米国主要アパレル企業におけるデータ活用・DX最新事例

米国主要アパレル企業におけるデータ活用・DX最新事例

技術の進歩や消費者の変化に伴い、大きな変動を起こしているアパレル市場。 DXの波はアパレル業界においても、新たなビジネスモデルや新しい価値提供の創出につながっています。この記事では、米国アパレル業界からギャップ、ヴィクトリアズ・シークレット、アメリカンイーグルの3社を取り上げ、データ活用やテクノロジー導入の最新事例について紹介します。


米国アパレル業界の動向

2022年、世界での収益が1兆5,000億米ドル(約224兆円)を超え、右肩上がりに推移しているアパレル市場。

そのうち米国アパレル市場の収益は約3,120億米ドル(約46兆円)を占めており、世界最大の市場規模を誇っています。

インターネットやSNSが経済活動に大きな影響を与える中、Eコマースによる収益が急成長している点が特徴で、今後もさらなる拡大が見込まれています。

【参考】U.S. apparel market - statistics & facts

世界トップ企業ランキング

世界のアパレル専門店における2022年の売上高ランキングは以下のとおり。トップ10のうち、米国からは3社がランクインしています。

順位

企業名

売上高

前年増減

1

インディテックス

スペイン

4兆6019億円

17.5%

2

H&M

スウェーデン

2兆8033億円

12.4%

3

ファーストリテイリング

日本

2兆3011億円

7.9%

4

ギャップ

アメリカ

2兆374億円

−6.5%

5

プライマーク

アイルランド

1兆2412億円

37.6%

6

ルルレモン

カナダ

1兆581億円

29.6%

7

ネクスト

イギリス

8731億円

11.4%

8

ヴィクトリアズ・シークレット

アメリカ

8277億円

−6.5%

9

アメリカンイーグル

アメリカ

6510億円

−0.4%

10

しまむら

日本

6161億円

5.6%

https://www.wwdjapan.com/articles/1561223をもとに作成

ここからは、世界トップ企業にランクインしたギャップ、ヴィクトリアズ・シークレット、アメリカンイーグルの3社について、DX・データ活用の取り組みを紹介します。

Gap(ギャップ)の取り組み

減収減益となり苦境に立たされているギャップですが、CEOの交代や大規模なリストラ、事業整理といった改革を進め、長期的な視点での回復を目指している最中です。そんな同社における近年の取り組みを紹介します。

「TrueFit」とのパートナーシップ

洋服を購入する場合、多くの顧客がフィッティングをしますが、ECサイトではそうもいきません。サイズや着用イメージの合わない商品は顧客を満足させることができず、返品されてしまうでしょう。

こうした問題を解決するために提携したのが、AIディスラプターである「TrueFit」。TrueFitは、ユーザーが自身のボディサイズやよく着用するブランドのサイズなどを登録することで、そのブランドでのベストなサイズを割り出し、着用感などを教えてくれるサービスです。

TrueFitを活用すると、これまでよりも高い精度でサイズを推奨できるようになります。その結果、サイズの合わないストレスや返品にかける手間を削減でき、顧客満足度の向上につながるのです。

【参考】True Fit for Shoppers

バーチャル試着室「Drapr」の買収

ギャップは、バーチャル試着室のスタートアップ企業「Drapr」の買収を行いました。

Draprは、ユーザーが自身のサイズや体型に基づいた3Dアバターを作成し、オンライン上でバーチャルフィッティングができる技術を提供しています。自分の体に試着させることができるため、その服を自分が着た時にどのように見えるかを客観的に把握できます。

バーチャルフィッティングの技術は、オンライン購入へのハードルを下げると同時に返品リスクの削減や顧客体験の向上にもつながるでしょう。

出典:Drapr

【参考】Drapr

返品管理プラットフォーム「Optoro」の活用

2023年3月には、返品管理プラットフォーム「Optoro」との提携を発表しました。

アパレル業界のEコマースでは、イメージと実物のミスマッチが起きやすいため返品のリスクが高まります。一度返品されると、返品の受付・倉庫への保管・再検品・「訳あり」としての値引き再販といった煩雑なオペレーションが発生し大きなコストがかかるため、廃棄せざるを得ない場合も多いのです。

