調査対象アプリ一覧
今回は、「高島屋アプリ」「三越伊勢丹アプリ」「大丸・松坂屋アプリ」の3アプリを取り上げ、調査・分析していきます。
3アプリに共通した特徴として、①独自のポイント制度や②アプリ限定クーポン、③アプリを用いた簡単支払いが挙げられます。個別の特徴としては、高島屋では催事情報まとめや他社ポイントとの連携が、三越伊勢丹ではおすすめ商品の記事が、大丸・松坂屋ではランクアップ特典サービスが見られます。
STEP① 基本属性
それでは、3アプリの利用者の基本属性を比較していきましょう。ここでは、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて、市場の定量調査をしていきます。
■性別
下記のグラフは、各アプリユーザーの男女比を示しています。
百貨店の主力商材がギフトやファッション、コスメといった商品群であるためか、男女比は概ね3:7となっています。特に三越伊勢丹は、女性比がやや高くなっています。
「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の性別割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
■年代・家族構成
下のグラフは、3アプリの利用者の年代割合を示しています。
全体傾向としては、特に20~30代の利用率が低く、60代がボリュームゾーンとなっています。百貨店の利用者には70代以上も多いと考えられますが、アプリ利用に関しては、ネット利用者数やスマートフォン普及率の低さに伴って70代以上の年代割合も低くなっていると考えられます。
個別傾向としては、高島屋では60代の年代割合が高く、三越伊勢丹では40代の年代割合が高くなっています。
「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の年代割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
続いてはユーザーの家族構成です。下記のグラフは、各アプリ利用者の婚姻状況および子供の有無を示したものです。
ボリュームゾーンが40代以上であるためか、百貨店アプリ利用者の既婚率・子持ち率は高くなっています。特にユーザーの年代が高い高島屋において、その傾向が強いです。
(左)「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の未婚・既婚割合
(右)「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の子供なし・子供あり割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
■世帯年収
続いて、3アプリの利用者の世帯年収割合を見ていきましょう。
ユーザー全体の年齢層が高く、既婚世帯が多いことが影響してか、ネット利用者全体に比べて1000万以上の割合が高い傾向にあります。3社を比較すると、高島屋、三越伊勢丹、大丸・松坂屋の順に世帯年収が高いユーザー割合が高く、特に高島屋では年収1500万円以上の利用者が13.4%と突出して高くなっています。
「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の世帯年収割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
■地方区分
下記グラフは、各アプリユーザーの地方区分を示しています。
関東圏を中心に展開する高島屋では関東地方のユーザー割合が高く、関西圏を中心に展開する大丸・松坂屋では近畿地方のユーザー割合が高くなっています。ユーザー数は概ね各百貨店の所在数に比例しているようです。
「タカシマヤアプリ」、「三越伊勢丹アプリ」、「大丸・松坂屋アプリ」利用者の地方区分割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
ここまでの分析を小括すると、既婚子持ち・高収入である50代以上の夫婦(特に妻)が百貨店アプリを利用する傾向にあると言えます。3社を比較すると、特に高島屋では「高年齢・高収入」の傾向が顕著であり、全体が高年齢の傾向を示す中でも三越伊勢丹では40代の利用割合が高く、比較的若年寄りなのが特徴的です。
STEP② 生活スタイル
ここからは、ヴァリューズのターゲット分析ツールであるstory bank(ストーリーバンク)を用いて、アプリユーザーの定性調査をしていきます。story bankでは、生活者の特定のWeb行動と、定点で聴取しているアンケートデータを紐付けることで、ターゲットユーザーの人となりを深掘りすることができます。
■メディア接触
はじめに、百貨店アプリ利用者(※1)のメディア接触の傾向を見ていきます。
※1 …ここでは、「高島屋」「三越伊勢丹」「大丸・松坂屋」の3アプリの利用者を総称して「百貨店アプリ利用者」としています。
下記のグラフは、マスメディアの時間別利用者割合を示しています。
ネット利用者全体と比較して、百貨店アプリ利用者は、テレビ、新聞、雑誌の3メディアを長時間視聴・閲読する傾向があります。利用者の年代が高いことがあらわれていますね。
「テレビ」「新聞」「雑誌」の視聴・閲読時間別利用者割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
下記のグラフは、SNS利用の時間別割合を示しています。
「LINE」「Instagram」「facebook」「Twitter」の利用時間別利用者割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
ネット利用者全体と比較して、百貨店アプリ利用者は、各種SNSのなかでもLINEとInstagram、facebookの利用時間が長い傾向があります。Twitterにおいては、ネット利用者全体に対して顕著な開きは見られませんでした。
過去にマナミナでは、Instagramは他の主要SNSに比べて女性ユーザーの割合が高く、ユーザーはトレンドや新情報に対して敏感であり、新しいものへの購買意欲が比較的高いという特徴があり、facebookの利用割合が最も高いのは40-50代であるとご紹介しています。百貨店のユーザー像と一致する部分も多いのではないでしょうか。
