道の駅
車に乗り、東京を離れると『道の駅』が点在しています。宿泊地からの帰り道に『道の駅』に寄ってみると様々な商品を販売していることに驚かされました。地元産の野菜やお米、乳製品、肉や魚、味噌、調味料など食品関係を中心に種類の豊富さにも圧倒されます。年末には正月の松飾りやお供えから、常時は郷土の工芸品や陶芸品まで、『道の駅』が存在している地域特有の商品が陳列されていて、小さな百貨店といった感があります。昨年の秋、寄ってみた『道の駅』で旬のくだものを購入しました。取りたてでしたので近所のスーパーでは販売されていない新鮮さと旬の味を家族で満喫しました。
1993年4月22日、第1回『道の駅』登録証が全国103か所に交付されました。今年で制度発足から30年。全国の一般道沿いに約1200カ所あり、全国で年間のべ2億人以上に利用されています。役人からではなく民間のアイディアから生まれたといわれる『道の駅』。道路にも鉄道の駅のようにトイレがあってもよいのではないか、という声がきっかけだったようです。また、車で通過する人々と地域住民の交流する場をつくろうという発想が『道の駅』発足を後押ししました。
1991年から山口県、岐阜県、栃木県で地元自治体が主体で『道の駅』の社会実験を実施、地元の活性化や特産物のPRなどに有効であることが確認できました。民間の創意工夫で運営されていることから、メディアで取り上げられる機会も多く、『道の駅』はもはやブランドです。今や観光スポットでもある『道の駅』に外資系企業がホテルを併設し、今後展開する戦略も注目の的です。
地産地消
地産地消とは地域生産・地域消費の略語で、地域で生産された様々な生産物や資源をその地域で消化することです。ただ、国の基本計画では地域の生産物をその地域で消費するだけでなく、PR活動などにより生産者と消費者を結びつける取り組みを推進しています。安全・安心指向の高まりから、生産物(特に農産物)に対し、生産地と消費地の距離に関係なくコミュニケーションを深めることで、消費者の地場農産物への興味や愛着が深まります。
地場農産物の消費拡大は地元の農業の応援消費となり、地元の農業従事者のモチベーションを高め、荒廃農地や耕作放棄地などを防ぐことにつながります。また、地場農業の復興・発展により、世界に名だたる日本の食文化や食生活が守られます。同時に食料自給率が高まることも予想できます。地元の農業に従事する高齢者に対しての応援消費は高齢者の生きがいを保ち、地元へUターンや帰農する人を増やす効果も期待できます。
地産地消の取り組みには様々な方法が考えられます。例えば、『道の駅』のような地元生産物の直売所との連携、地元生産者と連携する量販店の拡大、産地直送を意識した通信販売、インターネットの活用、学校給食への積極的導入、観光客を対象に宿泊施設や観光案内所など施設の活用、福祉施設への提供の拡大、食品加工会社との新しい商品づくり、飲食店へのアプローチ、中食への工夫などです。常に新しいアイディアを取り込む必要があります。
メリットとデメリット
地産地消における消費者のメリットに、①生産者の顔が見える安全・安心感、②地元の生産物に対して地元ならではの調理や料理法により、独自の食文化を知ることができる、③新鮮かつ旬な生産物を食べることができる、などがあります。
生産者のメリットには①消費者の意見や反応がわかる、②不揃いや規格外の生産物でも販売しやすい、③距離が近い場合は輸送コストを低く抑えることができる、などが考えられます。輸送にかかるCO₂の排出量やエネルギーを減少でき、環境面での貢献度も高いのです。輸入農産物が環境に与えている負荷を数値化した「フードマイレージ」という概念があります。日本は輸入量が多く、世界でも数値が高い国のひとつです。フードマイレージに対しても地産地消は有効的です。
メリットばかりでなくデメリットもあります。消費者には小規模な農家でつくる農産物は大量生産されるものに比べて価格が高い場合が多いという問題です。生産者にとっても、生産する以外でマーケティングや宣伝など不慣れな業務を行う必要が出てきます。生産物が限られる地域では地産地消の実践が難しい場合も考えられます。
食育
地元の生産物を購入することで、新鮮で旬で美味しく栄養価が高いものが手に入ります。もちろん、環境にも身体にも優しいものです。最近ではスーパーにも地元の生産物コーナーを設けている場合がありますが、地元の食材を豊富に扱っているファーマーズマーケットや産直市場で買い物できれば地産地消につながります。直接、生産者とコミュニケーションが取れる機会があれば、生産者の想いや考えを知り、家族全体の食への関心が高まります。
食べ物や食事に関する知識を学び、食への興味関心を育むことで、子供達が一生を通じて健康的な食生活を送れるようにするための教育を「食育」と呼びます。2005年「食育基本法」が制定され、「食育」は全国的な課題となりました。「食育」は若い世代や子供達に対して、心身の成長や豊かな人間性を育むために欠かせないものです。
地産地消を学び・知ることは「食育」の大事な体験です。事例としては、①実際に家族で作物を育て食への関心を持つ、②小学生から食料のありがたさを教育で徹底する、③生産物の産地表示の確認、➃家族旅行の際に『道の駅』のような産直市場へ訪問する、などです。
地産地消には世界各国でも同じような意味の取り組みがあります。豊かな食文化があるイタリアでは世界でも有名な「スローフード」という考えがあります。独自の食文化を持つ韓国でも「身土不二」という「長く暮らしている土地で作られた食べ物を食べることが最も身体に良い」という思想が大切にされています。伝統的な食文化や地元の食材を守り抜くといったスタイルは将来性すら感じさせます。
地産地消は身近な食材を通じ、食料や食べることの大切さ、命の尊さを教えてくれます。暮らしている地域の伝統や食文化を理解し、守ることをこれからの社会も求めています。
特に都市生活を送る上で欠かせない交通手段である鉄道やバス。それらの拠点となる「駅」は地方や郊外においても仕事や生活の基点であり、大切な存在です。都心では100年に一度の大改造が進行中の渋谷駅周辺にも注目が集まっています。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、「駅」と街づくりについて考察いただきました。
街とブランドの関係性 ~下北沢再開発から見た街のブランド価値
https://manamina.valuesccg.com/articles/1879お気に入りの街はありますか。昔ながらの風情や人情味のある街、都市計画で整備され高層ビルと街路樹が調和した街、再開発で新旧カルチャーが融合する街など、街の持つ個性やブランドイメージは、そこに住む人、訪れる人にも様々な影響を及ぼします。 広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、「街とブランドの関係性」を考察いただきました。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。