そこで、返品処理と再販を自動化するビジネスモデルに着目したのがOptoro。Optoroのプラットフォームを活用すると、返品された商品はOptoroの倉庫に保管されます。商品は独自のスキャンシステムによって瞬時にデータベース化され、最も高く売れそうな販路に在庫として出荷されます。

Optoroとの提携により返品オペレーションが大幅に効率化されるため、顧客体験の向上によりリソースを集中させることができるのです。同時に、廃棄を減らしてSDGs推進に貢献する取り組みだとも言えるでしょう。

【参考】Optoro

Victoria’s Secret & Co.(ヴィクトリアズ・シークレット)の取り組み

下着ブランドのヴィクトリアズ・シークレットは、セクシーさを訴求した商品やスレンダーな体型のスーパーモデルを起用したショーが時代遅れであると批判を受けました。そこから一転、最近の同社ではダイバーシティ&インクルージョンの推進に注力した、ブランドイメージ刷新のための取り組みが目立ちます。

完全デジタル ブランド「 Happy Nation 」の立ち上げ

ヴィクトリアズ・シークレットは2022年4月、新ブランド「Happy Nation」を立ち上げました。Happy Nationは8歳から13歳のティーン世代をターゲットとした、実店舗を持たない完全デジタルブランド。

Happy Nationはメタバースに進出しており、若者に人気のゲーム内に仮装店舗を登場させ、ゲームの世界で商品を見たり仲間と交流したりできる点が大きな特徴です。

また、ゲーム内で特定の活動を行うことで現実世界での寄付や支援につながる仕組みを整えていて、社会貢献性の高い取り組みにもなっています。

【参考】Victoria’s Secret & Co.|Victoria’s Secret & Co. Launches Happy Nation, a Fully Digital Brand for Tweens

オンラインマーケットプレイス「VS&Co-Lab」の立ち上げ

同2022年、革新性と包括性をもつ新たなブランドを紹介することを目的としたオンラインマーケットプレイス「VS&Co-Lab」がウェブサイト上に開設されました。

VS&Co-Labは、ダイバーシティ&インクルージョンに焦点を当て、下着や水着、ライフスタイルに関連する商品を展開するユニークなブランドのコレクション。ローンチ時にフィーチャーされた19のブランドのうち、75%を女性が設立・所有、または指導しており、女性の活躍を推進するプラットフォームとしても注目を集めています。

同社の強みでもある膨大な顧客データを活用し、新しいブランドと消費者を結び付ける新たな取り組みだと言えるでしょう。

【参考】Victoria’s Secret & Co.|Victoria’s Secret & Co. Announces New Curated Digital Platform Targeting New Customers and Category Growth

American Eagle Outfitters(アメリカンイーグル)の取り組み

10〜20代の若い層から高い支持を得ているカジュアルファッションのアメリカンイーグル。堅調に業績を維持している同社は、一度は撤退した日本にも2022年に再進出を果たしています。SNSネイティブ・デジタルネイティブと言われるZ世代がメインターゲットであるだけに、デジタル技術や最新のSNSを駆使した取り組みが目立ちます。

AI を活用した在庫追跡

アメリカンイーグルは、AIによる在庫追跡技術を全米500店舗に導入することを発表しました。

このプロジェクトを主導するのはソフトウェア会社の「RADAR」。RADAR社は、商品の位置をリアルタイムで自動識別し、在庫の正確さを99%まで向上させることに成功しました。

この先進技術では、コンピューターの視覚技術とRFID(商品などに取り付けられる無線チップを使った追跡システム)を組み合わせることで、店舗の在庫管理を効率化し、常に最新の情報を保つことができます。