主要SNSの利用率・ユーザー特徴についてご紹介したマナミナ記事は、以下をご参照ください。
2023年2月最新版! 主要SNSの利用率・ユーザー特徴を調査
https://manamina.valuesccg.com/articles/2256私たちの生活に欠かせない存在であるSNS。消費者の購買行動にも大きく関係する存在である一方、今や様々な特徴を持つSNSが続々と登場しており、SNSを適切にマーケティングへ活用するためには、それぞれの特徴やユーザー層を正しく把握することが重要です。そこで今回は、各SNSの利用率や利用者の性年代、購買行動などについて、消費者のオンライン行動ログデータを使って分析しました。
■職業
ここで百貨店アプリ利用者の職業を見てみると、会社勤務(一般社員)および学生の割合が低い一方で、専業主婦(主夫)の割合が高いことがわかります。
百貨店アプリ利用者の職業割合
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
以上から、日中の空き時間にマスメディアやSNSを利用し、世の中の情報や流行に通じた50代以上の専業主婦(主夫)という百貨店利用者のペルソナ像が見えてきました。
STEP③ お買い物行動から伺える人物像
以上2STEPを踏まえ、3アプリそれぞれの利用者の関心アプリと支出傾向を探っていきます。
■関心アプリ
下記の表は、3アプリそれぞれの利用者の関心アプリランキングです。
「高島屋アプリ」「三越伊勢丹アプリ」「大丸・松坂屋アプリ」利用者の関心アプリランキング(Dockpitを基に作成)
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
全体傾向として、コンビニ各社およびドラッグストア各社のアプリ、「MUJI passport(ムジ パスポート)」「UNIQLOアプリ」への関心が高いことが挙げられます。また、どの百貨店アプリユーザーもイオン関連のアプリが複数ランクインしていることから、日頃からイオンの利用も多いと考えられます。
年配層の割合が高い一方で、各種キャッシュレス決済アプリが利用されていることも特徴です。家計管理を担っており、ネットリテラシーが高めのユーザーが多いと言えそうです。一方で、キャッシュレス決済大手のPayPayは三越伊勢丹アプリユーザーでのみランクインしています。三越伊勢丹ユーザーは40代の割合が他2社より高く、比較的若年寄りであることが、キャッシュレス決済サービスの選択に影響を与えているのかもしれません。
個別の特徴としては、高島屋アプリユーザーにおいて、ケンタッキーやスターバックス、マクドナルドなどのチェーンの飲食店アプリが目立ちます。
■支出傾向
続いて、百貨店アプリ利用者の支出傾向を分析し、ペルソナ像を個別具体化していきます。
下記の図は、「高島屋アプリ」「三越伊勢丹アプリ」「大丸・松坂屋アプリ」それぞれの利用者の1人あたりの平均支出について、特徴値(※2)が1.25pt以上のものについて、特徴値が大きい順に可視化したものです。
※2 特徴値…対象者が、一般的なネット利用者と比べて特徴的に利用するサイト・起動するアプリ・検索するワードを可視化するための指標。(対象者のリーチ率)ー(ネット人口全体のリーチ率)で計算される。
「高島屋アプリ」「三越伊勢丹アプリ」「大丸・松坂屋アプリ」利用者の1人あたりの平均支出(story bankのデータを基に、特徴値が1.25pt以上のものを特徴値が高い順に可視化)
集計期間:2022年11月~2023年4月
デバイス:スマートフォン
百貨店アプリ利用者の支出において共通して特徴値が大きい項目は、以下の3点です。
⚫︎ライブ・コンサートの鑑賞
⚫︎国内旅行
⚫︎ファッション(服・靴・かばん、化粧品)
全体傾向を踏まえた上で3百貨店それぞれの支出傾向を見ていくと、以下の傾向が見えてきます。
<高島屋>
「ライブ・コンサートの鑑賞」「ゲームアプリへの課金」「CD・DVDの購入」「イベント・グッズの購入」などの推し活要素の強い支出が特徴的。
<三越伊勢丹>
アプリ利用者において女性比率が高いためか、化粧品や服・靴・かばんなどのおしゃれ意識に基づくファッションへの支出が特徴的。
<大丸・松坂屋>
「ライブ・コンサートの鑑賞」「国内旅行」「ファッション」という百貨店利用者の典型的な支出傾向を示している。
以上のように、同じ百貨店アプリ利用者同士でも支出傾向には若干の違いがあるようです。
まとめ
百貨店アプリ利用者の属性や消費行動からペルソナを追ってみると、50代以上・既婚子持ちの専業主婦で、世帯年収は高いが日常的な買い物ではコスパを重視するという共通の傾向が見えてきました。
その関心アプリや支出傾向から人物像を深掘りすると、百貨店利用者層は、「ファッション」「ライブ・コンサートの鑑賞」「国内旅行」に興味関心をもち支出する傾向にあります。
今回の分析から見えてきた百貨店利用者のペルソナは、以下の通りです。
今後の可能性として、百貨店と顧客とのタッチポイントとしては、芸能人やアーティストを招待した推し活的イベントの開催などが考えられるかもしれません。また、既にユーザーの利用が多いInstagramでの発信も積極的に行うことで、副次的にInstagramが抱えるより若いユーザーを潜在顧客として呼び込める可能性もあります。
いずれにせよ、消費者データをモニタリングし、各社のペルソナを明確化しておくことは、今後の事業戦略を考えるうえで重要と言えるでしょう。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール「Dockpit」を使用しています。「Dockpit」では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
▼Web行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank」についてはこちらから
2024年春にヴァリューズに入社しました。大学では歴史学と社会学を専攻していました。