予備選開始。トランプ氏優勢でトランプVSバイデンが濃厚に
米国では11月の大統領選に向け、動きが本格的になっています。民主党陣営はバイデン大統領一本ですが、対する共和党陣営もトランプ党のようになり、トランプ氏の圧勝が続いています。共和党の指名候補争いでは、3月3日にトランプ氏はミズーリ、ミシガン、アイダホでの戦いで勝利し、オハイオやニューハンプシャー、サウスカロライナなどに続き、これで8連勝となりました。5日のスーパーチューズデーでも14勝1敗と圧勝し、ヘイリー元国連大使は選挙戦から撤退しました。トランプVSバイデンの4年前の戦いが極めて濃厚です。
本戦勝利から予想される激しい貿易制裁。対中国への影響はさらに大きく
本選でトランプ氏が勝利すれば、米国の貿易、経済政策が一段と保護主義化することが懸念されます。政権第1期目の時、トランプ氏は中国との貿易不均衡(中国に対して米国が大きくマイナス)に対して強い不満を抱き、中国製品に対して次々に追加関税を導入し、中国側はそれに対して報復関税を行うなど、両国の間では貿易摩擦が拡大し、世界経済に大きな影響を与えました。いわゆる米中貿易戦争と言われるものですが、トランプ氏は最近も中国からの輸入品に対して一律60%の関税を仕掛けると言及し、二期目の政権運営でも中国に対して先制的に関税引き上げ、輸出入規制などを仕掛けていく可能性があります。
そうなれば、米中貿易戦争の再来は避けられませんが、二期目では一期目以上に貿易摩擦が激しくなる可能性が考えられます。これはトランプ氏だけに言えることではありませんが、通常、米国の大統領は2期8年を意識し、1期目は再選を考え慎重に政権運営をしていくことになりますが、2期目は後を気にする必要がありません。もう選挙はなく必然的に終了になりますので、トランプ氏自身も残された4年間で自分のやりたいことを一期目以上に大胆にやっていく可能性があります。要は、アメリカファーストにさらにギアを上げ、貿易や経済の面ではさらに保護主義化していくシナリオもあり得るでしょう。
日本企業による米国企業買収も制裁ターゲットとなる可能性大に
また、トランプ氏は中国だけでなく、諸外国からの輸入品に対しても10%の関税を掛けだけでなく、日本製鉄によるUSスチールの買収計画ではそれを絶対に阻止すると発言しています。実際にそれを阻止するかどうかは別にして、最近、日本企業による米企業の買収が活発化しているとも言われるなか、今後トランプ氏がそれを問題視し、日本への貿易、経済的な圧力を強めてくることも否定はできません。トランプ政権一期目の時、日本は安倍総理がトランプ氏と個人的な信頼関係を構築することに成功し、日米関係は良好でしたが、2期目では日本がトランプ氏と良好な関係を作れるかは日本政府の手腕にかかっており、日米関係が安倍政権時のようにならないシナリオも我々は想定しておくべきでしょう。
いずれのリーダーも対中国へは強行姿勢続く。日米関係にも過信と油断は禁物
トランプ氏とは理念や価値観が全く異なるバイデン大統領も、中国に対しては厳しい姿勢を貫き、先端半導体など先端技術の分野では中国への貿易規制を強化しています。そして、共和党だろうが民主党だろうが、米議会や国民での間では中国への厳しい姿勢に撤することには超党派的なコンセンサスがあり、要はバイデンだろうがトランプだろうが、その他の指導者だろうが、米国の中国への厳しい姿勢は長期的に続く可能性が極めて高いでしょう。
そして、米中の経済力が拮抗し続けていますが、これまで世界の安全保障や経済の秩序形成で主導的役割を担い、自由貿易の生み親だった米国自身が焦りを感じ始め、自由貿易から保護貿易に主軸を移し始めているようにも感じます。日本外交の基軸は日米関係であり、日本は米国の同盟国だから大きな問題は生じないという認識は持たず、今後の米国の保護主義化の行方を注視するべきだと筆者は強く思います。
国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師
セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。