1.調査のスケジュール表とは
■●概要
調査のスケジュール表とは、リサーチで伴走するプロジェクトの時間軸に沿って調査の主要な業務工程を矢羽根(連続的な矢印の図形)で描き、期間中の実務と工数を可視化するアウトプットです。
本図を作成することにより、関係者向けにはプロジェクト全体の時間軸の中で実査や報告などの主要日程をわかりやすく伝え、実行者向けには定量調査と定性調査の活用タイミングを検討しやすくします。
調査のスケジュール表の形式は様々ですが、多くは実行者目線のみでカレンダー上に作業が敷き詰められていたり、定量と定性の計画が別々に存在していることが多く、本表はこうした不便を解消してくれます。
■●構成要素
調査のスケジュール表の構成要素は以下のようになります。
1.タイムライン
・半期間の各月ごとの設定
2.プロジェクト
・調査で伴走する企画・開発の工程
・リサーチ運営の事務局対応も含む
3.定量調査
・アンケート業務の工程
(または行動データ・市場データを取得する活動)
<記入例>
*企画〜入稿
2023年06月12日(月)〜06月16日(金):調査概要・調査原案作成
2023年06月19日(月)〜06月23日(金):調査票作成 初稿
2023年06月26日(月)〜06月30日(金):調査票作成 二稿
*実査〜集計
2023年07月03日(月)〜07月05日(水):画面作成
2023年07月06日(木)〜07月10日(月):スクリーニング/本調査実施(一体型)
2023年07月11日(火)〜07月14日(金):集計
*分析〜報告
2023年07月17日(月)〜07月28日(金):報告書作成
4.定性調査
・インタビュー業務の工程
(または意識データ・専門家評価を取得する活動)
<記入例>
*企画〜募集
2023年06月05日(月)〜06月30日(金):調査概要・調査原案作成
2023年07月03日(月)〜07月05日(水):スクリーニング調査票作成
2023年07月06日(木)〜07月10日(月):スクリーニング調査実施
2023年07月11日(火)〜07月14日(金):候補者リスト作成・調査対象者確定
*準備〜実査
2023年07月03日(月)〜07月28日(金):インタビューガイド作成
2023年07月17日(月)〜07月28日(金):成果物アウトライン作成
2023年07月31日(月)〜08月04日(金):実査・発言録作成
5.会議体
・対話や試作を行う場面設定
(報告会・レビュー・ワークショップなど)
【関連】課題・仮説リスト(調査企画のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集
https://manamina.valuesccg.com/articles/2724リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は「課題・仮説リスト」(調査企画のアウトプット)について寄稿いただきました。
■●このアウトプットの導入が向いているケース
「いつ調査を実施するのか?いつ結果がわかるのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①関係者が詳細な業務工程までは見ないケース
調査のスケジュール表は、通常、進行表・ガントチャート・WBSなどの形式で作成されます。これらの成果物形式は作成者にとっては管理しやすくて良いのですが、関係者と共有するには細かすぎて要点が伝わらないという問題が生じます。
そのため、調査の運営者はスケジュール表の中に埋もれているプロジェクトにおける調査の要所がどこにあるのかを示す必要があります。そうしないと、スケジュール表の作成者である本人以外は誰も参照しない資料になってしまいます。
②調査手法ごとに進行管理されているケース
プロダクトマネジメントのような現代的なリサーチのシーンでは、定量調査と定性調査を組み合わせて調査を行うアプローチは定番となりつつあります。一方、定量調査と定性調査はそれぞれの専門性により分業体制であることが普通です。
この時に課題となるのが、調査手法の担当者ごとにスケジュール表が作成されることです。プロジェクトにおける調査の運営責任者は、表形式もファイル形式も異なるデータで、全体の現在地や今後の予定を都度参照しなければなりません。
2.作り方
①入口と出口の情報を取り扱う
・リサーチで伴走するプロジェクトの動き出し(入口)と締め括り(出口)の情報を記載する
・調査業務を行う上での事務局作業となる、稟議や契約など発注管理に関する情報も記載する
②定量と定性のレーンをつくる
・定量調査と定性調査の両方を行うことを前提とした表のつくりとする
・共通スクリーニング(リクルーティング工程)の連動性を可視化する
③各月の業務工程を矢羽根で描く
・それぞれの業務工程に対応する期間情報を記載する
・矢羽根の図形を色分けして役割分担を視覚的にする
(役割設定:事務局、リクルーティング会社、モデレーターなど)
④最重要の業務工程を太字にする
・プロジェクト観点で最重要の業務工程を太字にする
(たいていは実査と報告の工程が該当する)
3.使い方
①実査と報告の時期を軸に説明できる
結局、調査のレポートライン上にいる関係者が知りたいと思うのは実査と報告の日程です。本表を使うことでそうした最重要工程を軸にした説明が可能になり、そこに至る過程の工数情報やプロジェクト側のタイミングも一枚で説明可能です。
また、調査のプロジェクトにつきものであるスケジュール変更にも対応しやすいことも本表のメリットです。各業務工程(矢羽根)に主に週単位の期間情報を入れることで、繰り延べ(延期)や繰り上げ(急ぎ)に対応しやすくなっています。
②定量調査と定性調査の連動を描ける
本表ではあらかじめ定量調査と定性調査のレーンを設けているので、ミックス型ならではの連動展開を描きやすくなります。定量・定性ミックス型の運営を実現するためには、それぞれの調査の工程をうまく連結する進行計画が求められます。
具体的には、(費用圧縮や時間効率の目的により)共通のスクリーニング調査をもとにそれぞれの調査を行う場面、定量調査の結果を参照して定性調査の調査票を作成する場面などがあり、ジャストインタイムで連携できる計画を立てましょう。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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