「マーケティング戦略」とは?
自社や自社製品を提供する「顧客」は誰か、顧客にどのように見てもらいたいか、そして、それに対してどのような商品・サービスを幾らの価格帯でどのような手段で提供していくか、これらを考えるのがマーケティング戦略の基本です。
また、顧客と自社や製品の関係を構築(コミュニケーション)する部分の計画も、マーケティング戦略に含まれます。
インターネット・スマートフォンの普及によって企業と顧客の接点が増加、そして消費者のニーズや価値観の多様化によって、マーケティング戦略の重要度はより一層高まっています。
自社の商品・サービスを市場に普及させるには、一貫したマーケティング戦略が必要です。企業のマーケティング戦略立案に使われる3C分析・STP分析・4P分析などのフレームワークや、有名企業のマーケティング戦略事例をご紹介します。
マーケティング戦略の成功事例
成功事例は数多くありますが、今回はマーケティング戦略のお手本と言っても過言ではない企業の事例を紹介します。
■P&Gのマーケティング戦略事例
マーケティング戦略について学ぶ道程において、P&Gを避けて通ることはできないほど、P&Gのマーケターは卓越したマーケティングの知識や理論を持っているとされています。
P&Gの数あるヒット商品のなかに、紙おむつ「パンパース」があります。いくつかあるマーケティングストーリーから、そのひとつをご紹介します。
パンパースのブランド力を活かし、販路拡大のために低価格帯商品が市場に投入されることとなりました。しかし、この商品は売上的には厳しかったといいます。その代表的な理由として
・予算の都合上、大々的な広告を行わなかった
・パッケージを目立つイメージカラー(オレンジ)に変更
といったものが挙げられます。品質にはなんら問題のない「パンパースの」低価格帯商品ですが、「パンパースの」であることを周知徹底できなかったことが要因です。
低価格帯のパンパースという存在を周知徹底できなかった=商品を手に取るという過程全体の消費者心理を把握しきれていなかった反省を踏まえ、顧客接点の見直しを行います。
赤ちゃんと母親が最初に触れ合う場所、それはほとんどの場合、病院です。病院でパンパースを手にとってもらい、高価格帯商品には「病院(産院)に選ばれてNo.1」とパッケージに記載することで、母親に対しての安心感を与え、退院後の継続利用につなげるという流れによって、高価格帯商品のセールスは成功しました。このように、P&Gのマーケターは消費者心理、ニーズの理解に努め、失敗してしまったとしてもその理由や改善点の抽出に注力し、最終的には成功に導く……というスキルに長けていると言えるでしょう。
P&G出身のマーケターは他企業でも数々の成功を収めています。以前、マナミナでも記事にしたUSJの業績をV字回復させた立役者・森岡 毅氏、元資生堂CMOで現在パーセプションフローモデル啓発をリードしている音部大輔氏を筆頭に、多くのP&G出身のマーケターが活躍されています。ちなみに他社で活躍するP&G出身のマーケターは「P&Gマフィア」とも呼ばれています。
■スタジオアリスのマーケティング戦略事例
1990年前半に子供専門の写真館をスタートさせた「スタジオアリス」。少子化によって縮小している子供市場において、オープンからおよそ20年で約350億円に売り上げを伸ばし、子供写真館の最大手となった同社のマーケティング戦略は、他社との差別化という部分で参考にするべき点が多くなっています。
七五三など、成長の節目を写真に残す場合、ほかの写真館ではあらかじめ着物を着付けたりといった準備が必要です。しかし、スタジオアリスには豊富な衣装が用意されており、着付けやメイクもそこで完結できるようになっています。つまり、スタジオアリスの場合、普段着で行くだけで写真撮影が完了してしまうカジュアルさがあります。
そして、料金体系は一律料金にし、金額の不安も払拭しています。ほかにも独自のサービスを用意していますが、従来の写真館では「着物を自前で用意しなければならない」「料金体系が不明瞭」といった、いわゆる写真館業界の“常識”を崩すことによって、多くの顧客獲得に成功しました。
このほかにもマタニティ向けのサービスも展開し、産後にもお得に写真撮影できるようにして顧客のリピート率を上げる施策もおこなっています。
■ライフネット生命のマーケティング戦略事例
STP分析、4P分析といったマーケティング戦略立案に必要なフレームワークがありますが、こうしたワークフレームを実践的に利用する際の事例として最適と言えるのが、ライフネット生命のマーケティング戦略です。
市場を顧客ごとに細分化して自社が狙うべき層をセグメントし、ターゲットに対して自社製品(サービス)が価値あるものとして捉えてもらうために、競合と差別化できるポジションを見つけるためのワークフレーム「STP分析」。ライフネット生命のSTP分析をチェックしてみます。
S=Segmentation(セグメンテーション):
30代〜40代という、生命保険加入の点においては若年層。この世代にはインターネットでの購買活動に抵抗感がないため、24時間インターネットで申込みができる生命保険会社である、同社の業態と合致しています。
T=Targeting(ターゲティング):
セグメントされたユーザー層は結婚、子供の誕生といったライフステージの変化と共に出費の増大が気になる世代。したがって、保険料は低額にしてコストを抑えたい。
P=Positioning(ポジショニング):
低価格、わかりやすいというのがライフネット生命の最大のポイントです。わかりづらい保証内容や約款など、保険はとかく難しい……と感じさせる同業他社との差別化を実現しています。
■横浜DeNAベイスターズのマーケティング戦略事例
2012年~2018年の間、観客動員数を約110万人から約203万人に増やすことに成功した「横浜DeNAベイスターズ」。その原動力となったマーケティング戦略は、比較的オーソドックスで、こちらもSTP分析に当てはめると理解しやすくなっています。