店舗スタッフは、アプリやダッシュボードを通じて商品の位置情報を瞬時に確認できるため、在庫切れを防ぐことができ、商品の追加注文や店舗への配送もかなりスムーズになります。店舗受け取りサービスも円滑になり、より快適なショッピング体験を顧客に提供できるでしょう。

【参考】RIS news|Gap, American Eagle, The RealReal, and Fairmount Tire Invest in Digital Transformation

デジタルリセールショップ「RE/AE」 の立ち上げ

2023年4月、アメリカンイーグルは大手中古品プラットフォームの「thredUP」と共同して、デジタルリセールショップ「RE/AE」を立ち上げました。

同ショップはthredUPのRaaS(Resale-as-a-Service)技術を活用しており、顧客が自由にカスタマイズしながら中古のアパレルを購入できます。デジタル化が急速に進む中、デジタルに精通した世代の消費者に対してより効果的なアプローチをするため、RE/AEはデジタルショップとして開設されました。

Z世代の古着ニーズに応えるために誕生したRE/AEでは、80年代以降のアメリカンイーグル製デニムやジャケット、アクセサリーなどさまざまなアイテムを展開しています。商品からは品質の高さや寿命の長さがうかがえ、使い捨てファッションからの脱却が期待できるでしょう。

さらにRE/AEは、Z世代に人気のSNS「Snapchat(スナップチャット)」と提携し、Snap ARポップアップショップを展開。ARレンズを用いてバーチャルストアを閲覧したり、AR試着したりといった一連の体験の中で商品が目に留まったら、すぐその場で購入することができます。

このデジタル技術を駆使した循環型ショッピング体験は、サステナビリティの実現とデジタル技術が融合した新しい形だと言えるでしょう。

出典:Snapchat

【参考】Just Style|American Eagle Outfitters, thredUP team on digital resale shop

さまざまなSNSの活用

アメリカンイーグルは、Z世代の消費者に人気のさまざまなSNSを活用してプロモーションを行っています。2022年のホリデーシーズンにはTikTok・Roblox・Snapchat・BeRealを用いてユニークかつ魅力的なホリデープロモーションを展開しました。

以下にそれぞれの概要を紹介します。

TikTok

フレンドギビング(友人同士で祝うサンクスギビング、ここ数年で浸透してきた新しいカルチャー)の週末に、TikTokで「#AEHolidayCard」のハッシュタグチャレンジを開催。クリエーターが、お気に入りのアメリカンイーグルのアパレルを紹介するコンテンツを投稿しました。

Roblox

Roblox(ロブロックス)はZ世代に人気のオンラインゲーミングプラットフォーム。ホリデーシーズン中には、人気の仮想目的地「Mount Crescent」でホリデーマーケットを開催しました。プレイヤーにアメリカンイーグルのユニークなデジタル衣服とアクセサリーを提供したプロモーションです。

Snapchat

Snapchatでもホリデーシーズンのバーチャル体験を提供。ユーザーがホリデーをどこで過ごすか決めたら、その目的地とアメリカンイーグルからのおすすめコーディネートを仮想的に展示するというプロモーションでした。

BeReal

BeReal(ビーリアル)は、1日1回不規則に訪れる通知に合わせて2分以内に無加工の写真を撮影してコミュニティ内で共有するというアプリ。「飾らない日常」を共有するSNSとして注目を集めています。アメリカンイーグルは毎日新商品を紹介する写真を投稿し、その日のおすすめ商品として選んだ10点をユーザーが割引価格で購入できるというプロモーションを行いました。

【参考】ChainStore Age|American Eagle launches holiday promotions on BeReal, TikTok, Roblox

まとめ

この記事では、米国主要アパレル企業におけるデータ活用・DXの最新事例を紹介しました。

業界を牽引するこれらの企業に追随し、国内アパレル企業においても続々と革新的な取り組みが展開されており、今後もさらなる注目が集まることと予想されます。

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この記事のライター

フリーライター。JRグループ会社にて経理・総務として勤務。
子育てとの両立のためWebライターに転身。3児の母。
バックオフィス業務関連の記事を中心にBtoBライティングを手がける。

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