

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