S=Segmentation(セグメンテーション)
球場からほど近い職場に勤めており、仕事後に観戦に訪れてビール片手に試合の雰囲気を楽しむ20代後半~30代のサラリーマン。
T=Targeting(ターゲティング)
年に数回、球場に足を運ぶ程度のライトなファン。同僚や恋人、家族を誘ってのリピートを狙います。
P=Positioning(ポジショニング)
横浜のイメージである「おしゃれさ」をテーマにし、「横浜らしさ」を印象づけるために、選手やスタッフのユニフォームのデザインを変更したり、椅子の色を青一色にすることでブランドイメージの向上に努めました。
売上に貢献するユーザーはコア層なのは間違いありませんが、ビジネスを拡大する観点からすると新規顧客の開拓も必要不可欠となります。横浜DeNAベイスターズのマーケティング戦略は後者を重視した戦略に注力した結果、動員数の増加を実現しました。
同じプロ野球球団において、マーケティング戦略が際立っているのが「北海道日本ハムファイターズ」です。横浜DeNAベイスターズはファンサービスやイメージの具現化など、どちらかといえば野球外での強化によって来場者数を獲得しましたが、北海道日本ハムファイターズは、ドラフトにおいてその年にもっとも活躍した選手を指名したり、独自のカリキュラムで選手を育成して強いチームづくりを目指し、「チームの勝利でファンに喜んでもらう」という戦略を採っています。
■ユニクロのマーケティング戦略事例
グローバル展開をするカジュアルウェアブランド「ユニクロ」。ユニクロのアイテムに個性はありませんが、それが逆に同社のブランドの個性となり、トレンドや年齢、性別にさほど左右されない点から支持を集めていると言えそうです。では、このユニクロを「4P分析」の観点からチェックしてみましょう。
Product(製品)
ユニクロの製品=服は「LifeWear」と定義され、美意識のある合理性、シンプルで上質、細部への工夫という要素から成り立っています。
組み合わせの自由度の高さは、老若男女問わず手に取りやすいといったファッション性のほかにも「ヒートテック」や「エアリズム」といった機能性に富んだ商品も展開しています。
Price(価格)
ユニクロのターゲットは、ファッションに敏感な人ではなく、どちらかといえばファッションに興味がない人です。こうした人が買いやすい=安いという価格設定となっています。安くてそれなりのデザイン、そして機能性が高い、つまりコスパの高い服を手に入れられるという印象づけにつなげています。
Place(流通)
ユニクロでは、企画・生産・物流・販売というプロセスを自社で一貫して行っています。したがって「Place(流通)」に関しての外部へ発注するコストの大幅削減を実現しています。
Promotion(販促)
イメージを伝えるTVCMのほか、折込チラシ、Web広告、自社アプリなど多くのチャネルでPR活動を行っています。ここで特徴的なのは、チラシ類の場合、目玉商品(セール商品)を設定し、顧客の目を惹くようにしている点です。その商品を目当てに来店した顧客からほかの商品の購入につなげ、客単価アップを実現させています。
■日本マクドナルドのマーケティング戦略事例
商品に異物が混入していた問題などが重なり、2015年12月にはおよそ350億円という赤字を記録してしまった日本マクドナルド。しかし、1年後の2016年の12月期はおよそ50億円の黒字転換に成功します。その裏にはさまざまなマーケティング戦略・施策があったことは想像に難くありませんが、ここではとくに代表的なものを紹介します。
V字回復の原動力のひとつに、SNS(とくにTwitter)、自社アプリ、Webメディアを活用したプロモーション活動の成功が挙げられます。TVCMではなくSNSなど、おもにWebメディアの積極利用の背景には、予算の問題(=TVCMを出稿できる予算がなかった)がありました。
日本マクドナルドがとくに注力したのはTwitterによるSNSマーケティング。その理由は「自分がいうより周囲の推薦が効く」という、いわゆる「インフルエンサーマーケティング」によるものです。なお、インフルエンサーと言えば有名人という図式を想像しますが、この場合インフルエンサーは、有名人である必要はありません。
また、商品を推薦してもらうためにユーザーからハンバーガー名を募ったりするなどし、ユーザー参加型のツイートによって新規顧客の獲得につなげています。
STP分析と4P分析
ライフネット生命や横浜DeNAベイスターズ、ユニクロの紹介部分で「STP分析」や「4P分析」について触れました。STP分析の目的は、市場を細分化しターゲットとするポジションの絞り込み、4P分析の目的は、マーケティング要素を組み合わせマーケティングミックスを実現するためのものです。
これらの解説は以下のリンクで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
マーケティング戦略を本から学ぶ
マーケティング戦略について紹介しましたが、本から学ぶのもとても有効な手段です。その際にぜひ参考にしていただきたいのが、以下のリンクです。こちらの記事もぜひご一読ください。
まとめ
自社の業績を伸ばすためには、市場やニーズの多様性に応じて他社との差別化、自社の強みのアピール、すなわちマーケティング戦略が今後さらに必要になってきます。マーケティング戦略を実践にあたっては、今回紹介した事例を参考にするのはもちろんですが、各社がどのように他社との差別化を図っているのか、そしてそれをどのようにアピールするのかという部分を自社に当てはめて想定するのが重要です。
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